第37話
夜の無人島
男一人に女が二人、神が一人いて何も起きないはずもなく。
「だから!!俺様は一人で眠るんだって!!」
「ありえません!!お兄様を一人外で寝かすほど人間落ちていません!!」
「リアの言う通りだ。アクトもそろそろ観念しろ」
「お前らぁ!!俺様はぁ、かのグレイス家の人間だぞ!!こんなことしてただで済むと思ってるのか!!」
「私も同じグレイスの人間ですので問題ありません」
「私も同じ三代貴族だ。格としては同じだな」
「お嬢様共がぁああああああああ!!!!!」
現在、俺達はあの小さな小屋で誰が眠るかを話し合っている。
普通に考えて男と女がそんな空間で一緒に眠るなど間違いを起こせと言っているようなもの。
それなのに、こいつらときたら
「私は構わないな」
「私も問題ありません。むしろウェルカムです。いつ私の部屋に来るのかいつも待っていました」
などと戯言を繰り返す。
「いやお前は我といつも一緒に過ごしているのだから何とも言えんぞ」
「お前は女以前に神だろ」
「いーや、我は神以前に女だ」
「じゃあ彼氏とか欲しいのか?」
「へ?いや、それは、その、なんというか」
しどろもどろとし出す。
「まぁいいや」
「いやもう少し構ってくれても」
「だってこのままにしておいたら可愛いお前が見れるんだろ?」
「む、むぅ」
「チョロ」
背中を連続的に攻撃されている気がするが、後回しだ。
「とにかく、俺様はここでは寝ない。以上だ」
「分かりました」
「ようやくーー」
「では勝負といきましょう」
勝負?
「もちろん勝負内容は戦闘でいいですね」
「そんなのーー」
ハッ!!
無理矢理口を抑える。
この勝負、どう考えても俺が完全不利。
だが、俺には通じてしまう。
アクトグレイスには通じてしまうのだ。
「ぃ………」
「何と言いましたか?」
「いいだろうと言ったんだ!!」
ラスボスとは世知辛いものだ。
「では私とユーリさん対お兄様でよろしいですか?」
「待て待て!!俺様が負けるはずないが、人数差は倫理的にアウトだろ!!」
「それもそうですね」
リアが一歩下がり
「お願いします」
「任せろ」
ユーリが木の棒を構える。
二対一の構図は消えたが、以前圧倒的不利。
と思われるだろうが
「クッフッフ」
「気でも触れたか?」
「俺様が負けるはずないんだよなぁ」
俺は最早今までの俺とは違う。
何故なら俺には神にも届きうる力を手にすることができるからだ。
だが力を使いすぎてばルシフェルが危険なため、今までに俺から溜まった負の感情のみを使うことを条件にしている。
だが一瞬でもあの力を出せたら勝ちだ。
「来い!!ルシフェル!!」
……。
「ルシフェル?」
拗ねてそっぽを向く可愛い生物がいた。
「では開始」
ああ
「木の棒って音速を超えるんだね」
◇◆◇◆
「アクトにあの謎の力を使われたら危なかったが、杞憂だったようだ」
「謎の力?といえば例のーー」
狭い小屋といっても、さすがにギュウギュウになるわけではない。
リアとユーリは二人で固まり、俺は端っこで壁を凝視する。
「お兄様、夜は冷えますのでやはり皆で集まった方がーー」
「結構です!!」
「ですがーー」
「ですがもクソもありません!!」
同じ部屋の下、後ろから定期的にかけられる声に脳が痺れる。
「集中しろ」
何か別のことを考えるんだ。
俺の脳内の内、9割は君LOVEに占められているため、自然とゲームのシーンが頭を横切る。
『あ、ありがとうございます。私の名前はリアです。あなたのお名前をお聞きしても?」
『楽しいですね。ですがすみません、今日は家で勉強をしなければいけなくて』
『どうして私はこんな家に!!こんなことなら生まれたくなんてなかった!!』
ズズ
脳内にノイズが入る。
『初めまして、今日からグレイス家の養子となったリアグレイスです。これからよろしくお願いします』
『私は今が本当に幸せです』
『愛していますおーー』
「何だ今の?」
突然ゲームでは見たことのないリアの姿やセリフが頭に流れる。
「疲れてるんだな。今日はもう寝よう」
結局、ドキドキハプニングなんてものが起きることもなく、夜を超えた。
◇◆◇◆
次の日
「ハァハァハァハァ」
呼吸が荒い。
「ど、どうして」
俺の腕にかかる重圧。
「すぅ」
可愛らしい寝息を立てる少女。
普段ならそれは白髪の少女であるはずだが、今回は黒髪の美人さんであった。
「お兄……様ぁ」
可愛らしい寝言まで完備とは、これを目覚ましで売ってしまえば人類の永眠は免れないだろう。
「ふぐっ!!」
当然、ダイレクトに攻撃を受けてしまった俺は凄まじい勢いで命が削られる。
死ぬのか?
俺はリアルキュン死という名誉な死に方で逝ってしまうのか?
「おいリア、このままだとアクトが死んでしまう」
ちょうど目を覚ましたユーリによってリアが引き剥がされる。
「私だってアクト君とそういうことしたいのに」
ユーリが小声で何か言っているが、呼吸がおぼつかない俺には聞き取ることができなかった。
「ん〜、あ、おはようございます。お兄様、ユーリさん」
「リアはいつも早起きだが、今日は遅かったんだな」
「実は昨夜は遅くに眠ってしまいまして」
「慣れない環境だから仕方ないだろう」
「はい、仕方のないことでした」
呼吸が安定してきた頃、なんだか顔や首周りに違和感を感じるが、何だか怖かったので忘れることにした。
「おそらく私達が帰って来てないと、今頃もう一度迎えが来ているはずです。もう少しの辛抱ですね」
「こういう誰もいないところでの生活もいいものだが、さすがに早くお風呂に入りたいものだな」
そんなこんな話しているうちに、ちょうど迎えのヘリがやって来る。
「そういえば彼女は結局来なかったな」
「彼女?」
誰だそれ?
「なぁそれってーー」
「何だか空が光ってませんか?」
嫌な予感が凄まじい勢いで迫って来る。
「どんどんヘリに近付いて来ますね」
そしてヘリを貫通し、あたりの水をモーセのように切り開き
「遅れた」
アルスが立っていた。
◇◆◇◆
「ここに来る前にアルスを誘っておいたんだ」
「何故?」
てかいつの間に君ら仲良くなってるの?
「色々手続きに手間取ってしまったわ」
「身一つで国境を越えられる人間の扱いほど難しいものはないからね」
自然と談笑に入っているが、そういう問題じゃない。
「え?ヘリ無くなっちゃったよ?」
「ごめんなさい、まさか着地地点にヘリがいるなんて思わなくて。ちゃんと弁償するわ」
「そういう問題じゃ」
これで帰る期間がまた増えてしまった。
「これだとお風呂に入れませんね」
「ん?じゃあ私が送るよ?」
「本当ですか!!」
「え、じゃあ俺も連れてーー」
アルスが二人を連れて飛んで行く。
ま、まぁよくよく考えればあんなジェットコースターもビックリな乗り物に俺の体が耐えられるはずもないが
何だか居た堪れない気持ちになる。
「遊ぶかルシフェル」
「そうだな」
初めて海を満喫できた。
◇◆◇◆
「サッパリしました」
「ここまで文明の利器に頼ってしまっていたとはな、自分が情けなく思ってしまう」
満足そうに帰ってきた二人。
「お布団持ってきたわ」
ちゃっかりと泊まる気満々のアルス。
「好きにしろ」
俺は色々諦めた。
◇◆◇◆
実に楽しい時間を過ごす。
アルスはあまり運動はできないため基本喋ることメインだったが、三人が笑顔でいることに幸せを感じた。
ゲームでは真目線で話が進むため、ヒロイン同士の掛け合いがあまり見られなかったが、楽しそうな姿に心がホッコリする。
リアもユーリもアルスも、ゲームでは散々な目にあった三人が笑って過ごせる日々。
そのために頑張り、成功した。
そのご褒美が今の光景を俺に見せてくれる。
俺の中の疲れは消え、胸の奥から熱い思いが湧いてきた。
きっとこれからも俺が想像だに出来ないような辛く、厳しい苦難が待っているのだろう。
だけど頑張ろうと
心の中の決意をもう一度確認し、見たくない現実に目を向ける。
「ガグフッ」
俺のすぐ隣には赤い水着姿のアルスがピッタリと密着している。
「楽しい?」
「フーフーフー」
「フフ、何だか知性を失った魔獣みたい」
「本当に知性を失ってないかそれ?」
俺は本当に成功したのだろうか?
もしかしたら取り返しのつかない大失敗をしてしまったのかもしれない。
「アルスさん!!そこを退いて下さい!!それは私の専用の席です!!」
「無理、私は既にアクトがいないとダメになってしまったの」
「そ、そんな!!お兄様の一番は私と決めていたのに」
本当に仲良いのこれ?
アルスが表情を変えずに高笑いをし、リアがどこから取り出したのかハンカチをムキーと効果音が出んとばかりにしている。
「二人とも仲良しだなぁ」
ユーリが羨ましそうに見ていた。
◇◆◇◆
しっかりと帰宅することができた。
ちなみに昨夜はあまりにも刺激的すぎ、俺の記憶は飛んでしまった。
生まれて初めてドキドキハプニングを乗り切る主人公がどれだけ凄いのかを認識させられた。
ここで今俺が何をしているのかというと
「今度はあれを食べるぞ」
「おうよ」
ルシフェルと歩き喰いしていた。
すると
「お!!アクトじゃん、偶然だねぇ」
桜と会う。
「どうしてこんなところに!!」
「いや、普通に街歩いてるだけでそんなリアクションされちゃうの?私」
ジト目を向けられるが、俺にとってそれはご褒美であることを桜はまだ知らない。
「一緒に回る?」
「誰が行くか」
そんなやりとりをしていると
「さく……ら?」
「え?」
声をかけられる
桃色の髪の女性
「お母……さん?」
救済√1.5
桃井 桜
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