第20話
俺はサムとの会話を思い出す。
『最近のペンドラゴ家は僕が言うのも何だが、どこか狂ってる』
俺からしたらあんな家最初から狂っているが、サムもそれを加味した上での言葉であろう。
俺という存在によって、バタフライ効果なるものが発生したとしても、さすがにここまで変化が起きてしまうのはどこか裏を疑ってしまう。
それこそ俺がこうして転生したのだから、俺以外にもそういう存在がいてもおかしくない。
だがそれは今考えたところで時間の無駄。
真っ先に考えるべきはユーリ。
ペンドラゴ家によるユーリの暗殺依頼、そしてそのターゲットであるユーリからのSOS。
結びつけるなという方が無理な話である。
ユーリを助ける
そのためにはおそらくながらペンドラゴ家と一戦やり合う必要がある。
ペンドラゴ家は三大貴族、その上武闘派集団ときた。
相手が同じ三大貴族であればグレイス家の看板なんて意味をなさない。
つまり自分自身の力で解決しなければならないわけだが、弱々な俺が挑んだところで入り口に立つことすら不可能であろう。
ならどうするか。
そこで俺が思いついたのは至極単純。
戦力を増やすしかない。
「だからですね、もっとハートフルに、私の心を昂らせて下さい」
「どうして俺様がそんなこと」
そこで俺が目をつけたのは序盤でも助っ人キャラとして高い戦力をほこるエリカ。
正直彼女に近づきすぎてもいけないし、危険な目にも合わせたくない。
だが背に腹はかえられん。
いざとなればグレイスとペンドラゴをぶつけてしまえばいい。
だが目下、その計画はいきなり頓挫しそうである。
「俺様も寛大だからな、条件をつけてやる。金でも権力でも何でも好きなものをーー」
「では『俺様にはエリカが必要なんだ』と頼んで下さい」
「却下だ」
「では私も却下しますね」
「……」
譲らない二人。
アクトのイメージを崩すわけにはいかない俺VS何故か俺に謎の情熱的な何かを求めるエリカ。
「では用事がないのでしたらこれで」
「待て」
「何でしょうか?」
言うしか……ないのか……。
いや、ここは我慢だ。
後々更なる悪逆の数々で悪名を取り戻せば
「お、俺様にはエリカが必要なんだ。だから……手を貸せ」
「はい!!」
満面の笑み。
「こ、これに、一体何の意味が……」
「私のモチベーションが変わりますね」
「意味が分からん」
何でこんな親しげなの?
ゲームだともっと険悪な関係だったよね?
「ペンドラゴですか」
「ああ、最近の奴らはどこかきな臭い。気に入らねぇ奴らが気に入らねぇことを企むのは気に入らねぇ」
「なるほど」
エリカが考えるように腕を組む。
ただの仕草の一つが可愛いとか最強かよ。
「どうかしましたか?」
「何でもない(結婚したいだけ)」
「……そういうことにしておきますね」
困り顔で答える。
「ですが私の力でもペンドラゴ家の方々の嘘は看破できませんよ?」
「関係ない。ただ戦闘になった時に俺様の盾になるだけでいい」
「そうですか、それならよかったです」
エリカが協力してくれるならかなり心強い。
だがまだそれでは不十分。
足音が近づいてくる
どうやら助っ人外国人が来たようだ。
「やっとか、のろま」
「あんたは」
野生の主人公が現れた。
◇◆◇◆
「あんたには聞きたいことが山ほどあるんだ」
「あ?俺様が答えるわけないだろカス。お前もみたいな下民は俺様の前に立つことすら烏滸がましい。だが、今回は俺様のために死ぬまで働くならば許してやる」
「それで引き受ける人間なんかーー」
「お前には俺様に大きな借りがあるだろ?」
「……」
桃色の少女。
「確かに、そうだね」
「だからお前はーー」
「アクトさんって男の人には語気が強いんですね?」
「と、ところで隣の方は?」
認識阻害のフードを被ったエリカ。
「初めまして、私はエリナです」
「あ、どうも初めまして」
今ここに、主人公にラスボス、聖女とオールスターが揃った。
「それで?僕を呼んだ理由は?」
俺は現状とこれから行う計画を話す。
「それは本当か?」
真が訝しむ。
「私の前で嘘はつけませんよ」
エリカが返す。
「まるで聖女様みたいだね?」
「へ?あ!!そういう特技なんです、はい」
「すごい特技だね!!」
そういうポンなところも可愛いけど正体バレないようにね。
「明日の0時に始める」
俺はそれだけ告げて帰ろうとするも、真に止められる
「早すぎないか!!それに、エリナさんが危険過ぎる」
「大丈夫ですよ。私、こう見えても強いですから」
そう言ってシャドウボクシングするエリカはめちゃくちゃ弱そうだった。
「……、も、もし戦闘で大丈夫だとしても、ペンドラゴ家に喧嘩を売ったらその後どうなるかーー」
「真さん。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?」
聖女が言っていいセリフではないな。
「それに、それを言ったらあなたも危険なのでは?」
「……」
真が黙り込むも、すぐに顔を上げる。
「人を助けるのに理由を……諦めることを、考えてる暇があったら行動すべきだと思うんだ」
エリカが目を見開く。
「後々のことを考えなければ痛い目を見るのはあなただけじゃないんですよ?」
「え!!ご、ごめんなさい」
「でも」
彼女は
「その考え、嫌いじゃないですよ」
笑う
「!!!!!!!!!!!!!」
真の顔がみるみる赤くなる。
あ、これ惚れたな。
「あの、エリナさんってこの後お時間とかありますか?」
「時間ですか?すみません、これから子供達のご飯のお手伝いをしなければならなくて」
「ではーー」
何かを察した俺は
「ふっ」
クールにその場を去った。
「あ!!アクトさん、それでは明日」
エリカが体いっぱい手を振る。
「え、あ、うん」
俺はクールに去った。
◇◆◇◆
ユーリの言葉を思い出す。
『私達を助けてくれ』
私ではなく私達。
その言葉が意味することとは、やはりペンドラゴ家を助けてくれということだろう。
おそらく、ペンドラゴ家を変えた何か、もしくは何者かを探し出し、対処して欲しい。
それが彼女の願いだろう。
だが正直無理。
そんなもん不可能に決まっている。
俺には彼女の命を守ることがせいぜいだ。
そこで俺の出した計画は至極単純。
「お前は単純な考えばかりだな」
当主をボコって終了だ。
「やはりバカか」
ペンドラゴ家は武力を重んずる。
なれば、当主をボコって一言
『ユーリの安全を保障しなさーい』
多分それで解決する。
てかそれ以外思いつかない。
「つまりパワーイズパワーだな」
これだからバカは。
俺の天才的な考えをそんな単純なもので片付けないで欲しい。
「だがお前の大好きなヒロインとやらは悲しんでしまうのではないか?」
「まぁそこは賭けだな。グレイス家の力で無理矢理調べさせた結果、ペンドラゴ家が何か怪しげな貨物車が何度も出入りしているそうだ」
忍び込んでボコるついでに見つけられればいいな。
「ユーリには悪いが俺にも限界がある。俺も全力は尽くすが、無理なもんは無理だし」
「限界がなければ?」
「は?」
ルシフェルと目が合う。
そこには、どこか全てを捨ててでもやり遂げる覚悟のようなものを感じた。
「どうなんだ?」
「……」
「もしそうなら、我は…イテ!!」
デコピンを食らわす。
「何シリアス顔してんだよ」
「それは!!」
「何でもクソもねぇ。それに、お前は一つ勘違いをしてる」
「勘違い?」
「ああ」
確かに俺には不可能だ。
だが
「こっちには主人公がいるんだ」
そういう全てをご都合主義というチートで解決する。
だからこその主人公なんだ。
「そういうわけで心配すんな」
「……うむ」
そう、大丈夫なんだ
「お待たせしました」
「待たせちゃったね」
二つの影が差す。
「これからペンドラゴ家に侵入するのは分かってるな?」
「はい」
「うん」
「つまりバレずに当主のいる場所まで辿り着きたいわけだ」
「そうですね」
「確かにそうだ」
そこにはメチャクチャ目立つ白い服を着た少女と、ゲームでしか見ることのないゴツい鎧をきた少年。
「そういえばこの世界って君LOVEだったな」
ごめんユーリ、やっぱ俺無理かも。
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