第10話
「何だかここの空気は心地いいな」
古びた教会にたどり着くと早々に放った一言は、こいつがもう邪神であると思えなくなってしまうものであった。
周りには一緒に設立された孤児院の子供達の触れ合うシスターの姿も見受けられる。
そしてその奥には一人の男と少女が奥に行くのが見えた。
「ところで何のためにここに来たんだ?」
「最初から少しおかしかったんだ。俺がリアに何か起きていると気付けたきっかけは何だ?」
「む?それは確かエリカなる者がお前に注意を呼びかけたおかげだろ?」
「その通りだ。だけどそこがおかしいんだ。確かにエリカは多忙の身、だが彼女の性格上怪しい人物なんて放っておくだろうか」
「いや我はあの人間がどんなやつかなんて知らんぞ」
「にも関わらず、まるで俺に何か探らせるかのように言葉を紡いだ」
「その通りです」
まるで待っていたかのようにエリカが現れる。
「お待ちしておりました、アクトさん」
「そりゃ待ち遠しくて仕方ないだろうな」
「おや?私があなたに惚れているとバレてしまいましたか?」
へ?
「ふふ、冗談です」
何だよ、嬉しさのあまり盆踊りをするところだったじゃないか。
まぁ送られるのは俺一人何だけどな。
「テメェのクソみたいな冗談を聞いてる暇はねぇんだ。さっさと要件を話せ(意;エリカのそんな冗談は心臓に悪いんで、速く話題を変えて下さい)」
「それもそうですね」
雰囲気が変わる。
「すみません。試してしまうような真似をして」
「俺様が分からないはずないだろ」
「はい。ご期待以上です」
「だが一つだけ分からん。どうして俺様なんだ?」
「おや?いつも自信満々のあなたがそのようなことを言うのですね」
「あまり機嫌を損ねるなよ?今は俺様の言うことだけに答えろ(意;そういう答えにくいのやめて下さい。今は本題以外の話をやめませんか?)」
「そうですね。とある日、私はいつものように教会から抜け……見回りをしていた時、ミーカール学園に邪神教が襲撃したとの情報が耳に入りました。私は至急学園に向かい、あるものを見ました」
エリカの語る内容は、ゲームでの邪神復活と酷似したものであった。
しかしそんなことはありえない。
隣にいるこのポンコツは力を失っている、おそらくエリカは真の神様補正をどこか勘違いしてしまったのだろう。
「その場に向かうと、呼吸の浅い少女に傷だらけの少年、そしてアクトさんが倒れていました」
「俺様が華麗に奴らを撃退した後だな」
「嘘……何ですか?」
歯切れが悪いな、こんな嘘一発で分かるはずなのに。
「そしてあれほどの力を持っている方が怪我をするはずがありません。つまり、アクトさんなら私の願いに応えてくれる方だと思いました」
「ほう?俺様がそれで手伝うとでも?」
「まるで自身の評判の悪さを知っているかのようですね」
やはり原作外の行動にはボロが出るな。
「もういい、お前の話し方から犯人は確信できた」
俺が歩き出すとエリカが頭を下げる。
「どうか、どうか私達をお救い下さい」
「ふざけたことを言うな。俺様が気にいらないから行くだけだ。お前らは関係のない」
「それでもどうか……」
そのまま教会の奥へと進んでいく。
「それで犯人は誰なんだ?」
「今のやり取りで分からないのか?」
「分かるわけないだろ!!」
「はぁしょうがない。ヒントを出してやろう」
「我そういうのめんどくさいから速く答ーー」
「ヒント1!!」
ブーイングが聞こえるが完全無視だ。
「今回のこととリアのことは関係があります」
「そんなの何となくだが誰だって分かるぞ」
「ヒント2、リアは体を売って犯人と取引をしています」
「売◯か?」
「違う!!あの手の傷みただろ、グレイス家は三代貴族の一つ。その身には膨大な魔力がある」
「それを闇魔法の触媒とするわけか」
「ああ。奴らはその効果をみて更にその血肉を欲しがるはず。だから次リアが行ってしまえば」
「殺されるか?」
「まぁそうなるな」
「意外と冷静だな?やっぱり犯人は邪神教とやらなのか?」
「少し違うな。確かに邪神教は関わっているが、犯人はまた別だ。そいつに横流し先が邪神教って話だ」
「ますます分からんぞ?」
「ヒント3、教会は貧乏である」
「確かにどこか質素な感じだったが、エリカとやらは裕福そうじゃないか?」
「エリカは聖女だ。彼女に悪いイメージが強かったら支援がますます減っちまう」
「それは分かったが、それとアクトの妹が何の関係があるんだ?」
「ヒント4、何故エリカは自分で怪しい人物を捕らえない?」
「それは純粋に力が足りないからじゃないのか?」
「おいおい、聖女はゲームではお助けキャラとして出てくるんだぜ?めちゃめちゃ強いに決まってるだろ」
「じゃあ捕まえればいいではないか」
「聖女の力は強力すぎてすぐに周りにバレちまうんだよ」
「バレちゃまずいのか?」
「ちゃんとヒントを思い返してみろ」
ルシフェルは少し考えると
「教会に悪影響が生じるから?」
「ビンゴ」
ルシフェルも犯人に検討がついたはいいが、どこか納得しない様子である。
「それはあまりに本末転倒ではないか?」
「全くもってその通りだな」
しばしの沈黙。
「他の奴に頼めばいいのではないのか?」
「こんな爆弾誰にも話せないだろ」
「だがお前には話したぞ?」
「……」
それだけは俺にも分からない。
「説得は?」
「既にエリカが何度もやってるだろ」
そして俺とルシフェルは一つのボロくさい扉の前に立つ。
そんな扉を俺は蹴り飛ばす。
「お兄様!!」
「これはこれはアクト様、扉は丁寧お開け下さい」
そこにはリアと
「そんなもん教わった記憶がないもんでねぇ!!」
教会の司教が立っていた。
◇◆◇◆
司教は例の邪神教の男と一緒で名前すら明かされず、立ち絵の一つもない。
いわゆるモブキャラ。
エリカの話にちょくちょく登場する心優しいおじさんといったイメージだ。
だがifストーリーでのこいつの立ち位置は全くの逆。
そのifの設定がどうだったか記憶が朧げだが、優しいリアはこんなゴミ虫である俺を邪神教から守ろうとある取引を持ちかける。
その相手がこの司教。
教会はいくら貧乏といっても、その力は間違いなく絶大。
そう、聖女の存在である。
闇魔法に最も強い光魔法を扱うエリカがいれば、邪神教の力ではアクトを連れ去ることはできない。
そこで司教はこれをきっかけにどうにか財政難を乗り越えようと画策する。
だが、リアの性格からお金をもらうには限界がある。
そしてその話を嗅ぎつけた邪神教は司祭にあることを持ちかける
『グレイス家の血が欲しい』と
そんな悪魔の囁きに司教は乗ってしまう。
「分かりましたリア様。その代わりにあなた様の血を分けていただけませんか?」
「どうしてですか?」
「あなたの膨大な魔力を使い、多くの人を救うためです」
そして二人は例の森の邪神教の施設に足を運ぶ。
「随分と物騒なもので採血するんですね」
「これが一番効率がいいんです」
その機械に闇魔法が込められているのは司教は知っていた。
だが彼は気付かないふりをした。
そしてリアも。
◇◆◇◆
「どうしてお兄様がここに!!」
「俺様がここにいちゃ悪いってのか!!」
「答えになっていません!!」
憤怒を露わにする。
「なぁ司教さんよぉ、俺様どっかで小耳に挟んだんだが、テメェが邪神教と繋がってるってのは本当なのか!!」
「エリカから聞いたのですか?」
「誰だそれ?聞いたこともないな」
「おや、存外優しい人なのでしょうか?」
「うるせぇなぁ、さっさと俺様の質問に答えろよ」
「それはーー」
「帰って!!」
司教の言葉を遮るリア。
「お兄様みたいな落ちこぼれが来ていい場所じゃないんです!!今すぐ帰って下さい!!」
「俺様に向かってそんな口聞くとは、随分と偉くなったもんだな!!」
「それはこっちの台詞です!!」
それから突然始まる兄妹喧嘩。
司教もまさかの展開にさっきまでの不敵なイメージと反してオドオドした様子になる。
「どうして……来たんですか……」
泣き出してしまう。
「この話はきっとエリカ様にも届いています。あの方なら必ず、私がいなくなってもお兄様を……」
「何を勝手に俺様を守った気になってるんだ?」
「そうでないと……お兄様は邪神教に連れ去られてしまうじゃないですか」
「リア様」
司教が話に割って入る。
せっかくリアとこんなに喋れたのに何だコイツ?
「彼は自ら邪神教に狙われたと聞きます。そんな彼を助ける必要があるんですか?」
いやこいつ何邪神教とお手て繋いどいて偉ぶったこと言ってんだ?
「確かにお兄様は最低で馬鹿でアホでこの世の醜悪を全て集めたような人です」
いやめっちゃ言うやん……
もっと言ってやれ!!
「ですがお兄様も最初は普通の人でした。ですがお父様が……グレイス家が変えてしまった」
これが俺の、アクトの悪行の方向指針となり、リアを縛り付けるもの。
「だから私がお兄様をーー」
「うるせぇ!!」
「ぐはっ」
俺は司教をぶん殴る。
「めんどくせぇ。やっぱりこいつで解決するのが一番だな!!」
ゲームでもあるセリフのためか、すんなりと言い放つことができた。
俺がこの世界に来たのはヒロイン達を幸せにすることだ。
そんな彼女を悲しませることは
全部俺がぶっ飛ばす!!
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