第12話

 <sideリア>



 どれくらい前だったことだろうか。



 私は学園から帰り、部屋で勉強をしていた。



 すると激しい音と共にいつものようにあの人が帰ってきた。



「おい!!出迎えの挨拶すらないのか!!俺様が帰ったんだぞ!!」



 本当に見苦しい。



 少しは静かにしてくれないものだろうか。



 そして時々聞こえる音から、どうやら使用人に対して八つ当たりのように暴言を放っているようだ。



 いつものことだが特にストレスでも溜まったのかと、私は特に疑問を感じなかった。



 そしてあの人は自身の部屋の前にたどり着く。



 また私の部屋でも蹴りつけるのだろうかと考えているも、それはいつまで経っても起きず、何か独り言を呟いている。



「気味が悪い」



 そして運悪く隣の部屋であるため、防音で遮られてるにも関わらず、騒ぎ声が聞こえる。



「よく一人でそれだけ騒げますね」



 だけどその声は、普段聞き慣れた怒鳴り声ではなく、どこか優しい口調であった。



 ◇◆◇◆



 朝



 いつもよりも眩しい光にと共に起き、学園への準備を整える。



 部屋を出て朝食を食べに行こうとすると、あの人の部屋から声が聞こえた。



「珍しいこともあるんですね」



 ただの気まぐれくらいだと私は考えていた。



 そしてその日、最悪の事件が起きた。



 ◇◆◇◆



「我々は邪神教だ!!大人しくしろ!!」



 かのミーカール学園へと侵入する暴挙、ただの阿呆か、それともそれだけ力のある組織なのか。



「安心しろ。お前達の命は儀式のためにとっておく必要がある。命までは取らない」



 その声にクラスメイトの子達が安心したように息を吐く。



 だけど私は犯罪者の言葉を信じる気にはなれなかった。



 それに、頭に彼の姿が浮かぶとどこかじっとしていられなかった。



「邪神教とやら、私には用事があるので道を通してくれませんか?」

「お前……なるほど、あんたを特に通すわけにはいかないな」



 私のことを知っているかのような態度だが、まぁグレイス家を知らない人の方が少ないか。



「それでは無理やりにでも」



 まだ未熟の身ではあるがグレイス家の一員、一年だと油断したのか、そこまで強力な相手ではなかった。



 もしくは



「他のところに力を割いているのか」



 これだけ派手に動いているのに先生方が来ないのも奇妙で仕方ない。



「待っていて下さい、真さん」



 二年の棟へと向かう。



 彼は私がグレイス家と分かってもなお、態度を変えずに接してくれる人。



 彼と一緒の時だけは自分があの家の人間じゃないと思える愛しい時間。



 だからこそ彼は私にとって大切な



「友人……で、いいのでしょうか」



 分からない。



 だけど、助けたい。



「桜さんも無事だといいんですけど」



 彼女も私と同じAクラスであり心配はないはずだが



「……」



 僅かに足を速めた。



 ◇◆◇◆



 Sクラスにたどり着く。



「真さん!!」



 そこには怪我をし、地面に突っ伏した人々と邪神教の連中がいた。



「邪魔です」



◇◆◇◆



 戦いを終え、周りを確認するも真さんの姿はなかった。



「リ、リア様ありがとうございます!!」

「いえ、これも力ある者の責務、当然のことをしたまです」



 嘘



 そんなこと思ったこともない。



 だけどこう言えと家のしきたり通りに従う。



「ところで真さんはどこに?」

「真ですか?あいつなら休憩時間にトイレに行ったきり帰ってきてませんよ」

「た、多分状況に気付いてトイレに引きこもーー」

「ありえません!!」



 つい大声を上げてしまう。



「す、すみません!!」

「あ!!私こそ、つい……」



 姿が見えない



 けれど彼ならきっと先んじて動いているはず。



 彼と会って一ヶ月も経っていないが、彼がそういう人間であることは理解している。



「桜さんのところか!!」



 急いでAクラスに走る。



 だが教室から出た瞬間



「光?」



 窓の外に30日前と同じような光がさしていた。



 しかもその先は



「Aクラス!!」



 邪神教による攻撃だろうか?



 だけどあれはもっと高尚で、どこか神秘的な感じがする。



「どっちにしろ」



 急がなければ。



 ◇◆◇◆



「もう少し」



 この角を曲がり、真っ直ぐ進めば目的の場所がある。



 どうか無事でいて下さい。



 すると



「あ……れ……?」



 手足に力が入らなくなる。



「何……これ……」



 とてつもない魔力。



 あまりの力の差に体が自分の意志と反して動かなくなる。



「この先に、どれだけの……」



 私は軽く絶望していた。



 このまま進めば私は死んでしまうかもしれない。



 だけど私は体を引きずりながら進んでいた。



「バカですね」



 口ではそう言ってるが、何となく大丈夫な気がした。



 この力はどこかあの光と似ている気がしたからだ。



 しかし杞憂だったのかすぐに力の波動は消えた。



 だけど私の体はまだ自由に動かない。



 角を抜け、遠くにAクラスの教室を見かける。



 そしてその近くに



「桜さん!!」



 倒れた桜さんの姿が見える。



「助けなきゃ!!」



 だが体は動かない。



「どうして!!」



 動いて!!



 真さんは桜さんの手を握って動かない。



 多分、もう時間が



「嫌だ」



 桜さんは真さんの幼馴染であり、彼と仲良くなるうちに自然と彼女とも仲良くなれた。



 優しい人だ。



 彼とどこか違うが、大切な友人。



 失いたくない。



 ないのに



「動かない」



 いつの間にか涙が流れていた。



 私は無力だ。



 無力な私にできることはもう……



「神様……」



 だが現れたのは神様ではなく、近くに倒れていた一人の人間。



 って



「お兄様!!」



 桜さんの手を取る。



 こんな時まで一体何を!!



「桜!!愛してる!!!!!!!!!!!」



 え?









 え?



 かなり距離がある私に聞こえるほどの声量。



 混乱する脳。



 だが更に事態は加速する。



「また同じ光」



 屋内であるにも関わらず、桜さんに光がさす。



 すると



「あ……」



 桜さんがまるで自身の体調を確かめるように自身の手を何度も確認にしている。



「助かった……の?」



 分からない。



 だけどどこか確信があった。



「お兄様が……何かした?」



 状況からしてそれ以外考えられない。



 それに先程の言葉



「あの人に何が」

「リア様大丈夫ですか!!」



 そして私の横を先生方が通り過ぎる。



 これなら多分大丈夫だろう。



 安堵により、胸を撫で下ろす。



 あれ?



「エリカ様?」



 ◇◆◇◆



 あの事件により、しばらく学園は休みを取ることとなった。



 私は言いつけ通りに毎日勉強をする。



「また」



 最初は気まぐれかと思っていた。



 だけど毎日のようにあの人は早起きしている。



 それに



「最近は毎日のようにリア様の様子をお聞きになりますよ」

「そうですか」

「間違っていると思いますが、何だか心配しているような感じなんですよ」

「まさか、あのお兄様ですよ?」

「それもそうですね」



 だけど本当にそうだとしたら



「まるで昔みたい……」



 あの人がまだ優しかった頃。



 誰も分からない、何に頼ればいいか分からない、そんな苦しい環境で唯一の心の拠り所だった。



 そしてある日突然裏切られた。



「もし……だったら……」



 ◇◆◇◆



 学園が再開した。



 そして私は気になって仕方がない彼女の元に向かう。



「桜さん具合は大丈夫ですか?」

「うん!!もうバッチリだよ!!」



 親指を上げ、体全体で表現する。



 その活発な様子は私とは違い、とても羨ましく感じる。



「すみません、お見舞いにいけなくて」

「ううん。リア様にも色々あるんでしょ」



 やっぱり



 なんて優しい人。



 それにとっても可愛い。



 きっと真さんも



「ところで桜さん」

「ん?なぁに?」

「お兄様のことで聞きたいことが……」



 すると桜さんは花が開いたように笑う。



「やっぱり!!リア様も気付いたんだね!!」

「や、やっぱり?」

「うんうん。私も丁度共感できる人を探してたんだよね!!」



 手を握り、今すぐ飛び跳ねて喜びそうな桜さん。



「彼、変わったよね」

「……」



 私が聞きたかったこと。



「それに私告白されちゃったんだよ!!あの目は本気だったね」

「や、やっぱり」



 あの時のは幻じゃなかったんだ。



「変わったよ彼は」

「……」

「いい方向とは言えないけど、少なくとも私には」



 彼がヒーローに見えたよ



「戻ったのでしょうか?」

「戻った?」

「いえ、何でもありません」



 微かな希望だった。



 だけど今は、きっと合っていると



 そう思えるようになってきた。



 学園が終わり、家に帰る。



 今日はお兄様と話してみよう。



 もしかしたらまた、あの時みたいに一緒に



「司教さん?」

「リア……様」



 だが神はそんな私を嘲笑うのであった。

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