第39話

 昼になっても桜が来ることはなかった。



「おい」

「ん?僕に話しかけてくるなんて珍しいね」

「桜はどうした」

「桜?」



 真はいきなりどうしたのかと首を傾げる。



「確かに珍しいよね。桜が学園を休んだのはこれが初めてだし、しかも連絡もなしなんて」

「そんなことを聞いてるんじゃない」

「じゃあ他にーー」

「昨日、桜に会ったか」

「会って……ないね」



 真の表情が変わる。



「会ってない、会ってないよ。いつもなら一度は僕の家に来て挨拶してるのに」

「ちっ」



 展開が速いな



「俺が正体を掴んでいるのに焦ったか」



 急いで教室から出る。



「待ってよ!!桜に何かあったの!?なら僕も連れて行ってくれ!!」



 足を止める。



「桜を振ったお前に何が出来る」



 真の表情が曇る。



「そ、それは今は関係なーー」

「たった一人を守るってのはそれだけで凄いことかもな」

「何を」

「だけどな、たった一人しか守れねぇ奴に」



 振り向き



「向いてねぇよ、その仕事は」



 真を背にし、走り去った。



 ◇◆◇◆



「よかったのか?アイツを置いていって」

「しょうがない。今回はどう足掻いても武力では解決できない。もし、万が一、失敗した時は全員で突っ込んであれを壊滅させる時にアイツは万全でいてもらわないと」



 個を守るために全を敵にする。



 そのために主人公を使うとは



「全くもってラスボスっぽいだろ?」

「そのネタいつまで引きずるんだ?」

「ネタじゃねぇよ!!」



 どっからどう見てもラスボスさんでしょうが。



「場所は分かるのか?」

「敵のアジトってのは大体地下にあんだよ」

「アクトがラスボスなら、敵なのにアジトを大勢の人に知られているんだな」

「……小物じゃないからな(小声)」



 そして俺はとある廃墟につく。



「よし行くぞ!!」

「相分かった」



 瞬間感じる



 この気持ちはいったい



「そうかこれが」



 俺の隣を桃色の髪の少女が横切る。



「デジャブってやつか」

「あれ?アクトどうしてここに?」



 桜はまるでここにいるのが当然とばかりに話しかけてくる。



「お前こそ何でこんな人気のない場所にいんだよ」

「私?私は……えっと……どうしてだっけかな?」



 記憶がおぼつかない様子。



「ま、まぁそんな気分なだけだったんだよ多分」

「お前の母親はどうした」

「え?」



 動きが止まる。



「あ、あれ?そういえばさっきまで一緒にいたのに。お、お母さんどこ行ったの?」



 完全に狼狽している。



「ちっ」



 知識やリッセット&コンテニューがなければマジで攻略できないだろこんなの。



「いや待てよ」



 今の桜の状態は軽度の洗脳状態。



 これまでと変わらない仕草をとるが、無意識のうちに幸福教にプラスになるように動く魔法がかけられている。



 扱いが難しくなるが、強力な洗脳でないため力の低下も起きない。



 だがまだ初期状態のため、記憶の混濁ぐらいしか症状が出ていない。



「逆に利用してやる」



 エリカにパパッと解いてもらうのもいいが、これを機に母親への信頼を失わせてやる。



「なぁ桜」



 それにこれが解けた時は記憶が消える。


 

 だから



「遊びに行かないか?」



 ◇◆◇◆



「アクトが遊ぼうなんて初めてだね」



 二人でプラプラと歩き回る。



「本当なら普段からでもこうしてたいんだけどな」

「え?」



 桜が驚愕の声を上げる。



「誰?」

「アクトだろ、どう考えても」

「だって雰囲気がいつもと違いすぎて」



 そりゃそうさ。



 今の俺はロールプレイをやめているんだから。



「気にすんな。今はただ楽しもうぜ」

「う、うん」



 それから俺は桜と色んな場所に巡った。



 俺は久しぶりに俺として楽しみたくて、不恰好な変装をしたら



「ぷ、似合ってなーい」



 と桜に笑われてしまった。



「ちょっとアクト!!青甲羅は禁止だって!!」

「桜だってさっき赤甲羅三連続で当ててきたじゃん!!」



「何見るの?」

「これ」

「え!!これ私がずっと見たかったやつ」

「すみませんチケット2枚で」

「かしこまりましたました。カップルの方なら割引されますよ」

「い、いや私達はそういうのじゃ……」

「(俺の心の中では)カップルです」

「かしこまりました」

「アクト!!」



「ま、まさかあんなに過激とはな、アハハ」

「……」

「桜?」

「キャッ」

「ご、ごめん!!」

「う、ううん。きゅ、急に触られてびっくりしただけだから」

「そ、そうか」

「うん」

「……」

「……」



 そしていつの間にか日は沈み、夜も暗くなった。



 道にある椅子に座るが、珍しく人は誰も通りかからない。



「そろそろか」

「ねぇアクト」



 桜がココアを飲みながら遠くを見ている。



「今日は楽しかったよ」

「俺もだ。死んでも悔いはないほど充実した時間だった」

「それは言い過ぎー」



 笑い合う。



「どうして今日は誘ってくれたの?」

「……」

「アクト?」



 答えにくいな



「最後に」

「え?」

「君に、本当の俺を見せたかった」

「ど、どういうこと?だったら普段から見せてくれてもいいんだよ?いつもの偉ぶってるアクトもいいけど、今の優しいアクトだって」

「なんかそれだけで色々俺もダメな気がしてきたよ」



 でもそれじゃダメなんだ。



 下手くそでもアクトでいないと、俺はみんなから離れられなくなってしまう。



「ねぇアクーー」



 桜が頭を抑える。



「い、痛い!!」

「きたか」

「な、何が?」



 ここで洗脳は次の段階に入る。



 これ以降は魔法を解いても記憶が残るため、ここで勝負を決める。



 この形状の洗脳は、最初に聞いた言葉の暗示にかかる。



 そこで既に魔法で仕込んでいた音声で『幸福教のために働け』と呼びかける。



 だから事前にルシフェルに相談したところ



『我なら音声をかき消すことなど容易だ』



 と心強い言葉をくれた。



 だからここで俺は桜に一つの洗脳をかける。



『母親を疑えと』



 自分の目で信じた方がより信憑性が増すだろう。



「ねぇアクト」



 まだ段階が切り替わる途中のため頭痛が酷いはずだが、桜はなんとかいつもの表情を保っている。



 心が痛む。



 こんな方法でしか解決できない自分を恨む。



「これのことは聞かない。でも、ひとつだけ聞かせて」

「何だ」

「アクトの、あなたの本当の気持ちを教えて」



 ルシフェルにアイコンタクトを送る。



 まだ記憶は消えるか。



「俺の気持ちか」



 そんなのいつまで経っても変わらない



「愛してる」



 今までためにためた思いを



「この世界で一番愛してる。誰にも、神にだって負けないくらい君を愛してる」



 溢れる



「自分の命なんてほっぽり出せるぐらい愛してる。優しいところも、強いところも、可愛いところも、諦めないとこも、自分が一番寂しいはずなのに、周りの人をほっとけないとこも」

「……気付いて」



 桜がアクトに話かけてた理由。



「本当は真にだって渡したくない。でも、桜の幸せを進んでほしい。それが俺の幸せだから、自分の命なんて惜しくないほどに大切だから」



 言語になっていないのかもしれない。



 ただ一方的に、自分の気持ちを投げかける。



「愛してるよ桜。君が俺を知らなくても、ずっと君を愛していた」

「何それ、ストーカーみたい」



 でもねと



「ありがとうアクト」



 顔が赤い。



「私もね、今気付いたことがあるんだけどさ」



 はにかみ



「私も……大好きだよ」

「……そっか嬉しいよ。本当に、本当に嬉しい」



 そして俺は桜に暗示をかける。



「お待たせしましたアクトさん」

「ああ」

「……涙は先に拭いておいた方がカッコいいですよ」

「何でお前の前でカッコつけなきゃならねぇんだよ」

「それもそうですね」



 エリカが眠った桜の前に立つ。



「理由は教えてくれませんよね?」

「誰が教えるか。お前はさっさとこれの一部分を解除しろ」

「全部でなくていいんですか」

「ああ」

「彼女に危険は?」



 断言する



「ない」

「使う必要もありませんね」



 エリカは魔法をかける。



「これはただの勘ですが」

「ん?」

「アクトさんはアクトさんが思っているよりも凄い方だと思いますよ」

「そりゃそうだ。俺様にできないことなんてないんだからな」

「フフ、そうですね。それは嘘かもしれませんが、私は真実だと思いますよ」

「そーかよ」



 そして夜は明けた

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