第30話

 救済√■



 ■■■ ■■■■



「何だこれ」



 自身の姿を見て思った一言。



 いつの間にか服が代わり、髪がルシフェルと同じ雪のように白くなる。



 そして背中に感じる違和感。



 まるでそこから何かが生えようとしているかのように感じる。



 そして周りの景色の色がチカリチカリと点滅する。



 それは光が現れたわけではなく、闇が現れた結果のようだ。



 だが、俺が驚いた最大の要因は



「姿が」



 違う



 邪神の依代となったアクトはその紫の髪が色を濃くし、漆黒へと変わる。



 それに服装も邪神教のような黒で統一されるはず。



 こんな神聖さ溢れる白いものではないはずだ。



「理由は分からん」



 だが今は



「お前を殺す」



 煽るように指を刺されたアジダハーカは更に憤怒を露わにする。



 怒りに任せた攻撃を繰り返す。



「フハハハハ!!効かん効かん!!」



 生まれて初めて使う魔法。



 だけど、どこか前にも使っことがあるかのように自然に体が動く。



『クソガァアアアアアアアア』

「ああ最高だぁ、最高にハイになっちまう」



 戯れるように攻撃をいなす。



 このデカイだけのデクの棒アジダハーカには愛しのユーリと桜を傷つけた罪があるからな。



 手で銃の形を作り



「バン」

『グワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』



 人間をミンチにするためだけに作られたようなアジダハーカの腕が吹き飛ぶ。



『何が』

「闇魔法とは」



 概念に既存しない。



 だから奴の腕がこの世のどんな物質でも破壊できないとしても



「壊れた結果だけを残す」

『そ、そんなことーー』

「出来るはずない」



 そんなことをして魔力が、技術がどれだけ必要なことか。



 だが



「いつまで勘違いしてる」



 今お前が相手にしているのは



「人間じゃない」



 そう



「神dwk」



 噛んだ。



 ◇◆◇◆



 戦いは一方的。



 既に腕も足も無くなったアジダハーカが地面に突っ伏している。



「アクト……その力は一体」



 ユーリが当然の疑問をする。



 俺はヒロインに優しいからな、もちろん答えを



「分からん」

「え?」



 ルシフェルは契約はなされたと言った。



 その意味は、まさしく俺を転生させたように、邪神教の願いを叶えた時のようなものだろう。



 だけどルシフェルは魔力が大幅になくなっていた。



 にも関わらずこれだけの力が使えるのは謎だ。



 ルシフェルが嘘をついた可能性もあるが



「いや」



 それだけはないと確信できた。



『ゴロズゥウウウウウウウウウ』



 既に満身創痍のアジダハーカがブレスを放つが、あまりにも弱々しいものであった。



「諦めろ」

『クッ!!!!』



 決着はついた。



 一時はどうなるかと考えたが、何だかんだでいつも通り上手くいった



「わけないか」



 周りはまだ戦いが続いている。



 三代魔獣が倒れれば流石に国が滅びることはないだろうが、それでもまだ終わったわけではない。



 今の俺ならまだ救える人間がいるかもしれない。



「同じBOSSキャラだが、これが格の違いってやつだ」



 アジダハーカは心臓を潰そうと生きるため、徐々に体が朽ちる魔法をかけ、止めを刺す。



「よしこれで……ユーリ怪我はーー」



 闇の光。



 その矛盾した現象がアジダハーカに降り注ぐ。



「は?」



 朽ちた体が逆に再生し、元の姿に戻る。



「なん……」



 ありえない。



 確かにこいつはしぶとすぎるとプレイヤーに何度も罵詈雑言の数々を浴びせられたが、こんな回復をしたことなんて一度もない。



「ま、まぁいい。もう一度倒せばいい」



 魔法を使おうとする。



 だが



「な!!」



 魔法は使えなかった。



「アクト」



 ユーリが深刻そうに



「姿が」



 自身の姿を見る。



 それは何度も、何度もよく見た姿。



「元に」



 戻っていた。



 俺もアジダハーカも同じく。



 だがその事実はあまりにも絶望的なもの



「ルシフェル!!どう言うことだ!!もう一回さっきのを!!」



 叫ぶ



「ルシフェル!!」



 叫ぶ



「ルシフェル!!!!」



 何度も何度も



「ルシ……フェル?」



 返事は帰ってこなかった。



「アクト、どうして邪神の名前を……」



 ユーリが訴えかけるようにか細い声を上げる。



「ど……どこに……」



 俺の耳には届かなかった。



『…………』



 先程まで饒舌に叫んでいたアジダハーカが無言で動き出す。



「な、なぁルシフェル、ふざけてる場合じゃないだろ?速く出てこいよ」



 近づく邪竜。



「お、おい本当に」



 目の前に立つ。



 そして開かれた口からブレスを放とうとする。



「俺はーー」

「アクト」



 不意に



 ユーリに手を握られる。



「ユーリ?」



 現実へと引き戻る。



 眼前には今にも俺とユーリを踏み潰そうとするアジダハーカ。



 そしてユーリはより強く俺の手を握りしめる。



「一緒に」



 幸せそうにユーリが微笑む。



 意識が彼女に集中し、その事実を理解する。



「ああ」



 それは



「どれだけ」



 幸せなことだろう。



 大切な人と共に



 それだけでどれだけ幸せなことだろう。



 だけど



「それを望んだわけじゃない」



 俺は



「お前らを救う」



 ユーリの手を払う。



 そして一歩前に



 眼前にブレスが広がる。



「殺せよ」



 虚勢を



「だが俺は怖いぜ」



 それは偽りすら真実に変えるほど



「俺の大切なもんに触れたら」



 目が合う。



 先ほどまで虚な目をしたアジダハーカに光が戻ったかと思えば、すぐに恐怖へと変わる。



「地獄で待ってるぜ」

『き、消えろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお化け物ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』



 死が目の前に迫る。



「カッコいいね」



 そして死よりも恐ろしい存在



「私、そういうの好きだよ」



 アジダハーカが霧散する。



「帰りが遅いから」



 そしてアルスは手を伸ばし



「助けに来た」



 英雄が戦場に舞い降りた。



 ◇◆◇◆



 冷静に考えるとアルスが魔法を使っているということは



「まさか」

「ううん」



 まるで先回りするかのように首を振る。



「問題はない」



 それが意味するには命を削らずに魔法が使えているという事実。



「それじゃあどうして」

「女の子が」



 アルスは自身の胸に手を置き



「君を助けてくれって」

「もしかして」



 その少女は



「白い髪の女の子か?」

「うん」



 自然と



「そっか」



 涙が溢れた。



「その子と会ってから体の調子が戻った」



 力瘤ちからこぶを見せるアルスだが、力を入れる前と殆ど変わっていない。



「ん?」



 散りとなったアジダハーカだったものが一箇所に集まり出す。



「まさか!!」



 そしてまた



「そんな……」



 ユーリがそんな声を上げると同時に、アジダハーカが復活する。



「不死身?」

「そんな話聞いたこともないけどな」



 不死身



 その一つの身で国すら滅ぼせられる存在が永遠に死なないなど世界の終焉といってもいいだろう。



 だがそれは



「ふーん」



 興味なさげに返事を返したアルスは、ダイヤよりも硬いアジダハーカの鱗をまるで柔らかいゴムかのように掴む。



 そして地面は割れ



「よ」



 可愛らしい一言を残し



「どこまでやったんだ?」

「さぁ」



 宇宙の果てへと投げ飛ばした。



 ◇◆◇◆



 程なくして戦いは幕を閉じた。



 いや、一人の少女によって幕を閉ざされた。



 人から見れば救世主であり、魔獣から見たら厄災でしかなかっただろう。



 何人も殺された。



 苦しめられた。



 そんな魔獣達が皆、すべからく圧倒的な力の前に滅される。



 人々はそれを



「英雄の誕生」



 そう称した。



「ただいま」



 魔獣を殲滅し戻って来たアルス。



 戦いも終わったため、ユーリや桜はそのまま運ばれていった。



「送り出されたのは俺……俺様の方だがな」

「その一人称似合わないね」



 クスクスと笑う姿は、やはり俺の愛した女の子の姿であった。



「体は?」

「もうそろそろ限界」



 アルスはそう言って地面に腰掛ける。



 これで丸く



「初めまして」



 一人の男が急に現れ



「少しお話をしませんか?」

「誰?」



 アルスは警戒心を露わにする。



「これは失礼」



 男は恭しく頭を下げ



「邪神教幹部第3席」



 顔が焼け焦げた男の口だけが笑う。



「ペインと申します」



 収まるはずなかった。

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