第16話

「レオ……か……」



 偶然とは思えない。



「あの女が呼んでいた名前はアクトが言っていた名前と同じではないのか?」

「そうだな」



 彼女の名前はリーファ。



 彼女の説明をする前にまずは魔獣について話す必要がある。



 以前魔獣は主食が人間の動物と言ったが、それはあながち間違いでもない。



 この世界において魔獣とは、動物が突然変異により体内で大量の魔力を生み出した結果、それに伴い体の構造が変化した姿である。



 アルス・ノートも同じく体の構造が変化した結果、病弱な体となった。



 だがそれはアルスが特別であり、基本的に皆見た目が変化するものが殆どである。



 そしてリーファもまた、その一人。



 生まれてすぐにその姿は変わり、皆がイメージするエルフのような姿となった。



 そして、彼女は迫害された。



 まぁ簡単なことだ。



 昔、動物が魔獣に変わると知った時、同じ理由で変化する人間もまた人を襲うのではと危惧したのだ。



 そして今に至るまでに人が変化しても凶暴にはならないことは知られたが、未だにその姿に嫌悪を抱くものが多く存在する。



 全く、なんて低俗な人間どもだ。



「滅ぼしたいな」



 本気で言ってるわけじゃない。



 俺はゲームにマジになるほど俺は子供じゃないからな。



 え?



 ゲームにガチ恋してるやつが何言ってんのって?



 ゲームで本気になれない奴が何に本気になれるんだよ!!



 ま、まぁ話を戻そう。



 そして、家を追い出されたリーファは細々とアルバイトなどをしながら……しながら……健気に……



「おい!!急に泣き出してどうしたんだ!!」

「だ、だってリーファがぁ」

「誰だそれは」

「さっき会った世界で一番可愛い子」

「それは桜とやらやお前の妹よりもか?」

「は?ふざけんな、全員世界一に決まってんだろ?」

「お前は二度と世界一という言葉を使うな」



 まぁいい。



 それよりも大事なのは



「弟だ」



 リーファに弟はいない。



 ゲームでもその存在が見受けられた記憶がなく、設定などにも登場した記憶がない。



 そう記憶にないのだ。



「やっぱり思い出せない」



 まるで霧がかかったように一部の記憶が欠けている。



「どちらにせよ、調査が必要だな」

「む?またストーキングか?」

「違う、これは慈善活動だ」

「犯罪者は皆そーー」



 ◇◆◇◆



 ゴールデンウィークも明け、学園が始まり数日が経った。



 ここしばらくの俺の日常をダイジェストで話しておこう。



 朝



「お兄様お兄様お兄様お兄様……」



 可愛い妹に起こされる。



「おはようございます。最近は天気が悪いですね」



 エリカと共に学園に行く。



 ちなみに昨日はこっそりと壁に開けていた穴から脱出したのだが、何故か見つかった。



 ◇◆◇◆



 教室



 ガラガラ



 ドアを開ける。



「「「「…………」」」」

「おはよう、アクト」

「邪魔だ、失せろ」



 クラスの雰囲気も天気も、いつも通り曇天模様である。



 それもまた当然だろう。



「今日の私めっちゃキマってない?」



 邪神教襲撃の俺の態度は最悪。



 こんなやつと一緒にいるだけで嫌にもなるだろう。



「特にこの髪!!伝説のお嬢様風グルグルヘアにしてみたんだ」



 だが一番の要因は



「……」



 俺に突っかかっていたユーリが喋らなくなったからだ。



 今までのアクトの行動も目に余るが、それでも改善できると信じていたのだろう。



 だが実際に命のかかった場面で俺が仲間を売った。



 それはユーリにとって最も許し難いことだろう。



「だけど不思議だよね、私の髪やアクトの髪はピンクと紫で個性的なのに、他のみんなは黒髪なんだよね」



 そして更に困ったことに、一番の被害者であるはずの桜が俺に元気に話しかける矛盾により、混沌は

より拍車をかける。



「もしかして!!私達小さい頃に宇宙人に誘拐されて改造されたんじゃ!!」



 だがこの空虚な時間ももうすぐ行われるあれによって変わるだろう。



 皆には悪いがそれまで辛抱してほしい。



「ねぇねぇ、アクト、聞いてる?」

「うるさい」



 ◇◆◇◆



 そして放課後



「アルスはどうして戦いが好きなんだ?」



 真の質問にアルスが少し悩んだ様子を見せた後



「そうね、闘っている時だけは、嫌なこと全部忘れられるから」

「嫌なこと……か」

「私も質問いい?真はどうして強くなりたいの?」

「う〜ん……大切な人を守るため、かな」

「……」

「やっぱり恥ずかしいから今の無しで」

「そう?素敵だと思うけど」

「そう言ってもらえると嬉しいな」



 おお!!



 さすが真!!



 順調に好感度を高めてきてるな。



「ちなみに私がピンチの時は助けてくれる?」

「もちろん!!と言いたいけど、アルスを助ける機会なんて中々ないだろうけどね」



 違うだろ!!



 そこはもちろん!!だけで止めておくんだよ!!



 そういう曖昧な態度を取られるのが一番アルスが地獄を見る羽目になるのに。



「おいアクト、見られたぞ」

「まず!!」



 一瞬アルスと目が合う。



「おいおい、魔法というドーピング無しでアルスがこの距離が見えるはずない。つまり、一瞬だけ強化したってことか」



 何か勘づかれたか



「今日は退散だな」



 ◇◆◇◆



 ある店にて。



「いらっしゃいませー」



 リーファが元気よく挨拶する。



「なぁあの子、めっちゃ可愛くね?」

「それな!!だけどあの耳よく見ろよ」

「うわ!!エルフじゃん。俺は気にしないけど周りに何て言われるか」

「それな」



 リーファのアルバイト先でそんな話を小耳に挟む。



「全く、なんて低脳な奴らだ。愛の前ではそんなもの小さな問題だってのに」

「我にはお前の方が馬鹿に見えるぞ」

「どうしてだ?」

「だってーー」

「お待たせしました」



 いつの間にか隣にリーファが立っていた。



「ご注文のコーヒーとミルクです」

「ども」

「あのーお客様」

「何だ」

「いやー、なんと言いますか……」



 リーファが答えづらそうに口篭る。



「何だ、言いたいことがあるなら言え」

「それでは言わさせてもらいます!!」



 リーファが深呼吸をし、息を整える。



「次から出禁です!!」

「何故」

「ピエロだからです」

「ふむ」



 鏡を見る。



 変装をし、ピエロとなった俺が映る。



「なるほど、俺はまさしくただの道化だったってことか」

「すみません、やっぱり今すぐ出禁で」



 ◇◆◇◆



 スラム街。



 俺は雨風をなんとか防げるといった風貌の小屋の横に立つ。



「お姉ちゃん、疲れてない?」

「もちろん、最近変なお客さんがいて大変だったけど、大丈夫。お姉ちゃんの体は丈夫にできてるからね。一ヶ月ご飯食べなくても大丈夫なくらいだよ」

「そう言って本当に一ヶ月ご飯を食べなくて倒れちゃった時は僕、とっても怖かったんだよ」

「いやー、お姉ちゃんうっかり屋さんだからご飯食べるの忘れちゃうんだよねー」

「それでお姉ちゃんはいっつも無茶する!!」

「大丈夫、大丈夫、次はしないって」



 明るい家庭。



 確かに貧しい生活かもしれない、だけど心までは貧しくなっていない。



「いいな」



 健気に、だけど勇ましく生きる彼女の姿には何度見ても涙を禁じ得ない。



「ヒグッ、エグ、……ズビビビビ」

「お、お姉ちゃん、また……」

「し、静かに!!きっと最近巷で流行ってる危ない薬をした人が近くを彷徨っているはず」



 ◇◆◇◆



 帰り道



「なぁルシフェル。俺にはレオがメチャクチャ良い子に見えるんだけど」

「そうだな、我もあの男児は中々によく出来た人間だと分かったぞ」

「じゃああの子が依代である可能性はないな」



 俺の当然の答えに、ルシフェルが異を唱える。



「何を言ってるんだ?だからこそであろう」

「何がだからこそなんだ?」

「我は一言も悪い奴が依代になるとは言ってないぞ?」



 ん?



「どういうことだ?」

「確かに悪ければ悪い奴ほど器が大きい傾向にあるが、それは逆もまた然り」



 ふむ。



「それってつまり」

「いい奴であればあるほどそいつも」



 依代になりうる



「良い子……だったな」

「ああ」

「もし」



 もしあの子が依代なら



「どうしたんだ?」



 俺は元々依代になる奴をぶっ殺して、そいつにルシフェルを復活させようと考えていた。



 だけどあんな子も依代になれるなら、俺がいなくてもコイツは楽しく生きられるんじゃないか?



「そんなに熱い視線を送るなんて、もしかして我に恋しちゃったか?」

「うるせい、俺が恋するのは今までもこれからもヒロインだけだ。調子乗んな」



 デコピンをかます。



「痛いじゃないか!!そこまでする必要があったか!!」

「なんとなくムカついたから」

「理不尽過ぎるぞ!!」



 その顔を見て、なんとなく頭を撫でる。



「何だかDV彼氏みたいだな」

「俺はキュートアグレッションなんだよ」

「それなら……で、許されると思うなよ」



 そんな風に騒ぎながら、俺とルシフェルは家へと帰った。



 ◇◆◇◆



 そんな生活が数日続いた。



 そしてついにあのイベントが舞い降りた。



「えー皆さん。ついに明日武闘大会が行われます」



 教師の一言でクラスに緊張が走る。



 それも当然だろう。



 何故ならこの武闘大会であまり評価が良くないものはAクラスから落ちてしまうのだから。



「……」



 全く無関係な俺は一人の青髪の少女に目をやる。



 ユーリは静かに、だけどその目からは闘志を露わにしている。



 そして俺もまた、己が目的のために闘志を燃やすのであった。



 救済√3



 ユーリ・ペンドラゴ

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