第4話
学園に足を踏み入れた俺は恒例の迷子には
「ならないんだよなぁ」
学園はゲームでもメインを飾る舞台だ。
それゆえ、ヒロインとのイベントとして音楽室や美術室、果ては魔法によって隠蔽された教室などこの学園に通う誰よりも知り尽くしていると言っても過言じゃない。
「俺の教室は2-Aだから……こっちだな」
「ホントにそっちで大丈夫なのか?」
ルシフェルが心配そうな顔をする。
まさかまた俺が道に迷ってると思ってるのか?
「バカにすんな。大丈夫に決まってるだろ」
「そ、そうか。お前は未来が分かっているし問題ないか」
だが俺はここで気付くべきだった。
憧れの世界に来たことで内心浮かれて、俺がアクトという存在であることを忘れていたこと
そして
中身がいくら可愛く、優しいやつでも
こいつが邪神であることに
◇◆◇◆
このミーカール学園は世界きっての魔法学校であり、上位者となって卒業したものは皆すべからく成功の道を歩んでいる。
そのため、大陸中から入学を求めて人々が集まり、一学年のクラス数は驚きのA〜Zまでと大盤振る舞いである。
そしてクラス分けのルールはテンプレかのようにAに近ければ近いほど優秀と評される。
そんな学園にアクトが入学でき、さらに最も上であるAクラスである理由は、アクト金持ち、自信家、裏口、これらの情報があれば自ずと見えてくるものがある。
EDCBと順通りにクラスを横切り、廊下の端にたどり着く。俺にとってはあまりにも誇張された肩書きであるAクラスにたどり着く。
「ん?どうしたんだ?」
廊下の端には何もないはずだが、ルシフェルがじっとそこを睨みつける。
「いや、お前が気にしてないならきっと杞憂なんだろう。我のことは気にするな」
なんだろ?腹でも減ったのか?
ルシフェルは今のところただ飯ぐらいのポンコツだし今は考えなくていいか。
それよりも大事なのはクラスでの俺の立ち振る舞いだ。
「確かにアクトの日常シーンは何回も見てきたが、授業中の態度なんてさすがに知らないからな」
だが俺はこの世で最も君LOVEを愛し、最もアクトを嫌う者だ。
「いける!!」
演じろ!!
今の俺はそこいらの一般オタクではなく、世界を揺るがすラスボスだ!!
教室のドアを開けーー
「うげ、いきなり見るのが君の顔かよ」
同じく、2-Aに属する桃井桜と目が合う。
「……」
「あ、あれ?いつもなら酷い罵詈雑言を浴びせてくるはずなんだけど……体調でも悪いの?」
さすがは桜だ(後方彼氏面)。
こんな男にも心配の声をかけるとはいい女がすぎるぜ。
「お、お前の姿があまりにも可愛、、ゴホン。可れn……イヤ、無様すぎて呆けてしまっただけだ」
「あーはいはい。申し訳ありませんでしたねー。見窄らしい私めはさっさと退場しますよーと」
そうして先に教室に入っていく桜。
「おいアクト。お前は我のことを心の中でよくポンコツと言っているように感じるが、女子の前だとお前の方がポンコツじゃないか?」
「やかましい」
大丈夫だ、まだ修正はいくらでもきく。
次こそ教室に入る。
「全く、いつまでも辛気臭い場所だなぁ、ここは」
入ってそうそう悪態をつくカス。
「「「「…………」」」」
だが誰も逆らえない。
アクト・グレイス
グレイス家は数多くの優秀な魔法使いが誕生し、王国に数多の貢献を施してきた三大貴族が一つ。
そのため、下の妹であるリアと比べてドブカスであるアクトも大きな権力を持っている。
だが必ずしもアクトがこのクラスで絶対王政をしているわけでもない。
「また貴様か、グレイスのお坊ちゃん」
蒼く碧髪。
それは深く、いつのまにか飲み込まれてしまいそうである。
彼女はユーリ・ペンドラゴ。
アクトと同じく三大貴族の一つであるペンドラゴ家の一人娘である。
グレイス家が魔法による知識により有名だとすれば、ペンドラゴ家はその武勲に目がいかれるであろう。
そこで生まれた彼女は歴代きっての才女であり、文武両道、才色兼備、人々を率いるリーダーのような女性である。
「ちっ、またテメェか」
「またとは何だ。貴様の態度がもう少し良くなれば私も何も言うことがないんだがな」
そんな彼女は唯一、このクラスでアクトに対等に話すことの出来る人間である。
「俺様はおめぇに構ってる暇はないんだよ、さっさとどっかいけよ」
「ムッ、もう終わりか。いつもなら貴様の方から突っかかるといのに」
少し悲しそうな顔をするユーリ。
ユーリもアクトと同じ名門。
それゆえ、彼女にとっても対等に話せる人間は数少ないものであり、彼女の夢は『友達100人つくる』と見た目とギャップのある可愛らしいものに心臓を持っていかれたプレイヤーは数知れず。
今すぐ俺がお友達になってお彼氏になってお結婚かましてやりたいが、もうすぐ彼女の最初の友達には主人公がなってくれるだろう。
とりあえず俺はアクトの席に座り、ボロが出ないためにクックックと外を見ながら何かを企んでるように笑い続ける。
とりあえず授業が始まるまでに少し考え事をする。
それぞれの個別ルートに入るための条件として好感度が鍵となってくる。
まぁ例外として他にも場所や時間、アイテムが必要なヒロインもいるが、今はまだ考えなくてもいいだろう。
君LOVEは嘘のHAPPY ENDに
そのため、俺は真が誰のルートに入るか見極める必要があり、今朝の様子から
「桜の好感度は上々、ユーリはまだ会ってすらいない感じだな」
本編が始まっておよそ30日が経過しているにも関わらず、会ってすらいないとなると、ユーリルートはまず有り得ないだろう。
逆に、桜に関してはかなり可能性が高いといっても差し支えないだろう。
「となると、桜は安全かな?」
彼女の様子を盗み見る。
クラスメイトの楽しそうに話しているが、どこかソワソワした様子。
おそらく真に会いたくて仕方ないって感じだろう。
大丈夫だ!!あいつは主人公だからもう少ししたらAクラスに上がってくるから!!
心の中でこっそりとエールを送る。
「はぁ」
本音を言うなら俺が幸せにしてやりたい。
だが俺にとっての一番の幸せは彼女達が一番の幸せを掴むことにある。
「俺の代わりに頼んだぞ、主人公」
他のヒロインは(将来的に)最強の俺に任せとけ。
考えもまとまり、穏やかな気持ちになったところでもう一度外を眺めているとルシフェルが袖を引っ張ってくる。
「なぁアクトよ」
「どうした?ルシフェル」
「もう来るけど、このままでいいのか?」
「は?」
何言ってーー
ドン
突然鳴り響く爆発音。
廊下の端からモクモクと煙が押し寄せてくる。
ああ、なんで俺ってこんな重大イベント忘れてたんだ……
「あーあー、マイクテス、マイクテス、皆様聞こえてますかー?」
メガホンを持ちながら現れる全身を黒い装飾品で固めた男。
そして後ろからはその男と同じような格好をした集団がゾロゾロと湧いてくる。
「えー我々は邪神教、邪神教一派でございまーす」
メガホンを持った男が宣言するかのように高々と名乗る。
「我々の目的といたしましてーー」
狂気に満ちた目が俺を見つめ
「あなたを攫いに来ました、アクト様」
艶美に笑う
「ハハ」
おいおいおい
「俺はお姫様かよ」
こうして最初のイベントである邪神教の襲撃が始まる。
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