第33話

 <sideアルス>



 爆発音が響く。



「何?」



 そして正門と裏門から多くの音が聞こえる。



 そして明からに



「大きい」



 正面にはここからでも見えるほど大きな怪物。



 その姿は熊のようでありながら、その大きさはまさしく桁違いのものであった。



「あんな大きい生物が突然現れるなんて」



 ありえないことだが、私が考えたところで意味も時間もない。



「とりあえず」



 倒そうと



 全身に力を入れた時



「これは」



 裏門から声が聞こえる。



 それが学園の生徒だとすぐに分かった。



 私は直ぐに裏門に走った。



「助けて」

「いやぁ」



 阿鼻叫喚、というより恐怖で腰が抜け、小さな悲鳴しか上げられないといった様子。



 それらを背に、魔獣達と対面する。



「めんどくさいわね」



 これらを片すのは簡単だ。



 そして直ぐに正門の方に加勢した方がいいだろう。



 だけど



「まだ」



 力の制御が完璧ではない私では、後ろの人を巻き

込まずにこれらを一瞬で倒すのは難しい。



「急がないと」



 ◇◆◇◆



「わ、凄い」



 突如発生した強力な力。



 それは私の知る中で二番目に強い力。



「戦ってみたいな」



 この力が誰のものかは知りたいが、これ以上魔力を高めれば力んでしまう可能性がある。



 色んな意味で早く終わらせたいものだが



「多すぎ」



 どこからともなく湧いてくる魔獣。



 その上



「さっさと逃げない?」



 後ろにいるのに声を掛けると



「ひぃいいい」



 生まれたての子鹿のようだった彼ら彼女らが、ベイビーにまでおちる。



「はぁ」



 これではいつまで経っても終わらない。



「一応助けに来たんだけど」



 私はこの力を使うことしか知らない。



 だけどこの力にすら意味を見出せなくなってしまったらどうすればいいのか。



「お父さん、お母さん」



 二人がいればこんなこと考えなくて済むのに。



 ◇◆◇◆



 魔獣の発生は突然止む。



 これは



「まぁいい」



 私の体ももう限界だ。



 その場で腰を下ろす。



 今の私はどんな人間よりも弱いであろう。



 だけど



「なぁ、なんか弱々しくないか?」

「そんなわけないだろう、あんなに強いんだ。気力が無くなっただけだろ」

「それより速く逃げようぜ」



 私を置いて一目散に走り出す。



 私は弱い。



 だけどみんな私の強さに目を向ける。



 私は誰かの庇護下に入ることなんてない。



 そう思ってた。



 ◇◆◇◆



 また月日は私の心を動かすことなく進む。



 彼が来るまでは



「お前をボコボコにしに来た」



 その第一声に心が震えた。



 今までの相手は私には絶対に勝てないと、戦うまでもないと諦める者ばかり。



 そこで思い出す。



 彼は私と同じで魔法が使えなかったはず。



 にも関わらず溢れんばかりのこの自信は何故だろうか。



 私はとりあえず最低限の力で攻める。



 そしたら私の拳は彼の目の前で止まる。



「これって闇魔法?」



 魔法は使えないはず。



 もしかして使えるようになったのか。



 それとも隠していたのか。



 あと何故顔がニヤけているのか。



 どちらにせよ



「なるほど、君が自信満々だった理由が分かるよ



 私の興味はそこで一度消えた。



 私と同じではなかった彼は、私にとってただ珍しく闇魔法を使う変わり者という認識に変わる。



 ただ一つだけ誤算があった。



「ふん」



 闇魔法なんて使う人は珍しい。



 だからどれくらいの力を使えば破れ、命を奪わずに済むかを中々掴めない。



 そうやって悪戦苦闘していると



 バリン



 やっと破れた。



 かなりの技術だ。



 あの魔力でこれだけ精度の高い魔法はそうそうお目にかかれないだろう。



 それに途中で思ったことがある。



 この男にこれだけの魔法が使えるのかと



 ただの勘でしかないし、それよりも



「これで終わーー」



 目の前で寸止めすれば止まるだろうと考えていると、胸に激痛が走る。



「ガハッ」



 どうやら少しはしゃぎ過ぎたらしい。



 頭が鐘のように、心臓が破裂することを示すかのように危険信号を鳴らす。



 必死に呼吸を整えていると、私の首筋に冷たい物が触れる。



 最初は何て人間だと考えた。



 だけど



「……」



 彼の目は慈愛に満ちていた



 気がした。



 そのままいつの間にか現れた男と彼が何かを話した後、彼はどこかに去って行く。



 多分、彼は私にこの男と会わせたかったのだと、何故か分かった。



「待て!!」

「うっ!!」

「あ!!大丈夫ですか!?」



 それが人生で三番目に私を心配してくれる人間だった。



 ◇◆◇◆



「ええ!!アルスって入試満点だったの!!」

「えっへん」

「無表情だから誇ってるのか分かりにくいよ……」



 それからその男の子と仲良くなった。



 彼の名前は真。



 優しいし、私のことを怖がらないし、日を追うごとにどんどん強くなる。



 いつしか私に追いつくかもしれないと思うと心が躍る。



 彼に対しての感情は友愛。



 もしかしたらそれ以上のものなのかもしれないが、経験のない私には推量れない。



 さらに気になることもある



「このくらいかな?」

「何が?」

「ううん」



 放課後になって少ししたくらいで、私は体を強化する。



 見えないものが見え、聞こえない音が聞こえる。



「やっぱり」



 彼はいた。



 あの日私に戦いを挑み、私から勝利をもぎ取った

男。



 観察するかのようにこちらを見つめる。



 それだけでも不思議なのだが



「なぁルシフェル、どうしてアルスがあんなに可愛いか分かるか?」


「違う!!彼女は外見だけじゃない。どんなに助けても恐れられるにも関わらず、それでも止めない優しさ。心強さ。それらを加味した上での外見だ」


「え?いや確かにお前も可愛いとは……どうでもいいな」



 一人で何かに喋りかける。



 だけどその姿はどれだけ私が目を凝らしても見えない。



 いや嘘だ。



 本気を出すと、確かに何かがいるのが分かる。



 だが問題はそこじゃない。



「私のこと」



 大好きじゃん。



 毎日のように訪れては、何やら私と真の仲を確かめている。



 それに私のことをとても理解している。



 こんな人ってと初めて。



「話してみたいな」

「そう?じゃあ今度桜も連れてこようかな」



 ◇◆◇◆



 それから日課のように魔法で彼を探す。



 何だかいけないことをしている気分だが、何だか許してくれる気がした。



 さすがにどれだけ耳がよかろうと全ての音を聞き分けるのは不可能だし、壁の向こう側を見るのも疲れるので出来ないため、正確なことは分からない。



 だけど分からないなりに、気付けることもある。



「心臓が」



 彼の心臓が速い。



 それは武闘大会の日。



 さすがの彼も緊張しているのかと、最初はそう考えていた。



 にしては昼から参加とはいいご身分である。



 そして私は武闘大会で真と、彼と戦いたいがために参加した。



 対戦相手は一瞬力を緩めてパチケをしたらみんな倒せた。



 真の強さなら決勝まで上がってくると思ったが、どうやら途中で退場してしまったようだ。



 本来ならその時点で辞退するものだが



「強いね」



 決勝の相手を確認すれば、自然と納得した。



「私に勝ったんだもの」



 ◇◆◇◆



 舞台に立つ。



 彼は上がって来た。



 以前は自信満々でニヤけた顔をしていたが、今は弱々しく真剣な顔だ。



 だけど私の顔を見ると一瞬ニヤけるのは変わってない。



 いつもは演技しているが、今は焦りからか素が出ているのが何だか面白くて



「リベンジ」



 わざと彼の心を掻き乱す。



 私が言葉を足すたび、色んな反応を返す。



 それが面白くて、可愛くて、だけどその目はやっぱり優しい。



 そこに惹かれた。



「死なないでね」



 彼は力無く笑う。



 前回の戦いで力の調整は完璧である。



 予想通り、期待通りというのか、例の闇魔法は一瞬で無くなる。



 だけどその感触は以前と変わりない。



 それが違和感であった。



(どうして全く同じ硬さ)



 闇魔法は不安定なもの。



 その上、人の魔法の調子は日によって変わる。



 だけど変わらない魔法。



 それはまるで



「何か縛りがあるみたい」



 100の力を出しても、制限が30のため、強制的に30で固定されるような。



 そんなイメージである。



 魔法を破ると、彼と目が合う。



 この戦いが終わればお話ししようと思っていたが



「いない」



 彼の目には私はいなかった。



 他の誰かを見ている。



 それがどこか



「悔しい」



 気絶させ、勝負を終わらした。



 ◇◆◇◆



 武闘大会が終わっても、彼の心臓は鳴り続けていた。



「何を緊張しているの?」



 それから大事件が起こった。



 あのペンドラゴ家がなくなってしまったという。



 昔、あそこの当主と戦ったことがあるが、あの人は強く、力の調整が少し大変だった。



 一体どんな強者だろうかと考えていると



「止まった」



 次の日、彼の心臓の音色は止まった。



「もしかして」



 その事件を知っていた?



 関わっていた?



 そこに関係を疑わない方が難しいものである。



「ねぇ真。例の事件だけど」

「へ!!ぼ、僕は何も知らないよ?僕は全然犯罪なんて犯してないよ!?」



 動揺する。



 絶対に真は何か知っている。



「もしかして彼が関わってる?」



 遠くに見えた彼を指差す。



「凄い!!何で分か……そ、それは疑いすぎだよ。あの事件は僕達に関係なく解決。それでいいじゃないか」



 確信する。



 彼は関わってると。



 そして武闘大会の日から知っていたと。



「ますます気になっちゃう」



 ◇◆◇◆



 そして



「ん?」



 いつものように彼を観ていると



「心臓が」



 あの時と同じ



 そして



「遠くの方から」



 多くの足音が聞こえた。



「やっぱり彼は」



 何か知ってる。



「会いに行かなくちゃ」



 それが私の人生の二回目の転換期になる。

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