第3話
アクトの家へと着いた俺は玄関を開け、家の人々に帰宅の報告をする。
「ただいまー」
「な!!あのアクト様が帰宅のご挨拶を!!」
そして使用人達による拍手喝采、賞賛の嵐、天上天下唯我独尊。
なんて展開は実にベタであり、betterでない。
悪役に転生し、悪役になりきるのであれば一つのミスすら命とりである。
「おい!!出迎えの挨拶すらないのか!!俺様が帰ったんだぞ!!」
当たり散らすように近くにあったものを蹴り飛ばす。
「おいアクト!!物を壊したらダメだろ!!」
「そろそろお前が邪神であることを忘れそうだよ」
大きな音が響いたためか、奥の方から使用人らしき人が慌てるように走ってくる。
「も、申し訳ありませんアクト様。本日は帰らないと仰っていたので、ご帰宅の準備ができておらずーー」
「言い訳か、見苦しい。ちっ、視界に入るだけでも億劫だ。向こうに行け」
「も、申し訳ありませんでした」
ラスボスムーブは本物のアクトでない俺にはボロが出てしまう可能性があるため、極力会話は控えるようにする。
だがそれが失敗だったと今更ながらに思う。
「俺の部屋ってどこなのかな?」
「分かっていたのではないか?」
「知るか。アクトの家は見慣れたものだが、その内部まで入ったことなんてねぇよ」
「にも関わらずあのメイドを返したのか?」
「そうだよ」
「…………」
「…………」
「バカだな」
「うるせぇ」
とりあえずルシフェルと共に家を歩きまわる。
それっぽい場所に入っては使用人と目が合い、難癖をつけるというキ◯ガイ行動を繰り返す。
だが、なかなかアクトの部屋にはたどり着けない。
「この家広すぎんだろ!!」
「我は嬉しいぞ!!これならあったかお布団も柔らか枕もあるはず」
こうして可愛い女の子(邪神)と歩くのもそれはそれで楽しいと思えてきた頃
「二択だな」
「我は一択にしか見えんが」
俺の目には二つの扉が映し出される。
右の扉はどこか落ち着くような雰囲気があり、自然の素朴さが滲み出ている。
部屋の主の慎ましさが伝わるようである。
そして左には『俺様の部屋』と書かれている金に彩られた煌びやかな扉がある。
その部屋の主は頭がおかしくて、豪遊しまくる人物であることが伝わる。
「右だな」
「我は左だと思うぞ」
「俺もそう思う」
「なら何故右に行こうとする!!」
は?
なんでってそんなの
「会いたい人がいるからに決まってんだろ!!」
「うるさ!!」
ルシフェルがあまりにも当然のことを疑問に出したので、常識を疑い、ついつい怒鳴ってしまう。
「まぁ関わるべきでないのは彼女も同じか」
今回ばかりは素直に左の扉に入る。
「元のお前は趣味が悪いな」
「俺も同感だ」
部屋の中は金金金。
アクトという男は生来のゴミムシであり、自分が持っていないものに嫉妬し、それを無理矢理奪い取る。
そして、他人が持っていない物をひけらかすように自慢する。
そんな男の部屋は、まるで他人に誇示するかのように豪華な品々で埋め尽くされていた。
「まぁ仕方ない。今度普通のものにこっそり入れ替えておくか」
「寝心地も居心地も最悪そうだしな」
ルシフェルとソファーらしきものに座り、今後の活動を決める。
「俺たちの主な活動は学園になる。そこで俺は悪人になりきり、ある男と少女達を陰ながら成長させる」
「お前はなんでかこの世界のことを未来《サキ》まで知っているかのように話すな」
そういえばこいつはこの世界がゲームであり、俺がそのゲームである『君LOVE』を完クリしたことを知らないのか。
「まぁなんだ。俺はこの世界のいくつかの可能性を知っていて、それを違うものに変えようとしてるんだ」
「なるほど!!すごいな。まるで神様みたいだ」
「……。そんなわけで、俺はその可能性を頼りにこの世界をいい方向に持って行こうと考えてる。そのために、俺は人として最悪な行動を多々することがある」
「うむ。今までの急な謎の行動はそれが原因か」
「そういうことだ。だがそれだけだと足りない可能性がある。その時にお前の力を借りたい」
「我の?」
「ああ。俺は残念なことに圧倒的に力が足りない。そこをお前が補って欲しい」
「だが我の力は今……」
別に悪いことをしたわけでもないのに、まるで先生に怒られた子供のようにションボリするルシフェル。
「それで十分だ。学生に比べたら一般的な魔法使いなんて結構強いもんだしな」
「う、うむ。そういうことなら我に任せよ。お前と我は契約で繋がっている。つまり一心同体だ。どんな時でも我はお前の味方になるぞ」
「へへ」
なんだよ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
「じゃあ明日学校で喧嘩するから相手をボコボコにしてくれな」
「ほぇ?」
◇◆◇◆
翌日。
部屋の金属類によって反射されまくった光が飛び交い、目を覚ます。
それと同時に、隣の部屋から扉が開く音が聞こえた。
「……。ルシフェル、朝だぞ」
「う、う〜ん。もう少しだけ〜」
「ダメだ、せっかくベット譲ってやったんだから俺より熟睡できただろ」
「このベットキラキラしてて寝にくいんだも〜ん」
ツラツラと言い訳を並べるルシフェルを引きずり、朝食を食べに行く。
昨日色んな部屋を周ったため、食事をする場所も把握済みである。
「おい、飯の準備はできてるんだろうな」
「もちろんです、アクト様」
「ちっ」
ぞんざいな動きで椅子に座る。
そして好きな子を自然と探してしまう男子高校生のように、彼女がいないことに気付く。
「あいつは?」
「リア様は既に学校に行かれました」
「そ、そかー」
「露骨に悲しそうだな」
べ、別に、一緒に食べれたらラッキーだなぁ、なんて考えてなんていないんだからね!!
そして食事が運ばれる。
「足りん!!俺は腹が減ってるんだ!!もっと用意しろ!!」
「か、かしこまりました」
部屋から出る時にボソリと「どうせ食えないくせに」と呟く使用人の姿からは、アクトに対する不満が溜まっていることが目に見えて分かる。
その間にテーブルに置かれた数々の料理に手をつける。
「く!!アクトの奴。今までこんな美味いもん食ってたのか」
「うむ、うまい!!うまい!!うm」
「うるせぇ!!静かに食えやガキ!!」
「お前の方がうるさいぞ!!だがわかってくれ。我はこんな美味しい物を食べたのは初めてなんだ」
昨日ルシフェルと今後の活動について話した時、こいつの過去も聞いた。
ルシフェルがこの世界に来るまでは神界のような場所に住んでおり、そこには多くの神が住んでいるらしい。
そこでルシフェルは
「ルシフェルよ、お主は何の神になりたいんじゃ?」
と偉い神様に聞かれ
「我はカッコいいから邪神になりたい!!」
と答え、そのまま邪神となったそうだが、邪神になりたい神などこいつ以外いなかったらしく、多くの時間を一人で過ごしてきたらしい。
その結果、ご飯やらも自分で作るため、見てわかる通りポンコツなこいつはあまり料理が上達出来なかったようである。
「ま、どうせ俺が死ぬまで好きなだけ食えるんだ。そんな反応も今日までだろ」
「我は初めてお前と契約を結んでよかったと思っているぞ」
「俺にもその機会が欲しいものだな」
こうして完食した俺達は学園へと赴く。
「いいか、ルシフェル。俺たちは世界に名を轟かす大ラスボスだ。どんなことがあろうとも冷静に、どんな人間よりも悪い奴になりきるんだ」
「任せておけ。我ほど邪悪な存在はこの世にいないからな。ありのままの我こそが悪の塊と言っても過言じゃないからな」
「ハッハッハ。全く頼もしくないセリフだな」
すると俺の目の前を通り過ぎる一人の女の子。
撫子色の髪は急く足と共にフワリと浮かび、道行く人々の目が自然と奪われていく。
そんな彼女が向かう先には、この世界の救世主である
「おはよう、
「ああ、おはよう。桜」
主人公である柊真。
俺の分身であり、今となっては俺にとってのラスボスである。
「ルシフェル、あいつが俺らがサポートする男だ」
「昨日言ってた奴か。何だか弱っちそうな見た目だな」
「まぁその弱い奴は、最終的にお前を一撃で100回くらい殺せるようになるんだけどな」
「化け物か!!」
それがゲームの主人公というものである。
「そしてその隣にいるのが俺の嫁だ」
「勝手に人のことを嫁という奴はストーカーだと聞いたことがあるぞ」
彼女の名前は桃井桜、ヒロインが一人。
彼女を一言で表すならThe幼馴染。
主人公の幼馴染である彼女は攻略難易度が最も低く、バトル方面でもオールラウンダーな能力をしているため、初心者の人はまず桜からの攻略を始めることが多い。
だが、後々これが大きな罠であることに気付く。
桜のルートは王道もいいところだが、それ故完成度も高く、終わり方も非常に良いものである。
すると、プレイヤーが彼女に対して少なくない感情を抱くのは必然である。
そんな中、他のヒロインのルートに入ると彼女は
「確実に死ぬ」
心の中で燃える熱い決意を確認し、俺は学園へと足を踏み入れた。
救済√1
桃井 桜
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