第7話

「ん?」



 何だ?



「どうなったんだ?」



 急に意識がなくなり、気付くと真が倒れ、桜が泣き、邪神教の男がブロッコリーにやられたベ◯ータみたいに壁にめり込んでいる。



「真の神の加護が消えたような気がしたが、あれは気のせいか」



 おそらく事態は原作通りに真が勝ち、そのタイミングで加護の効果が切れ、真も力尽ついて倒れたのであろう。



 だがまずいな。



 ゲームだと真の有り余る力の衝撃により、巻き添えを食らったアクトが気絶するはず。



 だが俺は何故か敵の前に直立で立っている。



 本来ならここで助け出された桜が、倒れた真に感謝を告げる感動シーンだが、背景に二本足で立つ悪人面の男がいたら気まずくて仕方ないだろう。



 そんなわけで



「グヘェェェェェ」



 倒れる。



 そして気絶したフリをかます。



 そんな俺の様子を見計らったとばかりに、魔法による拘束が解けた桜が走り出す音が聞こえる。



 ここで真の胸に飛び込み、涙を流すところはベスト君LOVEコレクションでも常に上位に組み込むほどだ。



「ありがとう、ありがとう。私を、彼を、救ってくれてーー」



 彼を?



 誰だそれ?



 それに何だか声が少し近く感じるが……



 まぁ気のせいであろう。



 それより、あの名場面を直で見れないのは真に遺憾である。真だけにね。



 ……。



 ここで終わっても感動のフィナーレといったところだが、君LOVEは最高のエンドとバッドを両立させてくるゲームである。



「どうして……このような……」



 邪神教の男が立ち上がる。



「裏切るのであれば、動かない方が」



 そう言葉を吐き、男は自身の心臓に手を突き刺す。



「共に逝きましょうか」



 男から黒いヘドロのようなものが噴き出す。



 邪神教は世界を滅ぼそうとする狂った連中のため、自身を触媒にする闇魔法を簡単に多用してくる。



 そして奴が使用した魔法は自身の命を引き換えに、当たると即死の呪いをかけるという馬鹿げた能力を使ってくる。



 真の力が邪神教の脅威になると感じた奴は、せめて真を殺そうとこの魔法を使う。



 そして悲しいことに、愛しの桜は真を庇ってその呪いを受けてしまう。



 本当なら俺が庇ってやりたいが、ここで俺が死ぬのはあまりよろしくないため、断腸の思いで耐える。



 だって彼女は選ばれたヒロインだ、救われると分かっていれば、多少楽な気持ちになれる。



「ダメ!!」



 桜がアクトを庇うように覆い被さる。



 え!!何か柔らかい!!何これ!!ルシフェル!?ルシフェルさんなの!?



 俺に接触する人間が分からず混乱する。



「さ……さくら!!」



 目覚めた真が桜を抱き抱える。



 ふぇええええええええ。



 何かめっちゃ耳元で伝説のシーンが起きようとしてるよぉ〜。



「これは、、闇魔法。しかもかなり上位の……」

「そう……みたいだね」

「桜!!しっかり!!」

「ゴホッ、、ごめんね、私……ダメかも……」

「そんな!!待ってて、すぐに教会にーー」

「ううん。いいの。多分間に合わない」

「そんなこと!!」

「お願い最期に聞いて欲しいことがあるの」



 何かを察した真は、ただ彼女の目を見つめた。



「小さな時、一人だった私と遊んでくれてありがとう」

「うん」

「親のいない私を家族のように受け入れてくれてありがとう」

「うん」

「一緒にいてあげられなくてごめんね?」

「う゛ん゛」

「好きだよ、真」



 さくらぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(号泣)



 反対側を向いているため俺の顔は見られてないが、この状況でしていい顔ではないことだけは分かる。



 ここでの桜の返答は好感度によって変化する。



 上から



『愛してるよ』

『好きだよ』

『今までありがとう』



 となっている。



 今朝の様子から『愛してる』のセリフがくるはずだが、バグか何かか?



 まぁ邪神教の男のセリフもどこか違っていたし、俺やルシフェルの存在のせいで少し変わってしまったのかもしれない。



 それよりも注目するべきは真のセリフだ。



 ここでプレイヤーには



『僕もだよ』

『嬉しいよ』



 の選択肢が突きつけられる。



 ここで前者を選択すれば、晴れて桜ルートになり、ご都合主義展開で両思いの二人に愛の女神様が加護を与え、桜の呪いが解かれるといった流れとなる。



 言ったれ!!真。



 俺の代わりに桜を幸せにしろよな!!



「嬉しいよ、桜」



 は?


 は???????????????????????????????????????????????????????????????????



「でもごめん、俺は桜の気持ちに答えられないや」

「最期くらいは嘘ついてくれてもいいんじゃないかな〜、ゴホッ、まぁ真らしいけどね」

「本当にごめん。だけど、桜のことは家族のように大切な存在だよ」

「慰めてるの?でも……おかげで区切りがついたかも」

「それならよかった」



 いやーー



 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。



 何言っちゃてんのコイツ!!



 ありえない。



 ユーリとすら会ってない時間をこいつは桜と過ごしていたはず。



 それこそ毎日会っていなければ、ゲームでは今朝のような行動は絶対に起こりえない。



 こんな可愛くて、気前がよくて、優しくて、そんな彼女の告白を断るとか頭いかれてんのか!!!



「もう……意識が……」

「桜!!」

「さよならだね」



 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!



「ル、ルシフェル!!」



 すがるように呼びかけるも、ルシフェルの姿が見当たらない。



「クソ!!」



 なんでこんな時にいないんだ!!



 どうしようどうしようどうしよう



 こんなことになるくらいなら俺が庇ってればいれば



「バイバイ、真」

「うんさよなら、桜」



 ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!



 もうわけも分からず、俺は立ち上がり、桜の手を取る。



「「え?」」

「桜!!愛してる!!!!!!!!!!!」



 すると、桜に向かって天から光が降り注ぐ。



『あなたの愛、しかと見届けました』



 ゲームで何度も聞いた声が聞こえる。



「あ……れ?体が……動く」



 どうやら、女神様は俺達のことを見放さかったようだ。



「アクトよ、お前とんでもないな」



 いつの間にかルシフェルが近くに立っていた。



「ただでさえ基準が高く、さらに二人分でなければ現れない愛の女神をたった一人で呼び出すとは、その愛の重さに我は少しひいたぞ」



 急に現れたと思ったら急に悪口を吐きやがって、コイツ今回何もしてないくせに。


 

 確かに俺の愛は重いだの、キショイだの、狂気じみてるだの言われるが、そこまでじゃないと思うが……まぁ俺の愛で桜が助かったのなら誇らしいな!!



「桜は……助かったのか?」

「ああ」



 呆けていた真が振り絞ったように声を出す。



「あんたが助けてくれたのか?」



 真の言葉には何の悪意もない。


 ただ本音を喋っただけだ。


 だけど少し怒ってしまった俺は



「俺が助けたんじゃない、お前が助けなかったんだ」



 こんなのただの八つ当たりである。



 別にコイツは桜を見捨てようなんて一つも考えていなかっただろう。



 だけどコイツは結果的に桜を救わなかった。



 それに対しての一方的な怒り。



「……」



 桜は眠っていた。



 一瞬死んだのかとも考えたが、小さくだが息をしているのが分かる。



 それに、何だか気分がよさそうな顔である。



「……」



 真は何か考えるように黙っていた。



 俺の言葉に意味なんてないのにな。



「皆大丈夫か!!」



 そして教師陣が社長出勤をかましてくる。



 これで桜も安全だろう。



 安心した俺は、そのまま意識を手放した。



 ◇◆◇◆



 それから幾日かが経った。



 この世界はどんな重症でも魔法でパパッと治してしまうため、死ななきゃ以外とどうにかなるものである。



 そんなわけで邪神教の襲撃により休みとなっていた学園が再開していた。



 あんな事件があったため、学園としても警備を強化し、次同じことが起きても怪我人一人出さないであろうことが分かる。



 そのため生徒達も安心していつも通りの日常を送っていた。



 だが例外もいた



「ねぇアクト、今日は一緒に帰らない?」

「帰らん」

「とか言ってるけどホントは私のこと好きなくせに〜」



 俺は桜にめっちゃ絡まれるようになった。



 何だか分からないが、今までの俺の行動が全て自分を好きだったための不器用なことと拡大解釈をしてしまったようだ。



「あの男のところに行かないのか」

「真のこと?もしかして嫉妬?」

「俺様が嫉妬などーー」

「はいはい可愛い可愛い。う〜ん、何だかあれから真のことあんまりって感じかな。家族として大切なままだけど、彼氏とかには見えないかな?」



 桜は結構一途だと思っていたが、何だか少し解釈違いである。



 まぁそれでも好きだけどね!!



「それに、今は他に気になる人がいるっていうか」

「へ、へぇ〜(内心バクバク)」



 誰なの!!俺は真以外の男なんて許さないからね!!



「ま、まぁお前の弱みを握るという理由で聞かないでもない」

「またまた嫉妬かな?」



 俺の愛してるの言葉を無限にいじってくるかわい子ちゃん。



 俺の中で全力で悪いやつぶるが、桜に絡まれるアクトの様子なんて原作にないからわかんねぇよ。



「す、すげぇ、桃井のやつ、アクト様を手玉にとってやがる」

「桜ちゃんすごい!!」



 生徒間でも俺達の関係に興味を持ち始める。



「お前ってどんだけゴミなんだよ」



 初めてアクトのゴミさに少しだけ尊敬の念を抱く。



「いややっぱゴミだわ」



だが一瞬で無くなった。



 ◇◆◇◆



「邪神教襲撃のせいで予定が狂っちまったが、今日こそはやりに行くぞ」

「何をだ?」

「おいおい忘れちまったのか?」



 喧嘩しに行くんだよ。



「それ覚えてる人間なんていないと思うぞ」



 こうして俺とルシフェルは裏庭にたどり着く。



「誰?君」



 細い腕に、触れたら壊れてしまいそうなほど華奢な体、だがその実、脳は筋肉で出来ている最強へと俺は



「お前をボコボコにしに来た」



 世界一馬鹿な啖呵を吐き捨てた。



 救済√1



 桃井 桜



 完

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