第5話

 突然の邪神教による襲撃により、クラス中がパニックとなる。



「皆落ち着け!!先生方の到着を待つんだ」



 ユーリが先頭に立ち、威嚇する様に黄金に輝く剣を抜く。



 彼女の勇ましさに、慌てていたクラスメイト達も落ち着いてき、それぞれにAクラスとしての誇りがあるのか戦闘体勢に入る。



 さすが俺の嫁であるユーリだ!!



 突然の奇襲に対しても冷静に、そして勝ち筋を一瞬で見極める聡明さ。



 もう惚れ直しましたわぁ。



 ま



「今回ばかりはそれだけじゃダメなんだけどね」



 今現在、ミーカール学園の教師陣は絶賛世界三大魔獣さんとVS中である。



 魔獣とは何か?と聞かれれば裏設定や考察も含め10時間ほどの時間、語らせてもらいたいが、今は緊急事態であり認識としては主食が人間の動物と思ってもらえばいい。



 その中でも一匹で街を崩壊させてしまうほど強力な個体?を三大魔獣と呼んでいる。



 そして教師たちはその中の森のクマさんと戯れているため、ここに救助に来ることはかなり後となってしまう。



「ほらほら、俺様のために働け愚民ども」



 ここにきて初めて原作知識が役立つ。



 イベントのセリフは周回しすぎて丸暗記ですわぁ。



「くっ、こんな時まで貴様は」



 嘆くユーリ。



「やはり素晴らしい、それでこそ邪神様の復活に相応しいお方」



 邪神教のメガホンを持っていたリーダーの男が感激に身を震わせている。



 この男は結局最後まで名前が明かされることのないモブキャラのはずだが、ある意味俺たちプレイヤーの心に残り続ける男である。



「それでは我々と参りましょうか、アクト様」

「はぁ?何調子こいたこと言ってんだテメェ。俺様を連れて行くなら手土産ってものが必要だろ」

「は!!これは申し訳ございません。我々が不甲斐ないばかりに、ご用意する品を忘れてしまいました」

「はぁ、少し考えれば分かるだろ、ないならここで用意すれば良い。そうだなぁ……あの女でいい」



 俺が指差した先には



「え?」



 桃井桜が立っていたい。



「アクト!!貴様どこまで落ちれば気が済むんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 怒りの表情を露わにし、今すぐにでも俺に斬りかかろうとするユーリ。



「おいおい分かってるのかユーリ。ここで俺を斬っちまえば、もしここで助かったとしても、ここにいる奴らは全員もれなく終わっちまうぞ?」

「ッ!!」



 悔しそうに唇を噛む。



 彼女の口からは赤い雫がポタポタと落ちる。



「どうしてーー」



 俺に話しかけるもう一人の少女。



「私なの?」



 桜。



「気に入らねぇ」

「え?」

「気に入らねぇんだよ!!!!テメェといつも一緒にいるあの男が!!!!」

「それって、真のこと?」

「はん。俺様がそんな下民の名前なんぞ覚えるか。だがあの男は俺様より下の人間のくせに顔のいい女を侍らしている。それにあの力……あれは高貴なる俺様が持つべき力であんな奴が持つべきものじゃない!!」

「はぁ!?何それ!!そんなのただの嫉妬じゃん!!」

「嫉妬!!この俺様が嫉妬だと!!」



 桜を殴……押し倒す。



「キャッ!!」

「気に入らねぇあいつが自分の女が奪われたらどんな気分だろうなぁ」

「あんたって本当に最低ね!!」



 そしてすぐ横に例の男が立っていた。



「俺様の横に立つな。頭が高い」

「申し訳ありません、ですが我々にもそれほど多くの時間はありませんので」



 いつの間にか生徒達の半数が地面に倒れていた。



「殺したのか?」

「いえ、こいつらは儀式で使いますので、まだ生かしております」

「つまらんな。まぁ下々の奴らの血など汚くて見てられんしな」



 邪神教の男が桜の前に立つ。



「それではアクト様の手土産として、あなたを誘拐させていただきますね」

「そう言われてホイホイついて行くように見える?」



 腰から髪色と同じような、桜色の剣を抜き斬りかかる。



 だがこれはこのゲームでの初めてのイベントである。



 最終的に三大魔獣を単騎で倒せるくらい成長しても、今の彼女はレベルも装備も低いままであり



「クッ!!」

「弱いですね」



 簡単に倒されてしまう。



 え?怪我してないかな?大丈夫だよね?



 だがここはゲーム通りに進めなければ、もしもの自体が起こってしまえばそれこそ取り返しのつかないことになる。



「それでは参りましょうか、アクト様」

「お前らの思い通りになるのは癪だが、まぁいい」



 こうして桜を拘束し、戦闘を繰り広げるクラスメイトを横目に悠々と教室を出る。



 あれれ?このままだとまずいんじゃない?



 そう思った人は安心して欲しい。



 ヒロインのピンチには絶対に



「その手を離せ!!邪神教!!」



 主人公が駆けつけるんだから。



 ◇◆◇◆



 主人公である真と目があう。



「な!!あんたは確か」

「あんただと!?この俺様をあたかも対等かのように呼びやがって。おいお前、手土産の追加だ。あいつの首も持って行く」

「時間がありませんが、まぁいいでしょう」



 キチァァァァァァァァァ!!!!!!



 リアルイベント戦を生で見られるなんて、これほどファンにとって幸せなものはないだろう。



「どうして桜を連れ去るんだ」

「それを答える義務はありませんが、まぁ我々に必要な人間だからとだけ言っておきましょう」

「桜が……必要?」



 ああ分かる〜。



 一周目の桜ルートをクリアしなければアクトと桜のやり取りが見れないから、初見ではこのセリフから桜が邪神の依代だの、本物の邪神だの色んな考察が溢れかえったんだよなぁ(オタク特有の早口)。



「それなら尚更、桜を返してもらわないとな!!」

「残念なことにそれは無理なお話ですよ」



 こうして邪神教と真の戦いが始まる。



 いくつもの剣や魔法が飛び交い、クソ雑魚である俺はヤ◯チャ視点となり、状況が一切掴めなくなる。



 そして



「ぐわああああああああああああ」



 真が悪役みたいな口調で地面に倒れ伏す。



「口ほどにもなかったですね」



 剣から魔法を解く男。



「……」



 さて諸君。



 主人公が絶対に負けられない場面で今の状態では絶対に勝てない相手に遭遇した場合、一体どうするでしょう。



 正解は



「負けるもんか」



 剣を支えにし



「負けるもんか」



 震える足を持ち上げ



「負けるもんかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 主人公は立ち上がる。



「何ですかこれは!!」



 真の頭上から光が降り注ぐ。



「ま……こと?」



 気絶していた桜が目を覚ます。



「桜を……助ける!!」



 こんなところ見てしまったら惚れちゃうよなぁ。



「何が起こったか分かりませんが、もう一度倒してしまえばいいだけの話です!!」



 おいおい、相手はバリバリに神様の加護全開の主人公だぜ?



 お前が勝てるはずないだろ。



 真と邪神教が互いに距離を詰め、剣が交差する。



 そして真の剣が相手を貫き、勝利を手に取る



 はずだった



「え?」



 突然、真に降り注ぐ光が消える。



「うぐ!!」



 そして加護が消えたことにより、真はバランスを失い倒れてしまう。



「どういう……ことだ……」



 こんな展開見たことないぞ。



「これは!!なるほど、やはりあの方の……」



 邪神教は何か黒い物体を取り出すと同時に、それは役目を果たしたとばかりに粉々に砕け散る。



「は?」



 おそらく、あれが加護を打ち消したのであろう。



 あれが何なのか、何故俺の知識に存在しないものが出てきたのか



 予想外の出来事に思考がぐちゃぐちゃになる。



 だが、今考えるべきことはそんなことではない。



 このままだと



「桜が……助からない……」

「え?」



 まずい!!まずい!!まずい!!



 考えろ!!



 どうにかして元のシナリオに戻さなければ。



 そうするためにはやはり



「それではその首もらいますね」



 この男が邪魔である。



 だが、俺の戦闘力では到底勝つことなど不可能であり、力を失ったルシフェルも一般的な魔法使い程度である。



 一般的な魔法使いなんてレベルで換算すると5ほどであり、この邪神教の男を倒すには最低でもレベルが10は必要である。



 やはり戦闘では無理だ。



 どうにか他の解決案を練り続ける。



「考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ」



 だが、イタズラに時間が流れていくだけであった。



「詰んだ……のか?」



 …………。



「ハハ」



 笑えるな。



 ヒロインを救うと豪語しておきながら、突然の出来事に何の対処も出来ず、桜が邪神教に攫われる。



邪神教に連れ去られた後、俺は邪神の依代となり、奴らが儀式と呼ぶもののために、桜は数々の拷問にあい、様々な辱めを受け、生贄に捧げられる。



「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」



 情けない憎たらしい忌まわしい嘆かわしい愚かしい見窄らしい救いようのない無価値で無意味な粗悪で未熟で短絡的で惨めで



 ああ、俺なんて



「消えてしまえばいいのに」

「む?何だ?」



 思い出す



「力が必要ならば早く言え」



 俺が



「契約は」



 最強のラスボスであることを



「既になされた」




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