第11話

 殴ったはいいが、俺のパンチなんてたかが知れたものだ。



「いきなり暴力とは、あまり褒められたことではありませんよ」



 やはりダメージはほぼない。



 てか、さっきから何でお前は邪神教に手貸しといて説教口調なんだよ。



「ですが失敗でしたね、アクト様一人で来てしまったことは」



 司教が魔法を唱える。



 まぁここで俺を捕らえない選択肢はないよな。



 だが残念



「な!!闇魔法!!しかもこれほど強力な!!」



 司教が拘束される。



 司教はいわゆるモブ、つまり雑魚である。



 俺は司教の数十倍は弱いが、俺にはまぁまぁの強さのルシフェルがついている。



「どうしてお兄様がそれほどの力を!!」

「グレイス家の長子は落ちこぼれじゃないのか!!」

「クハハハハ」



 このままプチ俺Tueeeを見せつけてやんぜ(他人の力でイキる男)!!



 そしてルシフェルに司教の意識を飛ばさせようとした時、敵は立ち塞がる



「お兄様……一体いつの間にそれほどの力を……」



 救うべき相手に魔法を防がれる。



「邪魔をするな」

「いいえ、させてもらいます」

「何故だ」

「何故ってそんなの!!お兄様が……あっ……」



 そう。



 弱いはずの兄を守る。



 けれど、その兄は弱くはなかった。



「ど、どうして……お兄様の魔力は……」

「お前如きに俺様を測れるものか」

「では……ついに叶えられたのですね」



 涙ぐむリア。



 これは少し勘違いしてるな



 あまり同情的な目で見られそうだが、少しアクトの過去の話をしよう。



 ◇◆◇◆



 アクトは先天性の病気により魔力が殆どない。



 そのため、アクトはグレイス家の落ちこぼれと称される。



 最初はアクトも周りを見返そうと必死に努力した。



 だけどその成果はどれだけの時間が過ぎても現れることはなかった。



 グレイス家当主である父親にも見向きもされず、周りからもバカにされる日々。



 そんなある日、アクトは道の人にアイスをぶつけてしまった。



 ついカットなったその人物はアクトに手を上げた。



 いくら落ちこぼれといってもグレイス家である。



 アクトの父親は面子を守るため、その人間は大きな処罰を受けた。



 その時にアクトの父親は



「いちいち手間をかけるな」



 幼いアクトに心無い言葉を吐く。



 その時、アクトの中で生まれた気持ちは



『やっと見てもらえた』



 それからのアクトは様々な悪行を繰り返した。



 父親に見てもらえると信じて。



 そしてその副産物として、アクトはあることに気付く。



 自分は何をしても許される人物だと。



 ◇◆◇◆



 それからアクトという人間が完成するのに時間は掛からなかった。



 確かに悲惨な過去ではあるが、だからといって数々の悪行(特にヒロインの)が許されるとは問屋も俺もおろさない。



「尚更お兄様を連れて行かせられません」



 リアが魔法を構える。



 その膨大な魔力量。



 そして洗練された素晴らしい練度の魔法。


 

 さすがはリア、これじゃあルシフェルでも勝てないだろう。



「どうするんだアクト。今の我では勝てんぞ?」

「この前と同じだ。こうなることも予想済みだ」



 突然リアの魔法が崩れる。



「あ……」

「呪いだな」



 血を取られた際にかけられた闇魔法。



 司教が渋い顔をする。



「確かに対策はーー」

「相手が一枚うわてだっただけだ」



 俺がここに来なければ、もう一度二人は例の森に行き、邪神教にリアは襲われる。



 だがリアはそれを想定して撃退する準備を済ませていた。



 そこで邪神教を倒してしまえば司教は自ずとアクトを守らざるおえなくなく。



 リアの中でそういう計画だったのだろう。



「死んでたな」

「……」



 別にリアは油断していたわけではないが、リアは死ぬ気もあった。



 自分より強い相手が居るかもしれない。



 奇襲を受けて負けてしまうかもしれない。



 だがリアの目的は俺の命が第一優先であり、自身の命は二の次。



 つまりリアからしたら勝てたら重畳。



 勝っても負けてもアクトは救えるのだから。



 だけど、アクトが昔は悪い奴じゃなかったってだけでそこまでするか?普通。



「やはり……」



 敗北を察したリアは膝から崩れ落ちる。



 だが、その顔はどこか清々しいものであった。



「今からテメェに呪いを付ける。今後邪神教に協力したら死ぬやつだ。文字通りの意味でな」



 俺の言葉に司教は憤怒を露わにする。



「あなたに何が分かる!!教会は今も財政難に苦しめられている!!もし私達が潰れてしまえば、孤児院の子供達がどうなるかあなたにーー」

「知らねぇよ」



 そんな奴らどうでもいい。



 俺の優先順位は1にヒロイン2にヒロイン、34も5もヒロインだ。



「お前も中々に狂ってるな」

「うるせぇ、遠くの親類より近くの他人だ」

「それもそ……ん?」



 別にここで司教を倒したところでリアが救われるわけではない。



 これからリアを縛るグレイス家を打ち倒さなければならない。



 もちろん主人公の力無しでだ。



「めんどくせぇ」



 彼女達を救うのに労力は惜しまないが、めんどくさいものはめんどくさい。



「とりあえず今をさっさと終わらせるか」



 改めて司教に向き直る。



「ある意味これを解決したらリアルートは消えるのか」



 そういえば主人公が誰も選ばないルートなんて無かったな。



 まぁどうでもいいか。



 司教は未だに激おこぷんぷん丸といった感じだ。



「一つだけ朗報を与えてやる」

「朗……報?」



 俺の最大優先事項はヒロインだ。



 だから彼女が悲しむのだけは俺が許さない。



「数日したら教会に多くの寄付が入る。だからもうこんなことはやめろ」

「そんなこと信じられるわけありません。それとも何ですか?あのアクトグレイスが教会に寄付をなされるので?」

「そんなわけあるか」



 はいそうです。



 あのいらないキンキラベットとか売れば金になるだろ。



 コイツが寄付先が俺だと気付いたところで物的証拠がなければ誰も信じることもないだろう。



 これで一件落着だが、まぁ念のためコイツに魔法はかけておくか。



 魔法を撃つのは俺ではないが、一応構えだけとっておくか。




「いくぞルシフェル」



 ルシフェルはどこか不安そうな顔をする。



 返事はないが、まぁ話の流れを聞いてれば魔法は発動してくれるだろう。



 右手を上げる。



 だが上げるはずの右手は無かった。



「は?」



 視界に赤が広がる。



 ダボダボと溢れる液体の出どころは俺の右肩からだった。



「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」




 これまでに経験のしたことのない痛みが襲う。



 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ



 何で腕が!!!!!!



 突然の出来事にパニックに陥る。



 そして俺の腕を切断した犯人は悠々と姿を表す。



「これはこれはアクト様。あまりにも到着が遅いので来てみれば、こんなところであなた様にお会いできるとは」



 何度も見てきた濡れ羽色の服装。



 だがそいつの胸にあるバッチには、他の無象無象とはわけが違うことを物語っていた。



「オーロラ」

「おお!!ワタクシの名前をお知りになられているとは、実に光栄です」



 邪神教に10人存在の幹部の一人、オーロラ。



 邪神教では強ければ強いほど狂った連中が多い中、最もまともな奴だが、それゆえ最も卑劣で下衆な女である。



「ワタクシ既に報告は受けております。あなたはワタクシ達の手を跳ね除けたと」



 何言ってんだ?



 中身は逆だが態度だけみれば俺はお前達に協力的だっただろうが!!



「ワタクシからしたら生きていても死んでいても同じですが、まぁ一応死んでもらいますね、アクト様」




 オーロラが禍々しい剣を抜く。



 オーロラはいわゆる中ボス。



 俺やルシフェルじゃ到底敵わない。



 「失敗したなぁ」



 相手は司教だけだとばかりに思い、俺だけでも大丈夫と踏んでいたがまさかこうなるとは。



 こっそりと血を使い文字を書く。



 最終手段ではあったが、これでエリカが覚醒するだろう。



 これは彼女に大きな負担になるためあまり使いたくなかったが、一応これで他のヒロイン達も少しは幸せになれる。



 血が出過ぎたためか、意識が朦朧とし出す。



 これで死ぬのかー。



 まぁこれでアクトが消えるならそれでいいだろ。



 邪悪の根源は消える。



 後にどうなるかは分からない、俺にはもう祈ることしかできないのだから。



 瞳を閉じようとする。



 だがそんなことは許されない。



「ダメ!!」

「リア」



 俺とオーロラの間にリアが割って入る。



「お嬢さん。ワタクシは万全の状態のあなたすら簡単に倒せてしまうのです。にも関わらず今のように魔法が使えないあなたでは足止めすらなりませんよ」

「それでも……それでーー」

「はいさようなら」



 リアの胸を剣が貫く。



「ワタクシがそんなドラマチックなセリフを言わすわけないじゃないですか」



 

 あ……



「リ……ア……?」



 リアから命がこぼれ落ちていく。



「と……止まって……く……れ。た、頼む」



 傷口を抑えても出血が止まらない。



「な……何で……」



 どうしてこうなった。



「フフ、その顔」



 笑う。



「とても素敵ですよ」



 お前か?



「アクト様ぁ」



 お前がやったのか?



「殺す」



 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ー



「お…兄…………様」

「リア!!」



 ああ。



 そんなのどうでもいい。



 今は



 今はリアを



「頼む、頼むよ」



 誰でもいいから



「リアを……助けてくれ」



 そして救いの手は現れた。



「アクトさん!!大丈夫ですか!!」



 いつもと違いフードを脱いだ彼女がいた。



「俺が救うはずだったんだけどな」



 彼女なら



 俺は意識を手放した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る