第54話
「助けに来た!!」
ここで俺は叫んだ。
もちろん心の中でだ。
「何来てんじゃアホォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
「うるさいぞ!!」
目下、俺の視界には三人の人物。
真、桜、リーファ。
だが俺は彼ら彼女らがここにいる理由を知っている。
「こんな時まで主人公かよ」
理由は主人公だから。
それだけである。
「ああ!!もうホントに最高で最悪だな!!」
きっと物語でいえば三人は戦いを止めにきた救世主であるのだろう。
デモ集団は悪人ではあるが悪ではない。
法的には裁かれない行動を取っているのだから。
だが俺からして見れば全然ありがたくないし、むしろ危険な目にあって欲しくない。
だがここで俺が混ざればさらにめんどうになる。
「頼む、何事もなく終わってくれ」
◇◆◇◆
「僕達が道を開けます。皆さんはそこに全力で逃げて下さい」
「あ、ありがとう君達」
真がデモ集団に逃げるよう指示を出す。
「分かってはいるけど、この人達ってこの前店に来た奴らだよね。私あんまり気が乗らないなー」
そう言いながら鬼神の如き勢いで敵をバッタバッタと倒す桜。
「私はリーファを彼にお願いされたから着いて来たけど、私達だけでなんとかなるのかなー」
「違うよ桜。何とかするんだよ、僕達で」
「カックイイー、さすが私の幼馴染」
以前とは比べ物にならない程成長した桜と真は宣言通りに次々と道を切り開く。
「なぁあんた達」
真が後ろにいる震えた人間に話しかける。
「これを機に彼女への当たりはやめたら?」
前方には同じように道を切り開く翠緑の髪の少女。
「は、はい、勿論です。私達は改心しました」
「……そう?」
真は思っていたよりも聞き分けが良い返事に少し困惑する。
(この人って確かアクトと言い争っていた)
真がそんなことを考えていた矢先、すぐに進行が静止する。
「オイオイ、とんだ美人さんじゃねぇか。ますます欲しくなってきちまう」
「え?誰?」
シウスの突然の登場に桜が困惑を示す。
「なーに、俺は別に嬢ちゃんを取って食おうとしてるわけじゃねぇ。少し話がしたいだけだ」
「へぇ、こんな殺し合いの中で悠々としてる人がまともな人間に見てもらえると思ったの?」
「威勢までいいたぁ、ますます気に入った」
シウスは無害をアピールするかのように両手を広げる。
「条件だ。俺がお前らを守ってやる。だから俺の仲間になれ」
あくまで上から目線。
こんな人間について行くものなど
「どうしよう、大好きな人と言動が似てる」
桜はチョロインであった。
「けどごめんね。私は追われるより追うタイプなの」
桜は魔法を同時に多数展開する。
「それに守るって言ったけど、それって私より強いと出来ないんじゃない?」
「最近の餓鬼は生意気なのしかいねぇな!!」
◇◆◇◆
「素晴らしい」
「誰ですか?」
真は警戒を示す。
「先程見せた光は加護によるものですね?ですが雑魚神のようなものとは違う。もっと強力で類を見ないもの。どうやってそれを手に?」
「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど、僕は僕だ。僕にある力は全て自身の手で勝ち取ったものだ」
「……はぁ。そう言う答えを聞いてるわけでは、いえ、そういう人物だからこそか?」
ロイはブツブツと一人でに喋る。
「もう少しデータが欲しい、先程の場面、やはり感情に大きく関与しているのか?」
「じゃ、じゃあ僕はこれでーー」
「待って下さい」
ロイは水晶を取り出し
「少し実験に付き合って下さい」
「お断りーーぎゃぁああああああああああああああああああああ」
◇◆◇◆
「……」
リーファは黙々と現れる誰かも分からぬ人を風魔法で吹き飛ばす。
「チッ」
リーファの後ろから舌打ちが鳴る。
「おい、今は静かにしてろよ!!」
「でも」
リーファはそれらの言葉を敢えて聞かないことにする。
「もう少しで安全圏まで辿り着けます。私が
リーファの言葉に
「はぁ」
ため息を零すもの。
「偉そうに」
悪態をつくもの。
「……ありがとう」
感謝するもの。
「……」
企むもの。
「私考え変わったかも」
一人の女性が喋る。
「亜人だから、エルフだからって非難してたけど、こうして私達を助けてくれるって、同じ人間じゃないのかな?」
皆が沈黙する。
「俺もそう思ってた」
「私も」
「確かに」
同意するもの
「だが今の力見ただろ、あんなの歩く兵器じゃなっか」
「やっぱり危険だろ」
「毎日怯えて生きるのか?」
反対するもの
こうしていつの間にかデモ団体は同じ目標で募ったにも関わらず、いつの間にか二つの勢力に別れていた。
「役目は果たしたかな?」
◇◆◇◆
魔法を構える桜に反して、シウスは一切の動作を見せない。
「どうしたの?もしかして戦うのが怖いとか?」
「は、そんなわけあるか。あの餓鬼と交わした契約には一般人に手を出さないだ。そしておそらく俺はお前に力を振るえる。何故かってお前は特別だからだ」
「聞いてないのに勝手に答えないでくれる?」
「嬢ちゃんはどうやら俺たちと関わりが深ぇみたいだ。お互い手を組んだ方がこれから楽だぞ?」
「え?私の話聞いてない?」
桜は目線をシウスから離さないまま、周りの敵を排除する。
「すげぇな。まるでもう一つ目があるみたいに的確だな」
「まぁ、実質四つかな?」
「俺もある程度だがあの方に力を与えられてる。嬢ちゃん程じゃないがな」
「何の話?」
「ん?なんだ知らねぇのか?まぁいい。聞きたいことは俺の仲間になったら何でも教えてやる」
「別にいらないかなぁ。私、今十分すぎる程充実してるし」
「そりゃ良いことだ。だけど、周りは嬢ちゃん程幸せじゃないんだぜ?力があるなら有意義に使った方が良くないか?」
「……ちょっと私、今のはピキったよ?」
桜はシウスに飛びかかる。
「おいおい!!沸点どうなってんだ!!」
「女の子のトラウマは踏んじゃダメって教わらなかった?」
「生憎そんな親いなかったもんでねぇ!!」
「そりゃ残念。私と一緒ね!!」
怒涛の攻撃にシウスは冷や汗をかく。
(俺たちみたいに運良く攻撃が当たらないんじゃなく、当たらない事象が確定したように躱されるな)
シウスの体に徐々に傷が出来る。
「降参したら?とりあえず一番偉いなら後ろの人達帰してくんない?」
「ダメだダメだ。ここまでコケにされてノコノコと帰ったら酒のつまみにされちまう」
シウスは桜から距離をとる。
「嬢ちゃん。王の近くにいる人間ってのはどんな人間だと思う?」
「急に何?」
桜は動きを止め、考える。
それ程の自信の表れ故だろう。
「頭がいい人?もしくは強い人かな?」
「半分正解だ。それは王に近いが、遠すぎる。正解は」
シウスは構える。
「両方だ」
桜は数瞬先の未来を見る。
その速度に自身が反応出来ないことを察した。
だから
「当たったと思ったんだけどな」
「私もそう思った」
桜の目と鼻の先でシウスの拳が止まる。
「今の何?」
「一瞬だけ速くなるっていうありふれた技だ。けどまさかギリギリ届かないなんて子供みたいなミスしちまうとはな」
「ちゃんと当たってたよ」
桜は端正な顔を指し
「けどここでは当たってないね」
「負けだ」
シウスは靴を翻し、元の場所に戻って行く。
「人生に絶望した時は俺の場所に来いよ」
「酷い勧誘だね」
「いつかお前はこっちに来るさ。それが運命だからな」
◇◆◇◆
「知っていますか?」
「何が!!」
真は無限に発生する魔獣を切り裂く。
「この世界では皆すべからく魔力を持っています。魔力は質量を持ちません。そのため一人の人間に地球の総量すら超える程の魔力を持つものもいます」
「クソ!!」
真の返事を待たずにロイは話を続ける。
「そこにも多くの謎はあるのですが、ここでは逆に魔力がない場合を考えてみましょう」
「急に何を!!」
真は話を聞くにしろ目の前の包帯の男を倒すにも魔獣が邪魔で近づけない。
「この魔獣達に元々魔力はさほどない動物でした。そこにありったけの魔力を注ぎ込んだ結果どうなったでしょう?」
「どうだか」
「そう、今あなたが戦っている通り魔獣になったんですよ。まぁ本来流した魔力がかなり減衰され、雑魚しか生まれませんでしたが、まぁ数はいるので」
それからも魔獣の数は減ることを知らない。
「ですが人にとって魔力は生まれつきと言われています。理由は何故?」
「……」
「そう!!いくら人に魔力を流そうと一切の変換がされないためですね」
ロイは勝手に喋り続ける。
「ですが、人間に魔力を与えられる存在がいます。それは何でしょう?」
「……神」
「素晴らしい」
ロイは拍手をする。
「そこで思ったのです。動物は人間の手で魔力を注がれ凶暴な魔獣と化した。では」
ロイは真を見つめ
「加護という形で魔力を与えられた人間はどうなってしまうのでしょう?」
◇◆◇◆
「悪いなルシフェル。いざとなったら魔力を借りるかもしれん」
「う、うむ、それは大丈夫だが」
俺は必死に汗を拭う。
「やぁアクト様。ご気分の程は?」
「お前の仕事は終わっただろ」
「軽いトークも出来ないなんて切迫つまりすぎじゃない?アクト様の言った通りあいつらは今綺麗に分断されたよ?」
「お前こそ軽すぎだ」
俺は手に力を入れる。
「人間の愚かさをお前も知ってるだろ」
「……じゃなきゃ邪神教になんて入らないよ」
だけどと
「人間じゃないなら仲良くなれるかもね」
◇◆◇◆
「着きました。速く行って下さい」
リーファの一言で一斉に走り出す。
リーファは後ろを見ずに黒尽くめの邪神教に向き合う。
「その姿、あの方の言っていた者か」
「アイツみたいに意味深に言わないでよ」
「そこを退け」
「退いたらどうするの?」
「殺す」
「じゃあ退かない」
邪神教は息を吐く。
「お前は人間が羨ましいか?」
「……また差別?」
「そうだな、差別だ。俺は人間よりもあんたの方が遂行な者だと思う」
「どういう意味?」
「人間は最も愚かな生き物だ」
リーファの耳に鈍い音が響く。
「え?」
リーファは頭から流れる自身の血を拭った。
「ホントだ」
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