第24話
<sideユーリ>
ニヤニヤした顔。
そこには今までと何ら変わらない悪人面の男。
邪神教の男の言葉を思い出す。
『アクト様に感謝しておきなよ』
この言葉が意味するのは私とリアの解放であったのだろう。
だがそれはあの男の言葉によって知ることが出来た事実。
私の目から見れば何も分からないまま。
邪神教襲撃も、私の目から見たらアクトはただのクズでしかなかった。
だが桜からリアから見たら違った。
「お父様」
お父様はお母様と出会ったことで世界がより見えるようになったと言った。
「私も」
変わりたいと思った。
もっと世界を、小さく収まっていた自分を。
だけど自分一人では変われそうにない。
だから欲しい。
私を変えてくれる人。
そして
「救って欲しい」
男は立った。
彼は言う。
「俺様から逃げなかったこと、後悔させてやる」
その後
「ぐへへ」
品のない笑みを浮かべる。
だがそれは私の視点でしかない。
そこには何かしらの意図があるのだろう。
だが私はバカだから、お前の真意が読み取れない。
「どうして」
だから
「私には、貴様が分からない」
問う。
冷静に。
見る。
聞く。
今までとは違った形で
意味に気付け。
リアは言った。
彼の言葉と心はチグハグだと。
ならば彼の言葉から溢れた真実を。
だが
「何故…………私を助ける?」
溢れる。
それは懇願であった。
分からない私を
どうすればいいのか分からない私を
祈るように
懺悔するように
どうすればペンドラゴ家を救えるのか。
どうすればお前を理解できるのか。
教えてくれ……
剣を抜く。
「よろしく頼む」
私は一度だけ斬りかかった。
それは確かに手加減をしたものである。
だが、今まで私が見ていた彼では絶対に躱せないもの。
だがアクトは避けた。
「やはり」
私の見ている世界は間違いであった。
そして、それは彼女らの言葉が真実である可能性が大きいことが示される。
「嘘では……ないのかもな」
ヒーローであり
王子様である。
嘘から真へと。
絶望が希望へと変わった。
「一つ賭けをしないか?」
彼との会話に心が踊ったためか、気分が高揚す
る。
何だか急に今までしてこなかったことをしたくなった。
だがアクトは何だか戸惑った様子である。
「性に合わないか?」
「まぁな」
よく私を見ている。
彼は、私の本質をちゃんと見ていた。
それが嬉しく、感動し、嫉ましい。
私には出来ないことだから。
そんな情けない自分に乾いた笑みが零れる。
だけど
「次の私の一撃を止めたらお前の勝ちでいい。だが、もし私が勝てば」
お前は王子様なんだろう?
「一つだけ……私の願いを聞いてくれないか?」
ヒーロー何だろ?
「俺様がそんなもの聞くと思うか?」
「思わない」
私はアクトの後ろに回り込み、首元に剣を据える。
「だけど」
信じてる
お前は
「どうか」
あなたは
「私達を」
御伽噺に出てくるような
「助けてくれ」
主人公だと
◇◆◇◆
あれから数日が経った。
その間に私もあの黒い物質について色々調べたが、成果は上げられなかった。
更に、何故か教会に行こうとすると必ず邪魔が入る。
まるでそこはダメだと言わんばかりに。
ペンドラゴ家は自身より強い者の言葉は本人の尊厳を無視しない限りは聞かなければならない。
それが嫌ならばただ一つ
「家を出るか、戦うか」
そして私の実力では勝てない。
「ダメか」
私は本館の書庫にて闇魔法について調べる。
「へー、別世界、神は各世界で存在、世界歩行は神さえも……」
副産物として多くの知識を得ることも出来る。
勉強は嫌いでないからな。
コンコン
扉が叩かれる。
「はい」
「ユーリ」
「お父様!!」
お父様が部屋に入る。
「今日……来る」
「……そうですか」
「悪いな」
頭を下げる。
「そんな!!お父様は何も悪くーー」
「だが俺は当主だ」
悲しげな目。
だけどその背中は以前変わりなく逞しい。
「お前ともっと居たかった」
「な、何を?」
「俺は一人でここに残る」
「そ、そんな!!私も一緒に」
「母さんを頼んだ」
「い、嫌です、お父様もお母様も、みんなで……」
涙が
「ヒグッ」
止まらない
「何だ!!」
お父様が突然声を上げる。
ドゴン
天井から何かが落ちてきた。
「うっ」
そしてゆらりと人影が立ち上がる。
「あっ」
まるでタイミングを見計らったように
「ユーリ」
「アク……ト?」
主人公は現れた。
◇◆◇◆
最初は困惑した。
何たってお父様を殺すと言うのだから。
だがそれはすぐに彼の勘違いであることに気付く。
だがその意味は確実に私を助けて来た言葉であった。
きっと、彼はこのことを指摘したら
『気に入らねぇからやっただけ』
と返すのだろう。
私も何だか分かってきた気がする。
きっと彼女らも同じ気持ちなのだろう。
だが、話は元の軌道に戻る。
「今日、ペンドラゴ家は俺に反逆を示す。もちろん、力という形で」
どうしてこうなってしまったのか。
「ここで俺は死ぬだろう」
お父様の意思は固い。
「俺が囮になる。だから」
「お父様!!私もーー」
すると扉が乱雑に吹き飛ぶ。
そこには二人の人間。
一人はフードを被った人物。
顔は見えないがおそらく女性であろう。
もう一人は鎧をつけた男。
確か私が準決勝で戦うかもしれなかった。
そしてその奥に
「みんな」
ペンドラゴの人間がいた。
◇◆◇◆
あまりの物量の差。
しかもその一つ一つが強大。
あそこにいる何人、何十人が私より強いことだろう。
するとフードを被った女の子が
「皆さん気を付けて、あれは魔力が濃縮された闇魔法です」
口にする。
あれ程までに調べ、だけど答えの出ない問題に一瞬で解答を弾き出す。
見えた希望。
だがそれはこの絶望的状況を乗り越えた先にしか
ない。
そんな私の不安と反比例するかのように勇ましく背中が前に出る。
だがそれはもうすぐ散ってしまう。
次第にお父様の顔に汗が滴る。
「お父様!!やはり私も」
「ダメだ」
力強い、だけどどこか弱々しい。
「もうお前しかいないんだ。俺の大事な家族を、元に戻せるのは」
託したと
お父様は伝える。
頭ではそれがお父様の最期の願いだから聞き分けろと言う。
だけど心が否定する。
嫌だと。
体が大きくなっても、心は幼いまま。
支えがなければ私は
「行くぞ、ユーリ」
「な!!待て!!お父様がーー」
「ちっ!!」
暗転
◇◆◇◆
「ん?」
目を開ける。
ゆらゆらと体が揺れている。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
フードの少女に話しかけられる。
この距離と角度でも顔が見えない。
おそらく認識阻害の魔法だろう。
「お、お父様は!!」
意識が覚醒しする。
「あなたのお父様はもう……」
「そん……」
受け入れられなかった。
「ま、まだ間に合ーー」
「無駄です」
声が震えている。
きっと彼女も
「今の私達では何も出来ません」
「そんなことーー」
「悔しいよ」
男が唇を噛む。
「僕はもう二度とこんなこと起こさないと決めたのに、もう一度同じ過ちを踏んでしまった」
何か彼にもあったのだろう。
言葉には重みがあった。
そしてわたえは今の状況に疑問を感じる。
まるで私達を中心に、これを機に覚醒するような場面に見えた。
違う。
これは私達だけの物語じゃない
気付く
「アクトは?」
男が答える。
「彼ならすぐに追いつくよ」
だが反対に
「…………」
女は答えなかった。
「いえ、あの人ならきっと戻ってきます」
何か同じものを感じた。
自然と
「信じているのか?」
彼女は答える。
「もちろんです」
やはりそれは
「あれ……は?」
後ろから光が差す。
まるで何かを祝福するかのように。
後
一帯が吹き飛んだ。
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