第42話
<side桜>
お母さんの後ろにいた人物の内一人が接近し、もう一人が魔法を構える。
「そう簡単に思い通りにさせないよ!!」
私は剣を交えながら同時に魔法展開する。
「「な!!」」
奴らが驚くのも無理はない。
少し前の私もきっと驚いていたはず。
魔法は繊細なものであり、剣を振りながら魔法を唱えるなど人間業じゃない。
だけど今の私は成長した。
そう
「アクトに出会ってから!!」
あの日、アクトに助けてもらったあの日から、私はみるみる内に成長した。
最初はどうしてか分からなかった。
動けば分かる、見ても分かり、努力が可視化されたように顕著に現れた。
正直に言えば怖かった。
突然自分の体が自分のものでないように感じたからだ。
でも今は違う。
この力の意味が分かる。
「これは、彼と一緒に歩むための力」
私を助けてくれた時、彼の変異した姿。
そしてアジダハーカと対峙した時、あの化け物によって気を失った私が目を覚ますと、アクトは不完全ながらあの時の同じ姿であった。
アクトは何かを隠している。
きっと私に話してくれることはないのだろう。
だけど、分からなくたって一緒にいたい。
辛いことも、苦しいことも、悲しいことも一緒に
だけど
それ以上に楽しいことや面白いこと、そして幸せなことを共有したい。
「だからお母さん」
私の後ろにはビクビクと二人の人物が倒れている。
「私はお母さんと一緒にはいられない」
「な、何を言ってるの?桜はお母さんと一緒に」
「もういいかな」
剣を収める。
「愛は盲目って言うけど、あんな怪しい場所に連れて行かれてすんなりと受け入れた私って今考えると……怖!!無理無理、今行けって言われたら猛ダッシュで逃げるよ」
愛は本当に怖いものだ。
憎愛なんて言葉が生まれるのも納得である。
「ねぇお母さん、お父さんはどうなったの?」
きっと昨日までの私なら聞けなかった。
聞いたら、取り返しがつかないと頭では分かっていたから。
「お父さん?あの人はフォルナ様の元に送られたの。素晴らしいことよね、あの人は言ったわ『君といると幸せだ』って」
お母さんは高そうな宝石を撫でる。
「だからあの人の幸せを私は分けてもらったの。そして幸せなままあの人はフォルナ様の元に送られる。本当に素晴らしい」
何だか自分がバカらしく感じた。
「最後に聞いていい?」
「な、なぁに?それを答えたらお母さんの言うことちゃんと聞いてくれる?」
どこまでも醜い。
「お母さんはさ、私とお父さんのこと愛してる?」
お母さんはポカンと口を開けた。
「何をバカなことを言ってるの?」
さも当然のように
「愛してるに決まってるじゃない」
だけどその目に
「あの人は必死に私を幸せにするものを運んでくれる。そんな幸せをたくさん使ってあなたを大きくさせたの。それって愛の成せること」
お金のことしかなかった。
「だから桜はお母さんに幸せを何倍にもして返す義務があるの。もう大人なんだから分かるでしょ?今更反抗しないで、お母さんのために幸せを持ってきてちょうだい」
悲しくはなかった。
既に私には心の寄り添いどころがあるからだ。
ただこう思った
「気持ち悪い」
背を向ける。
「桜?どこに行くの?」
「さようならお母さん、もう二度と会うことはないだろうね」
「な、何を言ってるの?」
同情させるように
「お母さんはね、今沢山の人から幸せを借りているの。だからお母さんはその人達に幸せを返してあげないといけないの。桜は今幸せなんでしょ?なら、他の物で満たせれているなら、お母さんに分けてよ」
無視する。
「ふざけんなよガキ!!!!お前にいくらお金をかけたと思ってる!!!!子供は親に従わなければいけないんだよ!!!!」
発狂するように叫ぶ。
その言葉に心が締めつけられる。
「そう」
私は止まらず歩みを進める。
「そもそもどうして魔法が効いてないの?あの時失敗してなかったはず」
乱れた髪のまま、杏がブツブツと虚構を見据える。
「そう言えば、こいつらは魔法が一部解けていると言っていた」
そして何かを取り出す。
「これを使えば!!」
突然後ろから何かが光る。
「え?」
気付いた時にはもう遅かった。
私の目の前には謎の物体。
「それはシウス様がくださった催眠を反転させるもの。今の段階の魔法が解け、初期状態の魔法が再度発動する」
催眠?
一体いつ、どこで私はそんなものをかけられたのだろう。
記憶にない、だけどない記憶に心が熱くなる。
「一度失った記憶は戻るけど、問題ないわ」
そして私は光に包まれた。
最後に私が聞いた声は
「問題しかないってぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
私の一番好きな声だった。
◇◆◇◆
「これは?」
まるで幽霊にでもなったかのように、半透明な私が空に浮いている。
「って私裸じゃん!!」
周りの人に私の姿は見えていないようだが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
『行くな』
「あれ?」
ここはそう、私とお母さんが再会した場所。
この日の記憶は鮮明にあるのに、私はこの時から魔法をかけられていたのだろうか。
「あ」
私とお母さんが抱き合う。
「うわ!!お母さんの顔怖!!」
この時のお母さんの顔は人でも殺しそうであった。
「あの人感動の再会中になんて顔してるんだよ!!」
私だけ場違いみたいじゃないか。
そして私はアクトと別れ、お母さんと共に歩く。
「あれ?」
私は動かない。
「これは私の記憶じゃないの?」
そもそもお母さんのあの顔について私は知らないはず。
「なら」
少し罪悪感が残るが
「知りたい」
好奇心は抑えられなかった。
◇◆◇◆
「私は何を使われたんだろう」
私は彼の隣を歩く。
何だか彼がいつもよりも心強く、大きく見える。
『気に食わんが、このまま桜を逆上させて取り返しがつかなくなるよりはマシだ』
彼が一人でに話しかける。
周りに人の姿は見えない
「もしかしてアクトってイマジナリーフレンドがいるのかな?」
話を聞けば、アクトは全てを知っていたかのように話す。
「アクトってほんと何者なんだろう」
するとアクトはまるで狂人を語るように
『桜のお母さんは自身の旦那を売ったんだぜ』
「ッ……」
知っていたはず。
もうお父さんはいないって。
するとアクトが妙に口をゴニョゴニョさせる。
「なんだろう?」
もしかしてアクトの恥ずかしエピソードでも聞けるのかな?
『だから!!』
まるでヤッケになったよう
『桜はマザコンなんだ』
顔が一瞬でゆでだこのように真っ赤になる。
「もう違うから!!」
訂正するように叫ぶが、アクトには聞こえない。
あまりにも恥ずかしいためか、大声を出した故か、いつの間にかアクトを挟んだ向こう側にアルスがいた。
そしたら彼は
口ではイヤイヤ言ってるが、顔が分かりやすくニヤけている。
「はいはいそうだよね、病弱な可愛い子って守りたくなっちゃうよね!!」
今度は怒りで顔が熱くなる。
別に彼女なわけでもないけど、そうやって色んな女の子に優しくするのはどうかと思うよ!!
だがこれは彼女なりの気の遣い方であることは重々承知だ。
予想通り、アクトは
『なぁアルス、親離れって……いやすまん。忘れてくれ』
結局私のことを心配していた。
「DV彼氏かよ」
彼の一挙手一投足に翻弄される。
「変わってないよ私」
愛は盲目にも程がある。
正直親離れを完全にした私からすればアクト達は杞憂だなぁと思える。
「本当にそう……なのかな?」
いつの間にか話は進んでいたらしい。
『安心して、親離れの方法なんて簡単よ』
「なんだろ?」
完全に親離れした私だけど、一応聞いておくか。
「ん?」
何だこれ?
アルスが片手に輪っかを作り、もう片方の人差し指でその中に入れる。
『セッーー』
◇◆◇◆
ありえない!!
あの子、もう少し恥じらいとか常識を覚えるべきだよ!!
あの後突然視界が暗転し、今度は目の前にユーリが現れる。
どうやらここは名高いグレイス家のようだ。
「え!?ユーリってアクトの家に住んでるの!!」
衝撃の事実。
若い男女が一つ屋根の下など普通に間違いが起きてもおかしくないのに。
だがある意味で、私はとんでもない事実を目撃す
る。
『あれ?アクト君何か悩んでるの?』
私が最初に思ったことを話そう。
「誰?」
あまりにもいつもと雰囲気が違い過ぎる。
ユーリは私のなかで真面目で強くて誇り高い人。
人前では常に堂々とし、弱みは一切見せないのがユーリペンドラゴという人間。
そう、思ってた。
『私に出来ることなら手伝うよ?』
可愛い。
本当にこの可愛い子は誰だろう。
普段は引き締まり、凛とした姿の彼女が、今は顔をとことん緩め、完全に甘えた姿を見せる。
「美人で可愛いとかダメでしょ」
何だか勝負もしていないのに居た堪れない敗北感を味わった。
「てか私が惚れそう」
そして先程と同じように、彼女に同じ質問をする。
だが返ってきた反応は予想だにしないものだった。
『やっぱり父親が好きなのはダメかな?』
よくユーリはアーサー様の話をする。
もしかしたら彼女は父親が好きなのかもしれない。
『他にどんなことでもするから、だから、だから嫌わないでぇ〜』
それはどう見ても捨てられる彼女のような姿であった。
「うわぁ」
何だかいつか私もこうなりそうで少し肝が冷えた。
『お父さん大好きっ子って可愛いよな』
アクトのその言葉を皮切りに、ユーリは笑顔で家を出た。
「アクトに気を遣わせるって」
大丈夫なの?ユーリ。
それと同時にもう一度視界が暗転する。
「次はどこだろう?」
呑気にそんなことを考えていると
「どこ?」
そこは薄暗い路地裏だった。
『お姉ちゃんただいま』
『おかえり』
そこにはエメラルド色の髪をした姉弟の姿。
「えぇ〜誰〜」
私は一体何を見せられているのだろう。
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