第21話
三代貴族の家は当主と跡取りの家が基本的に違う。
例えば俺ことアクトやリアは学園近くのザ豪邸といった家に住んでいる。
だがグレイス家当主は王宮のような場所で王族の近くに住んでいる。
ちなみに忘れていたが、君LOVEの世界はどちらかというとナーロッパ(分からない人はggrks)である。
話を戻す。
そんなわけで、当然ながら俺はこんなことを予想できないでいた。
「ユーリ」
「アク……ト?」
俺とユーリのまるで昔遊んでいたやつが転校してきたかのような展開は、およそ十分前までに遡る。
◇◆◇◆
「どうしてそんな目立つ格好できた」
素朴な疑問。
「変でしょうか?今日は少し気合を入れてきたので」
何?気合って。
デートでもしに来たの?
ここ一応死地だよ?
しかも上から被ってるフードとミスマッチ過ぎるよ。
「戦闘があるんだろ?じゃあ用心しなきゃ」
いや確かにそう言ったけど、もうそれは殴り込みだから。
いや殴り込みで間違ってないけど、これ隠密作戦だから。
「我も今日は頑張ったぞ!!」
ルシフェルはこの前俺がネタで買った黒色のゴシック服を身につけている。
その端正な容姿と、小柄な体格から、人形みたいに綺麗である。
「あっそ」
「もう少し女の子にかける言葉を勉強した方がいいぞ」
まぁ今更引き返すことはできない。
調査によればこの日のこの時間がもっとも警護が少ない時間。
理由は分からないが、とりあえず今日以外有り得ない。
「行くぞ」
いくら警備が薄いといっても正面には警備がいるため、壁をよじ登って侵入する。
「僕が先に行くよ」
真が軽快に壁を登り、周りの確認のため闇世に消える。
「それでは次は私が」
登ろうとしたエリカは、すぐに自分の過ちに気付く。
「あ、あの、やっぱり先にお願いします」
白いスカートを履いた彼女は、恥ずかしそうに裾を抑える。
「恥ずかしがる姿かわよ(蚊より小さい声)」
「え?今何て言いました?」
「そんな格好で来るお前が悪いと言った」
「可愛いですか?ありがとうございます」
難聴系聖女にならないかなマジで。
「お前は見た目だけはいいからな」
「あ、ありがとうございます」
今度は恥ずかしそうに顔を抑える。
「は〜」
何この可愛い生物。
「俺様は行くぞ」
そう言って壁に手をかける。
「……」
「……」
亀よりもゆっくりと上がる。
「アーー」
「何も言うな」
当然、雑魚スペックの俺は壁を登るのも遅い。
だが流石に空気が気まずいすぎる。
「ルシフェル」
「ん?」
「俺を吹き飛ばせ」
「あい分かった」
そしてバカは俺をダンプカーにはねられたくらい吹き飛ばす。
空を飛ぶ一人の男。
「風が気持ちいな」
そして俺は豪快な音を立てながら天井を突き破る。
「イタタ」
おそらくルシフェルが衝撃を緩和してくれたためか、大事には至らないが中々の衝撃が襲う。
「どこだここ?」
砂埃が上がる。
「は?」
そこにいたのは
「ユーリ」
「アク……ト?」
涙ぐむユーリと
「誰だ貴様」
ペンドラゴ家当主
「死にに来たのか?」
アーサーペンドラゴその人であった。
◇◆◇◆
「ふむ、よく見ればグレイスの一人息子ではないか」
アーサーが近付いて来る。
だが俺は動けなかった。
蛇に睨まれたカエルのように、その圧力にはペンドラゴ当主となり得る人間だと思い知らされる。
「どうしてここに来た?」
問う。
「……」
口が動かない。
「おいおい!!威勢だけは一丁前のガキだと思ってたが、まさかそれすら無くしちまったか?」
ここで口答えしたら俺が殺されるだろう。
だが
こいつは敵。
好きな人の前で強がりの一つも吐けない男に成り下がるほど俺は落ちぶれていない。
「考えれば分かるだろ、テメェを」
震えながら
「ぶっ殺しに来たんだよ!!」
目一杯叫ぶ
「ほう?いい目だ」
アーサーが笑う。
「貴様になら娘を任せられる」
「は?」
何言ってんだ?
「テメェがユーリを殺そうとしたんじゃないのか?」
「それは俺ではない。ペンドラゴ家だ」
ますます意味が分からない。
「ペンドラゴ家は力が絶対だ。ペンドラゴで最も力を持つテメェが決定権を持ってるはずだろ」
「よく知ってるな、貴様は貧弱で無知だと聞いていたが存外噂は当てにならないな」
「俺様の質問に答えろ」
アーサーが椅子に座る。
そして立つ。
「やはり座るには性に合わん」
そして語る。
「説明するのめんどくせぇ」
嘘であった。
「俺たちペンドラゴは今危機的状況に陥っている。それも全てあの変な薬が来てからだ」
アーサーの話を要約するとこうだ。
ある日、ペンドラゴ家に一人の商人が来た。
『これであなた方も強くなれますよ』
商人は一つの液体を手渡した。
『明日もまた来ます』
そう言って商人は去っていった。
そしてそれを受け取ったペンドラゴの者は
『死ぬわけでもないだろう』
その結果、その者は今まで下っ端のような扱いだったが、みるみる力をつけていく。
そしてその理由があの薬と気付いたペンドラゴの連中は
『欲しい』
求めた。
実際、力はついていき、毒のようなものも感じ取れない。
だが、一つだけ小さな変化が起きた。
『どうして当主は飲まれないのですか?』
伝播する。
『俺はそんなものに頼らん』
アーサーは断った。
そして
『私も』
ユーリもまた同様に。
そして
『どうして当主は力を求めない』
『それはペンドラゴ家の人間としてあるまじきことだ』
そして小さな炎は、やがて数を生み、勢力が増す。
「今日、ペンドラゴ家は俺に反逆を示す。もちろん、力という形で」
それが意味するのはクーデター。
「ここで俺は死ぬだろう」
「そこまで……いや、それが」
「ペンドラゴに生まれた宿命だ」
「お父様……」
武を尊ぶ。
そこに理由があってはならない。
「俺はいいんだ。歳もあってか、そろそろ自分の限界に飽き飽きしていた」
ハッハッハと豪快に笑う。
「だがユーリはまだ若い。そしてコイツには才能がある」
だからと
「俺が囮になる。だから」
「お父様!!私もーー」
瞬間、扉がぶち破られる。
「アクトさん!!ここにいたんですか!!」
「クッ!!」
エリカと真
そして
「俺様は集合体恐怖症なんだよ」
数えきれないほどのペンドラゴ家の人間。
◇◆◇◆
「アーサー様、我々はあなたを失いたくありません。どうか、これを」
先頭に立つ男が一つの薬を取り出す。
「皆さん気を付けて、あれは魔力が濃縮された闇魔法です」
エリカが叫ぶ。
「誰かは知らんがまだ言うか。これは力。それが全てであり、それ以外はどうでもいいこと」
一斉に魔法を構える。
「ユーリ、お前本当に友達がいたんだな!!」
「わ、私が嘘などつくはずありません!!」
初対面のエリカと真が首を傾げる。
「それに、お前のよく話す奴もいい男と分かったし」
アーサーが前に出る。
「一片の悔いなしってやつだな」
巨大な魔力が渦巻く。
「凄い!!」
「僕達あれに挑もうとしてたの?」
エリカと真が呆然と立つ。
「マジかよ」
それは俺も同じであった。
確かに真もエリカも成長途中ではあるが、ゲームでもこれだけの差は無かった。
「お父様は優しい人だ」
未だに涙が止まらないユーリ。
「今回の武闘大会、もし私が準決勝にすら上がれなければ私は追い出されていただろう。まぁ杞憂だったがな」
皮肉気に笑う。
「お父様もペンドラゴ家の人間だ、規律に従う。だが、私がペンドラゴ家として生きられないなら、せめて普通の女の子としてと家やらを既に工面してくれている」
初耳だ。
ゲームでは語られなかった部分の真相を知る。
「もしかして」
ゲームでユーリを救うイベント。
あの時のアーサーは
「手を抜いてたのか」
こんな重要な事実を君LOVEはどうして裏設定などで説明してくれないのか
「次転生したらクレームいれるか」
だがその事実を知ったとしてもなお
「さすがだな!!お前ら!!」
アーサーが少しずつ押される。
「お父様!!やはり私も」
「ダメだ」
顔は見えない。
「もうお前しかいないんだ。俺の大事な家族を、元に戻せるのは」
「お父様……」
「それに、お前に友達がいるんだ。俺には今までの人生で友達なんてできたことないぞ!!ハッハッハ」
「お父様!!」
最期まで
「カッコいいな」
口から溢れる。
「アクトさん、今の私達では」
「僕はどうして……」
エリカも真も戦力の差に撤退を示す。
それは俺も同じ
「行くぞ、ユーリ」
「な!!待て!!お父様がーー」
「ちっ!!」
魔法で意識を飛ばす。
普段ならこんなもの目を瞑ってても避けられるだろうに。
「お前らコイツ連れて先行け」
「どうして!!アクトさんもご一緒に」
「そうだ!!あんたを一人置いていくほど」
「俺様は足が遅いんだよ」
「では私が抱っこしてーー」
「先行け」
エリカがユーリを抱え、三人は行く。
「……」
翻る。
「俺の目的は何だ」
ヒロインを幸せにすること。
「そのために不穏分子は取り除くべきだ」
「やっぱり死にに来たか」
アーサーの隣に並ぶ。
「貴様がいても邪魔なだけだ」
「知ってる」
だから
「お前より強ければいい」
俺は一つの笛を吹く。
そして、天から光が差した。
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