第25話

「ギャァアアアアアアアアアアアアアア」

「うわぁあああああああああ」

「助……けて」



 チートアイテム。



 それは何と甘美な言葉であろうか。



 老若男女全てを魅了する。



 俺は今日ユーリ救出作戦において色々準備を行なってきた。



 その中の一つのアイテム。



 天空の笛



 繰り返すがチートアイテムである。



 効果は一度だけ使えるバフ効果。



 マスターのボール的なものだと思ってもらいたい。



 本来ならボス戦では使えないが、一応用意しておいたものだ。



 大体そんなもの終盤のダンジョンの奥や敵からドロップするようなものばかりだが、この天空の笛はなんと驚き俺の部屋にあったわけだ。



 部屋の金品を売り捌いた時に昔無くしたカードを掃除したら見つけた感覚で机の引き出しから見つかったものだ。



 ラスボスアクトを倒して初めて手に入るアイテムとなんともピッタリな設定だが、ラスボスとして見れば案外アッサリ手に入る。



 そんなラスボスの俺ことアクトは、そんなアイテムによってピンチを迎えていた。



「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」

「グハーーーーーーーー」

「死ぬぅうううううううううううう」



 指が動くだけで人が吹っ飛ぶ。



「…………」



 力を制御出来ずにいた。



「おい貴様、何だその力」

「これはーー」

「ブハッ」



 喋るとアーサーがぶっ飛ぶ。



 これは道端にいる何故か強すぎる敵に使い、敵のダメージがゼロになり敵への攻撃でワンパンするレベルのバフが入るのだが



「……」



 腕を振るうと前面が綺麗な景色が広がる。



「チートすぎる」



 あれはゲームだから許されたことであり、現実でやってしまえばただの厄災だ。



 そして俺はやってはいけないことをしてしまう。



「あっ」



 そう



 コケたのだ。



 人の反射とは恐ろしいものだ。



 無意識に腕を地面に押し出す。



 するとあら不思議



「ビフォーアフター」



 ペンドラゴ家が無くなったではありませんか。



「ついに人を殺してしまった」



 初めての殺人は力を制御出来ずに大量キルと、まさにラスボスの風格ではないか。



「みんな生きているぞ」



 ルシフェルが後ろからひょっこり出てくる。



「さすがはペンドラゴ家の人間だな」



 本当に力だけは一丁前だな。



「それにしても」



 周りを見渡す



「何とも締まらない終わり方だな」

「今までが過酷過ぎただけだ」

「そうだな」



 ◇◆◇◆



 後日談



 というか何でこうなっ談だ。



 気絶したペンドラゴ家の人間はエリカの魔法により回復した。



 その際体内にあった闇魔法も解かれた。



 効果はこの闇魔法の液体を人に勧めるようになり、無意識的に闇魔法が解除されることを避けるようになる。



 そして



「術者の命令に絶対遵守」



 お手軽洗脳とは何ともチートである。



 原作でそんなもん登場した記憶ないけどな。



 そんな訳で黒幕が分からないままではあるが、解決と言っても過言じゃない結果に終わったと思う。



 だが、それは新たな問題の始まるでもあった。



「よ、よろしく頼む」

「……」

「よろしくお願いします」



 俺は自宅の玄関でリアと共に一人の女の子を出迎えていた。



「本館が再建されるまでの間だが、どうか仲良くしてくれると嬉しい」



 頭が痛い。



「確かに安全面を汲みしたら私達の家は申し分ないと思いますが、向こうではなく何故こちらに?」

「お父様がアクトを気に入ったと言ってな、それで二人の父に直談判し、こちらに来た」

「さすがはペンドラゴ家当主。お目が高いですね」

「ま、まぁ私も……」



 ユーリとリアが談笑に興じる。



「元々住んでる場所に戻れよ」

「本館に住んでたものが流れ込んできてな、どうやら今回の件に責任を感じているようで、私がいると息が詰まると思ってな」

「はぁ〜」



 全く、なんて気の遣えるいい子なんだ。



 好きが溢れてしまうではないか。



 だが違う!!



 そうじゃないだろ!!



「不愉快だ。出てけ」



 ヒロインと仲良くなるわけにはいかないんだ。



「そ、そうか、しょ、しょうがないよな……私は野宿でもして過ごすよ」



 一粒の涙。



「と言いたいところだが、まぁ俺様の命令を聞くってなら話はーー」

「よろしく頼む」



 満面の笑み。



 万が一、いや億が一の可能性ではあるが嘘泣き?



「アクト」

「何だ」



 手を取られる。



「ありがとう」



 本物



「俺様は別にーー」



 抱きしめられる。



「これからよろしくね」



 その顔は、ゲームでよく見せた顔だった。



「な!!ユーリさん!!家にいるのは許可しますが、お兄様への接触は禁止です!!」

「すまないな」



 大騒ぎしながら二人は歩いていく。



「それはどんな顔だ?」

「人が幸せの絶頂に達した時の顔だ」



 生きてて……よかった



 ◇◆◇◆



 あれからどれだけ経っただろうか



 多分一週間くらいかもしれない。



「ユーリさん行きましょう」

「ああ」



 一緒に住んでいる間に仲良くなったユーリとリア。



 それ自体はいいことだ。



 ユーリに友達ができたことはいいことなんだが



「それでお兄様がですねーー」

「ほう!!」



 本人を目の前で本人をベタ褒めするといった新たな拷問を試される。



「皆さんおはようございます」



 更に追加でエリカが入ってくる。



 ここまで来ればもう姦しい。



 聖女に三代貴族がニ家と、注目を集めて下さいと言わんばかりのメンバーの間に挟まるには真でなく俺。



「どこで」



 歯車は狂ったのだろうか。



 教室に着いても地獄という名の天国は終わらない。



「ユーリ、今日クレープ食べに行かない?」

「クレープか、ついに私の夢が叶うんだな」



 桜とユーリもまた、仲良しになった。



 とっても、とーーーってもいいことだが



 二人を繋いだ共通の



「アクトもだからね」



 話題が出来たからだそうだ。



「真も来る?」

「いいの?じゃあ行こうかな」



 真はAクラスになった。



 出場停止とはいえ、あの実力を持ってすれば当然だろう。



 もちろんSクラスからAクラスにと話題になった。



 だが、あのアクトグレイスが決勝進出という天変地異によってかき消された。



「ア、アクトーー」

「気持ち悪い話しかけてくるな」



 そして真もあれからエリナにご執心のようで、何かと俺に話を聞きにくる。



 そして当然クラスはビックリ仰天。



 桜だけかと思いきや、あの不仲で有名なユーリと俺が普通に話しているのだから。



 その結果



「「「「殺す」」」」



(主に男子からの)殺意が以前より依然マシマシになった。



 俺はユーリの顔を見る。



「ここだけの話だけど、実はめっちゃいいダイエット方法があって」

「あー、すまない、私はこれまでの人生太ったことがーー」

「殺す」



 笑顔?のユーリ。



 邪神教襲撃からずっと暗い顔をしていた。



 それが今は友達もでき、笑顔になった。



 全く、何とも素晴らしいことじゃないか



「自分に言い聞かせてるのか?」



 その地獄は所詮、まだまだ嵐の前の静けさでしかなかった。



 ◇◆◇◆



 家に帰る。



 どうやらリアは帰って来てないようだ。



 俺は使用人が入れない部屋でくつろぐ。



 すると



 ガチャ



 扉が開く。



「「あ」」



 ユーリと目が合う。



「ただいまぁ、アクト君」

「……」



 地獄が始まった。



「今日も一日楽しかったね」

「……」



 隣に座る。



「えへへ」

「……」



 肩が触れ合う。



 喋ろうと口を開けばニヤけてしまうのは必然。



「ありがとう」



 嬉しそうに



「あなたのおかげでお父様もペンドラゴのみんなも、もちろん私も救われた」



 懐かしい思い出を振り返るように



「夢にまで友達もできた。今まで出来なかったたくさんのことが出来るようになった」



 言葉を紡ぐ



「全部あなたのおかげ」



 肩から体温が消える。



「ありがとう」



 目と目が合う。






 なんだこれ?



 ユーリの激かわ状態は初めての友人である真に気を許してしまいつい出てしまった素の状態である。



 だが彼女はそれを恥ずかしがって見せようとしない。



 一緒にいる時間が増えるたび、どんどん溢れ出てくるというギャップが可愛すぎるんだが、ここまでの状態はそれこそ個別ルートの終わりでしか見れない。



「アクト君」



 顔が近付く



「私の」



 マジでどうなってるんだ!!



「私だけの」



 これじゃあまるで



「主人公」

「お兄様、ただいま帰りまーー」



 静寂



「違うんだリア!!これは……その……アクトk、アクトの顔色が少し悪くてだな!!」

「へー」

「ひぃ」



 邪神(本物)が降臨した。



 救済√3



 ユーリ ペンドラゴ



 完


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