第22話

 <sideユーリ>



 いつも通りの日々だと思っていた。



 だがそれは唐突に終わるを迎える。




 ◇◆◇◆



「よし」



 早朝



 私はランニングに出かける。



 ペンドラゴ家の人間として、体力作りは必須。



 それに、身体が鍛えられれば身体強化の魔法はより効果を増す。



 魔法は掛け算だ。



 基礎が大きれければその分だけ強くなれる。



「やはり、あの人は化け物だなぁ」



 シャワーで汗を流し



「行ってくるね」



 友達代わりに人形に話しかけ、学園に向かう。



「みんなおはよう」



 教室に入れば挨拶を交わす。



 皆も返事を返してくれるが、どこかよそよそしい。



「今日もいい天気だな」

「そ、そうですね」



 隣の人に話しかけても会話が続かない。



「はぁ〜」



 小さくため息を吐く。



 ペンドラゴ家に生まれたことは嬉しいし、それを誇りにも思っている。



 だけど



「友達欲しいなぁ〜」



 か細い声が出る。



 すると



 ガラガラ



 扉が開く。



「全く、いつまでも辛気臭い場所だなぁ、ここは」

「あ」



 つい心が躍る



「……」



 的なことはない。



 アクトグレイス、正直言って私はコイツのことが嫌いである。



 性格悪いし、馬鹿だし、弱いし



 だけど唯一



「また貴様か、グレイスのお坊ちゃん」

「ちっ、またテメェか」



 私と対等に、そして話を返してくれる。



 藁にも縋る思いだが、こうして同年代と会話できるだけで嬉しくなってしまう。



 だが今日は違った。



「俺様はおめぇに構ってる暇はないんだよ、さっさとどっかいけよ」



 そこで会話が終了してしまう。



 いつもなら簡単に挑発に乗ってきてくれるのに。



「大人になったのか?」



 アクトの成長は嬉しくもあり、悲しくもある。



「私はお母さんか」



 ついつい癖で独り言を言ってしまう。



 ◇◆◇◆



 そして事件は起きた。



 轟音が鳴り響く。



「あの姿!!まさか連中が」



 ペンドラゴ家は騎士団に多くの人材がいる。



 そのため、自然と犯罪グループの情報が入ってくる。



 邪神教



 目的のためば手段を選ばず、自らの命すら天秤にかける異常者集団。



 そして、その対価を払うように凄まじい戦闘力をほこる。



 だがさすがの奴らもミーカール学園を襲うなど愚策も愚策。



 どうやら奴らはアクトを攫いに来たようだが、道端ででも決行すればいいものを。



 だがそれよりも今は



「皆落ち着け!!先生方の到着を待つんだ」



 冷静さを失ったクラスメイトに声をかける。



 若干一名を除いてこのクラスは将来が約束されたような実力者ばかり。



 これならば一切の死傷者も出さずに潜り抜けられるだろう。



 だがその考えが余りにも傲慢であり、自身の無力さを感じさせるものであった。



「ほらほら、俺様にために働け愚民ども」



 一人、後ろで机に座りながら煽るような行動をとるアクト。



 どうしてアイツはあんな時まで



 それだけにとどまらず、アクトは信じられないことを言う。



「あの女でいい」



 は?



 意味が分からなかった。



 ペンドラゴ家も道徳心を失ったような連中ばかりだが、まだ理解の範疇に収まるような人のみだった。



 だが、アクトは仲間を売った。



 人を、まるで物のように扱う。



 そして私はいつの間にか叫んでいた。



 これほど憎悪を抱いたのは生まれて初めてだ。



 殺そう



 これもまた、生まれて初めて抱いた感情。



 それほどまでに憤怒した。



「おいおい分かってるのかユーリ。ここで俺を斬っちまえば、もしここで助かったとしても、ここにいる奴らは全員もれなく終わっちまうぞ?」



 我にかえる。



 ここで奴を殺しても助かるのは私だけ。



 他のクラスメイトを危険に晒してしまうなど、やっていることは奴と変わらない。



「ッ!!」



 抑える。



 所詮アイツは何もできない。



 今は邪神教の対処をしなければ。



 剣の矛先を変える。



「ミーカール学園に侵入し、ただで済むと思っているのか?」



 無理だと分かりながら説得を試みる。



「我々はただ未来に希望を紡ぐのみ。これで我々の命が潰えようとも、あの方達が必ず本懐を成し遂げてくれる」



 邪神教はそう言い、一本のナイフを取り出し



「あなたは我々の戦力をもってしても止めるのは困難だ。なればこそ」



 邪神教は自身の心臓に突き刺す。



「やっと……」



 邪神教の男は倒れながら魔法を放つ。



 それは自身の命を触媒とした拘束魔法。



「な!!」



 絡め取られる。



「まずい!!」



 すぐに解除を試みる。



 だが中々解けそうにもない。



「そんな……」



 そして周りを確認すると、多くの者が倒れている。



「ありえない」



 まだ学生とはいえAクラス。



 邪神教はどれほどの戦力を



 その正体は直ぐに判明する。



「何だあれは」



 邪神教が謎の液体を飲む。



 するとまるでドーピングかのように魔法の威力が上がる。



「ハハハハ、俺達、あのミーカールの学生を手玉にとってる!!」



 邪神教の一人がまるで力に溺れたように笑う。



 だがあれ程の力を瞬時に得られるなど、体に相当な負荷がかかるはずなのに、奴らにそれを気にした様子はない。



「クソ!!このままでは」



 拘束を無理矢理解く。



 体には大きなダメージが残ってしまう。



 そして



 アクトがクラスメイトの桜と共に教室を出る。



「追いかけなければ」



 だが前面には未だに多くの邪神教。



 後ろには倒れたクラスメイト。



「待っていてくれ」



 ◇◆◇◆



 戦闘は過激さを増した。



 数の利、そして代償をもってしての攻撃。



 更に途中発生した力の奔流には危うく戦意を失いかけた。



 体はボロボロで満身創痍である。



 私が邪神教を倒した時には既に先生方が援軍に来ていた。



「皆さん大丈夫ですか!!」



 先生が涙ぐんだ声で叫ぶ。



 すると一人のクラスメイトが



「は、はい、ユーリ様のおかげで無事です」



 よかった



 途中から意識が朦朧としていたため、周囲を確認する余裕がなかった。



「先生、まだ桜さんが……」

「な!!ユ、ユーリ様、それほどまでに疲弊しているのですからまだーー」

「ですが!!」

「それに、桜さんなら既に聖女様によって保護されたそうです」

「せ、聖女様が……」



 聖女様の力は死者以外のあらゆるものを治し、その心すら癒すと言われている。



「そうか……」



 安心と共に、私は意識を失った。



 ◇◆◇◆



 学園はしばらく休みになった。



 そして私はその間に全力で稽古に励んでいた。



「精が入ってるな、ユーリ」

「お父様!!」



 久々に会えたことで胸が昂る。



「お仕事は大丈夫なのですか?」

「ああ、俺らペンドラゴが戦闘以外をすること自体間違い何だよ」

「私は戦闘以外も大事だと思いますが」

「……それもそうだな」



 風が吹く。



「だが最近のお前は力を求めている気がするな」

「倒すべき、守るべき者が見えたからです」

「それはいいことだ。力は民を守るためにあるもの。その意味が掴めたか?」

「はい、この度の件でより実感を持ちました」

「そうなってくると倒すべきは」

「はい、邪神教の連中です」

「アイツらは手強そうだからな」

「それと」

「それと?」



 アクトグレイス



「それはどうしてだ?」

「奴は邪悪です。一体いつ邪神教に寝返り、人々に苦しみを与えることか」



 警戒せねば。



 そして、守れる力を



「……今日は俺も付き合ってやる」

「本当ですか!!」



 ◇◆◇◆



 そして学園が始まった。



「アクト、貴様だけは」



 奴に会うと思うと怒りが込み上げてくる。



 奴に会えば斬りかかってしまいそうなほどに。



 そして教室に入ると、信じられない光景を目にした。



「ねぇアクト、もう一回あの時の台詞言って」

「言うわけないだろ!!」

「一回だけだから!!ちょっと録音するだけだから、ね!ね!」

「やかましぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」



 そこには笑顔の少女と満更でもなさそうな男。



「どうなってるんだ……」



 何故あの二人が仲良くしている。



 最初は何かしらの魔法によるものかと思ったが、先生の言葉を思い出す。



 桜さんは聖女様に保護された。



 聖女様による治療でそんな影響が残るなどありえない。



 ならばこそ、その不可思議の光景が事実であることを受け入れなければならない。



「私は……」



 見なくなってしまった。



 ◇◆◇◆



 家に帰り、豚の人形であるブーさんにダイブする。



「ブーさん、私もう何が何だか分かんないよぉ〜」



 すると



『うんうん、ユーリちゃんはいつも頑張ってて偉いねぇ』

「えへへ、そうかなぁ、私頑張れてるかなぁ?」

『とっても頑張ってるよ、これならきっとお父様も喜んでくれるよ』

「やったー」



 ブーさんとの会話を終え、天井を仰ぎ見る。



「明日はお父様に会いに行こう」



 私の心の支え。



 ペンドラゴ家は単純であるゆえに厳しい。



 力が正義であり、怠惰を許さない。



 だからここは常に息が詰まる。



 そんな中でもお父様は少し変わっていて、力以外も評価してくれる。



「楽しみだなぁ」



 ◇◆◇◆



「お父様」

「おお!!ユーリ!!」



 お父様は鍛錬を積んでいた。



「悪いな、これが終わったら俺の方から行くつもりだったのに」

「いえ、私が待ちきれなかったので」

「全く、なんていい子なんだ」



 お父様が安っぽい演技をする。



「私もご一緒しても?」

「もちろんだ」



 最近は力のためだけに鍛えていたが、何だか久しぶりに楽しい気持ちになれる。



「やはりお父様はお強いですね」

「当然だ。これでもペンドラゴの当主だぞ?それに、お前も才能に溢れてる。俺なんて直ぐ追い抜くさ」

「そう言ってくれると嬉しいです」

「だが」



 剣を下ろす。



「武闘大会では負けるな。しきたりには俺にもどうしようもできん」

「はい」



 そうやってお母様も



「まぁ俺はこっそり会ってるんだけどな」

「私も早くお会いしたいです」



 ここで一つ問いかける。



 「お父様、私は何が正解なのか分からなくなってきました」



 私は今日見た出来事を話す。



「正直に言おう。俺は難しいことは分からん」



 血を感じる。



「だが、俺も一つだけ知っていることがある」



 お父様が天を仰ぐ。



「俺は一人じゃ分からないことだらけだった。だが、あいつと出会って色々と見えるようになったよ」

「……」

「ま、お前にはまず友達からだな」

「だ!!だからいますから!!」



 そして



「当主様」

「ん?何だ?今日の俺は仕事はーー」

「実はーー」



 一人の商人が訪れた。

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