第35話

「真!!」



 その姿は紛れもなく、私の大切な唯一無二の友人の姿であった。



 混乱した。



 今までにないほどに。



 そして絶望した。



 大切な人すら守れない自分に。



 激しい嫌悪により吐き気が湧いてくる。



 だから



 弱い私は、また縋った。



 自分を罰してくれると信じて。



 でなければ心が持たないから。



「私の」



 せいで



 その言葉は彼の言葉によって止められる。



「アイツは大切なものを守った」



 それは



「お前なんかがアイツの思いに入っていいはずないだろ」



 ああ



 どうして君はそうやって私をいつも助けてくれるの。



 彼は私を肯定し、否定した。



 間違えていると、烏滸がましいと



 だけど



 私の思いは間違っていないと



 そんな優しい言葉をもらっても、弱い私ではまだ自分が許せない。



「なら見守れよ」



 私の瞳を捉え



「過去には戻れなくても、今、出来ることがあるだろ」



 心の何かが埋まった気がした。



 ◇◆◇◆



「これから先は関係者以外立ち入り禁止です」



 真の怪我はかなり重症なようで、聖女ほどでなければかなり危険じゃ状態のようだ。



 じっとすることが出来ず、周りをぶらりと練り歩く。



 すると、一人の男性の姿が見える。



 その特徴は



「もしかして」



 ◇◆◇◆



「さすが聖女様だ。それにしても、どこかで聞いたことのある素敵な声だったな」



 瀕死の重症から一転、元気になって帰ってきた真の姿に安心する。



「それじゃあ僕は行ってくる」

「え?」



 いや、それはきっと当たり前のことなのだろうが



「こんな怪我をしたのに」

「それでも僕はするべきことをするよ」



 そこに強さがあった。



 やっぱり私は傲慢だ。



 真は私なんかがいなくても、立派に、自分の足で立っている。



 それに、戦場には彼がいる。



 だから



 一言だけ真に告げ、送り出した。



 ◇◆◇◆



「お父さんに渡してくれたの?」

「ええ」



 シェルターに戻り、男の子に車椅子を返す。



 するとヒソヒソと話し声が聞こえる



「あの髪」

「どうして戦場に行かないんだ」

「あれだけ力があるのに」



 それは私に対する侮蔑の言葉であった。



 それを聞いた私は



「かわいそう」



 そう思った。



 彼らは私と同じで傲慢なんだな。



 私は自分にしか出来ないと驕り、彼らは自分には出来ないからと驕る。



 確かにそれは当たり前なのかもしれない。



 だけど、その当たり前は簡単に人の心を踏み躙るのだとは気付いていない。



「弱い」



 あの人達も、私も、弱い。



 だから



「縋る」



 彼らは私に、私は今まではお父さんとお母さんに縋っていた。



「もしかしたら彼も」



 何かに頼っているのかもしれない。



「ああ、そっか」



 私も自分の弱いところを見てなかったんだ。



 やっと見つけた、私の弱さ。



 それを無くすことだってできるのだろう。



 でも



「受け入れる」



 否定するのではなく



 だって人間は矛盾を持って生まれるものだから。



 それが私の答えだった。



 だって弱い自分がいるから……私は……



「うん」



 あの背中の温もりを思い出し、私の考えが間違いではないことを確信した。



 そう、弱さがあるからこそ強さを肯定出来るのだと。



「ん?」



 すると一人の少女が目の前にいた。



 純白の髪。



「アクトを助けてくれ」



 一言



 状況も、理由も、何もかも分からなかったけど



「分かった」



 全身に力を込めた。



 ◇◆◇◆



 この世界にはあらゆる物に魔力がある。



 それは地面にも然り。



 研究者のアイツらが言うには、もし魔力がなければ私が一歩踏み出すだけで一キロ程のクレーターが出来るらしい。



 だけど魔力があればひび割れる程度で済むそうだ。



 つまり何が言いたいかというと



「見えた」



 一歩で彼の姿を確認した際、シェルター周りに被害はなかったという話。



「あれは」



 彼の近くには邪悪そうな魔獣。



 かなり危険な状況のようだ。



 一歩、空中を蹴る。



 すると彼は命の危機を前にしているのに



「地獄で待ってるぜ」



 何とも悲しいロマンチックなセリフである。



 だけど台無しにさせてもらう。



 ただ無下にするには彼の勇姿は私の心をときめかせすぎた。



「カッコいいね」



 後は私もカッコいいことを言っておきたくなった。



 返す



「助けにきた」



 弱くて強い私だからこそ、言える言葉で。



 ◇◆◇◆



 大きなトカゲを投げ飛ばした後、私は各場所を渡った。



 目の前の魔獣を倒した時、ある男は死体を胸に抱いていた。



 そして彼は



「ありがとう」



 弱い彼は、やっぱり強かった。



「どういたしまして」



 私はそう返した。



 私がいくら同情しても、彼は既に立っているのだから。



「皮肉な言葉」



 そしてあらかた片付けた後、また元の場所に帰る。



「ただいま」



 そしたら彼は複雑な顔をする。



 あれだけ大見えを張ったのに、私が解決したことを気にしているのだろう。



 傲慢だと言った私が、全てを解決したのだから。



 ああそっか



 やっぱり君も弱いんだ。



 だけど、私が来るまでに君は数多くの命を救ったんだよ。



 もう私の中の蟠《わだかま》りはもうない。



 今気になっていることは一つだけ



 魔法が切れるその瞬間まで



(どうして彼の心臓の音が鳴り止まないんだろう)



「初めまして」



 一人の男が現れた。



 ◇◆◇◆



 きっと彼は私がこの男と会うのを恐れていたのだろう。



 そしたら彼が一歩前に出る。



 まるで私を守るかのように。



 彼と男が何か話しているが、私はこういう守られる経験がないため、舞い上がって話を聞いていなかった。



 すると、彼が耳元で囁いてくる。



 私は自身の顔があまり変化しないのが悩みだったが、今はそれに助けられた。



「あいつの言うことは」

「信じるなって?」

「いや、信じろ」



 あんな怪しさマックスな男を信じろと彼は言う。



 だけどそれは出来ない。



 私が信じるのは



「自由に、世界を見たくありませんか?」



 考えを男の言葉によって邪魔される。



 以前の私なら是が非でも飛び込んだだろう話題だが



「要らないわ」



 だって私には守ってくれる彼がいる。



 だって人は弱くて、でも私がいなくても一人で立てる強さがある。



 そんな矛盾を持っているからこそ人間なのだと。



「そう……ですか」



 交渉決裂とばかりに男は剣を抜く。



 そしたら彼が慌てた様子を示す。



 いや、それは恐怖による震えだった。



 目が合う。



 私を見ていた。



『大切な人を守る』



 彼は変わらない。



 その強さは変わらない



 力がないのに



 怖くて震えているのに



 そんな弱い君は



「君は強いよ」



 天から光が降り注ぐ。



 突然光に晒された彼は、自身満々に笑う。



 それは初めて私と対峙した時と同じ笑顔であった。




 まるで勝ち確かのような演出だったけど



「ひぃーーーーー」



 彼の姿は本当に情けなかった。



「ぷっ」



 不覚にも笑ってしまう。



 私を、みんなを守った英雄の姿があまりにも不釣り合いだったから。



 それにしても



「いい動き」



 多分あの光によって彼は強化されたと思うが、どうにも突然の力に慣れている様子だ。



 普通なら私のように能力を制御する必要があるのだけど、彼にはその必要がなさそうだ。



 そんな呑気なことを考えていると



「あ」



 彼の首元に剣が接触する。


 

 きっと絶体絶命な状況なのだろう。



 だけど私は彼を信じ、そして何とかなると体は答えている。


 

 ならそこに恐怖はない



「アクト」



 初めて彼の名前を呼ぶ。



 なんだか少し気恥ずかしい。



「私は生まれてから世界に呪われていた」



 体が弱いと。



 魔法が使えないと。



 大切なものはないと。



「最初は世界を恨んだ。だけど仕返し何て出来なかった」



 両親を失った時、どうすれば届くか考えた。



 だけど知識がない私は、ただいつものような日々を送ることしか出来なかった。



 でも、いつか届くかもしれないと思って



「だから頑張った。頑張って頑張って頑張ったら」

『化け物』

「一人になってた」



 その時は自分の中の大事なものを失うかもしれなかった。



「でもね、今は違う」



 気づかせてくれた



 助けてくれた



 そんな君がいるから



 アクトがいたからこそ



 何とかなると思ってしまう



「大丈夫。理不尽なんかもう怖くない」



 すると男が透明な携帯のようなものを取り出し



「偶然だ」



 負け惜しのように去る。



 さすがにこれはアクトとは関係ないと思うが



「いや」



 それすらも関わっているの?



 男が去った後



「分かってたのか?」



 アクトが問う。



 分かるはずない。



 信じただけなのだから。



「勘?」



 そう答えたら、アクトは笑った。



 心からの笑顔だった。



 今の私は魔法を使えないが、アクトの心臓の音が止んだ気がした。



 全て終わったかのようにアクトは去ろうとするが



「おんぶ」



 ねだる



 だって私は君無しではもう生きられなくなってしまったのだから。



 救済√4、4.5



 アルスノート



 完

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