第28話

 救済√4



 アルス ノ■■■



 何かどデカい啖呵を切った俺ではあるが、ラスボスなんて所詮邪神の力によるものが殆どにも関わらず、何故あんな大口を叩けたのか



「んなもん知識があるからだよ」



 今回アルスがいないのはかなりの痛手だ。



 アルスは言ってしまえば核爆弾のようなものである。



 一瞬であるが、それでもその破壊力は凄まじく、それこそ戦況が一転してしまう程だ。



 だが悪いことばかりじゃない。



「少なくとも、当初の目標は達成だな」



 アルスを邪神教に合わせないという計画はアッサリと解決してしまった。



 だが、シーソーのように片方を救えばもう片方が手から滑り落ちてしまう。



 アルス無しで三代魔獣を抑えることなど



「出来る奴はいるか」



 頭にどっかのチートお父様が過ぎる。



 あの強さは三代魔獣にも勝るとも劣らないところがあった。



 だが、あの人やアクトの父などはいわば司令塔。



 最後の砦が前線に立つのはそれこそ最後だ。



「他にもいるといえばいるが」



 俺の頭のメモリーの9割を占める女の子達が浮かぶ。



「だけど彼女はまだ動けないし、あの子も少々、いやかなり癖があるし」



 どちらにせよそんなことする時間なんてないしな。



「てなわけで頼るのはアイテムだな」



 別に魔獣大量killできますよーなんてご都合MAXアイテムなんて存在しない。



「だけどもしかしたら」



 この世界は現実だ。



 そんなもの百も承知だが、やはりゲームと混合してしまう。



 しかし、今までの数々の出来事。



 それらはプログラミングではなく、生きている人間だからこそ起きたもの。



 ならば



「これだって使えるはずだ」



 俺の手には爆弾。



 これはこの世界の店で普通に売っているもの。



 治安大丈夫?と思うかもしれないが、この世界の人間は基本常に体を身体強化で覆っているため、死には至らない(怪我は負う)。


 

 そしてこれはゲームだと敵に300ダメージ与えるという効果であり、インフレが進むに進み、体力何十万何百万なんて普通になってきたら必要なくなる。



 だがこれが現実なら



「色々使い道が出てくるではないか」



 そんなわけで金にものを言わせ、大量に買い込んだこれで



「道を塞ぐ」



 シンプルイズベスト。



 魔獣が侵攻してくる場所には大きな崖がある。



 そこを爆破してしまえば、いくら魔獣といえども進行は不可能だろう。



「ふっふっふ、完璧だな」



 そんな完璧であるはずの俺の計画だったが



「とりあえず事前に威力を確かめておくか」



 道に爆弾を投げ、柔らかな地面が跡形もなく壊



「れ……ない?」



 まるで最初のルシフェルとのやり取りを思い出す。



「これは」



 触れてみる。



 まるで何か見えない力によって、爆風が抑えられているような



「まさか」



 ◇◆◇◆



 この世界はゲームを模した世界だと思っていた。



 実際、それは正しいのかもしれない。



 だが先程の現象、あれがゲーム故か、はたまたそれすらも再現された結果なのか。



 もしくは地面が硬すぎる可能性がある。



 仕方なく問題を飲み込むことにする。



 結果



「万策尽きた」



 啖呵を切った割に作戦が一つしかないなんて拍子抜けかもだが、啖呵を切ったからこそ成功すると思ってた作戦一つしかないです。



「マジでヤバいな」



 このイベントには当然真やヒロインも参加する。



 だが三代魔獣の強さは別格だ。



 今真は成長していてもレベル30程度



 だが奴らは最低70はないと倒すことは出来ないだろう。



 三大貴族の当主がこの世界の最高戦力だとすると



 邪神教幹部下位<三大貴族<三代魔獣<邪神教幹部上位<<<超えられない壁<<<アルス



 となっている。



 正直アルス以外は条件が違えば色々変わってくると思う。



 ちなみにレベル差40は人間が2tトラックと正面からぶつかるようなものである。



「無理じゃん」



 どないしよ



 ちなみに俺がここまで余裕なのは、いざとなればヒロイン全員掻っ攫って家に帰ればいいからだ。



 そうすれば三大貴族という過剰戦力が守ってくれる。



「だけど」



 大勢の人間が死ぬ。



 俺も人間だ。



 ヒロイン優先は変わらないが、それでもどこか胸に引っ掛かりを覚える。



「どないしよ」



 戦場に向かうにつれ、俺と反対に進む人が減り、俺と同じ向きに歩くものが多く見られてくる。



 その目は



「見たくなかったなー」



 絶望に染まっていた。



「はぁ」



 これでは諦めきれないではないか。



「しょうがない」



 考える。



 どうすればこの状況を乗り切ることが出来る。



 この王都にこれ以上の戦力はないだろう。



 それこそ他の国に行けばいくらでもいるが、当然無理。



 そして頼りのアイテムも使えない。



 こうなるなら天空の笛は残しとくべきだったな。



「あれは味方ごと殺しそうだけどな」



 それにイベントでは使えないだろうし。



 となれば、選択肢は俺の中で一つ。



「加護か」



 神の加護。



 真が突然強くなったり、桜が助かったのもそれらのおかげだ。



 そしてプレイヤーはそれを



「ご都合主義」



 そう名づける。



 ゲームをプレイすると最初に、真は突然神の加護を受け、そこからストーリーが始まる。



 真が現在持っている加護はみんな大好き愛の女神によるものだ。



 能力は



『経験値取得大幅上昇』

『全ての魔法への適正上昇』

『他者からの好感度の上昇』

『ピンチを切り抜けられる可能性上昇』



 なんというか……やはり凄まじいな。



 こりゃ主人公だと言わんばかりの能力である。



 そして当然他にも神は存在する。



「ん?」



 ちょうど隣にいる神と目が合うが、こいつは(笑)のため本物ではない。



 そして



「ここで邪神教襲撃の時に真に付いた加護。闘争の神の加護をもう一度」



 あれは原作だと最初の邪神教襲撃以降でないはずだが、条件を満たせばもう一度発動するだろう。



 たしか条件は



「能力的に絶対に勝てない相手への闘争心と、力を欲する思いだけだ」



 ズズ



『それともう一つ条件がーー』

「イッ」



 頭にノイズが走る。



「何だ……今の……」



 もう一つ?



「いや、ありえん。ゲーム設定は何度も見返したんだ。それ以外の条件はなかった」



 大丈夫だ。



 それに、ゲームでは真とヒロイン以外に加護が付くことはなかったが、条件さえ満たせば俺も発動された。



 なら今回も上手くいくはず。



「自信持て、失敗は許されんぞ」



 頬を叩き、喝を入れる。



「吉幾ーー」

「そのネタは古いと思う」

「何てこと言うんだルシーー」

「ルシ?」

「……どうしてここにいる」



 俺の隣にはアルスがいた。



 ◇◆◇◆



「どうやって歩いてき……いや、それか」



 アルスは自動で動く車椅子に座っている。



 きっとシェルターで貸してもらったんだろう。



 普通高いから貸さないけどな。



「どうしてついてきた」



 疑問を称する



「なんとなく?」



 疑問で返す



「はぁ、お前は魔法が使えないんだろ?なら、その無駄な正義感は迷惑極まりないからな」

「その通りね、だけど来るべきと思った。それに私は最初に言ったよ?」

「何を?」

「一緒に闘おうって」

「それは……」



 確かにそう言ったけど……



 実際に来るとは思わなかった、なんて言える空気じゃなかった。



「私は有言実行するタイプ」

「魔力が多すぎて魔法が使えない奴と、魔力が少なすぎて魔法が使えない奴、その二人が本気で戦えると?」

「でも君はここにきた」



 ニコリと笑う



「どうして?」

「お前はいちいち疑問が多いな」

「ごめんなさい」

「……調子狂うな」



 本当に突拍子もない。



 何も分かっていないはずなのに、全て分かったかのような彼女には本当に振り回されるばかりだ。



「質問に答えるなら、理由ならあるからだ。俺様には目的があるんだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「そう、なら私がいるのも同じ」

「絶対合わせただろ」

「人聞き悪いわ、オマージュと言って」



 血の匂いが漂ってくる。



「もう始まってるか」

「これ程とはね」



 災害。



 まだ遠くにいるにも関わらず、その争いの激しさが遠目で分かってしまう。



「三代魔獣がいる」

「……でも一度学園は追い払ったはず。だから」

「大丈夫だってか?あれは軽い洗脳があったからだ。洗脳された生物は基本弱体化する」



 あのアルスでさえも



「だがあれはただの暴走。完全に力を出している」

「倒すのに、何人死ぬの?」

「……さあな」



 少なくともここにいる人間はみんな、なんて言えるはずもない。



 だって彼女はその命を救える力があるのに、出すことが出来ないから。



 優しい彼女は背負ってしまうから。



「私がーー」

「ダメだ」



 止める。



 それは命を削ることと同義だと知ってるから。



「じゃあどうすれば」

「俺様が止める」



 そのために来たのだから。



「信じていいの?」



 問う。



 珍しくその無機質な顔が歪む。



 だから俺は安心させるべく



「余裕だ、あんな雑魚。俺がここに来た時点で、お前も分かってたことだろ?」



 そしてすぐに失態に気付く。



 今日は本当にアクトらしく出来ないなと。



 やはり、今までの人生で味わったことのない現状に冷静になれないのだろう。



「ごめんなさい。心配性だから」

「それがここまで着いて来た本当の理由か。まるでストーカーだな」



 ルシフェルの目線が突き刺さる。



「私、待ってるから」



 笑顔で



「いってらっしゃい」



 見送る。



 きっとアクトなら悪態を吐き捨てるのだろう。



 だけど



「行ってくる」



 俺は覚悟を決め、歩き出した。



 そこには恐怖も不安もない。



 ただ真っ直ぐ、全てが上手くいくと信じて疑わない自分だけがいた。



 だが、そんな俺を嘲笑うかのような出来事が起きる。



「道を開けてくれ!!!!!」



 突然横を担架が横切る。



「へ?」



 そこに傷だらけの真がいた。


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