第32話
<sideアルス>
人から愛されたのはいつまでだっただろうか。
「あなた、この子の名前は」
「星のように輝くような目、それに君のように綺麗な髪色になるだろう。だからあの神様のように強い子に育って欲しい。だからこの子の名前は」
アルス
「素敵な名前ね」
一般的な家庭に、優しい両親。
きっと誰もが幸せになると
そう思った。
「もう2歳にもなるのにハイハイも出来ないなんて」
二人はどこかに異常があるのかと、私を病院に連れて行く。
そして診断の結果は
「お子さんは生まれつき体が弱いようでして」
それはかなり深刻なものであり、無理をして体を動かせば命すら縮めてしまうほど。
「ごめんなさいアルス。強い子に産んであげられなくて……」
二人は毎日のように私に謝っていた。
「だけど魔法があればきっと」
それと同時に二人は私に希望を示していた。
だがそれは私を励ますためか、それとも自分達を慰めるためのものだったのかは分からない。
何故ならすぐにその希望は朽ちてしまったのだから。
「娘さんは属性に対する適性がありません。使えても、せいぜい身体強化くらいでしょう」
それはいわば死刑宣告のようなもの。
この世界で魔法は必須。
最早それは基盤であり、人に脳があるように、心臓があるように、あって当然であり無くては生きれないほど社会に根差していた。
「お父さん、お母さん」
二人は泣きそうになりながらも大丈夫だと私に伝えた。
だけど私の家庭は決して裕福とはいえないものだった。
「大丈夫だアルス、お父さんが何とかするから」
体も動かせず、魔法を使えない私を養うのは大変なこと。
両親は働きながら、私のお世話をする人を雇わないといけない。
次第に、両親は疎遠になった。
幼い私は
「私のせいだ」
そう思った。
だからどうにかして二人の役に立ちたいと考える。
『身体強化の魔法は使える』
医者が言った言葉を思い出す。
魔法の使い方なんて分からなかった。
だから自分の中にある何かを全身に巡らせる。
「わぁ」
世界が一瞬で色鮮やかになる。
色んな音が、色んな匂いが、色んな物が見える。
「空の向こうって暗いんだ」
そして生まれて初めて立ち上がる。
感動した。
人並みにできることが、地面の感触が、そして両親に心配をかけなくて済むから。
だけどそう上手くはいかなかった。
「え?」
一歩踏み出すと、床が割れてしまう。
「ア、アルスちゃん!!」
「ご、ごめんなさい」
両親が急いで帰ってきた。
「何があったんですか」
「アルスちゃんがいつの間にか立っていて、そしたら床が」
「そんな!!アルスは自分で動くことすら難しいんですよ!!」
「ですが」
お世話係の人と両親が揉める。
私は
「お父さん、お母さん、私が壊しちゃったの」
最初は二人とも私が庇ったのだと、優しい子だと聞き流した。
だから
「ほ、ほら」
証拠を見せようと、怒られるかもしれないけど、立つ姿を見たら褒めてくれるかもという淡い期待を胸に歩く。
「アルス……」
「まさか」
二人は涙を流した。
生まれて初めて自分の子供が立ち上がる姿に。
それが私の
「役に」
生きる指針となった。
◇◆◇◆
多分その日が私の人生の転換期であるといえよう。
初めて魔法を使い、初めて立ち、初めて自分の力で両親に笑顔を与えた。
だけど次の日
「あれ?」
外で魔法を使ってみた。
すると
「大っきい穴」
昨日とは違い、自身の中にある何かが大量に溢れ出してくる。
「これは……」
「どうなってる!!」
「こちらでも測定不能です!!」
「こんなことありえないだろ!!」
私の魔力はありえないほどの量だということが判明した。
どれほどかというと
「世界が滅ぶ」
一番偉い人がそんなことを言った気がする。
それから私は両親から引き離され、施設へと入れられた。
「君には力を制御してもらう」
ただ何もない、広いだけの部屋で私はそう言い渡された。
「このまま始末した方が」
「バカか、それで失敗したらそれこそ終わりだ。お前は世界をベットする覚悟があるのか!?」
魔法で強化された耳ではそんな声が簡単に聞こえた。
「これが終われば、お父さんとお母さんに会えますか?」
私の質問に彼らは
「もちろんだよ」
下手くそな笑顔でそう答えた。
◇◆◇◆
だけど私のモチベーションは続かなかった。
私の力は大切な両親のためのものと考えていたか
ら。
それを見抜いたのか
「これらを一匹倒すごとに、君の両親にこれだけのお金が配られる」
「それってお菓子何個分?」
「食べられないくらいだ」
「ふーん」
そう言われた私は魔獣を倒した。
倒して倒して倒して倒して
「楽しい」
両親の役に立つ嬉しさを錯覚してしまったのか、それとも潜在的にそうだったのか分からないが、私は戦うことに楽しみを覚えた。
そんな姿を見た人は
「化け物」
そう評した。
◇◆◇◆
齢10歳になろうとした頃
「君の両親に会わせよう」
突然告げられる。
その言葉に胸が躍った。
久しぶりにお父さんとお母さんに会える。
そして訪れた時
「え?」
無機物
「君の両親は不慮の事故で」
話は一切頭に入ってこなかった。
「これで暴れられるのを恐れたが、大丈夫そうだな」
◇◆◇◆
「学園に行け」
奴らからそう言い渡された。
「行って何を学ぶの?」
その頃には私の心もある程度回復した。
だけど空いた物だけはずっと無いままだった。
「よくわからないが、うちにかなり出資している場所からアルスノートを学園に通わせろと通達があってな」
そうして理由も分からないまま、私はミーカール学園に通うことになる。
◇◆◇◆
学園への入試は筆記と実技であった。
「何も分からない」
筆記はマーク式だったが、答えは一つも分からなかった。
だから
「勘でいいか」
そして実技試験は
「何でもいい。俺に一撃でも加えたら合格だ」
私の二倍ほどありそうな大男が声高高に宣言する。
それは自信の表れゆえか、実際にこの男は強く、多くの人間が一発も攻撃を与えられずに退場する。
そんな中でも
「へー」
一人は青色
持っている剣は金色に輝いて、まさに騎士の鏡のように強く美しい。
一人は茶色
トリッキーな動きはどこか芸のようであり、だけどそれは実戦向きだとすぐに分かるものであった。
何より
「ムッ」
自身の胸を抑える。
別に小さいわけではない。
だけど体質のせいか、生まれつきか、小さい体ではどこか大きいものに憧れる。
そして最後に
「俺様が負けるわけないだろ!!」
紫色
決して強くなく、見ている限り性格も悪そうだ。
だけど
「見ろよ、例の」
「ああ、魔法が使えない上にあの性格とか最悪だろ」
コソコソと噂話が聞こえる。
「私と同じ」
私だけかと思っていた。
この世界で魔法が使えない人間。
「次」
私の順番が回ってくる。
「ん?かなり小さいけど大丈夫か?」
試験官の男は心配そうに尋ねる。
「大丈夫、それよりも」
魔力を回す
「死なないでね」
◇◆◇◆
「いやーまさかあのアルスさんとは」
学園の二番手らしき男がヘコヘコと私に媚びへつらう。
「で、ですが申し上げにくいのですが」
「いてもすることがない?」
「そ、その通りですー」
正直私も同じ意見だ。
「じゃあ」
目に映る。
「あそこでいい」
裏庭を指す。
「へ?そ、それは」
「あそこにいるからお昼にご飯だけ持ってきて」
「は、はいー」
もしかしたらここで私の心が埋められるかもと考えた。
だけど
『お、おい、あの子一発で試験官をノシたぞ!!』
『あ、あの赤い髪、もしかして』
『ア、アルスノート!!』
『どうして化け物がこんなところに』
会場での記憶が戻る。
「私が居ても」
別に構わない。
今までだってどうせ一人だったのだから。
「最後に一つ聞いていい?」
「はい!!何でしょう!!」
「筆記何点だった?」
男は言い淀み
「ま、満点でした」
「そう」
◇◆◇◆
学園に入ってどれくらいだっただろう。
裏庭で過ごし、帰って力の制御をするだけの生活。
「退屈」
そんな時
「ん?」
爆発音が響いた。
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