第26話

 ちょっとだけIQが低くなった主人公のお話





 おかしい



「アクトさん」

「アクト」

「お兄様」

「アクト君」



 どう考えてもおかしい。



 これではまるで俺が勘違い系主人公みたいではないか。



 確かに俺が多くの失敗を重ねたことは認めよう。



 どんなに言葉で言い繕うとも『絶対助けに来てますやん』的な展開が少なからず(全部)存在した。



 だが一度冷静になって考え直してほしい。



 いくら恩人といえど、こんな暴言ばっか吐いてる奴と一緒に居たいと思うか?いいや思わない(謎の反語)。



 なら他に要因があるのか?



「ルシフェル、俺の顔ってどんな感じだ?」

「んー、整った顔立ちだと思うが、どことなく悪人面がこびりついてる感じだ」

「なるほど」



 まぁゲームのキャラだしな。



 敵とはいえ顔はいいに決まってるか。



 だがそれこそ顔のいい男なんてごまんといる。



 顔でもない、性格でもないとすると



「フェロモンか!!」

「……」



 ルシフェルがお菓子を食べながらバカを見る目を向ける。



「だがフェロモンを抑えるなんて人間にできるのか?」



 調べてみたはいいが、色んな情報がありよく分からなかった。



「絶対にフェロモンは関係ないぞ」

「じゃあ原因は何だと思うんだよ」

「やっぱり性格じゃないか?」

「それこそあり得ないだろう」

「だが我はこの前見た映画でそれがありえることが発覚した」



 ルシフェルは某人気アニメの『お前のもんは俺のもんや』で有名なキャラクターを出す。



「いわゆるギャップだ」

「ギャップ?」

「普段は暴力的な奴でさえも、いざとなったらカッコいいというギャップによってクラッとくるそうだ」

「な、なるほど」



 ヤンキーが子猫を可愛がるようなものか



「ということはつまり!!」



 ギャップが発生しなければいいということは



「普段からいい奴になればいいのか!!」

「ふ、さすがはアクトだ。我の答えに一瞬で辿り着くとは」

「さすがは邪神だ!!よっ天才、めっちゃラブリー、聖人、脳みそ軽そー」

「おいおい、そんな褒めるでない。全て事実で謙遜できないではないか」



 ガハハハと二人の笑い声が響く。



「それに我は『必見!!嫌われ男子集』という本も読んだ。これで嫌われるのは簡単だろう」

「それ本当に合ってるのか?」

「1ページ目に『不細工である』と書かれている」

「ご教授よろしくお願いします、ルシフェル先生」



 こうして俺の嫌われロードが開幕した。



 ◇◆◇◆



『すぐに可愛いという男は軽薄そうで嫌われるそうだ』



「お兄様おはようございます」

「ああ、おはよう。リアは今日も可愛いな」

「え……」



 既に食事をしていたリアに挨拶を返す。



「二人ともおはーー」

「ユーリさん!!お、お兄様が!!お兄様が!!」

「ど、どうしたんだリア」

「びょ、病院、いえいっそエリカ様に……」

「別に体調が悪そうには見えないが……」



 ユーリが前の椅子に座る。



「おはようアクト、今日はいつもより穏和な顔だな」

「ん?ユーリか、おはよう。ユーリはいつも通り可愛らしい顔だな」



 ユーリが椅子から転げ落ちる。



「や、槍、いや隕石でも降るのか!!」



 顔を真っ赤にしながら慌てふためく。



「い、いやぁ、お兄様死なないで」

「神様、私のことはいいから、どうかアクト君を」



 混沌カオス



 そんな言葉がぴったりな状況になる。



「なるほど順調だな」



 まさかギャップを消せるだけでなく、狂人という属性までつけられるとは願ったり叶ったりだ。



「ほら二人とも、このままだと遅刻だぞ」



 悠々と家を出た。






「おはようございますアクトさん。ユーリさんとリアさんはどちらに?」

「二人はもう少ししたら来るよ」



 エリカが目を見開く。



「そ、そうですか。あ!!もしかして、私に会いたくなって急いで出て来ちゃったんですか?」



 小悪魔気に笑う。



「そうだな。少し訂正を入れるとエリカにも、だけどな」

「……」



 エリカの動きが止まった。



 そして光魔法を唱え始める。



「だ、大丈夫ですアクトさん。私が絶対に治してみせますから」



 そしてエリカは魔力が無くなるまで魔法を使うが、俺に変化は訪れなかった。



「私は……聖女失格です」



 涙を流す。



「な、なぁルシフェル。これって本当に合ってるだろうか?」

「間違いないな。この女もギャップが無くなったお前をすぐに飽きるだろう」



 少し棘のある言い方だが、ルシフェル先生の言ってることに間違いなどありえないからな。



「魔力を使い切ったらエリカはただの可愛い女の子なんだ。今日は一度教会に戻ろう」

「かわ!!」



 口をハワハワさせながら手があちこちに動き回る。



「かわよ(素)」

「そ、そんな、エリカ様の力でも……」



 ちょうど合流した二人が絶望に染まった顔をする。



「これは適当な反応なのか?」



 ◇◆◇◆



『ボディータッチなんて論外だ。頭を撫でて喜ぶのなんて漫画の中だけだ』

『じゃあ俺がお前の頭撫でてるのもアウトか?』

『いや、相棒の場合はセーフだと書かれている』

『どう考えてもお前が書いた文字じゃねーか』

『う、うるさい!!とにかく、不自然で有ればあるほど気持ち悪いらしい』



 エリカを教会まで運び、三人で登校中リアは俺をウロウロしながら観察する。



 これだと急に出てくる通り魔や暴走列車などに撥ねられないか心配だ。



「リア」



 わざとらしく手を取る。



 だけど手を握るのは俺のメンタル的に不可能のため、小指だけを絡める。



「あ、あの……お兄様……う、嬉しいですけど、みんなが見ています」



 ここでルシフェル先生の言葉を思い出す。



『女と夏休みの宿題を追い込む男に碌な奴はいない』



「嫌か?」

「はぅ」



 リアが崩れ落ちる。



 こ、ここまでダメージを受けるとは。



 やはり先生の言ってることに間違いはないな!!



 ルシフェルがウィンクしながらグットポーズをする。



「大丈夫かリア!!」



 ユーリが駆け寄る。



「私、もう死んでもいいです」

「なに!!!!!!!」



 し、死ぬなんて聞いてない。



 ここまで追い込むつもりは無かったのに。



 無意識にリアの手を握る。



「どうやったら生きてくれる?」

「こ、このままでいてくれたら私死んでもいいです」

「悪い、離せば生きてくれるか?」

「離したら死にます」



 一体どうすればいいんだ



「おいアクト、今日は本当にどうしたんだ?」



 ユーリが心配の声を上げる。



 ここでまたまたルシフェルの言葉を思い出す。



『心配する女は心優しい子か、心配する私優しいアピールをする女だ。前者なら相手のせいにして困らせてやれ、後者は殺せ』



 ここでボディータッチとの合わせ技を披露する。



 ユーリのおでこを突き



「お前のせいだ。お前のことを考えるとおかしくなったんだ」

「ええ!!そ、それってもしかして私のことーー」

「私ユーリさんを倒すまで死ねません」



 さっきまで息も絶え絶えだったリアがスクリと立ち上がる。



 素晴らしい!!



 一気に問題が解決したではないか!!



 ルシフェルの鼻が30cmを超えていた。



 ◇◆◇◆



 教室にて



「ユーリ大丈夫?」

「……」

「どうしよう真。ユーリが完全に美少女がしちゃいけない顔になってる」

「う〜ん、僕にもサッパリだよ」



 例の如く助言が脳裏に走る。



『困っている人がいたら助けてあげる男は当然モテる。なら嫌われて男はどうする?』

『無視するとか?』

『いや、もはや煽ってしまえ。行くとこまで行ってこそだ』



 俺はユーリの横を通り過ぎる。



「ふっ」



 ここで嘲笑する様に笑う。



「あ、あぅ」

「ユーリ!!何その反応!!まるで恋人同士の甘酸っぱい感じじゃん!!何があったの!!」

「桜落ち着いて」



 そのままトイレに向かった俺だが、教室が騒がしい。



 きっと俺の態度の悪口で盛り上がっているのだろう。



「やれやれ、これで勘違い系の終焉も近いな」



 ◇◆◇◆



「やっぱり今日のアクトは変だね」

「いつも通りだろ」

「だっていつもなら私が話しかけても『うるさい!!その素晴らしい美声で話しかけてくれるな!!』って変なこと言うじゃん」



 結局どっちも変じゃないか



「あ!!」



 桜が分かりやすく何か思いつく。



「じゃああの時の言葉、もう一回私に伝えて?」



 ここで電流が走る。



『恋愛心理学メンタリズム催眠術によれば、曖昧な態度というのは逆に気になって好意を持たれやすいそうだ』

『じゃあどうするんだ?』

『逆に直球でいけ』



「好きだ、桜」

「……」

「おい桜!!廊下は走るな!!」



 桜は逃げた。



 ◇◆◇◆



 それから学園でユーリと桜が話しかけくることはなかった。



 帰り道でリアも喋ることは無かった。



 ユーリとリアにガッチリと腕をホールドされているのも、俺に関節技を決めるためだろう。



 これは確実に俺が嫌われた結果を物語っている。



 リアが蕩けた目で俺を見るのも、ユーリと目が合うたびに優しく笑うのも、桜が俺に会うたび顔を赤くして逃げるのも、遠くからエリカが眺めているのも



 俺が嫌われ



「そんなわけあるかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「ひぃ」

「どう考えても逆効果だろ!!!!」

「そんな!!我はただこの本に従っただけなのに」



 するとルシフェルが本にもう一度目を通す。



「しまった、我は重大なことを見落としていた」

「何だ?」



 本にはこう書かれていた



『ただしイケメンの場合、全て許されます』



 俺は目が覚めた。




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