第23話

 <sideユーリ>



 最初は誰も相手にしてはいなかった。



 そして徐々に、変化は訪れる。



「お兄様!!今日こそは一緒にご飯を!!」

「食わん!!」

「アクトは私と食べるってさ」

「言ってない!!」



 あれは確かアクトの妹。



 前までは確か、かなり険悪な関係と聞いていたのだが。



 もしかして



「男女の仲か?」



 なにせ可愛い子ばかりである。



「いや」



 考え過ぎだ。



 そもそも一人は妹なのだし。



 最近恋愛小説を読み過ぎたな。



 それに



「変わったのは……」



 ◇◆◇◆



 家に帰る。



「お帰りなさいませ、ユーリ様」

「ああ」



 何故だろうか、家の当主と跡取りは同じ家に住んではならないらしい。



 これでは毎日お父様に会えないではないか。



「それでユーリ様、いつこれをお飲みに?」



 侍女が黒い液体を取り出す。



「いや、私はいい」

「ですが皆がこれを飲んでも副作用の一つも出ていません。それほど遅延性のあるものは聞いたこともありません」

「だが……」



 それはあの時の邪神教が飲んでいたものと酷似していて、あまり乗り気になれない。



「このままでは他の方々に当主の座を奪われますよ?」

「ウッ!!」



 揺らぐ。



「い、いや、やはり……」

「大丈夫ですよユーリ様。一回、一回だけですから、その後は私何も言いませんから」

「そ、それだとますます飲みたく無くなってくる」



 まるでヤバイ薬を進めるような態度に、無理矢理払い除け、部屋に入り鍵をかける。



 今までの生活は変わらない。



 だが、皆が皆何かにとり憑かれたようにあの液体を求め、それを周りに広げていく様子はどこか恐怖を抱かざるを得ない。



「はぁ〜」



 緊張の糸を解く。



「疲れたよぉ〜」



 ◇◆◇◆



「それでは行ってくる」

「「「…………」」」



 今まで私に良くしてくれた侍女達が私を無視するようになった。



「やはりあれのせいか」



 と考えてはいるが、もう一つの可能性によって私は動けないでいた。



「も、もしかして私何か悪いことしちゃったかなぁ」



 私は戦闘においては確固たる自信を持って皆を導く力があると自負している。



 だが、こと友達作り、果ては人付き合いの苦手さにおいて私の右に出るものもいないと自負している。



 そんな憂鬱の気分で学園に着く。



 すると何か小さな騒ぎが見えた。



「何をしている」

「ん?これは……って!!ユーリ様!!」

「畏まらなくていい。それよりもこの騒ぎは何だ?」

「は、はい、どうやらリア様が騒動を起こしているようでして……」

「リア?」



 まさか、あのアクトとは真逆とまで言われるほど心優しい彼女が一体何故



「騙されないで下さいリア様!!アクトに何か脅されているのでしょう?」

「だから違うと申しているじゃないですか!!私はお兄様に騙されていません」

「いいえ!!きっと何か悪事を働いたに違いありません」

「悪事……そうですね。確かにお兄様は悪事を働きました」

「やはり!!」

「ええ、お兄様は盗みを働きました。そう私のこk」


「そこまでだ」



 止めに入る。



「一体何で争っているんだ」

「ユ、ユーリ様からもお言葉を。どうかリア様を悪魔の魔の手からお救い下さい」

「と言っているが、貴様はアクトの魔の手に晒されているのか?」

「いいえ、ユーリさん。お兄様が私に差し出した手は魔の手などではなく、そう、王子様の手でした」

「そ、そうなのか」



 あまりのピンクオーラに少したじろぐ。



「それでは授業がありますので」



 リアが靴を返す。



「一つだけ私からも聞いていいだろうか?」

「何でしょうか?」

「アクトは本当に悪い奴なのか?」

「……」



 悩む



 悩む



「た……ぶん?」



 リアは曖昧に答える。



「あれほど褒めちぎっていたのにそれか」

「そうですね、今までのお兄様は純粋に周りに悪意をばら撒いていました。ですが、今のお兄様はそれらがありません」

「優しさを振り撒いていると?」



 あの態度でそれは有り得ないだろ。



「いいえ」

「じゃあどういう」

「私にも分かりせん」

「え?」

「お兄様はどこかチグハグですから。どう言えばいいのでしょう、口と心、そして心と心が矛盾しているような」



 な、何だろう?哲学か何かだろうか。



「す、すまない、私はあまり賢くなくてな」

「ああ、今には気にしないで下さい」



 すると学園の鐘が鳴る。



「それでは失礼します」

「あ、ああ」



 結局よくわからなかったな。



 すると



「ん?あんな生徒いたか?」



 まるで観察するように、リアを見つめる男が一人いた。



 ◇◆◇◆



 教室に入ると最近では見慣れた劇場があった。



「ねぇアクト、私の髪ってどう思う?」

「かわ……悪くない」

「分かってる!!分かってるね!!それにだよ、桃井に桜でこの髪色はまるで分かってたようだよね!!私の親もそういう風に考えてつけてくれたのかな?」

「親のことは気にするな!!それは俺が……」

「え?私って両親のこと話したっけ?」

「い、いやー」



 相変わらず仲良さげである。



 私と同じ三大貴族なのに友達がいる。



「いいなぁ」



 するとアクトは居心地が悪そうに教室を出る。



「はぁ、やれやれ、これだからシャイボーイは」



 桜が両手を上げながら絵文字のように首を振る。



「さ、桜さん」

「え!!ど、どうかされましたか?ユーリ様」

「い、いや、少し聞きたいことがあってだな」

「何でしょうか?」

「貴様にとってアクトは何だ?」



 ついに気になっていたことを聞く。



 今まではアクトを悪い奴と決めつけていた。



 だが、リアの話を聞き、少し改める。



 私は、私だけの世界で完結するほどよく出来た人間ではないから。



「そうですねー」



 悩む。



 素振りは一瞬で



「ヒーローですね」



 満点の笑顔。



「そうか、時間を取らせて悪かった」

「い、いえ、とんでもありません!!」



 桜は席に戻る。



「王子様にヒーローか」



 まるで



 ◇◆◇◆



 突然、本館(当主のいる家)に呼び出される。



「お父様」

「ユーリか」



 どこかやつれた様子。



「これは一体」

「どうやら重大な話し合いがあるらしいな」



 席にはペンドラゴ家の重鎮達が座る。



「それで?話とは何だ」

「アーサー様、大したことではありません」

「大したことがなくてこの面々が集まるのか」

「それもそうですね」



 そう言い、一人が例の物を出す。



「既にペンドラゴ家の不満は爆発寸前です。当主が力を求めないなどあってはならないこと。皆が貴方様の武勇に惹かれるのです。どうか飲んでいただけませんか?」

「おいおい、これを飲めってだけでこんだけ人が集まるのか?」

「その通りです。これを飲むだけで全て終わるんです」

「ふー」



 お父様が珍しく椅子に座る。



「力は絶対だ」

「その通りです」

「ならば尊敬し、尊重するべきものである」

「全くもって」

「それを飲むことはその力に対する冒涜じゃないのか?」

「それで民を守れなければ本末転倒というものです」

「くー!!正論が耳に辛いぜ!!」



 お父様が立ち上がる。



「悪いな、俺は飲まん。だが、一度でいい。お前らも教会に行ってはくれないか?」

「何度もおっしゃっているでしょう。教会に行くなど時間もお金も無駄だと」

「俺の命令が聞けないと?」

「そうです」



 その言葉のやりとりの意味を、ペンドラゴ家の者で知らない者はいない。



「悪いな、ユーリ。もうすぐお前の武闘大会だってのに」

「お父様のせいではありません」

「直感でしかないが、あれは何かまずい」

「私も同じ意見です」

「時間は少ない。俺も出来る限りのことをするが、おそらく無駄だ。お前も覚悟を決めろ」

「……はい」



 ◇◆◇◆



 そして武闘大会が始まる。



 だが頭の中は家のことで一杯である。



「妙だな」



 嘘だ。



 少し一人の男にも目がいっている。



「アイツが戦っている姿を見てないけどな」



 そんな時だろうか。



 家のせいか、はたまた一人の男に集中し過ぎたか



「少し眠ってね」



 私は意識を刈られた。



 ◇◆◇◆



 目が覚めると、そこは教室。



「どこだ?」



 だが初めて見る教室。



 そして



「リア」



 同じく気を失ったリア。



「いやーごめんごめん、突然のことでビックリしちゃった?」



 軽薄そうな金髪の男が一人。



「貴様は誰だ!!」

「僕?そうだな、僕はこれでも秘密主義者だからな、うーん漆黒の翼とかどうかな?」

「ダサい」

「フフ、僕のメンタルは君が思ってるよりも柔いんだよ?」



 ハンカチを取り出す男。



「無駄か」



 私は犯罪者がつけるような魔力を抑える手錠をつけられる。



「目的は何だ?」

「いやー君はペンドラゴ家の人間からしたら最も当主の座につく可能性の高い、一番いらない存在だからね。消えてもらうよう頼まれたんだ」

「本当に喋る奴がいるのか」



 秘密主義とは何だったのか。



 そしてその話が本当ならば



「リアも」

「どうして僕の名前を!!」



 すると突然喋り出す男。



「何だ?こいつは何者だ?」



 虚空に向かって話しかける。



「ンン?いや、これは好都合だな」



 まるで新しいオモチャを見つけたように笑う。



「ハハこれだけの力」



 そして今度は畏怖が見える。



「これは、彼には是非とも力を借りたいものだ」



 すると突然拘束を解く。



「何を!!」

「彼には僕が敵ではないことを見せておいた方がいいと考えたんだ。君もアクト様に感謝しておきな」

「な!!」



 どうしてここでアクトが



 そしてまた空言を喋り出す。



「ハハハ、これでアイツの計画が失敗すると思うと気分がいいね」



 そして私は剣を抜く。



「このままみすみす逃すとでも?」

「やめておけ」



 金髪の男の姿が変わり始める。



「10席でも僕は幹部だ。君に殺される前にここの人間を数十人は道連れにできるよ?」

「ッ!!」



 ブラフかもしれない。



 だが、動けない。



「いい子だ」



 そしてみるみる姿が変わる。



「ここを出たら彼に頼るといい。もしかしたら君の家の問題を解決してくれるかもしれない」

「それはどういう」

「ま、邪神教の言うことなんてどれも信じない方がいい」



 やはり邪神教だったか。



「どうして私にそんなことを」

「邪神教にも色々いるのさ。僕ならお金のため、そしてお金が必要になる理由もこの腐った世界のせい。僕からしたら邪神教はプラスでしかない」



 だけど



「気に食わない」



 そして男の髪は美しい黒色に変わる。



「ついでにアリバイにもなるか」



 そしてリアの姿になった男は



「悪いけど、君にはベスト4までは入ってもらう」



 そう言って教室を出た。



「私はーー」

「お兄様」



 リアが小さく寝息を立てる。



「ふ」



 私はリアを保健室に運んだ。



 ◇◆◇◆



 そして



「相手は」



 あの男の言った通り私が準決勝まで進んでいた。



 そしてそこには



「アクトグレイス」



 私は舞台へと上がった。

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