第45話

 その後、幸福教による被害は音沙汰無くなったという。



 いくらシウスでも契約を反故には出来ないようだ。



 今回も順調にヒロインを救うことが出来た。



「すぅ〜〜〜〜〜はぁ〜〜〜〜〜」



 学園の前に立つ。



 俺はいまだに踏ん切りがつかないでいた。



「記憶が戻るか」



 昨日の記憶が頭をよぎる。



「ッッッッッッッッッカハ(過呼吸)」



 思考がグチャグチャになる。



 今すぐにでも倒れそうだ。



「やはり来るべきではなかったか?」



 だけどなぁ、学園行かないと色々困るしなぁ



「勇気を出せ」



 俺は一歩を踏み出した。



 ◇◆◇◆



「よし」



 教室のドアを開ける。



「桜はまだ来てないのか?」



 周りを見渡すと彼女の姿はなかった。



「朝弱いのも変わらないか」



 自分の席に向かう。



「ん?」



 俺の隣の席に偶然(強制)でなったアルスもいないようだ。



「珍しいな」



 いつも朝早くいるのに。



「まぁ気にしなくていいか」



 アルスを心配するなどミジンコに襲われるか心配するくらい杞憂だ。



 そしてドアが開く。



「フゥ」



 なんとか冷静を装う。



 そこにはアルスを横抱きにした桜がいた。



「フゥフゥ」



 近付いてくる。



 多分おそらく絶対アルスを席に運びに来ただけだよな。



「フゥフゥフゥ」



 めちゃくちゃ真横に立ち、無言で見つめられる。



「フゥフゥゴホフゥ」



 桜とアルスが何か小言で話し合っている。



 怖い。



「ねぇアクト」



 桜が話しかける。



「顔、こっち見せてよ」



 咄嗟に自身の口元を抑える。



「!!」


 胸にもたれかかる重圧。



「バクバク」



 二重の意味で奏でられる心臓音を聞かれる。



「はいそこまでー」



 桜がアイドルの握手会のようにアルスを剥がす。



「い、一応礼を言っとく」



 あくまで冷静に



「いいんだよ」



 桜は笑顔のままそう答える。



「じゃあ次は私の番ね」

「はぁ?」



 そして腰に手を回される。



「ホントだ、バクバク」

「俺様は……死ぬのか?」



 その光景を見ていたクラスメイトは口々にこう言ったという。



「何を見せられてるんだ」



 と



「ずるい」



 ユーリが遠く離れた席から睨んでいた。



 ◇◆◇◆



「ルシフェル、俺はもうダメだ」



 それからも桜からの猛烈なアタックは続いた。



 授業中桜を見れば必ず目が合い、投げキッスされ、移動教室では必ず隣を歩くし、昼食に急いで人気のないところに行くがいつの間にか先回りされてるし。



「俺はそろそろ堕ちる」

「恋に落ちるではなく堕ちるとは、何とも恐ろしいな」



 ルシフェルも苦笑いである。



「普通に考えてみろ。好きな子に猛烈にアピールされて耐えられる人間がいるか?いるはずないだろ当たり前だよなぁ!!(反語からの逆ギレ)」

「だが自業自得だと思うぞ?記憶が戻る可能性もあるのにあんな姿を見せてしまったんだから」

「だって原作だとそんなものなかったし」



 いや、これは甘えだな。



「どうにかして記憶を消すか」

「さすがアクトだな。邪神より恐ろしいぞ」

「褒めるな馬鹿者」

「今馬鹿って言ったか?」



 そうだな、今の桜の実力では一瞬最強形態の俺でも厳しいものがある。



 ここは奇襲を仕掛け、意識を奪った後に記憶をいじらせてもらおう。



「行くぞルシフェル!!」

「分かったぞ、今までの敵の中で一番のゲス野郎」



 学園が終わり、皆が帰宅する。



「グヘヘへへ、油断しているな」



 桜は俺と帰ろうとしたようだが、完全に雲隠れした俺を見つけられず一人トボトボと帰っていた。



「後ろが不用心だぜ、お姫様」



 こっそりと音もなく近付き、魔法を発動sーー



「あ、アクトいた」



 桜がまるで知っていたかのように振り向く。



「スー、ど、どうも」

「トイレにでも行ってたの?とりあえず一緒に帰ろ」

「いや自分用事があるんで」

「そっかー、じゃあ仕方ないね」

「……」



 笑っているが、その笑顔は悲しいものであった。



「あぁ、用事って明日だったかもしれん」

「ホント!!」



 にっこりと笑顔になる。



「じゃあ一緒に帰れる?」

「まぁ」

「やった!!」



 本当に嬉しそうである。



「記憶を消すってことはあの笑顔を奪うってことだぞ」

「分かってるよ、それくらい」



 でもその分悲しみが押し寄せてくるんだ。



「俺は消える。これは決定事項なんだ」

「どうして……」



 ルシフェルは悲しそうに答える。



「次は成功させる」



 この帰宅時間でケリをつける。



 ◇◆◇◆



「あ!!ちょっと飲み物買うね」



 桜が自販機の前に立つ。



「今だ」



 桜の後ろに近付



「アクトは何飲む?」



 突然振り向く。



「ん?どうしたの?」

「頭が痒くてさ」

「ふーん」



 咄嗟に誤魔化す。



 そしてジュースを飲みながら歩いていると



「猫だ!!可愛い〜」

「……(桜の方が可愛いよ)」



 可愛らしくニャーニャーと伝わっているかも分からないのに話しかける桜。



「可愛い(今だ!!)」



 ルシフェルが意図を読み取れないといった表情をしているが、とりあえず後ろから近付



「見てアクト、目瞑ってて可愛い」



 またタイミングよく振り返る。



「ん?どうしたの?」

そらが泣きそうでね」

「そ、そっか」



 完璧に誤魔化す。



 その後もことごとく失敗し



「そろそろ着いちゃうね」



 少し悲しそうに桜が言った。



「そうだな」



 何度もチャンスを窺うが、毎回まるで予期していたかのようにタイミングがずれる。



「こうなったら無理矢理でも」



 俺は戦闘も覚悟して桜に手を伸ばす。



 だが桜はまるで俺に気付いていないかのように直接魔法を食らった。



「弾かれたな」

「は?」



 だって桜はこちらを向いてないのに



「無駄だよ」



 桜はこちらを向かずに答える。



「どうしてか分からないけどあの時から私、おかしな能力を手に入れたんだ」



 桜のピンク色の目が青い炎に包まれる。



「ほんの少しだけど未来が見えるようになったんだ」

「未来って……」



 聞いたことないとか、そんなんチートやんとか、色々気になるが



「俺じゃあ絶対に桜に攻撃が届かない」



 力の差がある俺にとって、桜の意識を奪うには不意打ちしかないのに。



 それすら予見されては打つ手がない。



「アクトが何かしようとしてるのは知ってるけどさ」



 桜からは怒りを感じない。



 淡々と事実だけを述べているようだ。



「一人で悩まないでよ」



 優しい口調で



「アクトが思ってるよりもみんなアクトを大切に思ってる。きっと何か方法があると思うんだ」



 それにと



「アクトの大好きな私は、そんなにやわに見えたかな?」



 振り返った桜はいじらしく笑った。



「……いや」



 そんなはずない



「俺の知ってる桜はそんな子じゃない」



 俺に勇気を与えた君がそんなことで折れるはずない。



「怖かっただけかもな」



 だけど



 それを気付いたところで



「これは俺の我儘だ」



 曲げられない。



 俺はこの世界に本来関わるべき存在じゃない。



 皆が見てる俺の姿は虚栄、知っているだけの存在。



「悪いな」



 桜の記憶の消去は無理だろう。



 だけど、これ以上の拡大は防ぐ。



「そっか」



 俯く。



「でもね、アクト」



 顔を上げた。



「私はアクトの、あなたの全てを諦めないよ」



 背を向け



「じゃあまた明日ね」


 

 桜は家へと帰った。



「はぁー」



 空を見上げる。



「勝てねぇー」



 俺を嘲笑うように雨が降った。



 ◇◆◇◆



「ねぇ桜」

「どうしたの?真」

「僕バイトを始めようと思うんだ」

「お、それはいい心掛けだな」

「ユーリもバイトをするの?」

「私はボランティアとして手伝ったことがあるだけだが、良い社会経験になった」

「へぇ、やっぱりそうなんだ」

「でも何で急にバイト?」

「少しお小遣いが欲しいだけだよ。それで桜はどこかいい場所を知らないかな?」

「うーん……あ!!」



 桜はパンと手を叩く。



「とっても可愛い子がいるかもしれない場所があるんだ」



 どこかの補完計画を進めそうな男のポーズを取る一人の男がその会話を聞いていた。



「ついに来たか」

「何が?」



 その男の膝の上に乗る少女が尋ねる。



「とりあえずアルスは降りろ」

「分かった」



 更に強く抱きしめられる。



「違う、逆だ」

「分かった」



 更に更に力が強まる。



「もういいや」



 諦めた。



「で?何がきたの?」

「もちろん決まってるだろ」



 学生と言えば



「職場体験だ」



 とあるお店にて



「なんか嫌な予感がするなぁ」



 救済√5



 リーファ■■■■


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