第27話
救済√4
アルス ノート?
「ついに来たか」
6月始め。
俺はついに待ち望んだ……いや、待ちたくなかったイベントがくる。
「何が来るんだ?」
ルシフェルが漫画を見ながら聞いてくる。
「そりゃお前、何が来るってあれだよ」
「お!!ど、どうなるんだ!?」
「そうだな、気になるよな、教えてやる」
「そんな!!どうしてそんなことに」
「いや反応がはえーよ」
「死ぬな!!キタムラァアアアアアアアア」
「コイツ!!人に物を聞いておいて漫画に集中してやがる」
まぁルシフェルのことなんてどうでもいい。
それより大事なのは
「上手くいってくれるといいんだが」
アルスの救出作戦が成功するかどうかだ。
◇◆◇◆
共通ルートに入った真は、基本的にヒロインに好かれる。
個別ルートに入ってからじゃないの?と思うかもしれないが、君LOVEの個別ルートはヒロインを助ける展開が主であり、そこからより絆が強まるといった展開になる。
前回のユーリルートも原作だとそういう流れだった。
ここで問題になるのが、この好意が裏目に出てしまうことだ。
アルスはどうやって不幸になるのか
それはある意味死よりも辛いものがあるかもしれない。
◇◆◇◆
アルスは真に好意を持った。
それは彼女にとって初めてまともに戦えた相手であり、自身を恐れなかったからだ。
だがアルスは真と一緒に戦えなかった。
体の弱いアルスは他の人のように長く戦うことが
できないからだ。
だから彼女にとって放課後に真と話す時間が幸せだった。
だが個別ルートに入った真は、悲しいことに他のヒロインと恋人関係になる。
そうなるとアルスに会いに来ることはなくなる。
アルスは絶望した。
しかし、彼女は立ち上がる。
もう彼と恋人にはなれないだろう。
だけど、せめて一緒にいたい。
彼の役に立ちたい。
そこに悪魔が囁く
『あなたの体質を治せると』
そして彼女は頷いた。
頷いてしまった。
彼女の体は、腕の欠損すら治せる聖女にすら治すことはできないというのに。
そして彼女は邪神教によってコントロールされた。
そして真の前に現れる。
敵として。
いわゆる負けイベに該当されるそれは、全てのルートに共通する。
そして真を倒した彼女は真の言葉によって意識を取り戻す。
そして彼女は立ち上がれなかった。
自身の支えであった強さを大切な人に使ってしまうという矛盾。
そしてアルスは廃人となる。
◇◆◇◆
「やはり俺の言葉じゃまだまだ魅力が伝わらないな」
だがアルスがどれだけ辛い思いをするか分かってもらえたら幸いだ。
「そもそも真に会わせなければ、好意を抱かないのではないか?」
「いや、結局寂しい思いを利用されるだけだ」
「む、話は分かったが、どうやってその人間を助けるんだ?」
「今回はプランAとプランB、そしてプランZを用意している」
「BからZの間はどこいった」
「プランAとしては、擬似的にアルスルートを作る」
「擬似?」
「アルスは結局真を守ろうとして誘惑に乗ってしまった。そしてアルスルートでは、逆に主人公がアルスを守ろうとすることで二人は結ばれる」
「それは分かったが、あの時の戦闘を思い出しても、あの人間を守ることなんて出来るのか?あれは人外の領域だぞ」
「まぁ……無理だ。アルスを守ることの出来る存在なんていないからな」
「それじゃあどうやって守るんだ?」
ルシフェルがチンプンカンプンとジェスチャーで表す。
「実際に守れるかじゃない、アルスの目から自分を守ってくれたと、そう思わせたなら勝ちだ」
そのため、最初にあえてアルスに剣を向け、真がそれを助けるといった流れにした。
危機的ピンチを救ってくれた相手。
これにより、アルスの中で真が自身を守ってくれる存在だと写ってくれていればいいのだが。
「それだと賭けの要素が強くないか?」
「その通りだ」
人の気持ちを操作するなんて誰にもできない。
だからアルスが真の事をどう思っているのか。
それは本人以外の誰も知ることは出来ない。
だからこその
「プランBだ」
「それは一体なんだ?」
「普通に邪神教に会わせない」
「そっちをプランAにした方がいい気がするぞ」
いちいち細かいやつだな。
「それで?プランZとは何だ?」
「プランZはプランYが失敗した時のパターンだ」
「プランYとは何だ?」
「そんなのあるわけないだろ」
◇◆◇◆
そろそろイベントについて説明しておく必要があるな。
イベントは異世界名物、
もちろん犯人は邪神教であり、この事件でアルスは真を守ろうとヤッケになる。
そんな様子に気付いた邪神教が、アルスを取り込もうと接触を図ってくるはず。
つまり、ここで勝負を決めることになるわけだ。
「……」
学園にて
既に原作を知ってる身としては、皆の呑気な姿はどこか哀れに感じてしまう。
だがここで
『
なんて言えるはずもなく、ただ俺は座して待つしかなかった。
そして昼休みになってもイベントは発生しなかっ
た。
「日付までは分かるが、何時に起きるかまでは分からんからな」
プラプラとあてもなく彷徨う。
それは時間を潰すという意味合いもあるのだが
「死ぬのか」
今日、人が沢山死ぬ。
それが意味することはない。
ただ、そう思っただけなのだ。
「大丈夫?」
誰かに話しかけられる。
そして直ぐに正体は判明する。
「アルス……」
「名前、覚えてたんだ」
「忘れられるわけないだろ」
今回の救うべき人物が現れた。
「どうしてここにいる。お前はいつも裏庭にいるはずだろ」
ここは学園の廊下。
魔法を使わずにここまで歩くことは彼女にとって苦痛だろうに。
「私は……暇だったからかな」
「は!!暇って理由だけでここまで来たのを見たことなんてないけどな」
「そう?最近はそうしてるけど」
嘘だ。
ゲームでも彼女が裏庭から動くことなんてなかった。
「それで?何で俺様に話しかけた」
「心臓」
「は?」
「いつもより激しい」
「何……言って……」
「何かあった?それとも、何か起きるの?」
「そ、そんなことどうでもいい!!お前!!魔法を使ってるのか?」
常人が魔法を使わずに心臓の音を聞けるはずもな
い。
「ええ、私が魔法を使っちゃダメなの?」
「当たり前だろ!!」
これから
にも関わらずこんなところで魔法を使って衰弱してしまったら、格好の的になってしまう。
「すぐに魔法を解け」
「もう解いてるわ」
「そ、そうか」
胸を撫で下ろす
「今日はもう魔法が使えそうにないから」
胸が張り裂ける。
「まずいまずいまずいまずい」
予想外のパターンだ。
ここでアルスの魔法が使えないとなると
「マジで全員死ぬぞ」
瞬間
警報が鳴り響く。
『スタンピードが発生しました。皆さんは直ちに避難をして下さい』
「珍しいこともあるのね」
「随分と冷静だな」
「稀にあること、慌てる方がおかしい」
「そうだな」
いつも通りならな
「お前も大人しく避難してろ」
「優しいわね」
「魔法も使えない奴なんて足手まといだろ」
「……それもそうね」
アルスは腰を下ろす。
「だけど私、動けないの」
「は?」
「運んでくれる?」
「……ちっ」
お姫様抱っこの形をとる。
「重くない?」
「軽すぎるくらいだ」
「そう」
「……」
「……」
ゆっくりと廊下を歩く。
「私、本当はあなたの探しに来たの」
「あの男じゃなくてか?」
「真のこと?彼は大切な友人だけど、毎日会っているのだから十分よ」
「どうしてわざわざ俺様のところに」
アルスは少し顔を歪めると
「気になるから」
「気になる?」
「そう」
「そうか」
無言。
「君、これが来ると知ってたの?」
「知るわけないだろ」
「そう」
「そうだ」
……。
「君はどうして戦うの?」
「そんなもん俺様が気持ちよくーー」
「嘘」
真剣な目。
「それじゃない」
「は?何言ってんだ?証拠でもあんのか?」
難しい顔をしながら
「勘?」
「何でお前が疑問系なんだよ」
「そう思ったから」
歩く。
「私がいないとダメ?」
彼女は察していた。
自身の力が必要であることを。
「ああ、そうだな」
「そう」
歩く。
「君の戦う理由は何?」
同じ問い。
はぐらかせばいいのに、俺は何故かその質問から答えを逸らすことが出来なかった。
「大切なもののため」
「そう」
「そうだ」
歩く。
「着いたな」
学園にはこういう時のためのシェルターのようなものがある。
そこでアルスを下ろす。
するとアルスはクルリと後ろを向き
「一緒に戦おう」
戦場に向かって指を差す。
「私は好きよ、君の考え」
そう言って彼女は背を向けた。
「はぁ」
俺は根本的に怠がり何だよ。
「まぁヒロインの願いだ」
覚悟を決める。
いや……違うな。
理由を貰ったが正解なのか。
「ルシフェル、俺は主人公になれるか?」
「無理だな」
「そりゃそうか」
当然の答えだ。
「だって既に……」
「何か言ったか?」
「いや……マカロン食べたいと言っただけだ」
「また通な場所選んだな」
主人公になれなくても
「俺はラスボスだ」
なら
「いっちょ派手に暴れるか」
そして
「助けにきた」
手を差し出す。
英雄は現れた。
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