第2話

「まずいな」



 前回ルシフェルと共にいい感じに締めくくったはいいが、どうやら俺は道に迷ってしまったらしい。



「ゲームだとこんな道なかったんだけどな」



 ゲームだと武器屋を右に曲がるとローディングが入り、目の前にアクトの家が出てくるが、俺の目には複雑に絡み合う道々しか見えなかった。



「なぁルシフェル。アクトん家ってどこか知ってる?」



「我が知るはずないだろ。この世界自体が初めての経験でいっぱいなんだぞ」



 やはりこの邪神(笑)は使いものにならんな。



「だけど道を聞こうにも」



 周りを見渡す。



 人々が俺を避けるかのように道を開け、その姿は王様、などではなく純粋に



「やっぱアクトは嫌われてんな」



 この世界は魔法が存在するが、科学も同じように存在し、その技術は俺達の時代と遜色ないものがある。



 そのため西洋風の世界にも関わらず新聞もあり、今の年月を確認してみると、今はどうやら原作が始まって一ヶ月ほど経った時間であり、それが示すことは



「もう俺は狙われちまってるわけか」



 今の俺は皆からしたら邪神教に狙われる危険人物であり、狙われるだけの悪逆性を秘めていることを明示している。



「これじゃ道を聞くことすら出来ないな」



 万策つき、今日は野宿かと考えていると。



「あ、あのー」

「ん?」



 耳が熔けるような、甘い声が耳に広がる。



「さ、先程からここをウロウロされていましたが、どうかされたんですか?」

「え!い、いや怪しいものじゃありませんよ」

「そんな言い方だとさらに怪しく思われるぞ」

「じゃあ怪しいものです!!」

「それはもうただの怪しい奴だぞ!!」



 突然話かけられたことに動揺を隠しきれないでいると



「ふふ、大丈夫ですよ。私の考えが間違いでなければ道に迷っていたということで大丈夫でしょうか?」

「は、はい。間違いないです」



 なんだろうこの女性?



 不自然にダボっとしたフードを被り、あたかも顔を見られたくないと言ったような出姿。



 だがその喋り方と佇まいからは高貴さと優しさが伝わり、自然と警戒心を緩めてしまう。



「私の知る場所であれば道案内できるかもしれません」

「え、あ、あのーそれはー」

「?何か言えない事情でもあるのですか?」



 おそらくだが、彼女?は俺がアクトであること、もしくはアクトという存在を知らないのだろう。



 ここで俺がアクトであるとバレること、ましてや俺という存在に関わってしまうことはよろしいことではない。



「なぁルシフェル助けてくれ」

「何をだ?」

「自然と道案内は必要ない感じで話を曲げてくれないか?」

「どうしてその必要があるんだ?このままだと家に帰れんだろ?」

「悪いな、今日は野宿だ」

「な!!い、嫌だ!!我はあったかいお布団と柔らかい枕がないと眠れないんだ!!」

「いやお前結構わがままだな」

「そこの人間。こいつの名前はアクト。なんか有名っぽいからそこまで案内せよ!!」



 こうして邪神(邪魔)に相談したことを後悔する俺であった。



「アクト?って!!まさかあの有名な!!」



 まずいな。



 俺という存在がバレて一番厄介なのは俺のラスボスムーブ、つまり悪役としての演技が必要になることだ。



 道を歩く程度ならこの仏教面が役に立つが、会話をするとなれば話は別だ。



 悪いなお嬢さん。



 これを機にアクトと関わらない人生を送ってくれ。



「クソ!!このガキが。もう少しでこいつを人気ひとけのない場所まで連れて行けてたのに!!やっぱり使えねぇなぁ!!」

「な!!アクト。お前そんなこと考えてたのか!!見損なったぞ!!」



 いやお前は騙されるなよ。



 てかマジで邪神やめろよこいつ。



 だがこれでこの人も俺が危険人物であると分かるはずだ。



「どうしてそのような嘘をつかれるのですか?」

「ほぇ?」

「お前嘘をついたのか?嘘はいけないと我は思うぞ」



 マジでこいつ黙らないかなぁ。



「ど、どうして嘘だと」

「どうしてと言われましても、私には分かるからとしかお答えできません」



 ん?



 このやりとり、どこかで



 ◇◆◇◆



『ねぇ××本当に大丈夫なの?』

『心配しないで◯◯。僕は絶対に死なないからさ』

『どうしてそのような嘘をつかれるのですか?』

『き、君は?』

『今は私のことなど気にしないで下さい。それよりもあなた、死ぬつもりですね?』

『××!!』

『そ、そんなわけないだろ!!どうして嘘だと分かるんだ!!』

『どうしてと言われましても、私には分かるからとしかお答えできません』



 ◇◆◇◆



 脳裏に浮かぶのは主人公が死地に赴く時のやりとり。


その時に登場するフードを被り、顔が見えない彼女は



「ま、まさか!!」



 よくよく考えたらこのフード、認識阻害がかけられているのだろう。



 そんな高級品つけられる人間なんて



「エ、エリカ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「え!!ど、どうして!!」



 ひじりエリカ



 ヒロインの一人であり、常に認識阻害の魔法がかかったフードを被り、ゲームの後半まで謎のお助けキャラとして登場する。



 そしてその正体は俺を唯一滅ぼせる存在である



 聖女



 うわぁぁぁぁ、本物のエリカだ。



 腰にまでのびた金色の髪はまるで神々の最高傑作と呼ぶに相応しいほど綺麗であり、その容姿は道いる人々が思わず百度見してしまうほどである。



 そんな彼女はまさしく神に愛された存在であり、その性格は皆を愛する優しい性格。



 だが、優しさは時に人をダメにすることも知っており、主人公に対して厳しい言葉をかけることも多々ある。



 まさしく聖女に相応しい存在である彼女は、俺に正体がバレたことによりフードによって顔は見えないが慌てふためいている様子が手に取るように分かる。



 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(クソデカため息)



 可愛さに限界化するのもいいが、原作通りに進める必要があるため、まだ俺は彼女に関わるべきではない。



 ここは聖女であることを見破った言い訳をし、速やかに彼女と距離をとるしかない。



「ヤッベー、クソ可愛い。結婚したいなー(どうしてお前の正体が分かったなど、お前が知る必要などない。だがこれは運がいい。ここで正体をバラされたくなければ大人しくするんだなぁ)」

「え?」

「おいアクト!!心の声と言うことが逆になるなんて今時のギャグ漫画でもしないぞ!!」



 し、しまった!!つい本音が!!



「だ、騙されたな。今のはお前を油断させるための罠だ」

「ホントに私と結婚したいのですか?」

「あ……」



 エリカの魔法は光であり、その属性は唯一の存在である聖女にのみ与えられる。



 その効果は多種多様であり、その一つの能力が



『嘘を看破する』



 この力はゲームだと自身よりレベルが大きく劣るものにしか通用しない。



(その効果がNPCにも使えるから、ゲームを進めるごとにこの世界の設定がどんどん分かるのが楽しかったんだよなー)



 そして、アクトは作中でも屈指の雑魚さを誇っており?ラスボスとしては高難易度もいいところだが、それ以外だとレベル1のクソ雑魚ナメクジである。



 つまり、俺の言葉は全て彼女の能力の対象となる。



 そのため



「…………」



 俺のとった行動は沈黙。



 これが答えだ。



「先程のあなたの言葉に嘘はありませんでした」

「…………」

「私たちは初対面のはずですが、どうしてそう思って下さったのですか?」

「…………」

「お答えできない理由があるのですね」

「…………」

「あなたは周りの人々からあまりよろしくない噂を聞きますが、あなたの言葉からはわざと私を遠ざけようとするのがわかります」

「…………」

「きっとあなたにも何か事情があるのでしょう」

「…………(何か流れ悪くない?)」

「私ならあなたの助けになれるかもしれません。もし何かあれば教会に足を運んで下さい。私にできることなら僅かながらの助力をさせていただきたいです」

「…………(ホンマええ子やなぁ)」

「そ、それと先程の返事としまして、まずはお友達からといことで」

「…………(泣)」

「と、とりあえずあなたのお家まで道案内させていただきますね」

「…………」



 ラスボスムーブって難しいな。



 ヒロインを遠ざけるはずが、黙ってたらいつの間にかお友達になっちゃったよー♪



 いやダメじゃん!!!!!!!!!!!!!!!



 俺の知る限り、原作だとエリカはアクトのことを死ぬほど嫌悪していたはず。



 ここで仲良くなってしまうのは(死ぬほど嬉しくはあるが)心優しい彼女は俺を滅ぼす時に傷ついてしまう可能性がある。



 ここは



「着きましたよ、あなたのお家はある意味有名ですからね」

「…………」

「きゃっ」



 まるで邪魔だと言わんばかりに彼女を力いっぱい払い除ける。



 言葉が意味を成さないのなら、行動で示すしかない。



「…………」

「じ、自分でやっておいて何で泣いてるんだ!!」



 そのまま俺はエリカを用無しとばかりに無視し、ルシフェルと共にアクトの家へと入る。


 去り際に見た彼女の様子はどこか悲しげであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る