第19話

 サムとの戦いは確かベスト16に入れるかどうかの境目くらいであり、中止していた大会が始まるといきなり準決勝、つまりベスト4入りが確定したことになる。



 その上、準決勝に何故かいるユーリ。



 真はどうした?



「どうしてこんなことに」



 だがその疑問はすぐに解消されることになる。



 試合に出るかどうか迷って右往左往していると、学生が話している声が聞こえる。



「それにしてもリア様凄かったな」

「ああ、あのアクトが結界にヒビを入れるなんて有り得ない。俺も絶対に不正したと思うが、まさかあれだけ怒るとはな」

「まだ一年にも関わらずトーナメントを勝ち進んで来た猛者を全員なぎ倒す姿は圧巻だったな」

「それを止めたSクラスのめっちゃ強い奴も凄かったな」

「結局二人とも大会出場停止になったけどな」



 …………。



 ヤンチャに…………なっちゃったなー(遠い目)。



「だけど舞台は徹底的に調べられたし、検査もされるそうだ。リア様には悪いが、ここでアクトの野郎が出場しなかったら不正したと言ってるようなもんだ」



 なるほど。



 リアからしたら俺が努力して手に入れた力(偽)が人に嘘だと言われて頭にきたのだろう。



 どう考えてもリアの勘違いであり、すぐにでも誤解を解きたいものだが



「リアに恥かかせるわけにはいかないな」



 それに、結果的にではあるがリアに目的は達してもらえた。



 結局ユーリにボコボコにされて終わるだけかもしれないけどな。



「俺は戦うんじゃなくて頭を使うタイプ何だけどな」

「それは無理じゃないか?アクトは正真正銘バカだからな」

「何処行ってたんだよ」



 横に立つルシフェル。



「我はわたあめなるフワフワした魔性の魅力を持つお菓子に吸い寄せられていた」

「いつも通りバカなだけだったな」



 何だかはぐらかされた気がするな。



「そーー」

「それで?どうやって勝つつもり何だ?」



 遮られる。



「……。俺が今までどうやって勝ってきたか考えてみろ」

「ふむ、やはりパワーか」

「そう頭を使った攻略だったな」

「そうとも言うな」



 アルス戦では病弱であることを、リア戦では呪いにより魔法が使えないことを条件に勝った。



 どちらも圧倒的格上であるが、それでも無力化してしまえばこちらのもの。



「てなわけで、今回俺がする作戦はーー」

「何だ?」

「言葉責めだ!!」



 ルシフェルが冷ややかな目線を向け、騎士団に繋がる11◯に電話をかけようとする。



「まぁ待て、話を聞け」

「余地はないと思うが?」

「言い回しが悪かったのは事実だ。だが俺の今までの行動を見れば無実であることが分かる筈だ」

「ストーカー、暴言、殺人未遂、他にもあるが?」

「グレイス家の力を舐めるなよ?」



 ルシフェルがやれやれと首を振る。



「それで結局どういうことなんだ?」

「簡単に言えば戦意を無くしてもらい、あたかも俺は余裕がありますよ感を出して勝てばいい」



 今まで中々活躍のない知識チートだったが、そろそろ役に立ってもらおうか。



「行くぞ」

「うむ」



 俺は会場へと向かった。



 ◇◆◇◆



 ステージ中央には既にユーリがスタンバイしていた。



 風を肩で切りながら、俺は中央に向かう。



「俺様から逃げなかったこと、後悔させてやる」

「……」



 目が合う。



 どこか目に惑いが見える。



 正々堂々戦いたかった彼女からしたら、いきなり対戦相手が消え、しかも相手が俺ときたら不満も溜まるであろう。



 だがそれとこれとは話が別!!



『試合開始』



 ゴングがなる。



「ぐへへ」

「……」



 実用性の一切を捨て、ただ目立つだけの剣を抜く。



 だがユーリはまだ剣を抜かない。



 まぁいい、ユーリの嬉し恥ずかしの情報を暴露して、恥ずか死でもしてもらおうかな。



 あと恥ずかしがる姿とかってなんかいいし!!



「ユーー」

「どうして」



 シリアス顔でユーリが語りかける。



「私には、貴様が分からない」



 俺も急にそんなこと言われても分かんないよ。



「貴様はあの時クラスメイトを売った」

「おん?あー、そんなこともあったなぁ」

「……」



 ユーリは顔に少し怒りを見せるが、すぐに呼吸を取り戻す。



「だが、そんな彼女は今、貴様に懐いている。嫌悪すべき相手に友好に接するなど、あり得ないだろ。一体、私の知らないところで何があった」

「知らねぇよ、頭でも打っちまったんじゃねーのか」

「バカか。聖女様により治療だ。そんなことありえない」

「バ、バカとは何だバカとは!!俺様を怒らせてタダで済むとーー」

「何故…………私を助ける?」

「……」



 え?



 マジでなんのこと?



 俺ってもしかして二重人格だったりする?



「すまない、貴様をバカと罵ったが、私も同類でな。答え合わせの手段をこれしか持ち合わせていないんだ」



 輝く剣



「よろしく頼む」



 一太刀



「やはり」



 俺はルシフェルに弾かれる形で助かる。



「嘘では……ないのかもな」



 ユーリが物思いにふける。



 相対して俺の心臓はバックバクである。



 普通に死んだと思ったし(ユーリなら寸止めすると分かっているが)、ユーリが不意打ち気味の攻撃をしてくるとは思わなかった。



「お前は、そういうことしないと思ってたんだがな」

「今のはただの鬱憤ばらしだ。これで当たれば貴様は今まで通りで終わり、これが躱されたら私の中の気持ちに整理がつく」

「偶々かもしれんだろ」

「偶然で避けられる鍛え方はしてない」



 俺はゆっくりと立ち上がる。



 その間、彼女は一切動かなかった。



「これでお前は俺様に勝てる最後のチャンスを失ったわけだ」

「ほう?それは楽しみだな」



 彼女が虚空を斬る。



 両者は同じく黄金に輝く剣を持つ。



 だが、片方はナマクラ、そして向こうは鉄をも穿つ神剣である。



 全くもって勝てる気がしない。



「一つ賭けをしないか?」

「賭け?」



 ユーリが賭けか。



「性に合わないか?」

「まぁな」

「以外と見てくれてるな」



 まるで嘲笑するように笑う。



 だがそれを俺に対してではなくーー



「次の私の一撃を止めたらお前の勝ちでいい。だが、もし私が勝てば」

「ば?」

「一つだけ……私の願いを聞いてくれないか?」

「俺様がそんなもの聞くと思うか?」

「思わない。と今までの私なら言っていたな」



 構える



「所詮口約束だ。ただの私の戯言と、聞くに堪えないものだと切り捨てても構わない」



 薄らと



「だけど」



 涙を浮かべた彼女は



「どうか、私達を」



 いつの間にか俺の後ろに立っていた。



「助けてくれ」



 試合終了の音が鳴る。



『え?しょ、勝者、アクトグレイス!!』



 誰が見ても勝利したユーリは、敗北を表す白いハンカチを投げ捨てステージから降りた。



「そんなもん」



 言われなくても



 ◇◆◇◆



 やることが決まったわけじゃない。



 ある程度予想はついてるが、俺の力だけでどうこう出来る問題とも思えない。



 焦りが不安を、不安が思考を狂わせる。



 心が蝕まされ、今にもパニックになってしまいそうである。



 それはユーリの件にも当てはまるが、今目の前の危機にも同じことが言える。



「リベンジ」



 楽しそうに笑う。



「私、実は負けるの初めてだったんだ」

「さ、さいですか」



 最強は、まるで久々に本気が出せるとばかりに腕を回す。



「普通こういう時って悔しがる筈だよね?」

「かも……ですね……」



 恐怖のあまり、もはや自分がアクトであることすら忘れてしまう。



「だけど私」



 艶美に



「ワクワクしちゃった」



 アルスは笑った。



 一つだけ補足をしておこう。



 あれだけ最強最強言ってた割に、アクト如きに負けちゃったじゃんと思うかもしれない。



 だがそれは間違いも間違い、愚の骨頂である。



 象が蟻を、ゴ◯ラが人間を殺さないようにするのに気をつかうことがどれだけ困難なことか。



 そんな彼女が、手加減に手加減を重ねた彼女が、ほんの少しでもタガが外れたら



「死なないでね」

「ハハ」



 ◇◆◇◆



 それから数日



「今まで俺様に多大な迷惑をかけたんだ、俺様に馬車馬の如くこき使われろ」



 俺は



「そんな言い方じゃ嫌です。まるで愛の告白のように頼んで下さい」



 以前よりも綺麗になった教会にいた。


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