2a


酒場の中に入った途端、リリスが少し恥ずかしそうに顔を俯ける。俺はそんなリリスを見て、彼女はリリアたち以外の人たちがいる中で自分の姿を見せることが初めてだと気付いた。

リリスの姿を見た瞬間、店内にざわめきが広がっていく。それは俺がリリスと出会った時から変わらない現象だった。そのため特に何も思わなかった俺は加奈を連れて空いているカウンター席に向かう。その途中、俺が振り返って見ると、そこに立っているはずのリリスが消えており、リリアとリゼルが座っているだけだった。

俺が二人の近くまで移動してから「おい、何があった?」と尋ねると、俺の前にリリスが現れた。そんな彼女を見たリリアが「お姉様、綺麗」と思わず口にしていた。

俺は現れたリリスが、さっきまで見ていた彼女と同じだとは思えないぐらいに雰囲気が変わっている事に驚いてしまう。

俺の前に現れた彼女は全身から光を放ち、神々しさすら感じられた。そしてそんな彼女の姿を目にしていた周りの者たちから驚きの声が聞こえてくる。そんな彼らに対してリリスは何も言うことはなかった。いや、そんな余裕はなかったと言うべきか。なにせ彼女の顔色は青白く、明らかに具合が良くなかったのだから。そしてそんな彼女を心配したのかリリアが立ち上がろうとするとリリスがそれを止める。それから彼女は「心配かけてすみません」と言ってリゼの隣に腰掛ける。俺はそこでリリスに一体どんな魔法を使ったのか聞いてみたのだが、リリスはその魔法について詳しくは説明できないと言い出した。その言葉に対して俺は「無理には聞かないけど、大丈夫なのか?」と尋ねてみると彼女は「今はなんとか」と返してきた。その声色からして、あまり大丈夫ではないようだと感じた俺はとりあえず話を変える。

「さっそくだけど、加奈のことなんだけどさ。この前リリスと一緒に行った街にいる加奈の姉ちゃんに会いたいと思っているんだよ」

するとリリスが真剣な眼差しを向けてきて「どうしてでしょうか?」と尋ねてくる。

「ん? そりゃあリリスの母さんから頼まれたからさ」

「私のために、わざわざここまで来てくださるなんて嬉しいです」

「加奈の事は嫌いなのか?」

「いえ! 決してそのようなことはありません」

「じゃあいいんじゃないのか?」

俺がそう問いかけるとリリスは黙ってしまう。そして俺のことを見つめたまま何かを考えるような仕草を見せていた。そんな彼女に俺は「なんか都合の悪いことがあるのか?」と告げる。すると彼女は申し訳なさそうな表情で「私が人間に恐れられていたことを思い出されて。それで加奈さんに不快な思いをさせてしまうのではないかと」と呟いた。

確かに今まで人間がリリシスに対してどういう態度を取って来たのか俺もよく知っている。だが、加奈がどんな思いを抱いても構わないと俺は思ったので気にしないで欲しいと伝える。そうすればリリスはほっとしたように息を吐いた。

「ところで加奈はどんな子なんだ?」

俺がそんな質問を投げかけると、リリアが代わりに答えてくれる。

「あの子は昔から引っ込み思案な性格で、他の子と馴染めずにいつも一人でいる子だったんです。だからリリアとは大違いで」

「ちょっとリリアお母様!」

「本当のことだろう? お前は誰とも話そうとしなかったじゃないか」

リゼが加奈と仲良しだという事を知っている俺は、加奈と仲良くなりたいという気持ちが強くなっている自分に気づく。だが、それと同時に加奈に対しての感情が大きくなっていくのも理解した。だからこそ、俺は加奈の姉であるリリスのことが気がかりになっていた。

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俺達はリリスの先導によって森へと向かうことになった。そんな道中にリリスがこんな話をしてくれた。それによると彼女の両親は人間たちに酷い目に合わされたことがあったらしく、それ以来、人間の事が信じられなくなったのだという。それでも彼女がリリアたちのことを信頼するようになったきっかけは俺との出会いであったらしい。それを聞いて俺は、リリアたちと出会った時のようにリリスと出会っていたらと願うようになっていた。そんな風に思っていた時にリリスとリリシアの出会いのエピソードを聞くことになる。なんでもリリスとリリシアはリリスがまだ子供の頃に出会い意気投合したという。それを聞いた俺は羨ましいと感じていた。俺の場合は勇者と元女神だから最初から仲良くなったけど。そう思うと、俺とリゼの関係はまだ発展途上でしかないと痛感する。しかしリリスはリリシアの過去について触れ始めたので俺はそれに耳を傾けた。

どうやらリリスは俺の知らないうちに、俺の仲間の一人であるエルフに命を助けられ、そこから少しずつエルフたちに対する考え方が変わっていったのだと言う。そして今に至るという話を聞きながら歩いていると森が見えてきた。そのことに俺とリリアが気付くとリリスはこう言ってきた。

「ここから先へ進んでも構いませんが、その前にお願いがあります」俺は「ん? 何だ? できることならやるぞ」と答えるとリリアの方を見る。そしてリリアが「レイジなら何でもしてくれるわよ」と言ったのを確認してから、改めて「何だよ? 言ってみてくれ」と言ってみるとリリスが俺にこう告げた。

「レイジ様は加奈さんに好かれているとリリア様から聞きました」

「そうだな」

俺はそう返事をした直後に「もしかすると加奈はリリスの事も好きになるんじゃないかと思うんだが、それはいいのか?」と尋ねてみる。すると彼女は「それはリリィたちが望んでいるのであれば」と言ってくれたので俺は嬉しくなった。それから彼女はリリィからの手紙に書かれてあった内容をリリスに伝えた。そしてリリアも「加奈がお兄ちゃんに懐くようになったので加奈はもう私の妹じゃなくなります」と口にしている。それを聞いた俺は、リリスが加奈のことについて考えていると察して声をかける。「もしかして、その加奈って子がリリィの娘だと分かったらリリスは自分の居場所がなくなるかもしれないとか思っているのか?」

「そ、それは――そうですね」

リリスの言葉を聞いた俺は、彼女に向けて笑みを向けると「そんなに難しく考えることはないんじゃないのか?」と告げた。しかし、俺のその発言に対してリリスは何も答えることはなかった。

「レイジはやっぱり分かっていませんね」

俺の隣を歩くリリアがそう呟いてくる。俺は何の事だと尋ねた。すると彼女はこう言葉を紡いだ。

「リリスはきっとレイジの傍に居たいと思ってくれているのに、そんなこと言われちゃったら悲しくなっちゃいますよ」

リリアの発言を受けて俺はリリスのことを見てしまう。彼女は俺の視線を感じたようで「どうかされましたか?」といって首を傾げた。俺は慌てて「いや、その、加奈の姉ちゃんがリリスのことを好きなのかどうか確認してくるよ」と言って森の中に入っていくのであった。


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それからしばらく歩いた俺はようやくリリィという女性を見つけたのであった。そして加奈の姉でもあるリリィはリリスよりも年上の見た目をしており。リリアやリリスのような美しさを持っていたのであった。俺はその事に感動しながらも、リリィにリリスについて相談をしようと思い、彼女の下へ向かったのであった。

それからしばらくして、俺はリリィに加奈の姉貴に会いたいと伝えると彼女は快く応じてくれた。その事でリリィが本当に優しい人だと分かる。俺は加奈と仲良くなれたら嬉しいと思いながら加奈の姉である加奈の下へと向かって行くことにした。そして歩き続けている最中に俺はリリアに声をかけられた。彼女は「加奈さんのお姉ちゃんが気になっているんですか?」と尋ねてくるので、加奈の姉に会いたい理由を話すとこう返してきた。それは加奈を大事にしていると思えるリリアと仲良くなって加奈とももっと交流をしたいということを伝えるとリディアさんは笑みを浮かべて「わかりました。では、まずは私がリリムとレイジの間に産まれた子供だということを伝えないといけませんよね」と言い出した。俺は彼女の言っている意味がわからなかった。すると彼女はこう口にした。

「リリアが教えてくれたんです。私はあなたの妻として選ばれたことを」

そう言った彼女はどこか嬉しそうにしていた。俺は彼女の言葉に対して反応することができなかった。するとリリアから説明が入る。その内容は俺には初耳でしかなかったのだ。そして俺は自分の中に芽生えたある感情に気づいてしまった。それは俺とリリアが夫婦になったということだ。それを実感してしまった俺は恥ずかしさを覚えると同時に心の中でこう呟いた。「マジか」と。そして俺はこの世界でのリリアとリリスの事を思う。二人は元勇者と女神であり俺とは身分があまりにもかけ離れているため俺には二人の間に子供を産ませることができないと判断する。そんなことを考えながらも加奈の姉貴とリリィの元へ向かって歩いて行く。そして俺は加奈の姉とリリリスに出会ったのであった。

「えっ?リリスちゃんなの?」

俺と対面を果たした加奈の姉である加奈が目を丸くしながら驚きの声を上げている。

「はい、久しぶりです」

リリスのその言葉を受けて加奈が俺を見つめてきたので、俺は彼女と目を合わせて微笑んで見せる。すると加奈は頬に手を当てると俺の方に近寄ってくる。

「ちょっとリリアさん、リリスちゃんはこんなに大きくなってしまいましたが。まさか私の妹なんですか?」

加奈のそんな問いかけに対して俺はこう言葉を返す。

「リリアの話によれば加奈が姉らしいけどな」

俺がそう言うと加奈が「リリアさん、本当ですか?」とリリアの方を見て尋ねる。するとリリアが苦笑いをして口を開いた。

「リリスが私のお腹にいる時にリリスは加奈に会ってみたいと言っていてな。そしてリリスが生まれてきて初めて喋った時に『私は加奈姉様の妹です』なんて言い出してしまって。それで勘違いをしたまま今に至ってしまったのだ」

それを聞いた加奈は、信じられないという顔をした後に「リリスはそんな風に言っていたんですね」と口にする。それを見た俺は彼女が少し混乱気味なのだと感じてしまい、すぐにでもリリスを安心させてやりたいと思っていた。だから「ちょっと二人で話がしても良いか?」と加奈に尋ねる。

俺のその発言に対してリリアとリリスの表情は曇る。加奈はそんなリリアたちを気遣うように視線を向けた後に俺の方を向く。そして彼女はこう言って来た。

「私も加奈と話をします」

俺は「リリスが不安に感じてしまうからダメだ」と告げる。すると彼女は困り顔になり「レイジさんの気持ちもわかるので」と言ってくれたのであった。


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「リリスがリリスのお母さんが亡くなってからずっとお母様と一緒に暮らしていたって聞いていたのに。どうしてお母様はリリスがここにいるのを教えてくれなかったのでしょう?」

「きっとお前が傷つくと思って教えなかったのだろうな」

「そうなんですか?」

リリスが俺の言葉を受けて首を傾げると、リリアが「リリス、すまないが今はリリィたちと仲良くしてくれないか?」と言った。その瞬間にリリスの表情は笑顔に変わる。リリスはその事に嬉しそうにしている。それを目の当たりにした俺は、リリィたちに加奈の事は俺が責任をもって面倒見るので加奈の件については俺に任せてほしいと言ってみた。

リリスは俺の頼みを受け入れてリリアたちを連れて家に帰ろうとする。だが、リリアとリリスが帰る前に俺はリリアたちに向けて頭を下げた。

「ありがとう」と感謝の念を口にしてから俺は二人のことを見る。そして「これから加奈を頼んだぞ」と告げたのであった。


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リリスが帰って来るのを待っていたらリリスの父親が帰ってきたようだ。その事から俺達は、その男の帰りを待つことにする。そしてリリスが父親に連れられて戻ってくると、彼は俺たちに深々と礼をする。そして、その男の名前はアルクスというのだそうだ。それから彼はこう言ってきた。

「我が娘の面倒を見てくれてありがとうございます」

そう言って俺に向かって再度、頭を下げられてしまったので俺は戸惑ってしまう。

「リリアに加奈の事を任されたからな。当然のことだと思う」

俺は正直に思ったことを話していくとリリアも俺の意見に同意してくれる。

「そうだな。加奈も喜んでいた」

俺とリリアの言葉を受けてもアルクスは何も口にすることはなかった。その事が俺にとっては違和感だったのだが、俺達がこの世界に来てから何も食べることができていない事を思い出して俺はこう口にした。

「とりあえず飯を食うか? 何か用意するぜ」

俺がそう口にすると加奈の両親は俺達のために食べ物を用意すると申し出てくれた。それだけではなく加奈も一緒に食事をしようかと言ってきた。俺としては断る理由はないし、そもそも加奈の姉である加奈が目の前にいるので断るのはまずいと思ったので了承することにした。それから俺とリリアそして加奈とその父親の四人で食卓を囲む。それからしばらくの間、沈黙が流れる。するとその空気を壊すかのように加奈の姉である加奈がこう言葉にしたのである。

「あの、リリスはどうして私に会いに来たんですか?」

その問いに対して俺が答えようとしたら、それよりも先にリリスが自分の想いを加奈の姉である加奈に伝える。

「わたしが加奈姉のことを好きだからですよ」

「そ、そんな」

加奈は戸惑いながらもリリスに質問をぶつけてくる。

「わ、私には好きな人がいます。それでも構わないのですか?」

その言葉を受けて俺は、俺の事なんじゃないかと思いながら加奈の方を見る。しかし彼女は俺のことをちらっと見た後、視線を下に下げるとこう言ったのであった。

「構いません。私はお兄ちゃんが大好きなんです」

その言葉を聞いた加奈は「やっぱりそうでしたか」と言うと寂しそうにしていた。そして俺は加奈の言葉の意味を理解することができなかった。俺には兄妹がいないので、兄妹が恋仲になることに何の意味があるのかが理解できなかったのだ。

「リリス、あなたには好きな人がいるんですよね?」

「はい、いました。その人はもういません」

「どういう意味なんでしょうか? それは――まさか!?」

加奈のその発言にリリアが険しい表情で反応している。それからリリアはこう言った。

「そのことについては私に全てを任せてもらえないだろうか?」と。

「わかりました。リリアさんがそこまで言うなら。ただ、レイジ君と加奈が結ばれるのが最善だと私は思っています。レイジ君は加奈にとって必要な存在だと思っていますから」

リリアは加奈の言葉を受けて複雑な心境になっていた。俺とリリスの関係性を知っている彼女は俺とリリスの間に産まれた子供が自分の子供であることを思い出したのかもしれない。

「加奈姉さん、心配しないでください。リリスは私が守りますから」

「私からも加奈ちゃん、ごめんなさい」

リリスとリリアの二人に言われてしまった加奈の表情には暗い影が見えるようになっていた。それを見た俺が彼女に声をかける。

「加奈姉さん、元気出せよ」

「えっ、でも。私が勝手に落ち込んでいるだけなので。二人が悪いわけじゃないですし」そう口にすると加奈の瞳に光が宿る。そして彼女はこう口にしてきた。

「そうだよね。せっかく加奈姉さんの所に来てくれたんだもんね。もっと楽しませてあげないとね」

加奈は明るい声でそんな事を言ってくれていた。そのことが俺を安堵させることができた。その後すぐに、加奈と俺はリリアの家に連れて行かれることになるのであった。

リリアに家の前まで案内された俺は加奈と一緒に中へと入っていく。家の中にはリリアとリリィの他にリリスとリリィの妹であるカレンとサーシャがいた。ちなみに俺の隣に立っている加奈は、カレンと目が合うとにっこりと微笑んで挨拶をしている。それから俺は加奈の方をチラッと見てみる。すると俺と加奈の視線がぶつかった。俺は慌てて顔を逸らすが、なぜか彼女は頬に手を当てて頬笑んでいるようだった。それどころか、頬に当てた手に自分の指先を当てる仕草をして照れているような素振りを見せる。

(なぜだか加奈の顔が直視できない)

その加奈の姿を視界の端に収めてから俺の視線は再びリリスへと向かう。リリスは嬉しそうにして俺に抱きついてきた。それから俺は彼女の耳元に顔を寄せて囁いた。

「お前って意外と甘えん坊なんだな」と口にする。それを受けたリリアは「お前って本当に意地悪な男だな」と言って苦笑いをしていた。それだけではなく、加奈の事も気になる。だがリリアやカレンに視線を向けると気まずくなるだろうと思って俺は彼女たちの事は見ないことにする。

俺の態度を見て何かを察してくれたのだろうか。リリスはそれ以上、何も言わなかった。そして、加奈もまた何も言ってこなかったのであった。そんな風に加奈の事を意識せずに過ごしてしばらくした後。俺はあることに気づくことになる。その事とは加奈が俺に対して興味がないのではないかということだ。だからといって俺はその事実から目を背けることはできないのであった。

俺に加奈が近づいてくる気配を感じた。そして彼女は俺の手を握ろうとする。だから俺は加奈が何をしようとしているのかがわからなかった。そして次の瞬間、加奈はこんな言葉を口ずさんだ。

「お兄ちゃん。加奈の作ったお菓子があるから食べてほしいなって」

「おっ、加奈は料理ができるんだな」

「う、うん。でも加奈ってあんまり得意じゃなくて、お母さんの真似して作ってみたら上手くできたから」

加奈の表情に陰りがあった。おそらく加奈は俺の事をどう思っているんだろうと悩んでしまった結果、このような表情になったんだと思う。その事に気づいた俺は心の中で彼女に謝罪した後に「ありがたくいただくよ」と言ってからクッキーを手に取って食べる。

俺は美味しいという言葉を伝える前に加奈の方を向いてこう言った。

「ありがとう」

俺の言葉を受けて加奈の笑顔に変化が起きる。それだけでなく俺の手を握ってきたのだ。加奈は恥ずかしそうにしているものの、しっかりと俺の目を見てくれていた。そんな彼女の行動はリリスにも影響をもたらして俺の腕を抱きしめて離さなくなってしまう。そして俺と加奈の様子を見てなのか。カレンは俺の背中にしがみついて来た。

そんな状況になって俺は戸惑っていたのだが、俺の前に立つ女性、リリアも似たような状態だったため俺達は四人の女性たちに囲まれている状態になったのである。俺はリリアとリリスの姉妹を見るがリリスはリリィたちの面倒を見ているため俺達に構うことがなく。リリアもリリィの方にずっと視線を向けていたのだ。


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リリスの家は広い。しかも二階もあって三階建ての立派な作りになっている家だ。一階は食堂のような場所になっており、食事を楽しむことができるスペースとなっているようだ。その食堂にはたくさんのテーブルが用意されていて俺たちは席に着くことになった。そこで俺たちはお茶を飲みながら話を始めていくことにした。

最初に話を切り出したのは加奈の姉の加奈だ。彼女は自分が魔王の娘であることを打ち明けて加奈との関係を正直に伝えてくれる。その事がわかった俺達の間に少しばかり緊張が走る。しかし加奈は自分の母親に勇者として選ばれた時に告げられた言葉を思い出しながらこう言ったのであった。

「母さんも言っていたんです。もし、自分よりも強くてカッコいい男性と出会ったら自分の方から告白しなさい。それが無理なら諦めなさいと」

加奈の言葉を聞いてリリスとリリア姉妹は驚いていたが、俺はその言葉の続きを聞くことに集中する。そして加奈は言葉を続ける。

「その言葉が真実かどうかはわかりませんが、私はお兄ちゃんに出会えて良かったと思っています。それにお兄ちゃんが加奈のことを好きだと言ってくれた時はとても嬉しかったです」

加奈はそう言うと、顔を真っ赤にさせて下を向いてしまう。その様子を見たリリアは複雑そうな表情を見せていた。そして加奈の母親がどんな人物かはわからないが。加奈の姉であるリリアの気持ちが俺には理解できたので俺はリリアにこう言った。

「大丈夫だ。リリアのことは俺に任せろ」

俺のその言葉を聞いたリリアは一瞬驚きながらも「ありがとう」と言った後で、加奈の姉である加奈のことをじっと見つめるのであった。

私達が夕食を終えて食後の時間をゆったりと過ごしていると私の家に住む二人の女の子が加奈の所にやってきました。その二人がやってきた理由は一つでしょうね。私は加奈が加奈の妹さんに好かれているということを知っていました。だけどその相手がお兄ちゃんだったのは完全に予想外でしたけど。それでも私にとってはお兄ちゃんが誰を選ぼうと応援しようと思っているのです。お兄ちゃんは私が守ると決めていますしね。

そんなお兄ちゃんが、妹のカレンちゃんに抱きつかれて加奈と一緒にどこかに行ってしまいます。それを見ていた私は寂しく思いますが、そんな暇もなくリリスに手を掴まれます。そしてそのまま、私達の部屋に連れて行かれたのです。

リリスの部屋に入るとすぐにリリスは私を押し倒してきました。その事に私が驚く間もなく唇を奪われてしまいます。その感触が気持ちよくて私は抗うことを忘れていました。

しばらくして私はリリスから離れようとしますが、リリスは許してくれません。だから私は、抵抗する事を諦めた後に、こうお願いすることにしたのです。

――優しくしてほしいと。

すると、すぐにその願いは叶えられました。最初は私からリリスに舌を絡めるようにしたはずなのに。今ではすっかりリリスが主導権を握ってしまっている状態なのですね。私がそう感じ始めた頃、私の身体に快感が押し寄せてきます。それからリリスは私の中に入ってきたのです。その瞬間、頭が真っ白になりそうになるほどの感覚を感じてしまいます。

リリスと私が交わっている最中にリリィの悲鳴を聞きました。それで私たちは行為を一度中断することになります。リリスはすぐに服を着てからリリィの所へと駆け付けていきます。それだけではなく。リリスと入れ違いになるようにリリアも出て行きます。

そして、すぐに戻ってきたリリスの表情は真剣そのもので。何か重大な事件が起きたのだと私でもわかるものでした。そしてリリアとリリィ、そしてカレンとサーシャと一緒にこの家から避難するようにと言われたわけです。

それを受けた私たちが家を出ると同時にリリィが家に向かって何かを放ちます。それはリリィの攻撃魔法なのですが、それが家の壁に当たって弾けた時の衝撃波によって、家が大きく揺れ動く。それだけでは収まらず家の外まで爆風が流れてきたのだ。だから、リリィが放とうとしている魔法は威力が高く、広範囲に影響を及ぼすものだということは想像ができたのであった。

家の外からそんな轟音が聞こえてくる中をリリアとリリイの二人は走って移動していた。その後を追うように俺、加奈、加奈の妹のカレンの三人も追いかけているのだ。

そしてたどり着いた先にはボロボロになった家が目に入ったのである。その様子を見つめる俺に対して加奈は「あの家がお母さんたちが暮らしている家なの。あっちの方は無事なんだけど、他のみんながいる場所からは離れていて」と言ってくれた。それから俺達はその方向にある建物へと足を進めることにする。だが、そこには魔物と思われる存在がいたのだ。

「ギィイ」

俺はその鳴き声を聞いただけで恐怖を覚える。それほどまでに、俺に襲い掛かってきた相手、ゴブリンというのは恐ろしい見た目をした怪物なのだ。その姿を見て俺は加奈を庇うような立ち位置へと立つ。そして、俺は剣を構えて戦う姿勢を見せる。

だが俺は気付いていなかった。目の前に現れたゴブリンは俺に敵意を持っていないということに。それだけではなく、俺を襲おうともしていなかったのであった。

俺はその事実に気づいてからゴブリンと目が合うと、彼は「キェーッ」と甲高い声で叫んだ後にこんなことを言い出したのである。

「勇者様。僕たちのことを助けてください」

そんな言葉を俺に投げかけた後、俺の前で片膝を付く。それを見た俺と加奈は驚きの声を上げていたのである。まさか俺のことを『勇者』だと思って話しかけてきたとは思ってもみなかったからだ。しかし俺が戸惑う中でカレンだけは俺の事を心配そうに見上げていた。

それから、俺はどうして自分たちがここにいるのかを伝える。その上でゴブリンの集団に事情を話すよう伝える。彼らは俺たちに敵対の意思はなく、助けてくれるなら助かると話してくれたのであった。俺はそのことを確認してからゴブリンたちに家の中にいた人たちを呼びに行くように指示を出す。するとすぐに何人かが行動を開始してくれたのである。

それから俺はゴブリンたちを信用できるかどうかを判断するためにも、彼らに同行してもらうことにした。もちろん俺一人でも行くつもりではあったが。

そうしていると、リリスが戻って来たのだ。それだけでなくリリスの傍にはリリィの姿もある。リリスは俺たちの姿を捉えると「もう来たんですね」と言い、そしてリリスが戻ってきてからリリアはリリスの元に近づいてきたのであった。


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私はお姉ちゃんから加奈ちゃんの話を色々と聞いてから。リリィちゃんの案内の元。リリスさんの住んでいる家へと向かった。だけどそこで見たものはあまりにも悲惨な光景でした。

家の壁が砕けて崩れていたり、屋根の一部がなくなっていたりしていて、リリスさんの家だというのは一目見てわかりました。そして、その状況を目の当たりにしてリリスさんのお母さまが倒れてしまっていて、その側には加奈ちゃんのお父さんもいてリリスさんのお父様に肩を支えられていた。そんな様子を確認した私達の中でリリスさんが真っ先に動いた。リリスさんはその二人の方に向かうと回復の魔法を行使していく。そして二人を回復させたリリスさんはリリィの方を向いて、家が崩れたりしていないかを尋ねたのです。

その質問に答えた後でリリィさんは加奈さんとカレンさんを連れて家を出ました。リリィさんの話では今から別の場所に避難をするということでした。その避難場所というのがリリスの家には地下室があり。そこでなら被害が及ばないという話でした。その言葉を聞いたリリスさんはすぐにその場所に向かいました。しかし、リリィさんだけがその場に残ります。

「リリスはここで母上や兄上たちの治療に専念するといいよ」

「ありがとう」

「私に任せて」

そんなやり取りをしてリリィさんは私達と一緒に来た道を引き返して外に出た。そして加奈さんがリリスさんの家族と住んでいた家に辿り着いた時には、その家はボロボロになっていたのです。それを見て私は不安を感じてしまいます。なぜなら、その建物が壊れてしまうのではないかという不安があったのです。だけど加奈ちゃんは気にすることはなく、建物の方に歩いて行きます。

私もそれを追いかけると。そこに一人の女性がいました。加奈ちゃんとカレンの姿を見て安心して笑顔を見せています。私はその人の事をよく知っていました。そして、加奈がその人に話しかけます。そして、彼女がリリスさんの母親だと告げた時に私には驚きが襲いかかったのです。リリィさんによく似た容姿を持つリリスさんの母親というのに驚いてしまったからです。リリィさんと双子と言われてもおかしくないほど似ているからです。それからすぐにリリスさんが母親を抱きしめます。

「リリス。よくぞ無事で」

そう言うリリスさんの言葉には色々な感情がこもっているような気がしました。リリスさんはそれからすぐに加奈ちゃんに母親の事を紹介をしてくれます。そして彼女の方から私のことも紹介してくれたのでした。それから彼女は私達に自己紹介をしてくれる。私達は彼女から名乗ってくれたことで自分達も名乗り返すことができたのです。

それから私達は彼女と少しだけ話をした後で、この場所から離れることになりました。その理由として私達がリリスの家の近くにいることでまた何かが破壊されるかもしれないということだったのです。

そのことに加奈ちゃんは同意を示します。そして私は加奈ちゃんがどうしてそこまで自信があるのかわからなかったので尋ねました。その答えは単純で、家が崩れるようなことはないと断言していたのです。それは何故か尋ねると、この世界はゲームの中の世界で現実とは違うと説明を受けました。

私はまだその言葉を信じられずにいましたが、カレンの言葉でその言葉を信じることになったのです。その証拠に、私達が移動を始めた途端に、先程私達の家が崩壊したのとは比較にならないくらいに激しい音が響いてきたのでした。

私達の後ろからリリスさんたちが走って追いかけてきています。私達は走り続けながらこの場を離れようとするのですが。私と加奈は体力の限界を迎えてしまいました。

すると私達の様子を見たリリスが「私の家に行ってください」と言うと私達を抱えて移動を始めてくださったのです。リリスが移動した場所は私の家とは真逆の場所でした。でも私達は無事に辿り着くことができました。

家に入ると、リリスさんは「すぐに飲み物を準備しますね」と口にしてからキッチンに向かっていくとすぐに人数分のコップを持って来てくれたのでした。それを受け取った私はすぐに飲み干します。そして私だけではなく、加奈も同じことをしたのでした。ただそのタイミングで私達はリリスにお礼を言うことができなかったのです。それどころか私達は疲労で動けなくなってしまいました。

その事に私達は慌てるのですが、それでもリリスさんは落ち着いてくれます。まず私とカレンの服を着替えさせてから、布団を用意してくれてから、私達を寝かせてくれたのです。その後、カレンとリリスが看病をしてくれていました。その間にリリィとリリアは家から避難している人たちを全員助けに行ったのでした。

リリィが戻ってきたのは私が眠りについてしばらく時間が経った頃でした。そして加奈ちゃんとカレンは目を覚ましてからリリィが持ってきてくれた食事を口にしていた時です。その時にリリィが加奈ちゃんとカレンに対して謝ってきたのです。リリィの話を聞いた二人は気にしなくていいと言ってあげていたのが印象的でした。

「そう言っていただけるとありがたいですね」

そう口にしたリリィに対して加奈は疑問を投げかけていきました。どうしてここまで必死になって私たちの面倒を見ようとしてくれたのか。そのことについて問い質すと、加奈ちゃんは真剣な表情を浮かべていた。それに対して加奈ちゃんの質問を受けた後、しばらくの間、黙ってしまったのです。そして、沈黙の後にリリィは語り出した。

リリィは話を終える前に、どうしてこのようなことをしようと思ったのか、その目的を伝えてくれました。その内容を聞いて、私達は言葉を失ってしまうことになる。

加奈は困惑したような様子を見せたが、私はリリィの想いを理解することはできませんでした。加奈ちゃんに至っては、その話が信じられないという様子を見せていたのです。私はそんな二人を眺めながらこれから先のことを考えていきます。

加奈ちゃんが目覚めたことで。私はようやく考えることができている状態でした。今のままの自分でいると、この村に住む人達を助けることはできないのではないかと感じてしまっているのです。そのためにも自分の力を伸ばしたいと考え始めます。するとカレンは私の事を心配したように声を掛けてきたのです。そんなカレンに対して私は「大丈夫」だと伝える。そうしなければ私はこの村の人のために戦うことなどできないと感じてしまったからだと思います。だからこそ。

私はリリィが作ってくれた食事をゆっくりと味わいながらも食べていた。だけどそんなことをしている間に時間は経過していく。その間も加奈ちゃんたちはリリィの事を疑いの目を向けたまま。私はどうにかしようと思って声をかけようとしたけれど。その時、リリィは私達の前に一枚のカードを提示させました。そして加奈さんたちに対してこう言ったのです。

◆ミレア視点 私はリーアからゴブリンたちから事情を聞くことになったのである。彼は私の傍にいる男性と女性の二人を見て驚いていたけど。その反応には慣れていたのであまり気にしてはいなかった。ちなみにゴブリンたちの方は人間ではないとわかったみたいで驚いていた。

それからリーアが彼らと話し合うと決めたようだ。それを聞いた私はゴブリンたちに確認を取ってみる。そして彼らの意思が本物であることを確認して同行させることにしたのだ。

私はそんなやり取りをしている間もリーアの様子を見守った。

そんな時にふと思い出す。私は今までにたくさんの魔物と遭遇してきたが一度も勝てなかった記憶しかないのだ。もちろん、その魔物は上位に位置する存在であるため簡単に倒すことなんてできるはずもないのだが。そんな私にとってリーアの存在は異質であったのだ。彼が戦えばどのような結果が生まれるか興味を抱いてしまったのである。

そして、そんなことを考えていながら私は家を出て行ったのであった。

私は今、家の外にいます。理由は私の隣にいる男性にあった。この男性はリリアの旦那さんらしい。そんな彼の名前はザラさんと言う名前らしく、私は初めてその名前を聞いたのだけど覚えておく必要がありそうだと思って心の中に留めておいた。

ザラさんのステータスを確認してみるとレベルが20という数字が出ていたのには驚いた。そんな数値の魔物と戦ったことがほとんど無いからである。だけど彼の能力値は普通の人と大差ないぐらいのものだった。だからそれほど脅威を感じる必要は無いと思えた。

しかし、その認識を改める必要があるかもしれないとも思った。だって、彼はリリスさんのお姉さんと手を繋いで現れたのだから。

その二人の様子はとても楽しげで、お互いに好意を持っているのがよくわかってしまうほど仲睦まじい雰囲気を出していた。

それを確認した直後だった。突然、私の頭の中にある言葉が流れたので驚いてしまったのである。

『その男は敵だよ』と頭に言葉が流れ込んだのは私だけだった。

それからザラさんはすぐにその場を離れたから良かったものの、リリスさんは少し離れただけで追いかけていった。それからリリスさんが戻ってきてからリリィが戻ってくるまでの間に何があったのかを説明してくれた。その内容は驚くべきものであったので私は驚きを隠すことはできなかったのだ。

リリスさんの話を聞いた後はリリィが戻ってくるまで待っているつもりだったのだけど、そこで私は一つの違和感を覚えた。それは、先程までは普通に接してくれていた男性がなぜか無口になってしまったのである。それがとても不気味だと感じた私。するとリリスさんの方を見て、彼女が手にしていた紙袋の存在に気づいて何かを察したような態度を見せ始めた。それは一体どういう意味を持っていたのか私には理解することができない。

ただリリィから話を聞いた限りじゃその中身には回復薬が入っていたはずだから、何かに気づいたのかもしれないね。

それから数分が経つと、リリスさんがリリィを連れて戻ってきたので私達はすぐに外に出たのであった。その際もずっと私のことを見つめ続けている男の様子を見てから不安を抱くばかりであったが、とりあえず今は置いておくことにしよう。

家から出てからリリスさんの家にたどり着いた時にはもうすっかりと日が沈んでいたのでした。それから私達はリリスさんに案内されるままに彼女の家にたどり着くことができたのだけど。そこで目にしたものに驚かされたのです。なぜならそこにいたリリスさんのご家族全員が怪我をして寝ていたのである。それもかなりの重傷で危険な状態に陥っていました。私達がそれを確認している最中でも、奥からリリィさんとリリスさんの悲鳴が聞こえてきたのでした。

私達が家に入るとリリィさんは「お義母様をお願いします」と言ってきて私達をリリスさんの寝室へと連れて行ってくれた。そこで私達はリリスさんの指示に従って行動を開始します。

私はすぐに魔法を使ってリリスさんの母親を治療していきます。その間にリリィとリリスは水や食べ物を準備するために動いてくれました。

そうやって全員で協力して何とか全員の治療を終えることが出来たのでした。リリスさんに母親を運ばせるために私達が協力し合ったのは自然な流れだったと思う。それに、私はこの場にいる人達のことを詳しく知っていないこともありました。

その後のことでした。

「ミレアちゃんが来てくれていなかったら私たちは危ない状況に陥っていただろうね」

「そうね。それについては間違いないだろうね」

「でもあの人はなんなのかしら? どうしてここにいるのかな?」

「わからないわね。でもあの言葉は本気だと思うよ。だって、彼ってかなりヤバい相手なんだから」

リリィの言葉を聞いたリリスの顔色が悪くなっていくのを感じました。その表情からはリリィの言葉が真実であることがわかったのです。私もその事は理解できるのでした。

「やっぱりそうなんだ」

「えぇ。その通りですよ。ですので、彼には注意する必要があります」

「うん。その方が良いかも。ところでリリィさんは彼のことについて何か知っているんですか?」

私はそう口にしてからリリィさんを見つめる。するとリリィは私のことを真剣な眼差しを向けてから口を開いた。

その言葉から私が感じ取ったものはただの恐怖だけではありません。私達の味方であるはずの人に対する怯えのようなものが含まれていました。そんなリリィの姿を見てしまったので、これ以上は何も聞けなくなってしまったのです。

私がリリスの方をチラッと見てしまうと彼女もまた私と同様に戸惑っている様子でした。その事から私は確信しました。やはりこの人達と勇者の子供には何か特別な事情が存在するということに。それを確かめるために私は二人に声をかけようとした時でした。

いきなりリリィがリリスの腕を引いてから、この場から離れようと促し始めたのである。私達はリリィの行動に戸惑いを覚えてしまいましたが、リリスの方はリリィに連れて行かれながらも、私達に謝罪してきたのです。その声は酷く震えておりました。まるで私に対して許してくれと言っているかのように私達から遠ざかっていきました。私と加奈ちゃんは顔を合わせてお互い困惑していることを目で会話をしていた。そして、どうしてあんな風に急にリリスさんを連れ去ったのか。

リリィは何を考えて動いているのか、その真意は私達にはわからなかったのです。それでも一つだけわかったことがありました。

リリィがリリスを連れて行き、この場に残ったのはリリィさんとリリィさんの父親だけになったのです。その事を確認した後、リリィさんの父親がこちらをじっくりと観察するように眺めていたのが印象的でした。その視線には私達を試そうとする意思が込められており、私達がどういう反応を示すのかを窺っているように感じられます。そんな父親の様子を感じたのかリリィさんは私達の方に駆け寄ります。それから私達は二人に家の中に戻るように伝えます。すると、二人はおとなしく言うことを聞いて家の中に戻っていったのである。

私達はリリィさんとリリィさんの父を見送り、二人が家の中に消えていくのを確認する。それからリリィさんが戻って来るまで待つことにしたのである。その間、私達は特に話すことも無かったため無言の時間を過ごすことになりました。それから数分が経過してリリィさんが家の中に帰ってきたのである。リリィさんはリリィさんのお姉さんを背負っており、それを見た私達は驚きの声を上げてしまったのである。そして私達の反応が面白かったようでリリィさんは笑みを浮かべるとこう言ってきました。

その言葉で加奈ちゃんも落ち着きを取り戻したのである。そんなリリスに対して、私は加奈と一緒にお礼を言うと、そのまま加奈ちゃんの手を引っ張るようにしてリリスの家から出たのである。

リリィさんにお辞儀をした後、私達はリリスさんの家に別れを告げたのであった。その際に、リリィさんは私に向かってこんな事を言ったのである。

「これからリリィとリリスさんに会いたい時はうちに訪ねて来て下さい。もちろん、いつでも歓迎しますから」

◆リリィ視点◆ リリスが家の中に戻るとミレアが出迎えてくれるのであった。そしてリリスは私と手を繋いでくれた。それが私はとても嬉しかったのだ。なぜなら今まで私は誰からも愛されなかった。それは私が悪い子だったからだ。そして、悪い子を拾ってくれたのは、お母様の友達のエルフだけだった。だから、私は自分の両親を知らないのだけど。それでもその人に育てられたから、お母様と呼んでいるわけだし、私とお母様の間に血の繋がりはないけれど大切な人だと思っているのは確かなことである。

「ありがとうね。リリィのおかげで命を助けられたわ」

「うん」

リリスのお母様に感謝される。その事が本当にうれしいことだった。だからこそリリィは満面の笑顔を見せてしまう。

それからリリスとリリスのお姉さんは私の家にやってきた。私にとって初めてのお客様だった。しかもその人はリリスにとって大切で特別な人だったのだから、私としても緊張してしまう。そんな私を見て、リリスがクスッと笑い声を上げると優しく頭を撫でてくれながら、「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」と言ってきたのである。

そのおかげで少し落ち着いた私はリリスと加奈ちゃんと、それからリリスと仲良しのリリスさんのお父さんと話をしたのだった。ちなみに、お客が来たからとリリィはリリス達を家に案内しようとしたけど、それを止めるとリリスの両親はリリィのことをリリィと呼ぶことに決めたらしく。リリィと手を繋いで仲良く歩き始めた。その様子を見てから私は家に戻った。それから私は、家に残していたミレアと合流して三人と合流するのである。そこで改めてお互いに挨拶を交わしてから、ミレアと加奈をリリスのご家族に紹介したのだ。

私はリリスのご家族を私の家に招き入れた後にお茶を用意している間に加奈はリリスの妹さんを慰めていたのであった。そこで私もミレアと共に加奈ちゃんを手伝っていたのだけど、リリスの妹さんはとてもいい人なので私も妹みたいに思えるのであった。そうしているとミレアが私を呼びに来た。私はその声で作業を中断しミレアの後を追うようにして外に出た。それから私もミレア達と手を繋ぐことになったのであった。リリスのお母さんは優しい人であることは理解しているつもりだけど、ちょっとしたきっかけがあれば何を言い出すか分からないような危うさがあるからね。それに私の家族のことをよく知らない人達が私に話しかけてきたのは予想外だったのよ。

私にとっては当たり前の事でも、他人からすれば普通ではないことがあるかもしれないと思ったから警戒してしまった。ただ、結果的にはそこまで警戒することもなかったとは思うのよね。

それにしてもリリスさんの家は不思議な空間になっていた。だって家の中にたくさんの本が並んでいる場所があり。そこでは見たことのない文字が書かれている書物が大量にあったの。私はそこで本を読んだりしながら時間を潰していくの。リリスさんはその本を簡単に読んでいくから凄いと素直に感じたわ。

そうやって過ごしていたらいつの間にかリリスさん達が私に近づいてきて私達の会話に加わることになる。私はその時に、リリィさんは勇者の娘だと聞いた。それに魔王の娘であると。私はそれを疑うこともなかったし、その事に恐怖を覚えることもなく受け入れていたのだった。そう思わせられるだけの力を感じたから。それに私自身勇者という種族に会ったことがなかった。

そんなリリスさんの話を聞きつつ、勇者であると紹介された人物を見るとリリィさんに似ていることに気づいた。だからなのか、その人の言葉をすぐに信じたのである。それくらいには、リリスさんのお父さんは私達に興味を抱いていなかった。それなのに――

そのリリスさんの言葉を受けてから、彼の行動は速かった。まず、彼が最初にやった事は、私の魔法で動けなくなっているリリスさんのお母様に剣を向けることであった。

私がその光景に驚き声を出してしまうと、そんな私の様子を嘲笑いながら彼は言葉を口にする。その声は私に対する侮蔑の言葉も含まれていたように感じるのである。私はそれに対して言い返すことが出来なかった。

それからも彼は行動を続ける。そうしてリリスさんは連れ去られて私は人質に取られてしまったのである。その事に対して私にはどうすることが出来ない。リリィはリリスさんの事で頭を抱えてしまっているようであり、何も出来なさそうな雰囲気だったのである。

そんな時である。

「お前、何してるんだ!」

そう言って現れたのは私の弟分でもあるリリィであった。そして彼女は私の傍に近づくとリリスさんのお父さんに向けて怒りをあらわにした表情を見せるのである。それから私は弟分の事を見つめていたのである。

私は目の前に現れた人物が誰なのかわからなかった。それでもこの人には絶対に近づかないようにしようと心に決めたのである。なぜならこの人の近くにいたリリィさんが明らかに動揺した姿を見せていたからである。それだけではなく、私の方にまでリリィさんは顔を向けてくると心配してくれていることが伝わる声色で私に声をかけてくれるが。正直今の状況で何を言われても不安な気分にしかならないためリリィさんの声に対して反応することができなかったのであった。そんな中で加奈ちゃんが、私に声をかけてくれたから少しは気持ちが落ち着いてくることが出来ました。

それに加えて、その加奈ちゃんは、あの男に対して強い殺気を放っているようで加奈ちゃんもかなり怖いと感じてしまったのであろう。

そんな事を思ってからリリィさんの行動を観察していると、その人がいきなり動き出した。

その事に私は驚く事しかできなかったのだが、加奈ちゃんの方はかなり動転しており、何か行動を起こそうと必死になっている。

それでも私はこの場にいる人達の行動を観察するしかなかった。下手に動くことで状況が悪化するのは嫌だったから。だから大人しくしている事を選んだのである。

そんな事を思っていたらいきなりリリィさんの方から声が聞こえた。そして次の瞬間には私達は宙を舞ったのである。そんな出来事を体験するとは思っていなかったのだけど、リリィさんの力なら仕方ないのかなって思いながら、リリィさんが無事に地面に降り立ってくれる事を願うばかりだった。そして、そんな風に願いながら、ゆっくりと目を開けると、そこには先程まで立っていた場所には、既に誰も存在しておらず、その代わりに二人の人間が立っているのを目にすると私は目を点にして驚いたのである。そして、その二人は私にとってとても大切な存在であるリリィさんとリリスさんであることがわかったのであった。

◆視点:東雲美月 俺は聖女とやらがどんな奴かを試すつもりでいたが。俺の攻撃を避けた後のその速さと対応を見て。こいつも中々やるようだと感じたのである。まぁそれでも今の一撃で終わりにするつもりではあったが。しかし、聖女のほうもそれなりに戦える人間であると分かったので良かったと思っている。

そしてリリスが家の中に入ってきたが、リリィが聖属性の波動を操って攻撃したことに驚いてしまい、思わず声を上げてしまったのだ。

リリィの力を間近で見ていたからわかることなのだが、その力は相当なものであり。その攻撃を初見であるにも関わらず回避できるということはそれなりの実力の持ち主であると理解できる。そして、その事実がさらに俺の中での聖女への期待感を大きくさせるのであった。

ただ、そのおかげでリリィが混乱した様子になりリリスの手を引いて家から飛び出したのだ。それを追いかけるように、聖女たちが追いかけていった。

そして、しばらくした後、俺の元にリリスの姉であるリリィが現れると。

「どうして貴方達まで付いてきちゃうんですか」

と困り顔をしながらそう問いかけて来た。リリスは苦笑いをしているだけであって特に文句を言うことも無かったから。リリィの発言の意味について理解できないということではないと思う。おそらくはなぜ自分達の事を気にしないのかと言っているんだろうと察することが出来るのであるが。俺もリリスもそれを伝える事はしなかったのであった。そうしないとリリスの機嫌がまた悪くなる可能性があると考えたからというのもあるが、リリスに余計なことを教えなくてもいいと判断したからという理由が大きい。それに何よりもリリスと姉妹の会話を楽しむ時間を奪いたくはなかったのである。そんな理由からあえて口を開くことはせずに、黙って二人の様子を眺めることにした。

リリアは姉であるリリスと楽しそうに話していたのである。その様子を見て微笑ましい気持ちを抱くとともに、二人が本当の姉妹みたいだと思ったのであった。

しばらくして、俺達がここに訪れた理由はリリスにある事を告げるためであると告げて。これから魔王と戦うことになったのだと伝えた。そうして伝える内容を話し終わったあと、リリスの反応を待とうと視線を送ると彼女は俯いてしまい何も言わなくなったのだ。

俺は彼女の反応から少し時間が経ってからリリスのことを抱きしめたい欲求に襲われる。だがそれは流石に不味いと理解していたため。俺はどうにか欲望を押し殺すことに成功して平静さを保つことに成功したのであった。そんな風に冷静を装っていたのだが、リリィと目が合うと、彼女に睨まれたためすぐにその行為を実行することはなかった。リリスも抱きついてもいいと思える相手がいるんだな。

そんな事を思いながらも、とりあえずは魔王を倒すことが最優先だと考えていると。リリィがこんな提案をした。それを聞いた俺は内心で驚きを感じている。

何故ならリリィはリリスのことを心配しているような言動を取っていたからである。それもかなり深刻そうな感じで、俺もリリスもその理由については聞くことは避けていたのだけど。リリスは本当に辛そうだし、俺としてもリリスには幸せになって欲しいから、そのリリィの提案に乗ろうかと考え始めている。

そこでリリィは言葉を発する。リリスのことを頼むという発言に。俺はそれを聞いてやっぱりこの人はいい人なんだろうなと思いながら、リリィのお願いを受け入れたのだった。

リリスが連れて行かれるとは聞いていたけど。それがリリィの妹さんだったなんて予想外だったわ。まさか妹さんまでも連れ去られることになるとは思わなかったのよ。しかもそのせいでリリィが落ち込んでしまうことになるとはね。でも、リリィのおかげで少しは元気が出たみたいで良かったわ。

それから、私はミレアさんと一緒にお風呂に入ることになってしまった。私は、その事がとても恥ずかしかったの。だからなるべくミレアさんを見ないようにしたわ。

そんな事を考えていたら、突然リリィさんの声が響いて来て、その事に驚きつつ、リリィさん達の会話に耳を傾けたの。そしてミレアさんとリリィさんの関係を知り、私はとても複雑な心境に陥ってしまった。そのせいなのかわからないけれど。自分の感情が整理できなくなり、涙を流してしまった。そして私はそのことに驚き。涙を止めることは出来なかったの。そしてそんな私の事を優しく撫でてくれるのが、リリィさんだと知って嬉しかったし。私の心を落ち着かせてくれた。

それからはリリィさんの言葉に従って私は動くことにしたの。ただ、その途中でリリィさんは、私に、聖女であることを隠しておくようにと言う言葉を口にする。その言葉を受けて、私は、自分が勇者であることを知られたくないという思いがあったから素直に従ったの。その言葉に従う事で私は少しだけ救われるような気持ちになることが出来た。

リリィさんの言葉によって落ち着きを取り戻した私は、ミレアさんに勇者であるという事を気付かれていないうちに、家に戻ることにする。その前に私はもう一度リリィさんに頭を下げてから、この家を後にすることにしたのである。そうしてから私も外に出るのであった。そうして家の外で待っていた皆と合流しようと思って村の出口に足を運ぼうとしたのだけど。

その時であった。私に向かって、誰かの声が響く。そして声が響いたと同時に、私の周囲にいたはずの皆の姿が一瞬にして消えてしまう。そんな状況を目の当たりにした私は動揺してしまい、思考が完全に止まってしまうのだった。

そして私が困惑していると、一人の人物が私の前に現れたの。その人こそが私に対して、声をかけてきた人物であり。リリスのお母様でもあるリディアさんなのである。そのリディアさんは私をどこかに連れていこうとする。それに対して抵抗しようとした私なんだけど。結局は何もできなくて。リディアさんが指を鳴らすと私の体が拘束されてしまう。その事から、魔法をかけられたとわかったため。私は一切身動きを取ることが出来なくなってしまったのである。

そしてリリアが連れていかれると。リリスがリリアのことについて口にするが、その事に関してはどうすることも出来ないため、俺は彼女を助けに行くことを優先すべきだと考えた。そしてリリスを連れて行かないのは、まだ何か目的があっての事だろうと予測できたのである。

そんな考えを持って行動を開始しようと考えていた時。リリィは俺にリリスのことを頼み込んできた。俺はその事に関してリリィに任せてくれと答えた後。この部屋での出来事を終わらせる事にしたのである。そんな事がありながら、俺は、リリィに聖女のことや聖女の持っている力のことで話した。するとリリィは納得したような表情を浮かべて、リリスと話をするために席を立つとそのままこの場から居なくなってしまう。

そうする事で俺はリリィと二人で話す事が出来る状況となったわけである。

俺とリリィが二人きりになると、俺はすぐにリリィの事を抱きしめたいという気持ちに襲われたのだが。先程、リリィと二人っきりになった時の事を思い出してなんとか耐えたのであった。

俺が我慢をすることで、何とか理性を保つことができている状態なのだが。このままの状況が続くとなると正直言ってかなり厳しいと思えている。なので俺は一刻でも早くここから抜け出したいと考えている。しかし、現状では難しいだろうと考えているのだ。

そう考えていた時である。俺の近くに気配を感じることができたのだ。そして次の瞬間には、俺は後ろから羽交い締めにされて口を押さえられる。その行為のせいで、息が出来なくなるが。どうにか堪えることに成功していた。そして俺は背後の人物の顔を見る。するとそこには俺に聖女の件を話してくれた女性の姿がそこにはあったのである。

その女性は、リリスによく似ている人だったのだ。

そうやって見つめ合っていたが。女性が俺を解放したために、俺が女性の腕の中から脱出する。

そうして俺達はお互いのことを見ながら対峙することになるのであった。

「リリスは無事ですからご安心下さい」

目の前の人物はそう言い放ったのである。

◆視点:東雲美月 私は今現在非常に焦っていた。だって目の前にいる男の人の事が凄く気になっていたのである。そしてそれは向こうも同じようで、じっと見つめられてしまっている。そのことが更に緊張感を高めてしまっていたのだ。そう思っていた時に相手が話しかけて来たのだ。そして相手の男性はリリスのことを気にしていたが。リリィは問題ないと言い放つとすぐに話題を変えた。そのおかげでどうにか平静を保つことが出来るようになっていたのだ。そしてその後、彼はこんな質問をしてきた。聖女のことを知っていたのかと聞かれたのである。それに対してリリィは聖女を知っていると答えると。聖女が持っている能力や特徴を教えて欲しいと言われてしまい。それを全て伝える。そうしないと彼が納得してくれそうになかったからだ。

私はそんな風に考えてから彼に全ての事を伝え終わると、彼の反応を待ったのである。すると彼もこちらの問いに答えるために色々と話を始めたのであった。その内容は信じられないものであり。魔王と戦うという事だった。

そうして、魔王についての説明を受け終えると、私の中で様々な疑問が生まれていくのであった。そして私は、その事に答えてくれる人が欲しいと考えてしまい。リリスの母親であるリディアさんのところに向かう事にしたのだった。そしてリリィにリリアちゃんを任せた後。リリスの元に向かったのである。その途中でリシアと出会い、彼女と会話しながらリリスの部屋に辿り着く。その扉の前には何故か魔王軍の幹部である魔族の姿があったが。私が剣を突きつけて退かせることに成功する。その際に、リリアが魔族の人を気絶させたようだから。私は彼女の行動を咎めることはしなかった。むしろ、彼女の行動のおかげで簡単に中に入ることが出来たから、私は彼女の行動に感謝をしているぐらいだったのよ。そうして、私はリリとリリスの姉妹の再会に立ち会うことになると、姉妹は抱き合ったまま泣き始めてしまう事になる。

私はそんな姉妹を見ていられなかったのだ。リリスは、私が知っている頃よりも成長しているとはいえ、リリィの妹であり、リリスにとってもお姉さんのような存在なのである。だからこそ、リリィの事を思うリリスのことを見ているだけで辛くなるから、私まで涙を流しそうになったほどだ。

そんな風に思っていながらも、二人のことを落ち着かせようと声をかける。リリアには、少しの間だけ、外に出てもらうことにした。理由は単純で、この家にはまだ私達以外に生きている人達がいる。その人達にこの姿を見せないようにするためだった。この家で生活していれば、そのうち嫌でも理解すると思うからね。

二人が落ち着いた所で。まずは、リリィの方から話を聞いた方がいいかと考え、リリィに何が起きたのかを尋ねる事にしたのよ。そうして、私は彼女達がなぜ一緒に暮らしていることになったのかを尋ねたわ。すると、彼女は少し戸惑う仕草を見せつつも私に話してくれた。そういえば、彼女がどうしてリリィの事をそこまで慕っているかも聞いていなかったなと思って彼女に聞いたら、その理由を語ってくれたの。そしてその理由を聞いた私は複雑な気持ちを抱いてしまったのである。だってそうでしょう。まさか妹さんが自分と同じように勇者にされていたとは思わなかったのだから。でも私はそんな事よりも勇者の真実を知った事で動揺してしまった。

何故なら勇者の役目は、魔王と戦わせるための道具として扱われてしまうと聞かされてしまったのだから当然よね。そんな事実を聞けば誰であっても動揺するに決まっているもの。そうして私が落ち込んでいる最中にリリスは勇者の力に目覚めることになる。そしてその力を使ったリリスに対して私は驚いたのである。何故ならばその力があまりにも危険すぎると思ったからだ。そんな力を持っている者が勇者を名乗って良いとは思えなかったのだから。だから私は勇者に成り代わっていた者の正体を知ろうとして、彼女に問いかける。そして、私達は互いに名を名乗る事になったのである。

リリスが自己紹介をしたことによって私は改めて目の前の女性が勇者ではないということを認識する。そこでリリィとリリスの事を尋ねてみるが、どうにも要領を得ることができないのであった。

しかしリリスの母親が勇者だとわかって良かったわ。もしリリィが勇者である事を告げられた時、勇者がこの世に存在している事を受け入れられるか不安になってしまったから、そうならなくて本当によかったと思っているわ。そう考えている時だった。急に部屋の外が騒がしくなってきた。それもかなり慌ただしい様子だった。そんな様子を見ていた時である。リリスの部屋の外からリリスを呼ぶ男性のものと思われる大きな叫び声が聞こえてきたのだ。それを受けて私とリリィは同時に動き出していた。ただ私の場合はリリィが先に動いていたのである。そして私もリリィの後を追いかけるように走り出した。するとそこには先程出会ったばかりの魔族の男性と、それに連れ添うようにしてリシアの姿もあったのである。そんな光景を目にしながら、私が慌てていると、リリィはその二人に声をかけた。そして何かを話し合い始めたのだ。ただ、内容までは聞き取れなかったため。私もその場に居合わせて二人に状況を確認する事にしたのである。すると魔族は私に対して、リリスはどこに行ったのか? そう訪ねてきた。それに対してリリィは、この家の中に居ると言ってくれたおかげで助かったのだけど。リリスの安否を気にしているような態度を取られたことに私は腹を立てて。思わず怒鳴ってしまったのであった。

そして、私は、あの時何が起きてリリスに何があったのかを聞いてみると。二人は何も言わずに黙秘をしてしまう。そしてリディアさんまでもが沈黙を貫き通したため、これ以上は無理だろうと私は思い、諦める事にした。

ただ、そんな時、ふとリリスが言っていた言葉を思い出したのだ。そういえば、確か聖女と魔王は惹かれ合うとか言っていたような気がしたから、リリスのことを攫った犯人の目的はリリス自身なのではないだろうかと私は考えてしまう。そしてリリスのことを攫った目的を考えると聖女の事を知っていた可能性は十分にあったのである。そんな事を考えていた私は、すぐに行動を開始する事を決めた。

まずは、私は二人とリリアの四人でリリスを探しに行く事を決め、リリィと一緒に家の外に出たのであった。

リリスは聖女の事が気になっていたため、俺は、彼女にそのことを確認してみると、リリスはすぐに反応を示してくれた。しかし、その表情はとても悲痛そうなものであり。俺もそれ以上は何も聞く事ができなかった。そのため俺はその場を離れる事を決めると、リリィに後は頼むと言い残して家から飛び出したのである。俺は急いで家を飛び出すとリリィに追いかけてくるように伝えてから村の出入り口に向かい全力で駆け出した。

俺は全速力で森の中を走ると途中で村から離れて山に向かって走る。そして、しばらく走っているうちにようやく追いついて来たのか、俺の隣には息も絶え絶えになっているリリィが姿を現したのである。

俺に追いついて来たリリィに聖女について話をすると、彼女は驚きの声をあげるが。聖女に付いて知っている事があると俺に伝えてくれたのだ。そして俺は聖女の能力について詳しく話を聞くことにし、リリィの話を聞き終えると、その情報に驚愕させられるのであった。そうして話を終えるとリリィは、聖女が聖剣を召喚して、俺が倒したはずの魔王が復活する可能性があることを話してくれたのである。

俺としては聖女が魔王の復活に関わるという情報が入ってきたことで、今後どのような対応をするべきか悩む羽目になっていた。だが今は、目の前の事を優先しなければならないので、その件についてはまた後日に話すということになり。その時にはミレアも交えて今後のことについて話し合おうと約束をして。俺たちは一旦森を出るために移動することにする。

◆視点:アックス◆ 私は今現在非常に焦っていた。何故ならばリリアと名乗る少女に自分の秘密を話してしまい、私の事を勇者様と呼び始めるようになったからである。正直私は困り果ててしまっていた。そうやって頭を抱えていると、リリアさんがリディアさんの事をお母さんと呼んだ事で私はさらに動揺することになる。

「えっと、それはどういう事なのかな?」

私が恐る恐る尋ねると彼女は、リリアさんの事を娘だと答えたのである。そしてそんな事を言っている時にリリアさんの部屋に異変が起きることになる。突然床から魔法陣が現れたかと思うとそこから大量の水が溢れ出てきたのである。そして私達はそんな現象を前にして困惑している中突如として私達の元に何者かが襲い掛かってきたのであった。

そうやって現れたのはこの村に襲撃を仕掛けてきた者達と同じ服装をしていた人物たちだった。そして彼らは私たちに攻撃を仕掛けてきて、私達はそれぞれの戦い方に応じた攻撃を行い戦闘が開始されることになったのである。そんな中私が一番警戒しなければならない相手であると思われる存在を真っ先に見つけ出すことに成功したのだが。それが問題であった。その相手がまさかの魔王軍の幹部だったのだ。その魔王軍の幹部を見た瞬間私だけではなくその場にいた全員が驚愕することになったが、それでもどうにか魔王軍の幹部を追い詰めていくことに成功してあと一歩という所まで迫ることが出来たのである。

しかしその時、リリスが勇者の力を覚醒させてしまい、勇者の力を使った彼女の一撃により私は倒されてしまうことになる。しかし私を倒したリリスは、その直後に勇者の暴走を起こしてしまい、魔王軍の手に堕ちてしまうことになったのだ。その出来事を見て私は、彼女がリリスではなく別人になってしまった事に衝撃を受けたのである。しかもそれだけでは済まなかった。なんと、彼女の妹だというリリアさんも勇者にされてしまったようで。その力を使い始めてしまったのである。

私は何とか二人の力を止めようとしたものの。どうやら勇者となったリリアさんの力で私に掛けられていた制限が全て解除されていたらしく、二人の力を止める事は出来ずに、勇者と化していた二人に追い詰められて、ついには命を落とす事になったのであった。

私は自分が死んだことに後悔はしていない。だって私はこの国を救いたい一心だったのだから。そのために、魔王軍に加担したと言われても構わないと思っていた。そんな事を考えながら目を閉じていた時である。誰かの視線を感じた。だから私はその気配の主を探す事にしたの。するとそこには、私達が探していた人物がいたのである。彼は、勇者が目覚めないようにずっと封印されていたはずなのだけど。何故ここに彼が存在しているのかは分からない。だけど、今の彼ならきっとあの子の事を救ってくれるようなそんな気がする。そう思った私は彼に賭ける事に決めたのだった。そしてリディアとリリスの二人が目覚める事になり私は安心するのである。これで、この国に本当の平和が戻ってくるかもしれないと思ったから。

そして私はこれから起こるであろう事を見届けるため。再び目を閉じることにしたのである。

ただ、一つだけ不安があるとしたら勇者が目覚めてしまうのではないかということだ。もしもそうなった場合、リリスちゃんの力を抑えることができるか不安であるのだ。でも大丈夫だろうと信じている自分も居たため、私は全てを受け入れる覚悟をする事にしたのである。そうして私は、私自身が見た最後の光景を見る事に決めて。ゆっくりと瞼を開くのであった。

俺はリリスに襲いかかろうとしていた者たちの攻撃を、間一髪の所で防ぐことに成功する。しかし、この人数を相手にするのは厳しいものがあったので、とりあえず俺は、この場所から離れるように指示を出す。そうしなければ俺一人でこの人達と戦うことになるから。ただ、さすがにリリスを一人置いて逃げる訳にもいかないため。リリスが安全な場所に移動出来るように時間を稼ぐことにしたのだ。

そんな事を思っていた時だった。魔王が俺に語りかけて来たのである。

(ふむ。やはり勇者とは良いものだな)

そんな事を言われてしまうが、俺は無視して相手に問いかけることにした。まず初めにどうしてこのような事をしたのか? それを尋ねてみる。すると彼女は答えてくれずに、俺に対して聖剣を使って戦うよう要求してきたのだ。そして俺の返事を待つこともなく聖剣を使えと言い残してから姿を消したのである。その言葉を受けて、俺は仕方なく従うことにする。ただ聖剣を使うことには躊躇したのだが。それでも他に選択肢がないと思い、仕方なく聖剣を呼び出したのであった。

ただ俺はここで大きな問題が発生した事に気づいた。それは魔王が消えた場所に残された物があったからである。その正体は魔王が召喚に使っていた道具でそこには聖女と書かれていた札が落ちていて、そこにはリリスという名前が記されてあったのだ。その名前を俺は以前聞いたことがあったために驚きの声をあげてしまう。なぜならリリアの母親の名前は、俺の想像が正しければ聖女の名前にそっくりだったからだ。そんな時であった。急に俺の腕の中に居たはずの精霊たちが暴れ始めたのだ。

何事が起きたのかと思っていると精霊たちの力が強大になっていく。するとその事に比例して精霊たちに宿っていたスキルが勝手に発動し始めたのである。

俺は、そんな事態に陥ってしまうと、もう何が起きているのか分からずにパニック状態に陥る事しかできなかった。しかしそこで、俺は気づいてしまった。この状態で聖女が持っていたとされる聖剣を振り回せばもしかしたら何かが起こるのではないだろうか? そう考えに至った俺は、試しに大声で叫びつつ、聖剣を天に向かって掲げるのである。そうしてしばらくした後の事であった。突如空が割れたのだ。そんな事を目の当たりにしてしまって俺は言葉を失う。

一体全体今自分に起こっている現象が何なのか分からず混乱する中。俺は必死で思考を回転させた。

だがしかし、その現象について考えている間にも俺の中で聖剣の魔力は増大していき、ついにはその力は限界を超え始める。その結果俺は、意識を失ってしまいそうになったのだ。

俺は薄れゆく意識の中どうにか現状を確認しようと努力をするがうまく頭が働かない。

そうして、このままだと不味いと悟った俺は、自分の身を守るべく防御体制に入ろうとした時。俺の体が突然光に包まれたのである。その事に驚きつつも俺は自分の身に起きようとしている事が危険極まりないと直感的に理解すると、すぐに全力を出し切る事を決意して、全力全開の状態で俺は攻撃に構えた。

そうすると、俺の目の前には先ほどまで存在していた筈の聖女と書かれたお守りのようなものが消えており。代わりに目の前に魔王が存在していたのだ。その魔王を見た時に、俺はある可能性を思いつく。つまり魔王と勇者は互いに引き合うような関係であり、聖剣は勇者の素質がある者にしか使えないという言い伝えがあったことを思い出したのである。もしかして今回の現象は、俺が勇者になってしまったことが原因で起きたのでは無いのかという事に思い至ってしまった。

だが俺は、そのことに気付くと同時に絶望感に襲われ始める。勇者になったとしても俺はまだレベルが10に満たないため、魔王に勝つことが出来ないからだ。しかも魔王は今現在、俺のことを睨みつけてきている状況にあったのだから余計にである。そんな状況下でどうすればこの状況を脱することができるか考えていた時だった。魔王が話しかけてきたのである。

『勇者よ。なぜ私がお前に危害を加えようとしたのか知りたくはないのか?』

その言葉を聞いていた時は、確かに何故魔王が現れた時に、リリスに敵意を向けていた理由が気になって仕方がなかった。そのため、素直に話してくれるなら、こちらとしては好都合だと考えて、とりあえず話を聞かせてくれるか聞いてみると返してみることにする。そうするとなぜかリリスは嬉しそうにしながら。こんなことを言いだしたのだ。そして彼女は自分が勇者にしてしまった事を謝罪してきたのである。そういえば俺は魔王の言葉を聞かずに勝手に話を進めたせいで。彼女がどんな気持ちなのか知らなかった。それに気付いた時にはすでに遅かったのである。

リリスは涙を流しながらも俺に向けてごめんなさいと伝えてきて。彼女は自分が俺にした行為が原因でこうなった事を悔やんでいたのであった。だけど、俺は勇者になってしまったことは気にしていなかったのである。それよりも俺が勇者になってしまった事で迷惑をかけていないかどうかを心配するように尋ねると。魔王はそんな事を尋ねられたことに戸惑っていた。どうやら魔王は自分が人の姿に化けていた時よりも俺が普通の人間として過ごしていた姿の方が好ましいらしいのである。ただ勇者となった事で得た力を手放すことができないため、どうしても力を使う事になるという事を説明されたのであった。それから魔王はこの国を滅ぼそうとしていたことを伝える。そして勇者の力を使いたいがため、その力を覚醒させる為に聖剣を使わせる事を考えていたと告白したのだ。

そんな彼女の行動に対して少し腹立たしく感じてしまい。文句の一つでも言ってやりたかったが彼女の言っていることの殆どが間違っているわけではないので強く言えなくなってしまった。

俺は彼女が本当はリリアさんの事を大切に思っているんじゃないかと考えてしまったのだ。そして彼女の真意を確認するために、俺は彼女にリリアさんのことを聞いてみたのである。そうするとリリスは自分の娘に会える機会ができたらと、そのような願望を持っていたのだという。だが実際に彼女がこの世界に姿を現すのは難しく。俺を通してリリアさんに会えないものなのかと思っていたのだと教えてくれたのである。そうやって俺達の間に会話が生まれ始め、俺の質問に対して魔王は答えてくれるようになったのであった。そこで、魔王が本当に俺と敵対する意志が無いことが確認できて。少し安堵するのであった。

魔王がどうしてこんな行動に出たのかを知った俺は、どうしたものかと考えることになる。このまま放置しておくことはできない。だからといって魔王の力がどれほど強いかも分からない以上迂闊に近づく事は出来ないのだ。しかも相手の目的はこの国を滅ぼすことだったからな。だからと言って何もせずに見殺しにするわけにもいかない。そこで俺はリリスに聖女の道具を持っているのかを聞く事にしたのである。リリスが持っていた物はリリスの母親の物だったため、リリスなら使いこなせるのではないかと思ったからだ。そうして俺は魔王と戦う事になった時の為の対策を考え始めた。するとここで、魔王がとんでもない提案をし出したのだ。

それは、魔王とリリスを一時的に融合させることで、魔王の力を使うことができるというものなのである。そんな事を提案されたリリスだったが、彼女は俺に対してリリスの体を奪わないか尋ねてきたのである。

その問いに対し俺は悩んだ末、その申し出を受ける事を決めてしまう。リリスの体に魔王の魂が憑依する事によって俺のレベルを引き上げる事ができると考えたからである。そうすれば俺は確実に魔王を倒す事が出来るだろうから。

こうしてリリスの肉体と魔王の精神が一体化する事になったのだった。

ただ、その際に魔王は一つの問題を発生させてしまう。それがリリスとリリアさんの人格が混ざり合い別の存在へと変化する事になってしまった事であった。そうする事で俺は聖剣を自在に操る事ができるようになるのであったが。俺自身はこの状態をどうするべきかと悩んでしまうのであった。なぜならこの状態のままだとリリスを魔王と認めるしかないからだ。そうなると俺にとってリリスは勇者になってしまうので。今後勇者と対峙する際に色々と不都合が起きる可能性が高いのである。

魔王は勇者の素質がある者にしか使う事ができないと言っていた聖剣が何故か勇者であるはずの俺の手に渡っている。つまりこの聖剣は俺を認めているという事に他ならない。そうなれば必然的に俺は勇者として聖剣の使い方を理解していかなければいけなくなる。

その事を俺は嫌だったのだ。そもそもこの世界において聖剣の使い手が一人増えたところで何か問題が起きている訳でもないので。俺にとっては些細なことではあるのだが、問題は聖剣を扱えるようにならなかった場合である。俺はまだ未熟のため一人で聖剣を使う事はできなさそうだ。だがしかし魔王に聖剣の力を引き出してもらえばどうにかできると思う。だがしかしその場合魔王が俺に力を貸すとは考えにくい。そうなれば結局俺一人で聖剣を使う事になる。そうなってしまうと俺は一人前の勇者ではなくて魔王側の存在となってしまうため困ったことになるのだ。それに聖女の娘であるミレアの事もあるので尚更どうにかしなければと考えていた。

魔王が俺とリリスに語りかけてくると俺は思わず声をあげて驚いたのだ。なぜなら魔王の声が今までとは全く違っていたからだ。そんな魔王が言うにはリリアさんの事をもっと知りたいと言い出して俺の目の前に姿を現したのだ。そんな魔王の姿を目の当たりにして、リリスが魔王に取り込まれたという可能性を考えてしまったが、魔王がリリスの姿をしているだけであって本人では無い事に気付いて安心した。そんな事があった後に、俺が勇者になったことを伝えたのである。そうすると魔王が俺に謝ってきたのだ。魔王が悪い訳ではないのに、まるで俺が悪者みたいに扱われるのは気に食わなかったが魔王も必死なのだと分かるのであった。だがしかし俺だって譲れないところはあるのだ。勇者の力は絶対に渡せない。だがしかし、勇者にさえなれば魔王の力と対抗できる手段を手に入れることができるのは事実なのでどうにかしないとまずい。そこで俺は魔王にある条件を提示することにしたのだ。魔王がリリスを取り込むのを止めないなら、勇者の力は諦めて貰うという条件をね。俺が提示する条件に対して魔王は困惑していたが、最終的には納得して貰えたのであった。それから俺の提案を受け入れた魔王は、リリスの中に存在している自分の魂の一部を取り出し俺の中へと移すのであった。その瞬間、俺は自分の体の異変に気付くことになったのだ。体が徐々に作り変えられていく感覚を覚えたのである。それからすぐに体に変化が起こり始めて、最終的に魔王と融合したリリスと瓜二つの容姿になってしまったのだ。そんな変化に戸惑いつつも自分の体の変化に意識を向けるが違和感を感じずにいた。そうやって自分の体について確かめていると魔王が話しかけてきて俺にこう言ったのだ。

魔王とリリスを一時的に融合させて力を引き出させる事に成功した俺は、勇者となった状態で聖剣を扱うためにリリスに協力を求めると彼女は快く引き受けてくれ。魔王が使っていた武器である魔刀を俺が扱っても大丈夫なようにしてくれると言ってくれたのである。そこで俺はその言葉に甘えて魔王の武器を使おうと考え始めていた。

「リリス、ありがとう」

「どういたしまして、私の勇者様!」

リリスがそう言って笑顔を見せてくれた事に俺も自然と笑みが浮かび、俺の事を勇者と呼んでくれることに嬉しさを感じると同時に、魔王とリリスを何とか救ってあげたいと改めて思うのであった。それからしばらくリリスと話をした後、リリスとの会話を終えて、次にリリスの母親でありリリスが言っていた通り魔王でもあるレイナさんと会話をすることにするのであった。

リリスさんと話をしてからしばらくして私はレイジさんと一緒にダンジョンを進み、ついにボス部屋の前までたどり着くことに成功しました。そして私達は扉の前に辿り着くとその前に陣取り。扉の向こうにいるであろう存在の攻略を開始するのでした。そんな私が扉に手をかけた直後、突然扉の方角から凄まじい気配を感じたのです。そんな時、私が扉を開くと目の前に立っていたのは黒い鎧を身に着けていて右手に大きな斧を持っている巨人の姿がありました。そうして私はその姿を見ただけで相手が強敵だと悟り、即座に鑑定を発動させた。そうすると名前が表示されなかったのである。

『勇者』の称号を持っているのだから当然勇者だと思いますが念のために相手の能力を確認した結果、相手の名前が判明しました。しかしその結果は驚くべきものでした。なぜならそこに表示された名前は『魔王』になっていたからです。そのため私は混乱してしまいどうしていいのか分からなくなってしまいます。

勇者なのに魔王だと言うことに混乱していた私に魔王からこう言われてしまった。

リリスは、どうして魔王の格好をしているのか理解できていないようだ。それならば俺のほうから説明させてもらうとする。魔王の服装に関しては魔王の趣味であるからして、気にしないで欲しいと言っておく。そうしてリリスとの話が終わったあと、今度は勇者に対して俺は問いかける。どうして勇者である俺がこの場に現れたんだとな。するとそれに対して、この世界に危機が迫っているため勇者の力を持つリリアに助けに来て欲しかったのだという。

そんな魔王の言葉を聞いた俺はその言葉を鵜呑みにしてしまうわけもなく、とりあえず俺を嵌めようとしているのではないかと勘繰ってしまう。だが魔王はその言葉の通りだという事で。リリアの力がどうしても必要なのだという。そして俺は魔王と取引をすることになったのである。俺はリリアの力が欲しいと魔王に対して言い放ち、魔王もそれに同意した上で魔王と俺の間でとある約束事が成立した。それはリリスの事だった。魔王はリリスと俺に危害を加えるようなことをせず、この世界を救う手伝いをして欲しければ勇者の力でリリスの力を開放してくれないかと言ってきたのだ。つまりはそういう事らしい。

俺はリリスの力を使って勇者としてこの世界の王になってくれということだ。俺はその申し出を受けてリリスを解放すると決めた。そんな事もあってか俺は少し躊躇したが結局魔王の提案を飲むことにしたのである。ただ、魔王はそんな俺を見てこんな提案を持ち掛けてきたのだ。それは俺とリリスを融合させるというもので、それによって勇者の力を俺に与えることができると言っていたのだ。

確かに俺にとって勇者になるという選択肢もあっただろうが。魔王の力は強力であるのは間違いないため俺はその案に乗ることにした。

魔王は俺に近づき、リリスと一体化して欲しいと言ってきて。俺はそれを受け入れる。そうする事によって俺の中に存在していた魔王の魂の一部が分離され俺の中に吸収されることになったのだ。すると次の瞬間に、俺は全身に激痛を覚えて倒れてしまう。だが俺はこの痛みに耐えながら立ち上がり魔王に確認すると、魔王は成功だと言い出したので。

魔王はこれで勇者の力を手に入れた事になると告げたので、俺にはまだ実感がないが本当に手に入れてしまった事だけは分かった。その後魔王に俺が勇者になったという証拠を見せてあげると言われて。俺は何が見せてくれるのだろうかと思っていると魔王が魔刀を手に持ち。その魔刀が俺に襲いかかってきたのである。俺はとっさに魔刀を受け止めると魔刀に込められていた魔王の意思が流れ込んできたのだ。その流れ込んで来た魔王の気持ちを理解した瞬間に、俺の中から怒りが込み上げてきて気が付けば俺の手に魔剣が出現させて魔王の体を真っ二つにした。

俺の手には先ほどまでは持っていなかった魔剣が現れていたのだ。どうやら魔剣が勇者となったことで俺の手元に出現したようだった。その事を魔王は俺に伝えたいらしくて再び話し出すが、俺は魔王が話している最中に容赦なく切り捨てたのである。俺は自分の体の変化に驚いていたが魔王を倒した後に自分の体が変化したことに気づいた。魔王を殺したことにより、リリスが取り込んだ俺の力の一部が魔王に吸収されたことで、魔王の力も俺が手に入れたことになるからだ。俺はリリスの力を手に入れられると思って喜んでいた。しかし実際にリリスの力に目覚めたのはリリスの母親の魔王の魂と融合したからだと思うが。その力を使いこなすことができなければ宝の持ち腐れになると思ったのだ。

それからしばらくしてようやく自分の体に起こった変化を理解し終えたところで、自分の中にリリスの魔力を感じ取ることができたのだ。

こうして俺は勇者となりリリスの力は手に入れたのだが、魔王の力は使いこなせていないためこれから魔王の力と使いこなせるようにならないと意味がないのだ。そんな訳でこれからは自分の力と上手く折り合いをつける必要があるため。色々と大変そうである。それに勇者になったことによって、リリスの両親を助けてやりたいと思い始めるが。まずは先に自分の力に馴染むことが最優先事項なのだ。

俺はリリスから受け取った魔剣で魔王を切った後、リリスの体がどうなったのか心配になり彼女に近づいて様子を見るとそこには俺が殺したはずのリリスの母親である魔王が俺の目の前に現れていて、リリスと俺の事を抱きしめてきた。

「二人とも無事に融合できたみたいね!」

リリスに憑依していたレイナさんは、嬉しそうにそう言って私達を優しく包み込んでくれたのだ。しかし私達は困惑するばかりでどうして良いのか分からず混乱していたのであった。だがレイナさんは落ち着くように言ってくれたおかげで次第に落ち着きを取り戻すと改めて自分が何をしたのかという事を確認してみると魔王を殺さずに倒すことはできていたので安心しました。そこでレイナさんは私に自分の体について何か変化はあったかどうか尋ねてきたのです。

そこで私は自身の体に意識を向けてみると、魔王の体から解放された影響なのか、以前より体が軽く感じるようになりましたが。それ以上に魔王の体が持っていた能力まで私の体の中に存在してしまっていることに気づいてしまう。なので、これは非常に不味いのではないでしょうか? 魔王の能力を全て使えるようになってしまえば、魔王よりも強い存在になってしまう恐れがあった。だからこそどうにかしないとと考えた。そうすると、そこでリリスのお母さんであるレイナさんが話しかけてきてくれたのである。私はその事についてお礼を言いました。そうしてしばらくレイナさんの話を聞いていたのですが、レイナは突然私達の方に視線を向けると私達に頼みごとをしてきたのである。それはこのダンジョンを攻略をして欲しいというものだった。

ダンジョンを攻略してほしいという言葉を聞いて驚いた私とレイジですが。私達は断るつもりでした。その理由は簡単でした。私と彼はレイナさんのおかげでレベルが上がり、普通の人間ではあり得ない程の力を手に入れることに成功したのだから。わざわざダンジョンを探索するような必要はないからだった。しかしレイナさんの願いを聞くかどうかは別の問題であるとレイジが言い出して、結局はダンジョンの攻略を行うことに決定してしまったのであった。

ただここで私はあることに気づきました。ダンジョンを探索すればするほど、私達が得た力が魔王に知られてしまうので危険である。そのことを伝えたところ。大丈夫だと笑顔で答えられたのです。私はレイナさんを疑ったわけではなかったのですが。一応念のためどうしてなのかと尋ねることにしました。そうすると、魔王が倒された場合に限り。勇者の力は封印されるため。ダンジョンの攻略を行えば問題はないと言われたのでした。

しかし、それでも危険な行為であることに変わりはなかった。

しかし私に拒否権はなく。レイジに強制的に決められてしまい。結局はダンジョンを攻略をする事になったのです。

魔王を倒すための力が手に入った私は早速このダンジョンを脱出しようと動き出そうとするが、その前に私は気になっていたことがあるので、リリスの父親である勇者に対して質問をした。勇者とは一体なんなのですかと。すると、勇者は魔王に対抗することのできる存在であると言う回答を得た。私はその勇者がどのような者なのか確認したくて質問をしてみた。すると勇者と言うのは魔王に対抗するために生み出された人の形をした生き物らしい。

それならば私も勇者と呼ばれるに値するだけの能力を手に入れてみようと私は決意し、魔王と戦うためにも魔王の力がどんなものであるのか確認するために勇者から魔王の力を分けてもらった。その結果。私が手に入れた勇者としての力は『勇者の力』という物だった。その『勇者の力』は私に勇者の力を扱えるようになるために必要な物を自動的に渡してくれるようで。私に必要なものは全て『勇者の力』が用意してくれたのだ。そのため私が『勇者の力』の力をすぐに使えたことは当然の結果であると言えた。そうやって手に入れた『勇者の力』は『魔王の祝福』というもので『魔王の祝福』の力は勇者としての力がより強力になるためのものだった。そんな『魔王の祝福』は勇者が持つスキルであると教えてもらえた。そのため、私は『勇者の力』を手に入れた時点で、この世界の勇者に勝てる可能性が出てきたということになる。その事が分かってしまった私は喜びを隠すことはできなかった。これでやっと勇者に勝つことができるかもしれないと思えたからだ。ただ魔王にはまだ勇者の力に完全に目覚めてはいないと聞かされたため。私はさらに強くなる必要があると感じた。そしてその方法は魔王に力を分けて貰うことしかできない。それを知った私は、勇者を倒して魔王の力を得ることを決意する。

そんな風に私が決意を固めていた時に勇者が話しかけてくると魔王はどこにいるんだと尋ねられ。私は知らないと答える。その答えを聞いた勇者は魔王は死んだのではないかと不安な気持ちを抱いているのがよくわかった。そんな時だった。勇者と話をしていたはずのレイリアさんが突然姿を現したのは。その様子は明らかに動揺していて明らかにおかしかった。

そんな彼女の様子を勇者は不思議そうな表情で見ていたのであった。それからしばらくして彼女は落ち着きを取り戻し、勇者の事を信用してもらうため。自分が知っていることを全て話すというので、勇者は彼女の話を素直に聞き入れてくれたのだ。そうすることで勇者が彼女を信用したためなのか。彼女が魔王について勇者に伝えた内容は、私も驚く内容であった。

勇者と会話をしていたリリスの様子がいきなり豹変するとリリスのお腹が大きくなっていき、やがて出産を迎えることになったのだ。するとそこから現れたのは、巨大な蜘蛛の化け物である。そう、この世界に魔物の親玉と呼ばれている存在が現れたのだ。

私は目の前の事態に驚きつつも必死に考えるが、私だけではこの場にいる全員を守ることができないと判断したため、まずはこの場の人たちを逃がす事を考えたのだ。そうして私は自分の中に存在する力に呼びかけるのである。その力の名前は魔王であり。この世で最も強いと言われている存在のものであった。魔王の力に自分の力を融合させた瞬間に自分の体の中から今まで以上の力が溢れ出てくるのを感じる。それからしばらくして私は魔王の体を乗っ取ることに成功する。それから私の体は人間のそれから大きく変わっていったのだ。それから私は自分の体に違和感を感じながらも確認を行うことにした。

するとそこにいたのは人間の姿をしているレイナさんの姿だったのだ。しかもレイナさんから私の姿がどういう風に見えているのか尋ねてみると、私の目からは人間と同じような姿をしているように見えていたようなので、とりあえずは自分の体を上手く扱うことができるように訓練を行いながら他の人達の事を観察したのだ。だが私の目に映るのはリリスの両親のレイとリーアだけで他の人たちはレイナさんから姿が見えることはなかった。

おそらく私の体のせいだろうが、この状態で戦うとなると、さすがのレイナさんでもきついものがあるだろう。

そう思ったのだがレイナさんは、リリスのお父さんとお母さんに攻撃するように命令していたのだ。しかし、いくらなんでも無謀すぎではないかと私は心配になるのである。なぜならその二人が持っている武器はとてもじゃなく人間が扱えるものではないからだ。

それなのにリリスの両親はレイナの命令に逆らわず。そのまま行動に移す。そして二人の剣は魔王に向かって放たれた。しかしその剣はあっさりと防がれてしまう。そうするとレイナさんは二人を止めるように指示を出す。二人はその言葉に従うがレイナさんは二人に剣で攻撃を仕掛けてきたのだ。そんな光景を私は見て驚いてしまうが、それと同時にリリスの両親の強さがどの程度のものなのか理解することができたので安心できたのである。それからレイナさんが戦い始めるのを確認した後に私はレイとリーヤに近づくのであった。そうしてレイジに声をかけることにした。

「お前たちがリリスちゃんの父親と母親だろ? 悪いけど少しの間。俺に協力してくれ」

俺はそう言って、魔王に切りかかって行った。しかし、俺の攻撃は魔王に受け止められてしまった。それから俺は自分の実力を魔王に試してみると魔王には大したダメージを与えれなかったのだが、どうやらステータスを確認すると。どうやら俺のレベルは20になっており。職業は『勇者』になっているようだった。その事実を確認して俺は驚いた。というのも、普通ならこんな短期間でレベルが上がらないはずなので疑問に思いつつ。どうして急に強くなったのかと考える。そんなことを考えた後。魔王に視線を向けると、奴の体が一瞬ぶれたように見えたのである。その次の瞬間、俺の体に強い衝撃が走ると同時に後方へと吹き飛ばされていったのだ。その事によって初めて攻撃を受けたことに気づくことができた。

「何が起きた?」

「分からないわよ。ただ言えることは一つ。今のレイナの体に傷を与えることは難しいということね。それにレイナが戦っている相手。私達が敵うレベルの強さを持っているとは思えないんだけど。本当に勝算はあるのよね?」

その問いかけに対して俺は黙って魔王の方へ指を指すと、そこには魔王に斬りかかろうとする勇者がいた。しかし魔王はその一撃を防ぐことなく受けることで、その場を凌いでいたのだった。そうすると魔王はそのまま、リリスの両親の攻撃を軽々とかわすと勇者に対して魔法による攻撃を開始する。その攻撃はレイジを軽く上回るほど強力なもので、まともにくらえば勇者の命はないだろうと予測できる威力を持っていた。

「嘘、私達より圧倒的に強すぎるじゃない! このままだと私達は全員殺されるんじゃないの? 何か考えがあって私達はここに来たわけだけど。もう駄目なんでしょ? 今から逃げた方が賢明だと思うわよ? あなたもそれは分かっていて言っているんでしょうけど。それでも行くのよね? だったら私は最後まで付き合いましょうか」

「ありがとうございますレイナさん」

「だからそれは止めてってば!」レイナはそう言い放つと再びレイに向かって攻撃を仕掛けて行くのであった。そして勇者も同じように魔王に向けて走り出す。その様子を眺めているだけだったリーザも意を決したかのように魔王に向けて走り出していった。そしてその後に魔王との戦いが始まっていくのであった。

しかし魔王との戦力差がありすぎてまともに攻撃を通すことができずにいた。そんな状況を勇者が作り出したことを理解すると、俺はレイジを睨みつけると、レイジも視線を合わせてくると小さく笑い出した。そんな状況の中、勇者の背後を取った魔王がその剣を振りかざそうとした時、魔王の視界に見覚えのある人物が飛び込んできた。その人物とはリリアで。彼女の手の中には、先程魔王に殺されたと思われていた勇者の子供が抱かれていたのだ。その事から私は確信したのだ。この子はあの魔王の子供だという事に。そこで私は、その子供の首根っこを掴むと思いっきり地面に叩きつけたのである。そして、その後に子供を踏み潰そうとしていた魔王に殴りかかる。その事で私も魔王も動きを止めることになった。そして魔王は、すぐにその場から離れるが。私が踏みつけようとしていた勇者の子はすでに絶命していて動かなくなっていたのだ。それを見て私が動きを止めてしまったため。魔王もすぐにその場を離れようとするが、すぐに私から距離を取るのを諦めて反撃に移る。そんな様子を観察していると。魔王が手に持っている武器に変化が起きるのである。魔王が持っている杖は、魔道具であり。所有者に様々な効果をもたらすという能力があるらしい。そして魔王が持つ魔道具はその中でもかなり優秀なものらしく。使用者に絶大な力を与えることになるという。そんな事を知らない勇者は、ただただ魔王の持つ魔道具の性能を疑わなかったためにその攻撃を受け止めるのではなく、そのまま受け止めることを選んでしまった。そしてその結果。魔王が勇者に振り下ろした武器は、勇者の体を切り裂いていくのであった。その結果。魔王は勇者の返り血を浴びることになったのである。その結果に勇者は魔王を罵声を上げながら魔王を攻撃し続けていた。

私は勇者の行動に呆れていた。なぜならば勇者の行動を冷静になって観察すれば、自分がどれだけ弱いかを理解していたはずなのだ。それにも関わらず、その事を理解せずに感情だけで魔王に攻撃しているような気がしていた。それ故に勇者は魔王に倒されるのだろうと思ったのである。だが、そんな事を思っていながら魔王から感じ取れる圧力から察するに、まだまだ全力ではないことが分かり私は心の中でため息をつくと、この戦いから降りることを決めたのである。

「リリスさん、ここは危険ですからお下がりください」

私がそんな言葉をかけるとリリスさんの瞳が見開くのを感じたが、彼女はすぐにその指示に従ってくれたのであった。そうして勇者の邪魔をしようとしなかった私だったが、なぜか魔王はこちらに標的を変えて襲ってくるのであった。そのため仕方なく魔王を迎え撃つことにすると、私の拳と魔王の剣が激しくぶつかり合うことになる。だが、さすがに私の方が力が上で、魔王を追い詰めることができた。魔王が勇者から受けた傷が原因で魔王の動きが悪くなっていたのだ。それからしばらくして勇者は、自分が何をしようとしているのかようやく理解したようで慌てている様子であった。

「おい、レイナ。やめてくれ。俺の目的はリリスを助けることだろ?」

「そうだな。それに関しては同意するが。この女だけはここで殺すべきだと判断した。だからお前の頼みは聞いてやることはできないな。まぁ、お前には死んでもらうがな」

その私の返答に勇者は表情を歪める。そして私を睨みつけてくきたが、そんな態度は気にせずに、私は勇者に話しかけるのである。

「お前は自分の娘が死にかけてるのに。そんなにこの女を生かす価値なんてあると思ってるのか? それにだ。こいつは魔物なんだぞ。それを庇っていい理由がどこにあるんだ? はっきり言って馬鹿にしか見えないんだよ。この世界の人間ってのは。そんな人間の為にお前は命を落とすつもりなのか? それが本当だとしたら笑えるな」

「俺だって本当はこいつを助けたかったよ。リリスには生きて幸せを掴んで欲しいと思っているからな。だけど。お前はリリスに危害を加えようとしているだろ。俺の娘に怪我させたことを償わせてから、地獄に落としてくれる」

それから私の方から仕掛ける形で攻撃を開始すると、私と勇者の激しい戦いが始まったのである。だが、さすがは勇者とでもいうべきだろうか。彼は徐々にだが私の攻撃に対応し始めていたのだ。

私は勇者に自分の攻撃を対処され始めていることに気づくと焦りを感じ始めてしまった。そんな時に、魔王がリリスの両親の方に攻撃を開始しようとしたので私は魔王を蹴り飛ばして牽制を行う。

それから私は魔王の方へと駆け出し。魔王に対して攻撃を仕掛けた。そして魔王の顔面に自分の拳を叩き込むことに成功したのだ。すると魔王は鼻を押さえながら私を見てきたので私は再び攻撃を仕掛けようと試みるが。魔王の方も私に攻撃を仕掛けてきたのである。しかし、そんな攻撃に私は怯むことはなく、今度は腹を殴ってやったのだ。それからしばらく魔王との殴り合いを続けていたが、どうやら体力的に限界が来たのは私ではなく魔王の方のようであった。そんな事もあって、私は魔王の首を掴み地面に叩きつける。そして私は魔王に問いただしたいことがあったので。質問をしてみることにしたのである。

「リリスは、魔王はなぜ勇者と交わって生まれた?」

「ふっ、それは簡単だよ」「何?」

「私も最初は勇者とそういう行為を行ったよ。だけど。その時の子供が魔王になるなど私は予想もしてなかった。それどころか私達が交わり。その後に生まれる子供は全て魔王になりうる存在になると私は思っていたから。それなのにリリスがどうして魔王として生まれて来てしまったのか分からない」

魔王の言葉に私は納得するしかなかった。そう考えると。やはりあの勇者の血を引いているからこそ魔王が生まれてしまうのではないかと考えてしまうのだ。

「つまり勇者の子供を産んだことが原因だということか?」

「あぁ、おそらくそうだと思うが。正直私もどうしてそうなったのかよく分からない。だからこそ、あの勇者を殺す必要があるんだよ。そうしなければ私達の子孫も安心できないからね。そうそう、勇者を殺した後はどうするつもりだい?」

魔王にそう問いかけられて私も考え込んだのである。そして勇者の体を見るとまだ完全に死んだわけじゃないので蘇生を試みることに決めました。私は、勇者に対してヒールをかける。すると勇者の体はみるみると治っていくのだが。その際に私の手の中に光の玉のようなものが生まれたのだ。その事に気づいた私は何が起こったのかさっぱり分からず困惑していた。そこで魔王の方を見てみることにすると魔王はニヤついた表情をしていて。魔王の表情から勇者の体を回復させたのは自分だということが分かったのである。その事について文句を言うわけにもいかないと思ったので黙っていた。だけども疑問が一つだけ残ったのでそれを確かめる為に魔王に尋ねてみたのだ。

「なぁ、魔王よ。勇者が死ぬ前に私に回復魔法をかけてほしいといったが、あれはお前が何かをしたのか?」

「いいえ、ただあの男が勇者の子供を宿し。子供を産む準備をしているのに体が耐えられなかったという事なんでしょうね。あの男はまだ子供を作りたかったようだが。その願いは叶わなかったということなんでしょう。その事を悲しんであなたを呼び出したというのなら。少しだけ悪いことをしてしまったかもしれませんね。勇者の子供は私も産みたいと思わないわけではないのですが。そんな事は今はどうでもいいことですよね。勇者が死んだ以上、私が魔王を継ぐことになりますが、魔王になった際にこの国を支配する気でしたが、この世界はもう私の手から離れたも同然ですね。ですがこの国に残っても面白くありませんので。別の場所に移動するとしましょうか」

「そんなことは許さん。この国は私の物だ。他の場所に勝手に行かせるものか」

私がそう告げると、魔王は苦笑いをしながら答えてくる。

「この国があなたの手を離れてないというのは勘違いも甚だしいですよ。この国は魔王が支配する地であり。この世界に魔王の威光が届く範囲であればどこでも同じ事なのですが。まぁ、私達は旅に出て行きますので好きになさい。それでこれからどうするのですか? 勇者は死にましたが」

「私は、私にはこの世界を征服する権利があるはずだ」

「残念ですがそんな権限は与えていませんよ。そもそも魔王の器を持つ者がこの国の国王である勇者を殺せばその力を受け継ぐ事ができるなんて、そんな都合のよい話などある訳がないじゃありませんか。それにですね。魔王の力を受け継いでいなければ。私達に敵う者はまず存在しないと思いますが。それでもこの世界を征服しようというんですか? まぁ、確かにこの国は広いとは思いますが、それ故に支配するのは大変なんですよ。その辺りのことをしっかりと考えてから実行に移すといいかと思うのですよ」

「そんなことは問題ではない。とにかく私はこの世界の全てを手に入れなければいけないんだ。そのために邪魔な人間どもを排除しないと」

「そんなくだらない欲望のために、多くの人間を巻き込んでまでこの世界の王になるというのですか? 馬鹿なことを口にするものではないと忠告しますよ。この世界であなたのような馬鹿を王は必要としていると思っているのならば大間違いだと言う事を理解した方が身の為ですよ」

「なんだと?」

私が魔王に詰め寄ろうとすると。私達のやりとりを見かねた加奈が間に入ってきたのであった。

そうして私は勇者を倒した魔王を討伐する事に成功しました。だけど倒した時に手に入れた力が、あまりにも強すぎて私一人で管理できるようなものではないために、一度リリスちゃんに預けることに決めたのである。

そしてそれからしばらくするとレイナさん達が家に訪ねてきてくれて私と一緒に戦ってくれる事が決まったのだった。ちなみに私とレイナさんだけで勇者と戦った時にはかなりきつい戦いになって、もしも仲間がいたらと本気で思ったほどだった。

私はレイナさんにリリスちゃんを引き渡して、彼女の身の安全を確保した後に魔王の居場所を探知して魔王の元に急ぐことにしたのだ。魔王がどんな方法で移動手段を確保しているのかは分かりませんでしたが。恐らく空を飛んで移動するはずですので空を探せば見つけられると思っていたのだ。

しかし、いくら空を飛んで移動したとしても、すぐに見つけられるほど甘い相手ではないので、私は地道に歩きながら探すしか方法がなかった。

私は勇者に渡された宝剣エクスカリバーを手に取り眺めていた。私は剣に関しては全く興味が無いので詳しくないけども勇者にもらったこの剣はかなり貴重なものだというのは分かった。なぜならばこの剣は伝説の剣だからだ。そんな剣をこんなに簡単に貰っていいのか? と疑問に思って勇者に尋ねてみたが、この剣を勇者が持つことが一番重要らしいのだ。勇者はこの聖剣を使いこなすことができずに、私に譲ってくれたのかもしれないのだ。だが、勇者には魔王を倒してもらっていたわけだし、このくらいは別に気にすることは無いだろうと割り切ることにしたのである。だけどそんな事より魔王がどこにいるかの方が大事だったので気にしないことにしていた。しかし、勇者の持っている武器がこれだけで、魔王をどうにかできそうな気がしないのは事実だった。だけど魔王を殺さないとリリスの命はないわけで、私はリリスを救い出すためには仕方が無かったと心の中で何度も自分に言い聞かせていたのである。

しばらく歩いていると私の目の前に大きな湖が現れたのである。そしてその湖の中心あたりに巨大な城が見えたのでおそらくあれだろうと判断し私は湖に向かって走った。そして城に辿り着くとそこにはたくさんの兵士達が集まっていて私は何が起きたのかと思い急いで中に入ろうと試みたのである。しかし扉が開かなかったのだ。しかも私はなぜかこの城の守護者として認められてしまったらしく。門が開き私だけが城内に入ることを許されたのだ。そんな事もあり私は城内に入ることに成功したので早速魔王を探し始める。すると私の目に魔王らしき人物が映ったのだ。

私はその人物の元に近づくとその人物は私に気づいて話しかけてきたのだ。その男は黒ずくめの格好をしていた。まるで魔王みたいな服装をしていて、私もまさか本当にこいつが魔王だと思ったのである。私は一応警戒はしておくことにして、相手が攻撃を仕掛けて来た時にいつでも対処できるように準備だけは怠らなかった。そんな時だった。

突然その魔王の姿が変わり始めたのだ。魔王が着込んでいた服は黒いマントと、そのマントの中に着こんでいた衣服までも黒く染められていたので私はその変化について驚きを隠せないでいたが、それよりももっと驚くことが起きてしまう。その魔王の体はみるみると小さくなっていき。最終的に少女の姿をした魔王になってしまったのである。私はその事にも動揺してしまい魔王から距離を取る。だけど、私の判断は間違っていた。何故なら魔王はその小さな手で私に触れてしまったのだ。そして魔王は嬉しそうにして笑みを浮かべると。私の手からエクスカリバーを奪い取る。私はそんな出来事に呆然としてしまう。そして、そのエクスカリバーを手にしたことで魔王は私のことを脅威とは感じなくなってしまったようだった。そればかりか魔王は自分のことを女神と名乗るようになったのでさらに私の頭は混乱していくのであった。

俺は、女神の姿を見て唖然としてしまっう。何しろ俺の前に現れたその女性は美しい金色の髪をしていて。青い瞳をしており肌も白い美少女にしか見えないのである。そんな彼女は見た目だけを見ると、とてもではないが。あの恐ろしい魔王には見えないのだが。魔王は間違いなくあの魔王であり。あの女は魔王に操られているに違いないと判断した。なので、私は女神に斬りかかったのだ。

私は、自分の持つ剣で女神を攻撃すると。剣と体術を上手く利用しながら、相手に攻撃を繰り返していく。だけども、魔王であるはずなのにその攻撃はあまりにも貧弱すぎたのだ。私は、その事が少しばかり疑問だったが、今のうちに殺してしまおうと考え攻撃をひたすら繰り返すことにした。だけど魔王は何度、私に倒されても立ち上がってきて、また立ち上がるの繰り返しである。なので私はその事に違和感を感じ始めていたのだ。もしかしたら魔王の本体ではないのかと疑いを持ち始めてもいた。

「貴様、一体何者だ?」

「ふっ、そんな事を聞く前に自分が何者かぐらい言ってみたらどうだい?」

「ふざけた奴め。だが答えないというのならばそれでも構わないが。私は貴様に負けたわけではないからな」

私はそう言うなりもう一度剣を振るい魔王にとどめを刺そうとするが。魔王はそんな私の動きを見て、今度は逆に私を押し倒したのである。

私は押し倒された事でバランスを崩してしまい。床に背中から倒れる形になる。そして、その隙を見逃さなかったのか魔王は私に覆いかぶさるようにして襲いかかってくる。

私は、このままやられてしまうと覚悟を決めたその時だった。突然現れた光の矢が魔王に命中し吹き飛ばしたのであった。その光を見た瞬間に誰が放ったものなのか理解した私は、その光が飛んできた方角を見る。するとそこには弓を構えてこちらを見ていたアルフさんを見つけることが出来た。そしてその後すぐに他の人たちも駆けつけてくれると。皆んなで魔王に一斉攻撃を開始したのである。

「皆さん、私が来たのです。この魔王は必ず私が倒します」

ミレアさんがそう宣言すると、彼女の体に異変が生じていたのである。

私は、突如出現した女性の存在に戸惑いを感じていた。何せその女性が身につけている防具には大量のお金がかけられていて高価なものだとすぐに分かったのだ。私は今までの人生でこんな豪華な装備に身を包んだ人に出会ったことがなかったので。私は、つい彼女の事を凝視してしまったのである。それにしても綺麗な顔をしている。年齢はおそらくまだ若いと思うんだけど。顔のパーツが整っていて、それでなおかつ大人の魅力を兼ね備えているから私よりもかなり年上に感じる。しかしそんな事は今は置いておくことにするべきだろう。

私は、そんな彼女に話しかけてみようと近づこうとした。そんな時であった。私は急に眩しさに襲われてしまい目を閉じたのだ。しばらくして、目が回復するとそこにはもうすでに女性の姿はなかったのであった。私は一瞬で消えてしまった彼女に対して驚いたけども、すぐにそんな気持ちはどこかにいってしまっていたので気を取り直して。この国を支配している魔王の所に向かおうとした。だけど、魔王の元に行こうとすると何故か行く先々に兵士が現れて通してくれないのである。そんな状況がしばらく続き私はイラついて来ていた。

そこで私は思いついた事がある。もし、もしもの話だが勇者と女神を倒したという実績がなければ、ここを通すことができないのではないかと考えたので私は勇者に託された剣を握り締めながら魔王を倒す決意をしたのだった。勇者もきっと私が魔王を倒しに行く事を望まないだろうと私は考えたからだ。そして、私が魔王を倒した後で勇者は英雄として迎えられることだろう。ならば、私がここで活躍をすることによって勇者を無駄死にさせないようにしなければと思い。私は、魔王を必ず倒すために行動する。

魔王に戦いを挑んで来た者たちが次々に倒れていく。彼らは勇敢にも戦ったが。残念だが、彼らでは魔王には到底敵わなかったのだ。

私の名前はアリシアといい。魔王が作り出している幻影を見ている人達の中では最強と恐れられる存在でもある。そして、そんな私に挑んで来る者など一人たりともいないはずであったのだ。しかし、どういう訳か一人の少年が現れる。私はその少年に興味を抱き、彼の動きを観察していた。私はこの少年がどうしてここまで強いのかが分からないのだ。勇者の仲間の一人か? それとも勇者本人なのかと思ったりしたけど、彼は勇者のようなオーラは感じられなかったので別人だと思う。

だけど、もしかすると勇者は魔王に殺されてこの世には居ないので、彼もただの演技をしているだけの偽物なのかもしれないと思ったりしていたのだ。

私の正体を明かした私は魔王に向かって歩き出した。そんな私のことを危険だと思ったのか、勇者の配下達が私の前に立ちはだかったのである。だがそんな勇者の部下達の攻撃を全て防いで見せた私は彼らの実力を確かめたいと思っていたのだ。そんな時に私は、魔王が生み出したと思われる巨大な魔物の群れが現れたのでそいつらを始末する事にする。しかしそんな巨大な魔物達はなぜか突然現れた謎の男の手によって全て消滅させられたのだ。

「あなたは一体何なんですか?」

「私か? それは君が一番良く知っているはずだよ? 女神の守護者にして最強の聖女と名高いアリシアスちゃん。だけどまさか君のお仲間達が次々と倒されちゃうなんて思ってもいなかったよ」

私は魔王の言葉を聞いて眉をひそめたのである。なぜなら、彼女は今、私の正体を言い当てていたからだった。だけど私は、魔王の前には姿を現していないのである。なので彼女が私の事を知っている理由がわからなかった。

「なぜ私の事を知ってるのかは知らないけれど。お前の思い通りにはならない。私こそが魔王を討つ者であり。この世界を救うために現れた正義なのだ」

魔王は何も喋らず私のことを見つめてくるので私は警戒しながら構えを取る。そんな私に対して魔王は何かを考えるような仕草をする。その事が私は不思議だった。何しろ魔王なら何をするにしても躊躇わずに攻撃を仕掛けてくるはずである。だけど魔王が攻撃を仕掛けて来たとしても対応できるようには準備はしていたが、一向に仕掛けてくる様子がないのだ。なので私は相手が動かないならば、今のうちに倒してしまおうと決めると。そのままの体勢で相手の動きを注視する。そして、魔王が何の前触れもなく突然走り出して私に向かって襲い掛かってきたのである。

私は慌てて回避しようとするが。相手の速さについて行けず、魔王に殴り飛ばされてしまった。私は魔王の攻撃を受けて吹っ飛びながらも地面に転げ落ちるのを回避しようとしたのである。だが魔王の拳によって殴られた衝撃は思った以上に強く。私の体が浮いてしまって思うように動けなくなっていた。

魔王はそんな私にさらに蹴りを加えてきたのだ。そんな時であった、急に私の視界の中に光の槍が現れて、それが魔王に命中して吹き飛ばしたのである。その光の槍を見て、誰のものなのかすぐに私は察しがついた。そして、そんな光の槍を生み出した人物が私の目の前に降り立つ。その人物を見た私は心の底から安堵の表情を浮かべると、彼女は優しい笑みを浮かべて、こちらに声をかけてきたのであった。

俺は自分の剣が折れたことに気づく。

俺はリリスの方を見ながら剣を持っていない左手の人差し指を唇に当ててから自分の剣の残骸を見せ付けるように持ち上げた。そんな俺の様子を見たリリスはすぐに自分がやったのだと気づき申し訳なさそうな表情を浮かべたので、俺は彼女に気にしないでほしいと伝えることにした。するとリリィが剣を持って近づいてくると。剣をこちらに渡してくださいと言うと俺にその剣を手渡してきたのである。

俺は受け取った剣を見ると、刃の部分が完全に粉々になっていて使い物にならなくなっていることに気づいた。しかしよく見ると、この武器は魔法金属で作られたもので普通よりも頑丈なものであることがわかる。だがそれでも完全に破壊されてしまった事に驚きを覚えずにはいられないのだ。なのでこの武器が破壊された原因は恐らくあの勇者だと思われたので俺は急いでその場所に向うことにする。するとミレアさんが勇者と戦っている光景が目に入った。しかもどうやら魔王の手下の連中も戦いに参加しているようだ。そんな状況の中。突如として出現した光の弓矢を魔王に向けて放った女性の姿が見えると。魔王はその攻撃をまともに受けてしまい後方へ吹き飛んだのである。そして、その直後。その女性は姿を消してしまったのだ。一体どこに行ったのかわからない状態だったのである。

そして俺は魔王の方へと歩いて行き剣を向ける。

そして、俺の行動に気づいた勇者が慌てた様子で止めようとしたが無視することにした。なぜなら俺は剣がないから剣で止めることは出来ないからである。ならば体術で対抗するしかなかったので。

「あんたが勇者の仲間の一人か?」

「ああそうだが。君は一体なにが目的なんだ?」勇者は少し困惑した表情を向けてくるが。その目はまるで値踏みでもするようにこちらの様子を伺っているように見える。なので、そんな相手に正直に答える気はなかった。だが相手は自分の力を理解しているはずなのに、何故か逃げようとしなかったのである。そんな行動を取ったことに俺は内心驚いていた。だけどもこちらに敵対するつもりだということがわかったので、容赦なく叩き潰すことにする。

「お前を殺すことだ。それ以外に理由はないし興味もない」

「そう簡単に殺されるわけにはいかないんだよね」

「だが抵抗しても無駄なことぐらいわかってるだろ? それにこっちには勇者以外にも多くの手下がいるんだぞ? その事実を忘れてるんじゃないだろうな?」

その言葉と同時に俺の周囲に複数の影が出現したのだ。それは明らかに人間ではなかったのである。その証拠に彼らは黒いローブのようなものを纏っていて顔が見えなかったのだ。だが声だけは聞こえたのである。それは、どれも男の声ばかりであった。つまり彼らは人間の姿をしているが。実は魔族であることが判明した。そんな彼らを目にした瞬間。彼らは一斉に攻撃を開始して来たので、俺はそれを冷静に見極めることにしたのである。

俺は勇者に襲いかかってくる奴らを剣を使わずに対処することを試みる。なぜなら魔王と戦わないで済むのであればそれに越したことははないからなのだ。なのでまず最初に向かってきた男の腹を蹴ったのである。その男は壁にぶつかると動かなくなる。そしてその後、他の男たちに剣を振りかざして斬りかかっていったのだ。だけども、いくら振り回してみても、その全てが避けられてしまうのである。やはりというかなんというか、勇者は強かったのだ。だから俺は諦めることなく次々と男たちを倒していくが。結局は全員に避けられてしまい勇者の前まで戻されてしまったのである。

それから俺は魔王の方を向く。すると魔王も勇者と似たような感じに、全ての攻撃を軽々と避けて見せるので、かなり苦戦してしまう。そんな俺の事を見ていた勇者が、魔王に向かって大声で叫ぶ。すると魔王は勇者の言葉を聞くと、すぐに俺との戦いを中断してしまったのである。そんな状況になったことで俺は、これはチャンスだと思い。勇者を倒そうと動き出すが。魔王の部下達によって足を止められてしまう。そして魔王の合図とともに、彼らは攻撃を再開して来たのだった。

しかし、彼らは攻撃してくることはできたものの、攻撃はなかなか当たらないので。俺のことを舐めているのか? と思ってしまうほどだったのだ。しかし彼らの攻撃は明らかに本気である事は確かだったのだ。なぜなら、彼らが本気になっていれば、今の一撃だけでこの場にいる人間は皆殺しにされていただろうと思ったからだ。

「もうそろそろ降参したらどうかしら? 貴方がどれだけ強くても多勢に無勢でしかないわよ」私はそんな言葉を彼にかけたのだが、彼は私の言葉に対して何も答えなかった。

彼は私が話しかけたことで油断が生まれたと思ったのだろう。その隙を見逃さずに私を攻撃しようとしたのだった。だけども私は、彼がどんな攻撃を仕掛けて来るのか知っていたので、それを避けた後、反撃を開始することにしたのである。そして攻撃を避けると彼の体に剣を突き刺して、そのまま剣を振ると、魔王の手下の男達の方に向かって彼を飛ばすことにした。その結果。彼の体は魔王の手下の男達の方に飛んで行く。

私はその間に別の手下の男達が、彼に向かって攻撃を加えるが。それも難なく避けることに成功すると。今度は魔王の部下達に剣を叩きつけていったのである。しかし、そんな私の行動を嘲笑うかのように部下達は倒れていき。ついに私の周りに誰もいなくなったのだった。そんな私の元に魔王と勇者の二人が近寄ってきた。すると、魔王は私のことを見ながらこんなことを言ってきたのである。

「どうするんですか、勇者。これじゃあなたの立場が悪くなりますよ」

「まあ、そんな事は分かってるけどさ。僕としてはこれ以上面倒ごとを増やしたくないんだけどね」

「はぁー そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。早くこの女を殺してください」

「わかったよ。はいこれでいいだろ?」

そんな会話をしている間に私は勇者の攻撃を受けてしまう。そして次の瞬間、勇者はその場から離れる。そのおかげで、私は勇者の剣から逃れることが出来たのであった。そしてそのタイミングを見計らっていた魔王が私に対して再び攻撃を仕掛けてくる。私はその魔王の剣を防ぐが、防いだ直後、なぜか急に動きが鈍くなったのを感じたのだった。なので不思議に思っていると。すぐに魔王の攻撃に対処する事ができなくなり魔王の攻撃が当たる回数が増えていってしまう。なので魔王の方をよく観察すると、彼女が私の動きを遅くしていることに気づいたのである。

だがその理由がわからず困り果てた時である。魔王と戦闘していた私の視界に何かが現れ。そのまま私の体を通り抜けた。

そして通り抜けてから時間が経つにつれ私の体の調子が良くなっていった。だけども魔王の攻撃を受けるたびに私はどんどん弱まっていってしまったのである。そんな時である、急に強い光が視界に入ると同時に私の体を包んでくれたので私はその光の方向に視線を向けるとそこには聖女のアリシアスさんの姿があった。どうやら彼女はこの村の住民を助けて回ってくれていたらしい。彼女のお陰で、魔王と戦える程度まで私は力を取り戻せたのだ。

「すみませんが、私の代わりに勇者と戦ってくれますか?」

「わかりました。任せてください」私は彼女にそう返事をしてから勇者の相手をしに行く。

そんな私を魔王は追いかけようとする。だがそんな魔王の行動を妨害する存在が現れる。

魔王の部下の一人である黒猫族の女の子のリリィちゃんが魔王の前に現れて攻撃を仕掛けてきたので、魔王は彼女を先に始末しようと考えたようだ。そして彼女と交戦する事になる。

そんな状況を見ながら勇者の方に向かう。勇者の方は既に体力的に厳しいようで、かなり疲れた表情をしていたのである。

そんな彼を見て、一気に終わらせるため私は全力を出し切り勇者に攻撃をすることにしたのだ。

すると私の攻撃が勇者に当たる。すると彼の体が光に包まれると、彼の姿が消える。それと同時に、戦いに参加していた人たちが意識を失ったような状態になったので、慌てて私はみんなの元へ駆け寄る。そして、どうにか全員が無事に目を覚ましてくれて一安心したのであった。だけどまだ終わりではない事に気づくとすぐに立ち上がる事にしたのだ。

そして、勇者の姿を探すために辺りを確認すると彼は建物の屋根の上で立ち止まっていて。どうやら私と対峙するためにその場所へ移動してくれたようであった。

そんな状況になり。ようやく勇者と本格的に戦うことができるので嬉しくなってくると同時に気を引き締め直す。

そして、私は勇者に向かって戦いを挑むことにしたのである。そんな私に彼は魔法を放つことで応戦しようとする。その魔法を回避しようとした瞬間である。

何故か私の目の前に光の玉が出現し、そこから光の矢が飛び出して来たのだ。それは私の頬を掠める。その事で、もし当たっていたらと想像してしまい冷や汗が流れる。

しかしそんな状況にいつまでも甘えてはいられない。このままでは負けるかもしれないから。そんな状況だからこそ。勇者の方を見ると魔法を使おうとしていた。

だが、勇者が魔法を発動させる前に、私の剣の方が早く届く。

だが剣は空を斬り勇者には届かなかった。その事が何を意味しているのかはわからないが。おそらくなんらかの能力を使用したのだと推測する。そしてそれがなんなのかを確かめようとした瞬間。

「君は本当に強すぎるよ」

その声と共に、突然私の背後に勇者が出現する。そして彼は背中を向けている私に剣を振ったのだった。だがその攻撃を私は振り返らずに避けることができたのである。そして勇者の方を向くと私は驚きのあまりに言葉を失う。なぜならそこには、勇者の体に剣が突き刺さっており。その剣の持ち主が、先ほど姿を消した魔王だったからだ。そして彼女は自分の心臓の位置にその剣を突き刺したままの状態で勇者に語りかける。

そんな彼女を見て勇者は、笑みを浮かべるとそのまま動かなくなったのであった。

それから魔王は、剣を抜くと、血を払うように振り払う。そんな彼女に対して、俺は質問をすることにする。すると、彼女は魔王軍の幹部であること。それから、俺と敵対する理由を正直に話してくれたのである。そして、なぜ敵対したのか? という話になると。

魔王は俺に対して「貴方は魔王を討伐するために来たのでしょう? だったらここで死ぬべきです」と言った。しかし、それに対して反論するのは、俺の後ろにいるアリシアさんだ。そして彼女は、魔王の言葉に対してこう言ったのだ。

『貴方は私たちを見逃す気がないのですよね?』と。その問いかけに対して魔王は黙ってアリシアさんの方を向く。

そして魔王はため息をつくと。俺に向かってこんな提案を持ちかけてくる。

「いいわ。今回は私も退くことにします。だから、あなたたちはもうここから去って頂戴」

魔王の言葉に驚いたのは勇者だった。そんな彼のことを見据えて魔王は言う。

「これは私の意思ではありません。魔王軍の幹部の人達が勝手にやったことよ。だから私は悪くないわ。それに、貴方はここに長居すると面倒なことが起きるのよ。それじゃまたね」

そんな言葉を吐き捨てると魔王は、勇者を引き連れて姿を消すのであった。そんな出来事があった後に俺達は魔王の部下達を全員捕らえることにした。その中にはリーアとロトの知り合いがいたが、とりあえず放置してもいいかと思ったのだ。そして魔王の部下達を全て捕縛することに成功した後。俺達はそのまま王都に戻り国王と謁見することになったのである。

ただ、その道中で、なぜか俺とレイジの事を見ていた人がいる事に気がついて、俺達はその場に立ち止まる。

そんな俺達の行動に疑問を抱いたのか、後ろで見守ってくれていた勇者は首を傾げていたが、すぐに気がつく。どうやらその人物は女性で、俺達の事を見つめているようだ。そして女性は勇者に声をかける。

その声を聞いて勇者は反応すると、女性のところに向かった。

そんな様子を見ていると、どうやらあの女性が、今回の事件の関係者のようだ。そして勇者と女性が会話を始める。ただ会話と言っても、一方的に女性の方が何かを言っていただけだ。そして最後に、勇者のことを褒めるような言葉を言って女性は去っていったのである。

そんな状況になったあと。勇者の様子が少しだけおかしいことに気づくと。勇者に何かあったのかを聞く。

すると、彼女は苦笑いを浮かべながら、「実はさっきの女性に見惚れていてね。僕としては君のような人間に興味はなかったけど。彼女だけは興味が湧いたんだよ。でもさすがに、彼女と結婚するとなると大変だろうね。まあ、諦めるけどさ」

勇者はそれだけを言い残すと俺から離れていったのだった。

私はそんな勇者の様子を遠目から見ていると。ふいに彼と目が合う。私はその事で急いで視線を切る。そんな私に近づいてきたのはリリスである。彼女は、私の方に近寄ってくるとこんなことを言い始めた。

「ミレアさん、どうかされたんですか?」

「いえ、別に何でもありませんよ」

私はそう答えてから彼女に視線を向ける。そんな彼女の手を掴むと私は走り出したのであった。そして勇者との距離を一気に離すとリリスの方を振り向きながらこんなことを言ってしまう。

「ちょっと待ってもらえませんか?」私は彼女のことを呼び止める。その事で私は足を止める。

するとリリスはこちらを見ながら不思議そうな顔をしていた。私は、どうしてリリスを呼び止めたのかを説明する。

勇者の様子が変だったのでリリスならその原因を知っているかもしれないと私は思いリリスの側まで行ったという事だ。

私は彼女にその事を伝えるとリリスは「確かに、今の勇者様はいつもと違っていて私にも原因がわかりません。でも大丈夫だと思いますよ。だって勇者様の周りにいる人たちはみな強い方たちばかりなので」と言うと、彼女はそのまま立ち去ろうとする。

そんな彼女に向かって私が何かを言うと、リリスは再び足を動かし始めてくれた。私は、そんな彼女に向かってあることを尋ねると、どうやらこの村は以前魔王軍の襲撃を受けていたらしく。そのせいで村人の人数が大幅に減ったみたいで、今では、村人が三十人程度しか残っていなかった。だが今はそのおかげで、魔王軍の攻撃に耐えれたのだと言うとリリスは納得してくれたのだ。そして私は、彼女のことが心配で仕方なかったのだ。それはなぜか、彼女の事が勇者の恋人のように見えてしまったからで。そんな気持ちを抱きつつ彼女の後ろ姿をしばらく見ていると。急にリリスが立ち止まった。

私はその事に驚くと同時に彼女の近くに行く。

リリスの傍に近づいた私は、彼女が何をしているのかを確認しようとしたのだ。

しかしそんな時である。私とリリスの前に、突然勇者が現れるとリリスの手を掴み強引に連れていく。そんな行動をとった勇者は私のことを見ながらこんなことを言う。

「君は誰なんだ? まさか魔王の一味ではないよね?」

「私は魔王軍のスパイなんかじゃないです。それよりも手を放してください。お願いします。私は彼女と一緒にいたいんですよ」

「わかったよ。だったら彼女と一緒について来いよ」

勇者が私に対してそんな事を口にすると、突然勇者の体に誰かが抱きついた。私はそれが誰なのかを確認せずにすぐに駆け寄ると。そこに居たのは魔王軍の幹部の一人である。リリィちゃんであった。彼女は私に対してこう告げる。

『お久しぶりです』と。そんな彼女は私に助けを求めるように見つめてきたのだ。私は、その事にすぐに気づいた。だがそれと同時に私は魔王軍がこの村に一体何の目的でやってきたのかわからなくなってしまったのである。だがそんな時に、リリィちゃんと勇者を引き裂こうとする者が現れたのだ。それは魔王の部下の一人であり、魔族の男である。その男は、リリィに対して襲いかかってきたのだ。

私は咄嵯のことで体が動かず。ただその様子を見るだけだった。しかしそんな状況の中でも魔王軍の男性に斬りかかる人物がいる。その人はなんと魔王本人であるのだ。

彼女はそんな行動をしながらも魔王に向かって話しかける。その様子は必死なもので、とても切実なものを感じることができた。そんな彼女はリリスの知り合いで、魔王の部下でもあるそうだ。その話を聞い瞬間、魔王に対して親近感のようなものを抱く。そして彼女達と仲良くなってみたいなと思い始めたのだった。

ただそんな中、突然魔王は地面に倒れこむ。その理由がわからずにいるとリリィちゃんがこんな言葉を告げる。

「ご主人様! 早くここから逃げないとまずいですよ」

その言葉を言われた直後に私達はこの場所を後にするのだった。だが逃げる途中には大量の魔王の配下たちが待ち構えており、簡単に逃がそうとはしないのである。だがそんな状況にも関わらず。魔王は立ち上がると、こんなことを呟く。

「お前は俺が殺すんだからな」

私は勇者の言葉の意味がよくわからなかったのだが。その後の出来事によって嫌になるほど理解してしまったのである。だがそんな事が起こった後でも勇者は立ち上がり、魔王に攻撃を仕掛けた。私はそれを見ていた。なぜなら魔王には、攻撃を避ける気がないように見えたからだ。勇者の攻撃を受けて血を流しているにもかかわらず。それでも勇者の事を気にしていないかのように振る舞い。戦い続けているのだ。私はその姿を見ると思わず心の声が出てしまうほど怖くなったのだ。まるでゾンビか怪物を相手にしているように感じたのである。

ただ魔王の部下達は魔王を本気で殺しに行っていたのだ。その事からも勇者に対する恐怖心が強くなった。もしここで死んだとしても構わないと言った考えが見え隠れしているからである。しかしそんな部下達の攻撃を勇者は全て回避して見せると「どうしたんだよ。もう疲れちゃったのか?」なんて余裕を見せつけているのだった。そしてそんな言葉を吐いた後に勇者は私達に対してこんな提案をしてくる。それはこのまま俺の相手をしろというものだ。その言葉でリリィは拒否を示したが、魔王だけはそれに応じた。理由は私にはわからないが、彼女も勇者と戦うことを望んでいたのだ。だから私は魔王の手助けを行うことにする。魔王の部下達の注意を勇者に引きつけさせ、そしてその間に勇者を倒そうと考えたのである。そんな私の考えた通りに事は運び始めると。

「おいおいどうしたんだよ。さっきまでの威勢はどこにいったんだよ」勇者は魔王に挑発するようにそんな言葉を吐き出していた。そしてそれを受けた魔王も勇者に向かって反撃を行い始める。そんな状況になったとき私は自分の武器を取り出して、戦闘準備を整えることにした。そんな私に視線を向けた魔王だったがすぐに興味がなくなったのか。私の方を見なくなったのであった。

それから私は勇者と戦いを続けるが、私一人だけでは勝てないことにすぐに気づいてしまう。そのため私と魔王は共闘することにした。そしてそんな私達を見たリリィちゃんが何かに気がついたのか。「貴方たちは勇者に殺されますよ!」と言って私達の行動を止めようとしてくれたのだ。だがそんなリリィちゃんの忠告を私は受け入れることが出来なかった。リリスを助けないといけない。そう思っての行動だったのだけど。私はこの時気づく。

勇者と戦っているリリスの姿をしっかりと確認できていたことで安心しきっていた事にだ。私はその事を考えると慌てて勇者に攻撃を仕掛けようとするのだった。しかし私の行動は勇者に読まれていたようであっさりと攻撃を受けてしまう。しかもその時の威力のせいで私の腕は折れてしまったのである。そんな状態になってしまった私を見て、リリスは自分のことを責めるような発言をし始めた。「私を庇う必要はなかったのに」そんな彼女の表情からは私を心配していることを感じ取ることが出来るほどだった。その事もあって私はすぐに治療を受けることになる。腕が完治するとすぐにリリスのことを助けた。ただ私と勇者の戦いを見かねたのか。魔王が参戦してきた。ただ魔王の場合は、リリスの事を守るために戦っているように見える。その事から私はリリスのことを守ればいいのかと思ったけど。魔王の様子を見る限りではすぐに助けは必要なさそうである。なので私は勇者との戦いにだけ意識を向けることにした。そんな時だ、勇者の隙を見つけ出すことに成功すると私はそこに向かって全力の攻撃を打ち込んだ。その一撃のおかげで私は勇者に勝つことに成功したのであった。

ただ私は魔王との戦いで疲労してしまい。その場で膝をつく。その姿を見て魔王は心配するような視線で私の方を見てくる。ただ勇者だけは違った反応を見せた。彼は急に笑いだすとこんなことを言い始めたのだ。

「どうやら俺の負けみたいだね」と勇者は言ったのである。その事に対して魔王は勇者に向けて質問を行った。

なぜそんなに潔い態度をとっているのだ? お前ならまだまだ動けるはずだろと魔王は言うと。それに対して勇者はあることを話し始める。

「実は、最近変なことが起こるようになっていてね。それは俺の身に起こることじゃない。俺の子供たちに起こり始めた現象なんだ」と。

その言葉は、あまりにも衝撃的だった。私は思わずその事を聞き返してしまう。勇者は、魔王に対して、私達が知らない事を語りだしたのだ。

その日はいつも通り平和な日々が続いていたある日、僕はアリンと共に冒険者としての依頼をこなすために王都の外に出かけていた。そんな時に一人の男性に出会う。その男性はなぜか、こちらの方に近づいてくるとこんな言葉を投げかけて来た。

「あなたは勇者だよね?」と。突然現れた男にそう言われるが僕はすぐに違うと答える。僕自身は普通の人間なのだから当たり前だろう。そんな風に思っていた。しかしそんな僕の言葉を聞いた瞬間。男は突然、地面に頭をぶつけ始めたのだ。その行為を見た時はとても驚いた。だって普通に生活を送っていればそんな行動を取れる人はいないはずで。さらに男の額には大量の汗が流れ落ちていくのが見えたのだ。

何かがおかしいと僕は思い、すぐにその場から離れようとした時だった。急に男が苦しみ始め、そして体が変化を始めてしまったのだ。そしてその姿は完全に異形のものへと変化していた。その姿を確認した途端に、僕は危険だと思い、アリンの手を引いて逃げ出す。幸いにも魔物に襲われなかったこともあってか、逃げ切ることは出来た。

しばらく走り続けて安全を確保した後で僕は、後ろを振り返るとそこには誰もいなくなっていることに気づいた。その事からも、あの男性が異様だったことを理解したのだった。そして僕の中に生まれた感情は一つだけである。この世界は、何かが違う。そしてこの世界を狂わせているのは魔王ではないのか? という事である。だから僕がこれからやることが決まった。それはこの世界に起きている異常の原因を突き止めることだ。そうすれば何かが変わるような気がしたのである。だから僕が今やらなければならない事は情報収集であった。そのためまずは王城に向かおうとしたのだけど。その前にまずは宿を取ることにしたのだった。

ただこの時にはすでに事件が起きてしまっていたのだった。その事件と言うのは僕の泊まる部屋の中に、いつの間にか人が侵入していたという事である。

その男は仮面をつけた怪しい人物であり、明らかに普通の人間ではなかったのだ。だからこそ、その事に気づいた直後、即座に武器を取りだし、そして攻撃を行おうとしたのだけど。相手の方が上手であった。相手の方は、瞬時に動き始めると、懐にあった短剣を引き抜き。その短剣で攻撃をしてくると、僕の持つ長剣の柄を破壊してきたのだ。そしてそれだけでは終わらず、男は僕の体を切りつけて、傷を負わせる。それによって出血多量で死にそうになったのは当然の結末だった。だがここで死んではいけないと思い。僕は、死力を振り絞って男を外に蹴り飛ばしたのである。そのせいもあり、何とか命だけは取り留めた。

ただそのおかげで完全に体に力が入らなかったため。しばらくは、寝たきりになる覚悟をしなければいけなくなったのである。だがここで疑問に思ったことがあった。

どうして、男は何のために僕を襲いに来たのか? その事がずっと引っかかっていて気持ち悪くてしょうがなかったのだった。そんなことを考えながら、時間が過ぎていき。ある程度回復すると、王城の門兵に会いに行くことに決める。そこで情報を手に入れるつもりであった。そんな時に、また事件が起こってしまう。それは僕の泊まっている宿屋の中で殺人事件が発生したことだ。それも死体の損傷が激しく、誰の死体なのかはわからなかったのだが。僕はその遺体が身につけている装飾品などからある人物を思い浮かべてしまう。

「リリス――?」

そう口に出た時にはもう、遅かったのである。

私は勇者と会話をしていた魔王を援護するために攻撃をするのだが、簡単に受け止められてしまい、そしてそのまま反撃を食らうことになった。そんな攻撃を受けた私は吹き飛ばされると壁にぶつかる。その痛みにより私の視界は霞み、意識は途絶えようとしていたのだ。

だがそんな中でも魔王の姿を確認してみると。やはりというべきか彼女は魔王の前に立っていた。その光景を目にした私は急いで起き上がるとその現場に向かう。だがそこにあった光景に絶句してしまう。

なぜならそこには、先ほどまで生きていた魔王と勇者の遺体があるのがわかったからである。勇者と魔王が死んだことにより魔族は歓喜の声をあげ始めたのだった。

私が意識を取り戻すと。目の前で何が起きたのかを確認するために周囲を確認することにした。するとそこにあったものは、リリスの死だった。そんなリリスの近くに勇者がいた事からも、勇者の手によって彼女が殺されたという事をすぐに理解できたのである。そんな状況になってしまった事について、勇者に対して恨みを抱く。リリスがどんな思いをして戦ったのか、想像するのは難しくなかったからだ。ただ今はそれよりも優先すべき事があると気づき、魔王に視線を向ける。彼女に関してはリリスと敵対していた存在だったが、私には関係ないと割り切っていた。

私は彼女を守るべく駆け寄るが。彼女のそばにいるリリィが邪魔をする。

「どいてください! 貴方の主人が殺されたんですよ!」私は彼女に言うと、魔王は私に問いかける。なぜリリィがリリスを殺したのかと。そして勇者はリリスを殺すようなことをしないと言った。その言葉を信じるならば勇者によってリリスが殺されてしまった事になる。そしてその理由として魔王はリリィに聞いたのだろう。勇者はリリィを使って何か実験をしているのではないか? と。そんな質問にリリィは答えることが出来なかったのか、黙り込んでしまう。それを見た魔王は「そうか」と言い放つと勇者に攻撃を仕掛けようとするのだった。そんな彼女の行動を止めたのはリリィだった。

リリスさんは私達を逃がす為に死んだのですと、泣きそうな声で魔王に語りかけてきた。それを耳にした魔王はすぐに戦闘を中止させると私を治療してくれるように指示を出す。リリスを生き返らせるためにも早くしないとと魔王は言ったのだけど。そんな都合よく治療する方法なんて存在するのか不安になっていたのだった。ただその不安はすぐに打ち消されることになる。

私は魔王の治療を受けた後で勇者が作り出した魔法陣の上に乗ることになるのだけど。その時になって初めて自分がなぜ勇者と戦うことになったのか思い出した。勇者に戦いを挑むように命令を出したのはリシアであったことを思い出したのである。おそらく今回の出来事はすべてリシアが原因なのだろうと推測すると。私はリシアに対する復讐を決意したのだった。

それから私は勇者との戦闘を続けていったのだけど。そんな私達のことを遠くから見つめていた者達がいることに気づくと、それがなんであるかを理解する。その者達の正体は私の仲間でもある、リシアのメイドだったのだ。そんな彼女達は勇者の側にいたリリスを見ると驚きの行動を取ったのである。

それは突然の自爆だった。

彼女たちは自らの身を爆発させてその衝撃による威力で勇者に攻撃をし始めたのだ。その光景を見て魔王は、その行動はありえないと言う。魔王はその爆発の仕方から何か特殊な攻撃方法ではないかと思ったようだが、私はそんな魔王の考えを否定した。勇者の仲間だった人間がそんなことをするように思えなかったからだ。しかし、魔王には別の考えがあるようだった。そして勇者は彼女たちに「君たちの目的はなんだ?」と語りかける。

だが、答えてくれる様子はないとわかると勇者はその場から離れると、その先にいる魔王に狙いを定めて攻撃を開始したのである。勇者の攻撃は、私から見てもその速度はかなりのものであった。魔王の動きを見切って攻撃を仕掛けていたのだ。そして私達が加勢に入る余裕もなく。戦いが終わると魔王はそのまま倒されてしまった。

こうして、リリスが勇者と戦い始めてからの一日が終わったのであった。

僕の名前はレイヴン。今僕は王城の地下牢の中にいる。そこには他にも数人の人達が投獄されていたが。その殆どは人間ではなく魔族であることがわかったのだ。しかも彼らは全員同じ場所に投獄されているという共通点があり、そんな彼らの中に一人だけ、魔族の少年がいたため話しかけてみたのだ。

「ねぇ君名前は?」と僕は魔族と思われる男の子に聞く。

「えっと、僕に名前なんてありません」

「そうか、じゃあ僕が名前を考えてあげるよ」と僕は言うと、その子は少し戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になると嬉しそうに僕にお礼を言い始める。そんな彼の様子を見た僕は、すぐにこの子はいい子だと感じて頭を撫で始めたのだ。

僕と彼が話していると、そこに一人の女性が入ってくると。僕に向かってこう言ってきたのである。

その言葉に対して僕は驚くことになってしまう。それは、彼女は、この地下に閉じ込められた人たちの名前を覚えていたからである。そしてこの場に居る他の人たちのことも把握できているらしく。

「貴方はここにいる皆の名前を全部知っているんですね。すごい記憶力ですね!」

その言葉に、その女性は頬を赤らめながら、「まぁ、昔から本を読むのが好きだったからかな」と答えてくる。そして彼女は、自己紹介を始めるのだった。その自己紹介でわかったことは彼女がミレアという名前で、年齢は十五歳だということである。そしてこの世界では珍しく僕が知っている知識と同じ名前の女性であった。だから僕はすぐに彼女にこの世界のことについて質問することにしたのである。その結果としてわかったことは。ここはゲームの世界ではない。ということがわかったのだ。さらに僕の持っている能力やステータスについて説明を行うと、彼女もこの世界では普通ではない数値だと言っていた。どうやら僕だけではなくて彼女もチート能力を使えるらしい。そんな話をしている時に、僕と一緒で魔族の男の子の様子がおかしい事に気づく。彼は怯えた様子を見せていて、この牢の中に何かあるかのように視線を彷徨わせていたのだ。その事に疑問を持った僕は彼に尋ねると、なんでも、その魔族は昔ここに入れられてしまった過去があるという。そんな彼の様子に気づいたミレアという女の子は僕との話を中断して、彼に声をかけると優しく抱きしめ始めた。そして、彼を安心させるために何かをつぶやくと。しばらくして落ち着いたようで、いつも通りの優しい笑みを魔族の少年に浮かべるのだった。

それから、しばらく時間が経過すると、ミレアちゃんが急に大声で叫びだす。その声に反応したのか、地下牢の奥から、一人の男が姿を現した。その男の顔を確認した瞬間に背筋が凍りつく。男は顔の半分以上を包帯で隠していたためその容姿を確認する事はできなかったのだが。その男の纏っている気配は明らかに人間のものではないと感じたのだ。そんな存在を目の当たりにして警戒をしている僕の前に現れたその男は、ゆっくりと口を開くと。この場所にいる者たちを解放してくれれば、危害を加えないと言ってきた。そしてその後で自分のことを神と名乗ったのだった。

神と名乗る男の言葉を聞いた直後。僕の脳内にある疑問が生まれた。それはなぜこんなところに神を名乗る人物が一人で現れたのか? というもので、その理由を考え始めたのだが、その事を考える前に。その神が口にする条件を飲んでしまうと、僕以外の全員が解放されるという話を聞いてしまったのである。その事で、仲間である魔族の少年が真っ先に反応してしまい。

「ダメだよ、騙されちゃ!」と叫んだのだ。

そんな時、今まで沈黙を保っていた、あの魔族が立ち上がり、僕達の前に出ると。両手をかざして何かをしようとし始める。それを止めるためなのか、魔族の男性が神の使いを名乗る者に殴りかかろうとしたのだけど。それよりも先に魔族の少年が動いたのだ。魔族の少年は神の目の前に立つと、何事かをぶつぶつと言い始めると。次第に体から淡い緑色の光が発せられていく。その光景を見た僕たちは、慌てて離れるのだった。そんな時、先ほどまで無関心だったはずの女神様が動き出し、少年の側に寄り添い始める。だが少年はそれを振り払い僕達に近づこうとする。だが、それを阻むように神様の右手が振り上げられたのである。その手が少年の顔面に触れた次の瞬間、その衝撃だけで地面に転がされてしまうのだった。そんな魔族の少年の姿を見て僕は心を痛めてしまう。

少年はそれでも立ち上がるのをやめず。また起き上がろうとする。そんな様子を見ていた神が不愉快だと言わんばかりに腕をふるうと、今度は魔族の男性の上半身を吹き飛ばしてしまい、下半身だけになってしまった状態でその場に倒れ込んだのだった。僕はその悲惨な現場を見てしまったショックにより、思わず胃の中の物をすべて吐き散らかしてしまったのである。そしてそれと同時に、魔族の男性に対して申し訳なく思い涙を流し続けるのだった。そんな僕らのやり取りを見ているだけの女神がつまらなさそうに呟く。

「お前たちが邪魔をするなら、ここで全員始末するまでだ。邪魔をするのならば殺す!」と言う。すると、いつの間にか隣に来ていたミレアちゃんが、女神に向かって剣を振り上げる。そんな彼女の行動を気にする事無く、神はミレアに拳を振るおうとしたのだけど。そんな彼の攻撃を遮る者がいたのだ。その者は、神が振ってくる手を掴むと、それを利用して、神を床に叩きつけたのだった。その行動を行った者の方に視線を向けると、そこに居たのは魔王と呼ばれる人物で、その姿は全身に血まみれの姿であり、服にはべっとりと返り血がついているのだった。魔王は、そのまま、倒れこんでいるミレアの前に立つと、その手に持っている武器で、魔王を殺そうとしているのかわからないが、何度も攻撃を仕掛けるが。全て交わされてしまう。そしてその攻撃を避け続けた後に、反撃で放たれた蹴りで腹部を思いっきり蹴られ。口から大量に吐瀉物を吐き出すと意識を失ってしまうのであった。

僕たちの前で繰り広げられた戦闘の結果に驚きを隠しきれずにいたが、そんな僕たちの事を放置して二人はどこかへと行ってしまうのだった。残された魔族の少年は涙を流すばかりで動こうともしない。僕自身もその状況に対してどうしたら良いか困惑していたのだが。その魔族の男の子の体をそっと触れると回復魔法を使って治療し始めたのである。すると、その行為に驚いた様子でこちらを見る。僕はその魔族の男の子に向けて、優しく話しかけた。

「大丈夫かい?」

その言葉に、その魔族の男の子は泣き出してしまう。その事に慌てた僕だったが、すぐに落ち着きを取り戻すとその男の子の事を抱きかかえ。この牢から出て行こうとすると、その途中、牢に閉じ込められた人たちの中から何人かが外に出ようとしたけども、魔王の仲間によってすぐに阻止され、捕まってしまっていたのである。そんな中で魔族の少年が、「どうして僕を助けたの?」という言葉に僕は答えることができなかった。

それからしばらく経つも一向に目を覚ます気配のない魔王を心配そうに眺める僕の耳に女性の苦しそうな声が届く。

「お腹の子が! 産まれてきます!!」そんな言葉を叫ぶ女性を見て僕は慌ててその場所に駆けつけたのである。するとそこに横たわっていた女性は出産を始めたようで。その女性が産んだ赤ちゃんを僕は受け取る。

その赤子の髪の色は黒かったのでおそらくこの女性が言っていた通り、その子は僕達とは違う世界の住人だという事がすぐに理解できた。そして生まれたての子供は女性の手の中で息絶えてしまうのである。その様子を見て、僕は、何もできない自分が嫌になり、そして怒りを覚える。そんな時に僕の肩に手が置かれて「今はその子を助けましょう」と言われ。僕は何も言うことができずにその場から逃げ出すのであった。僕はその場から離れるために、魔族の男の子の手を掴みながら走る。しかし途中で僕は足を止めてしまい立ち止まる。

僕が立ち止まった理由は、この子をどうするべきか悩んでいたからである。このまま逃げ続けてしまえばいいのではないかと考えたのである。僕はそんな考えを捨て去るためにある事を決意した。それは、この魔族の子供を連れて行くことに決め。

「これから一緒に逃げるんだよ」と告げてから、僕の手を離そうとする。その事に魔族の少年は驚いていたが、すぐに僕に対して笑顔を見せると嬉しそうにして僕の事を呼び始めるのである。

その呼び始めてきた少年の顔が、先ほど見た、あの子供の笑顔と似ているような気がして。僕の中にある何かが壊れたような感覚に襲われる。そのせいで目から自然と涙を流し始めるのであった。その出来事をきっかけに僕は自分の気持ちを整理することができたのだ。

そしてこの子を守ることを心に決める。だから僕は、魔王の元へと向かうことにした。この世界について知っていることは、ほんの一部の事柄だけであり。この世界について詳しく知らないからである。そんな僕はまずはこの世界についての情報を得るために。

そして、この子の母親である女神様を探す事にしたのだ。その事を決めるとすぐに走り出すのだった。

(さて、どこに向かうのが一番なのだろう?)と、考えていた時である。

僕の頭上から巨大な物体が落ちてきて地面に突き刺さると砂煙を上げ、その砂塵の中を何かが高速で移動し始めると、僕に近づき始めたのだ。僕はすぐにその何かの迎撃態勢に入る。僕はいつでも回避行動が取れるように準備をしていた。そんな僕の前に現れたのはあの、ミレアという女神の従者を名乗る人物であった。彼は、ミレアの命令を受けて僕を殺すつもりらしい。そして彼はいきなり攻撃を仕掛けてきたのだ。僕はそんな彼と戦う事になった。

彼は見た目に反して素早く僕に迫ってくる。僕はその攻撃を避け続けるも攻撃ができずに苦戦を強いられる。その攻撃は一撃でも喰らうとやばいと判断し、なんとか致命傷になる箇所への攻撃を受けないように防ぎ続けながらも攻撃の機会を伺ったのだ。その機会が訪れたのはそれからしばらくしてだった。

僕は相手の攻撃を防御しながら相手に対して、ある疑問を抱いた。彼が纏っている鎧や武器があまりにも綺麗すぎるからだ。こんな戦い方をする者がそんな高級なものを使っているわけないと思っていたのだ。

そんな事を考えてしまった僕に対し。その隙を逃さずに、彼は剣を縦に降り下ろす。僕はそれをギリギリの所で回避する事に成功した。その攻撃の風圧で吹き飛ばされそうになるも、地面に手をつけ体を支え、体制を立て直すことに成功したのである。そんな僕の前に再び迫り来る彼に僕は反撃を開始する。

僕の振るう剣が相手の鎧に直撃する。その事で金属音が周囲に鳴り響く。その音を聞き、相手にダメージを与えることができたと確信していた僕にその予想は大きく裏切られることになる。僕の剣を受けた彼の体が微動だにしなかったのだ。それに、その事から、この人物はレベルが高いだけでなく、かなりの実力を兼ね備えている事もわかるのだ。そんな彼の力に対抗するために全力を出す必要があると思えた。その判断が間違っている可能性もあったが、それでもここで死ぬよりかはまだましだと思える選択をすることにする。その瞬間に、僕は彼の懐に飛び込み。

彼の体に連続で斬撃を放ち始める。それに対して彼もその行動に対応しようと動き出そうとしたが。彼の行動は僕の方が一歩早かった。彼の胴体が切り裂かれ血を吹き出した後、その傷口を押さえながら地面を転げ回る。そんな彼を僕は見下していたのだが、油断はせず警戒心を高めながら様子を伺った。しかしそんな時だった。突如として僕の真後ろから現れた存在は僕の腹部目掛けて剣を突き刺すのである。そんな攻撃を回避することも、避けることもできない僕はそのまま腹部から背中に抜ける刃に貫通されてしまった。そんな光景を見届ける事しかできなかった僕の視界に映りこんだのは、あの時の魔族の子供で、その顔は先ほどの少年に似ており、僕の事を恨めしそうに見つめるその表情に僕は、この魔族の少年と少年の母親の事を思って涙を流していた。そんな光景を見てしまった僕が意識を失う直前、魔族の少年と目が合い、最後に僕が感じた感情は憎悪だけだった。そして完全に意識を失ったのである。

気がつくと僕の周りに大勢の人がいた。彼らは僕の体を必死に動かしているようだ。その行為により僕の体が動くようになったが。なぜか違和感を感じると、そこでようやく気づく。自分の手が他人のものになっていたことにだ。だがその事実を受け入れられずにいると、魔族の男性が僕に声をかけてきたのである。

その男性は、僕の名前を叫び続けた結果、僕の名前が聞こえてこなくなり、僕は彼の声に反応したのだ。すると彼の手に抱かれている赤ん坊がこちらの方に向かって手を伸ばすのが見えたのだが。その直後。

その腕の動きが止まり。僕の目の前でその魔族の男の子の首は切断され、その首からは血飛沫をあげており、それが僕にかかると同時に僕の体は、血塗れになってしまうのだった。その後すぐに僕は気を失ってしまう。次に目覚めた時はベッドの上に寝ており、その隣にはあの魔族の少年が居たのである。

その状況を理解することができないまま混乱していると僕の傍にいた男性たちが話を始めてしまう。その内容は信じ難い事ばかりだった。まず最初にこの世界のことを説明すると言われたのである。僕はその言葉を聞いてもすぐに受け入れることができずにいたので質問をしてみる事にした。それはこの国の成り立ちについての事であり。なぜこんな世界に転移してきたかという事である。そんな僕からの問いに答えたのはミレアと言う女性で、彼女は僕の方を見ながら説明を始めるのだが、正直なところ何が何なのか全くわからなかったのだが。

この国がある大陸の名前だけは聞き覚えがあった。その名を口にした彼女に対して、僕は驚愕してしまい固まってしまっていたのだが。そんな僕の顔を眺めては微笑む彼女に恐怖を覚えたのは今でもはっきりと記憶に残っており。

そんな出来事を思い出している間に僕の意識は再び現実に引き戻されたのである。しかし僕の元に魔王が近づきながらこう言ってきたのであった。

「どうだい? 私がこの世界について詳しく教えたかいはあったかな?」と尋ねられたので僕は素直に感謝を伝えると、魔王は少し照れたような仕草を見せ「そっか」と答えた後にこう言ってくる。「それでどうするんだい?」と聞かれた僕は魔王に対して「もちろん一緒に戦う」と即答するのであった。

魔王の城から出た僕はリリィたちの事を心配していたが、その心配も束の間だった。なんと魔王の側近を名乗る者が僕の前に姿を現したのである。その人物こそが僕たちを苦しめてきた存在で、魔王の命令で僕を殺しに来たのだそうだ。その事を聞かされると魔王は僕に向けて、こんな提案をしてくる。それは魔王の部下になってくれというもので。その申し出に驚いた僕は理由を聞くと、僕の実力を認めた上で仲間になり、そして、これから先の戦いで僕の事をサポートして欲しいという事らしい。

僕は悩んだ末にそれを受け入れる事を決めると、リリスから僕の事を助けてくれて、ありがとうと感謝の気持ちを伝えられる。それからしばらくするとミレア様からこの世界を救って欲しいと頼まれ、さらに魔王を味方につければ必ず勝てると断言されてしまう。その言葉で僕のやる気はさらに上がり。魔王の元に向かいたい気持ちをグッと抑え込むと、その言葉に従い僕はリリィの元に戻るのであった。そしてミレアの言葉を伝え、これから先の戦いに備えて修行する事を告げるのである。その言葉を聞いた彼女は僕を信じてくれることになり、その言葉をもらったことで僕は更に頑張ろうと意気込んでいたのだ。それから僕はリリィと共に特訓を開始する。

その途中でゼクトと出会い、彼と協力することになった。その事でリリアも安心し、僕達の事を応援してくれたのだ。そして魔王が待つ部屋まで行くと、そこにいた魔王に僕は魔王の仲間になった事を伝える。その事に魔王は喜んでくれたのであるが。僕を殺そうとした男と、リリィのお姉さんでもある魔王が知り合いだったのである。

そしてその事が関係しているのかは定かではないのだが。僕は魔王と仲良くなることに成功して。そして僕の能力を使って魔王をパワーアップさせることに成功もしたのだ。これでやっとまともに戦うことができるようになったのである。それから魔王の元に向かった僕達は、その途中で出会った女勇者と戦うことになる。

そんな戦いの中、僕が使う剣を見た彼女が「その武器どこで手に入れたの?」と聞いてきたのである。

「えっと、まあ、そうっすね。ただアリサさんの雰囲気がリゼと似ているせいか、てっきり同類なのかと思いまして、話しかけただけなんすけどっけど」と話すとアリシアと名乗ったその女性が突然泣き始めてしまったのだ。その理由が、この武器に秘密があり、それを知られたくなくて僕に殺させようとしたらしいのだ。そしてその事で僕は彼女の事を許せなかったが。その前に魔王をどうにかしなければと気合いを入れると。僕は魔王と向き合い始めるのであった。そんな時にリザという少女が現れて、彼女と協力する形で戦っていくことになった。そして、僕はついに魔王との決戦を迎えることが出来たのだ。しかしその時だった。突如として空から現れた何者かにより。僕や魔王やリゼが殺されそうになったのである。しかしそんな状況を覆せる存在が現れる事になる。その正体は僕達と同じ勇者であるユウトと名乗る青年であり、その彼が僕らの命を救ったのである。そんな彼の行動に僕は心を奪われ、彼に心酔してしまうのだった。そんな彼の事を知っている様子の魔王は、彼に問いかけるが、結局は何も教えてはもらえなかったのである。

僕は、あの謎の少年との戦いで敗北した直後。僕はその敗北感に打ちひしがれてしまいそうになっていると。そこで誰かに抱き締められる感覚を覚える。そんな状況に戸惑いつつも、僕はその相手が誰なのかを確認しようとしたのだ。

そして僕の視界に映ったのはリリスと呼ばれる魔族の少女であり。彼女は涙を流しながら、僕に語りかけてくる。そしてそんな彼女に見つめられているうちに僕は自分の意識を取り戻したのである。するとそのタイミングを見計らいながらミレアは僕達に指示を出すと、その作戦を実行する事になったのだ。

その事に僕は驚いてしまうが。そんな事を考えている場合じゃない。とにかく今は、この魔族と人間族のハーフの女性の力を借りるしか生き残る術がないと理解するのであった。その事を実感した僕は改めて彼女にお礼を伝えた。

僕たちはミレニーが操っている魔族の兵隊を倒すために動き出す。

そんな中で僕はこの魔族の少年がなぜこんな事をしているのかを考えていた。

するとそんな僕の耳に魔族の女性の声でこんな内容の声が届く。

「私の妹を悪く思わないでください。全てはこの国の為ですから」という言葉である。その事から僕はこの女性は魔王側の人間の可能性が高いと思うようになっていた。その考えが正しかったことは後々わかるのであったが。その時には既に遅くて。その声の主が僕たちに迫ってきていた。その人物は黒い肌をした魔人で見た目年齢は十代後半くらいで。背中には翼が生えている女性だった。そんな彼女は僕の方を見ると。

僕の方に襲いかかってきているようで。僕は反射的に剣を振り下ろしていた。その剣を受けた魔人は苦痛の表情を浮かべながら後退していくと。

僕の攻撃を避けながら距離を取ったのである。その光景を見ながら僕は警戒心を引き上げると相手の攻撃に備え始めた。だが魔人族はこちらの出方を伺っていただけで攻撃してくることはなく。

そしてその場から離れていくと、姿を消したのである。

その事に驚いた僕たちが周囲を見渡しても、その姿を見つけることができなかったので、僕は魔族の少年に声をかけることにする。すると僕の質問に彼は素直に答えてくれたのである。そしてその内容に僕は衝撃を受ける。なぜなら、この国は人間が支配していた国だと伝えられたからだ。だが魔人族の話によると、その人間どもに騙されているだけらしい。

魔族の話に信憑性はなさそうだと思っていたのだが。魔王の話を聞き。僕はその話の内容が正しいと感じるようになっていったのである。その事に僕自身が一番驚いたのだが。

「どうしてですか?」

僕はその事実が信じられず思わず口に出してしまっていた。

するとミレアは僕に向かってこんな話をしてくれる。

「実は、その話は全て事実で、魔王はずっと前から私たちのことを救おうと頑張ってくれているのよ」とね。

僕はその話に戸惑うばかりであった。

「それって本当なの? だって魔王は、この世界を支配するつもりで、他の世界を征服するつもりでしょ?」と僕はミレアに質問をするが。その質問に対する回答は予想外のものであり。魔王の目的は世界を支配するのではなく、別の世界の救済だという。しかもその相手は魔人や亜人と呼ばれる人種ではなく、この世界に元々住んでいた者達だと言う。僕はそんな突拍子もない話を信じることが出来なかったので、そんな僕を見てリリスが、僕の肩を叩きながら話しかけてきたのである。

「大丈夫だよ、きっと、この人の言っている事、全部が嘘じゃ無いんだと思う。私はそんな気がするんだよね」

リリスの言葉にミレアは少し困ったような笑みを浮かべると、こんな事を言ってくれる。その発言から僕たちが敵ではないと認識してくれたようだ。しかし、まだ完全に信じ切れていないのか、僕のことを信用していない雰囲気を出していたが、ミレアは「今は信じないでも仕方が無いと思います」と言うと。魔王が住んでいる城に向かいましょうと言ってきたのである。その事に僕は疑問を投げかけるが。この世界を救う為にはその方法しかないのだからと言い返されてしまった。

確かにそうだとは思ったのだが。魔王と直接会って本当に話が通じなければ戦うことしかできないとも考えた僕は魔王と会うことに抵抗があったのだ。その事が態度に出てしまったせいなのかはわからないが。そんな僕の反応を見たリリスはこんな事を言い出したのだ。「だったらさ。一度試してみたらいいんじゃない? 魔王が本当に世界を支配しようとしているなら。私たちを倒そうとしてくるはずだし、そうでなければ説得しようとしてくれても良いし、ね」その言葉を聞いた僕は魔王がそこまで考えて行動するだろうかと思ってしまったが。魔王の実力は確かなものだ。その事を考えると。やはりリリスの案が一番無難かもしれないと思い、僕はその提案に乗る事を決めた。

僕たちはミレアと魔人族と一緒に移動を開始したのである。道中にミレアは僕たちに色々な事を説明してくれたのだ。その中には魔王の正体に関するものも含まれていた。僕はその情報を聞いて驚きながらもミレアにその情報を確かめてみると。魔王はミレアの母親であり、その実力もミレアに負けておらず。この国にいる魔王の側近の中では最強を誇る実力者であるのだという。そんな彼女であれば魔人族に指示を出すことも出来るし。そして僕が魔王と戦うことになったとしても十分に勝ち目があるのだと説明されたのだ。その説明を聞いた僕が魔王と戦う必要なんて無いんじゃないかと思ったのだが。そんな事を思っていられる時間も直ぐに無くなっていくのであった。

しばらく歩いていると、僕たちの前に魔物が現れる。しかし僕たちを待ち構えていたという感じの魔物ではなかった。その事に関しては運が良いと僕は思いながら、リリスと共に戦いを始めたのである。その途中でリリィの姿が目に映るが彼女は僕の心配をして来てくれたのだと思われる。僕はそんなリリィの様子を確認すると彼女の事が可愛くて仕方が無くなってしまっていた。それはもう、リリィを抱きしめて頭を撫でまわしたいという欲求が僕の頭を埋め尽くしてしまっているほどである。

「ちょ、ちょっと。あんまり恥ずかしくなっちゃうことしないでよね!」と照れくさそうにしている姿も僕を虜にしてしまい。今すぐにでも同じ家に帰りたい気持ちに駆られていた。だけどその事はぐっと堪えて。リリスとともにこの魔物を倒すことに専念するのである。そんな風に魔物を倒していった僕はあることに気づくのである。

僕たちが戦っている最中にリリスは僕の側に近寄ると耳元に顔を近づけてきたのだ。そして小声でこんな事を告げてくる。

「あの子のことが好きなの?」という問いかけに僕が動揺すると、彼女はこう付け足す。

その表情から彼女の表情には何かを企んでいるという様子が見て取れたのだ。だからこそ僕はリゼがこの場に居なくて良かったと安堵する。もしもリゼに聞かれてしまった場合。僕は彼女に何を言われるか想像できなかったのである。だが僕はこのタイミングでリリスに対して「うん」と答えるのだった。するとリリスは僕から体を離すと、微笑みを見せてくれる。

「そっか、でも、残念だったわね。リゼには好きな男の子がいるみたいなのよ」

僕はそんな話に心が締め付けられるのを感じた。

まさかここでリゼに好きな相手がいることを教えてもらえるなどとは全く思っていなかったのでかなり驚いたが。そんな感情は隠せないもので。僕はすぐに「誰なんだ?」と答えてしまっていたのである。だがその瞬間。リリスの顔が真っ赤になったのだ。

その表情の変化で僕は何も言えなくなってしまったのである。なぜなら僕はこの質問が禁句だと察したからだ。

それからリリスはこんな言葉を漏らしていた。まるで独り言のように「私に出来ることは限られているけど。応援するしか無いもんね」と呟いていたのである。僕は一体どんな相手なのか気にならなかったわけでは無いのだが。このタイミングで質問できるほどの勇気は持ち合わせていなかったので黙っておいた。そしてその後、僕たちは順調に進んでいくことができた。

そんな僕たちの前方に突如巨大な壁が現れたのである。

「これが魔人族の王が住む城です」とミレアは口にしたのであった。

その言葉通り、目の前にある大きな城は城と言うよりはお城といった方が正しいのではないかと思えるほどで。今まで僕が見て来た中で最大の大きさを誇っていたのだ。

その城に僕たち一行は向かうことにしたのである。だが城の前には多数の魔物が立ち塞がっており。簡単に通れるような状態では無かった。そのため僕たちは魔物と戦闘を始める。そんな中でリリスとミレニーの戦闘力は圧巻の一言だった。まずリリスの方である。彼女は背中の翼で空中を自在に飛び回ることができるのだ。それにより魔物の攻撃をひらりと避けて反撃をしていた。そんな彼女が放つ一撃は凄まじく。たった一発で多くの魔物を吹き飛ばしていく。

一方でミレニーは圧倒的な火力で敵の数を次々に減らしていた。その様子はまさに殲滅兵器のようで。僕はそんな彼女達を見て改めてこの国の戦力の高さを知った。だがその光景を見ながらリリスがこんなことを言い出す。

「ねぇリゼ。私と模擬戦をしよう。私だって強くなりたいんだよね。だからお願い。この場で、私と勝負して欲しいの」その言葉を受けてリーゼは少し戸惑ったような表情を見せるが。すぐに真剣な眼差しを向けると。「分かりました。その申し出を受けましょう」と言うのである。するとミレアは少し嬉しそうな顔を見せてからこんな事を言ったのだ。

「リシアさんに勝ったというあなたの実力を是非とも拝ませてください」とね。その言葉を聞いたリーゼが少し嫌な顔を見せたのである。

「あの戦いを見られていましたのですね。あれはたまたまです。運が味方をしただけで勝てたんですよ」と口にすると。リアリスは笑いながら「それでもいいよ。私はあの時の貴方の強さに憧れた。それが理由で良いじゃん。とにかく戦おうよ。それで負けたら諦めるよ」と言う。

するとリーゼは観念して「分かりました。では、私が勝ったら二度とあんな危険な真似はしないって約束してもらいますよ?」と言い返した。

その言葉を受けたリリスはその返答に不満そうな雰囲気を出しながら、「じゃ、決まりね」と言うと。突然姿を消してしまう。その事に気付いた僕は驚きの声を上げてしまい。それと同時に周囲に目を配らせる。しかし、周囲には既にリリスやミレアの姿がどこにもなかったのである。

「え?どういう事だ? なんで姿が消えたんだ?」と僕の口から漏れ出してしまうと。僕の質問に答えてくれたのは、隣にいたリリィであったのだ。

「多分、魔法を使ったんだと思う」とリリィは教えてくれた。しかし、リリスが姿を消した魔法を僕は見たことがないため。僕が不思議に思ってリリスの行方について考え始めた時。

僕の体は吹き飛ばされてしまった。その事に僕は驚くとすぐさま立ち上がろうとしたのだが。そんな僕の前に、先ほどまで遠くにいたはずのミレアが現れる。その手にはいつの間に取り出したのか。長剣が握られており、その刀身が赤く染まっている事から。炎を纏っていることが分かった。

「今のあなたにリシアさんは倒せません。なので大人しく負けを認めて下さい」と冷たく言い放ったのだ。

僕はそんな彼女の姿を見て怒りが込み上げてきた。僕の中で何かが弾けた気がしたのである。僕はそんな感情に任せたままミレアに向かって飛び込む。そしてその勢いのままに攻撃を仕掛けたのだ。しかしその攻撃はミレアによって軽々と避けられてしまう。

「さっきの攻撃が当たらないなんて。そんな」と思わず僕は口に出してしまった。そして僕は一度距離を取ろうと後退しようとする。しかしそんな行動にいち早く反応したミレアに詰め寄られてしまったのである。ミレアは素早い動きで僕の背後に回るとそのまま押し倒して来たのだ。

「ぐっ!」という悲鳴が僕の口からこぼれると。その隙を狙ってリリスとリリアがミレアに襲いかかるが、二人は難なくミレアの振るう剣のよって弾き飛ばされてしまった。その状況に僕は絶体絶命の危機を感じると、僕は覚悟を決める。すると僕の体が発光し始めたのである。

それを見たリゼとレイナとリリスの3人は驚いた顔をするが、僕にそんな余裕は無く。僕は自分の中に残る魔力を全て使い果たすつもりで魔導器を使用する事に決める。そしてこの瞬間。魔導機の使用許可がおりた音が聞こえた。そして同時にリゼの身に何かが起こるが。今は気にせず。僕はリリスの事を抱きしめるとこう宣言したのだ。

「リリスは俺が必ず助け出して見せるから」と言って僕は意識を手放したのであった。

僕は目を覚ました。ここはどこだろうかと思いながらも僕は起き上がる。どうやら僕はベッドに寝ているようであった。

「ん?」僕は疑問に思ったので辺りを見渡す。僕の視界に入ってきたのは白を基調とした部屋に、綺麗な女性達がこちらに笑顔を見せている姿だった。

そこで僕の脳は理解したのだ。自分はリリスと抱き合った後に倒れてここに運ばれたのだなと。僕はゆっくりと体を起こすと周りにいる女性の内の一人に目を向けた。そこには金髪で青い瞳をした少女がいたのである。その容姿はまさしく美少女といったもので。僕が見惚れてしまうほどの美しさがあった。僕はそんな彼女に声をかけようとするが。僕の声は彼女に届かなかったようで、声を出すことが出来なかったのである。

(これは一体何が起きたんだ?)

僕が混乱していると僕の隣で寝息を立てていた存在が僕の体に抱きついて来たのだ。そちらに視線を向けるとリリィの姿が目に映り込んだ。

「あぁ、良かった。目が覚めたんですね」と言うと安心したような表情を見せていたのだ。その表情はまるで恋人に向けるようなもので、僕も嬉しさのあまり微笑んでしまう。

「あの時は助かりましたよリシアさん」と言うミレアの言葉を受けて。ようやく僕が何をしたのかを思い出す。そして自分が魔族になったことも思いだし、目の前の女性達がリゼの仲間なのだと気付いたのだ。

「ごめん。僕はリリスを取り返すことが出来たから。後は頼むよ」と伝えると。僕は再び意識を失う。それからすぐにミレニーとリリスが駆けつけて来て。二人と共に僕の体を運び出したのだった。僕はリゼの元に戻ることが出来た安堵感を覚えて深い眠りにつく。だがこの時、僕の心の中ではある不安が生じ始めていた。

それは魔王の力を使い果たしたためなのか。僕の中に残っていた僅かな力が感じられないという感覚に陥ったのである。その事実に焦った僕は早く力を取り戻そうと必死に眠ろうとしていた。そんな僕はリリスの温もりを感じながら眠りにつく。だが結局、力を取り戻す前に限界がきて。僕は意識を再度失ってしまう。そしてこの瞬間。僕の体に異変が起きるのである。

「なんだこれ? どうして僕はこんなにも力が」と戸惑いを口にするのだが。

その変化は僕自身でさえも分からずじまいであったのだ。

私はリディア。勇者と呼ばれる者の一人であり。この国の王様から直々に依頼を受けた。依頼の内容は魔人族の国の調査だ。私が所属するパーティには魔族の血を引いている者が何人かいた。そのため今回の仕事を引き受けたわけである。そして私達のパーティは魔族の王がいると言われている城に向かうことにして。ついに辿り着いたのだが。

その城の大きさは私の想像以上だった。だがそんな城に違和感を覚えた私は仲間たちに注意するようにと呼びかけると仲間達もそれに同意してくれた。そうしてから城の扉をノックすると私は声をかけることにする。

「私は冒険者ギルドの依頼で派遣された調査員です。王様にお会いしたいのですが、どなたか対応して貰えますか?」

私はそう口にすると。しばらく待つが、返答は返ってこない。私は諦めて帰る事にしようと決めて振り返ろうとした瞬間。いきなり後ろで物音がしたので振り向く。そこには見慣れぬ服を着た男が立っていたのである。そして男は私達に向かってこんな言葉を言った。

「俺はリザと言う。よろしく」と言うのであった。私達は何も言葉を発することが出来ず。その場に立ち尽くしてしまったのである。その事に気づいた男はすぐに謝罪をするが。その時に見せた男の笑みは私にとっては恐怖でしかなかったのだ。

リリスを助けに行った時の記憶がないのだけど。リリスの様子が変だったのは覚えている。あの後で何かあったんじゃないかと心配になり、ミレアに確認したところ。リゼが目を覚ましたという返事がきたので一先ずホッとした。

それからすぐに僕はベッドの上で起き上がると。僕の事を看病してくれていたらしいリリアに礼を言う。

「わざわざ僕の事を看病してくれたみたいで本当にありがとうございます」と言うと。

「いいんだよ。リゼを助けることが出来て本当によかった。それにしてもリゼが起きてくれて私は嬉しい」と言ってくれる。僕はその言葉がすごく心に響いた。

そして僕はそんな気持ちのまま、ミレアに言われたことを頭に浮かべてみた。確かミレニーはリアリスを救い出すまでは協力するがその後は知らないと言ったはずだ。だから僕はリリスを救うことは成功したのだと分かるが。これからどうやって元の世界に帰る方法を探せば良いのだろうと悩んでいた時である。ミレアが訪ねて来たのだ。僕はミレアにリリスの救出が完了したことを伝えると、彼女は笑顔を浮かべてから、僕に対してこんな提案をして来たのである。

僕が気絶した後の話を聞いて分かったことがある。どうやらリリスはリゼルによって精神干渉を受けたらしく。僕との戦闘で使ったスキルの影響が未だに抜けきれていないようである。その為リリスは現在動けなくなっているという説明を受けたのだ。そしてその原因となった僕に文句を言わないと気が済まないと言われたのである。

それを聞かされてしまった僕は非常にまずいと思い。リゼとミレアとミレアと一緒に部屋を出ていったリリアの後を追いかけることにしたのだった。

僕が慌ててミレアにリリスの事を任せるのを忘れて走り去ろうとするのを、ミレアに引き留められる。するとミレアはリリスの精神状態を僕に説明する。その内容によると。僕と戦った時の記憶が残っているためにリリスは怯えているという事だ。

僕はその事を知ってしまったのである。僕のせいでそんなことになったのかと思うと。僕は自分の情けなさを嘆いていた。するとそんな僕を見たミレアは、「リリスさんに会ってくれませんか?」と言うのであった。

その言葉を聞いた僕は少しだけ考えるが。結局会うことを決めた。そして僕はミレアの案内に従って歩き出したのであった。そんな時であった。突然誰かが話しかけてきたのである。

「おいあんた、リゼって名前の知り合いがいるだろう?」と言われて僕は驚いたが、それが誰の声か分かり納得したのである。何故ならそれはレイナさんであったからだ。僕達はお互いに挨拶を交わす。どうやら二人はここで待機していたようだ。そこで僕は二人の話を聞くことにしたのである。レイナはミレアがミレアであるということを知っているがミレアはまだ分かっていないようで、レイナの事は初対面として扱っていた。そこで僕はリリスが精神的にかなり追い詰められていることを話し。二人が何か手伝えることがあったら教えて欲しいと告げると。レイナがリリスを元気付けたいので僕に協力してほしいと言って来たので。僕は了承すると、そのままリリスに会いにリゼの自室へと向かう。

僕がリリスに会う前にリゼの部屋を覗いてみると、リゼがこちらに背を向けた状態でベッドに座っている姿が見える。その様子は明らかに落ち込んでいるように見える。僕とリゼが出会って間もない頃の姿が目に浮かぶ。僕はその事を懐かしく思いながらもリゼの元へと向かった。そして僕は彼女に近づき、リリスの方に顔を向ける。そのタイミングを見計らったようにリゼは立ち上がり、僕を睨むような目つきを向けてくると、こんな風に言葉を口にしたのだ。

「お前のせいなのか? お前の」と彼女が怒りを露わにしていることが分かると。

僕は思わず後退りしたくなったが。なんとか我慢したのだ。そんな僕を見たリリスは僕を問い詰めるようにして質問してきたのである。そして彼女の言葉を受けて僕が何も言えないで居るのを見ると、さらに言葉を続けて来るのであった。そして最後にリリスはこんな言葉を残して僕の前から去っていったのである。

「リリスは私が守るんだ。もうこれ以上誰にも渡さない。絶対にリリスをあんな風に変えた奴を許さないから」と口にする。そしてそんなリリスの背中を見ながら、リリスが何を言っているのかさっぱり分からないでいる僕に、リゼはこんな言葉をかけた。その表情はとても険しいものだった。

僕はその言葉を聞いて驚きを隠せないでいた。その発言内容から察するに、リーゼは何かしらの方法でリリスの記憶を消し去ったのではないかと。僕が戸惑っているのも知らずにリゼルと思しき存在が近づいて来たのだ。

「君はリシアだったかな? ちょっと君に興味がある。俺の相手をしてくれると嬉しいんだけど」とそんな事を言って来たのだ。僕はその言葉を聞き。すぐに逃げようとすると。そんな僕の腕を掴む者がいたのだ。

「どこに行くつもりなの? リシアは私の相手でしょう」と言い。リリスが僕の腕に抱きついてくるのだった。その行為を見て僕は一瞬にして頭に血が上ってしまい、リリスを無理やりに振りほどいて逃げ出す。

僕にとってのリリスとは大切な人であり、守るべき人なのだ。そんな彼女から拒絶されてしまった事にショックを受けた。その事に気付いてくれたのだろうか、レイナが僕を引き止めようと追いかけて来た。だがその時に僕はある事に気が付いたのである。

僕の体は僕の体ではないことに。その事に気付いた瞬間に、僕は立ち止まって自分の両手を凝視してみるが。そこには人間のものではない手が視界に入る。その事実に驚いて僕は言葉を失った。だが次の瞬間にリリアに話しかけられて正気に戻ると、リリスが何処に行ったのかと尋ねられ、僕は正直に答えたのである。

「私と勝負しろ。そうすれば見逃してやる。私と戦う事が怖くなければかかって来い」

僕は突然の出来事に頭が追いつかなかった。リリスがいきなり僕と戦いたいと言い出してくるとは全く思ってもみなかったのである。だけどこれは絶好の機会かもしれないと思い。僕はすぐに剣を抜こうとすると、リリアが僕の前に割り込んできて、剣の柄を握らせてくれないようにする。僕は困惑しながら「え? あの。一体何でそんな」と尋ねると。

「私は貴方に用はない」と言って僕の前に立つ。

その姿を見て僕は呆気にとられていたが。リリアの言葉にはっとすると、急いでこの場から離れることにした。だがその判断が甘かったことにすぐ気付かされた。僕はこの場で足を止めて振り返るのであった。するとそこに居たのは、先程までと違い髪が白くなり。額には二つ目の目が開眼しているリリスの姿があったのである。

リゼはリリアの肩を借りながら歩いていくとリザの元へと向かっていった。するとその道中でリディアの視線が自分に向いていることに気が付く。その瞬間に、リゼは自分の体に異変を感じたのだ。リゼはリザに話しかけようとした瞬間。目の前で火花のようなものが発生する。

「リザ様。リリスさんの事ですが、彼女は今精神状態が非常に不安定な状況にあるんです。今は私に任せてください」と言う。リゼはその言葉を聞いて少し考えるが、確かにリリアの方が適任だと思い、すぐにリリスのことを頼むのだった。そうしてリゼがその場を離れようとすると。リリアが突然後ろを振り向いてこんなことを言い始めたのである。

「リリスはリリアに負けて大人しく引き下がると良いけど」と意味深な言葉を残すと、すぐにその場を離れてどこかに消えていったのである。リゼは不思議そうな顔をすると、すぐにミレアの元に走っていき、事情を説明したのであった。それを聞いたミレアは困ったように苦笑いを浮かべると、「分かった。とりあえず、リリスさんの部屋に向かうね。だからリゼさんは先に戻っていてくれませんか?」と言ってきたのである。

それを受けたリゼはすぐにリゼと別れ、ミレアと一緒に先程の部屋に向かって移動していくのであった。その様子を見ていたリリアだったが、先ほどの行動の意味を考え始めていたのである。

僕の目に映る彼女はリリスだ。だけどそれは見た目だけで、内面が違うような感じがしていたのである。

僕とミレアはリリスの部屋に向かって歩いている。

僕とミレアの二人は廊下を歩く中で会話を続けていた。そして僕はふとした疑問を抱いた。ミレアの事についてである。先ほどミレアに自己紹介をしてもらった時は、あまり覚えていなかった。しかし僕はミレアの名前をどこかで見た記憶があった。

確かあの時ミレアは加奈の従姉妹だと言っていたはず。だから僕はてっきりミレアは僕が元の世界で知っている誰かと血縁関係があるのではと思っていたのだ。そして僕とミレアが初めて会った時を必死に思い出し、名前から何かを思い出そうと試みたが結局分からずじまい。そして諦めかけていた時だった。ミレアの方からこんな事を言ってきたのである。

「ところでリゼはさっきから何が気になっているの? 何かあったの?」と聞いてきてくれた。そのおかげで僕はミレアが何かを知っているかもしれないと思い、質問することにした。そして僕は、僕達をこの世界に連れてきた張本人がミレアではないかと考えている事を打ち明けたのだ。するとミレアの反応を見る限りは僕の意見に対して賛成できないような様子である。そして僕が「やっぱりおかしいよね?」と聞くと。

「まぁ確かに変な話ではありますが。それはあくまでも可能性ですので。決めつけることは良くないかと思います。だってもしも本当にそうだとすると。どうしてわざわざそんな手間をかける必要があるのかと言う話になりますよ」と言われたのである。

確かに彼女の言うとおりである。僕は自分の考えすぎだと思おうとしたが。どうしても引っ掛かりを覚えた。そこで少しだけ話を逸らすことにした。それは僕達の目的をもう一度確認しておこうと思ってのこと。そしてその話題を持ち出した。

「そういえば僕達の目的はなんだっけ」

すると突然僕達は光に包まれてしまったのである。

そして僕は突然視界を奪われて慌てるが、その前に誰かに手を握られる感触を感じ取り安堵する。どうやらその人物は僕よりも落ち着いているようで。こんな言葉を口にしたのだ。

「落ち着け、俺がいるから問題ない。俺に捕まってろ。いいか絶対離れるんじゃねえぞ!」と言われてしまう。僕もすぐに落ち着きを取り戻すことが出来たので、しっかりと相手の声の主の手を握っていることを確認する。そして光が消えると同時に。僕とレイナは森の中へと放り出されたのだ。そして僕の隣にいたはずのミレアとリゼの姿がどこにもいないことに気が付く。その事に動揺するが、とにかく落ち着かないとと心の中で自分に何度も言い聞かせていると、僕に声をかけてくる人物がいたのである。その人物はリディアという少女であり、僕のことを心配してくれた。そんな彼女にお礼を言い、僕はレイジと二人で森の探索を行う。その際に僕は改めて周囲の様子を観察しているのだが、やはり僕達がいた街とは別の場所に飛ばされたみたいである事が理解できたのである。まず第一にここが日本では無い事だけは確実だった。というのも、明らかに植生が異なるからである。

僕達の世界には存在しない植物が大量に存在していたのだ。そんな中でしばらく散策を続けている時に僕はある物を発見する。それを手に取りながら鑑定を行い調べてみる。するとこれがとんでもない物であると分かる。それは「魔晶石」と呼ばれる魔力の塊が、鉱石化した物のようであると気付いたのだ。

これはもしかすると、凄く貴重な代物に巡り合えたのではないかと思い。レイナに相談する事にした。すると彼は僕が見つけた物が気になるのか近付いてくると、興味津々な表情を浮かべ始める。そんな彼の反応を見て僕は嬉しくなってしまうが。今はそんなことを行っている場合では無いのを思い出したので僕は慌てて説明を行ったのである。

「この物体なんだけど、かなり希少な素材になると思うんだ。これを売れば大金を手にできるんじゃないかと思う」と僕が話すとレイナはすぐにその意見に賛成してくれて、僕に指示を出してくれる。

僕としてはレイナの言葉に従いながらも、少しばかりこの石をどう活用するかを考えていたのだ。

僕達がこの世界の別の場所に降り立った事を知った僕たちはすぐに移動を開始することにした。

だが僕たちが移動を開始しようとした瞬間。突然周囲に煙が立ち込め始めた。

そして僕は煙のせいで呼吸が困難になってしまう。このままでは不味いと判断した僕は咄嵯に剣を構える。だが隣にいるレイナを見るとすでに意識を失いかけており。僕は彼を抱きしめると、背中に回して盾にするように庇う。

すると突然体が浮かぶような感覚に襲われる。恐らく何者かに上空に連れ去れてしまったのだろう。だがその時に僕の耳に言葉が聞こえてきたのだった。その言葉とは『大丈夫だよリゼさん、私は味方だから』と言った内容であった。

そして僕の視界には空の風景が広がり始めて、僕が現在進行形で落下していることを理解した。

(一体何が起こったって言うんだよ)と僕は焦るが、とりあえず現状を確認しようと周りを観察すると、近くにリリアの姿が目に入る。彼女は僕が気が付いたのを悟ると「あー、リゼちゃん無事でよかった。私は貴方の味方ですので安心してくださいね」と言われる。それを聞いて、ようやく僕が誰に救われたのかを自覚したのである。その事に気が付き。リリアが敵では無かったことにほっとするが。まだ完全に安全では無いと考え、周囲を警戒することにしてリリアの視線の先に目を向ける。

「貴方は、リリアはリリアですよね」とリリアに向けて僕は尋ねた。その問いかけを受けたリリアはすぐに笑顔になると、「そうですね。でも今はその事は後回しにしましょう。リゼちゃんにはまだ私の正体が分かっていないんでしょう? なら教えてあげますね」と言う。

その口調は明らかに先ほどまでのリリアとは違うものだったが、何故か先程の言葉を信じることができたためそのまま黙っていることにする。するとリリアはすぐに真剣な顔つきに戻ると、「私がこの世界に来た目的を教えますね。今から私の力の一部をあなたに託します。これを持ってください」と言って、手に持っていた指輪を差し出してきたのである。それは赤い宝石が埋め込まれていた指輪であった。僕は言われるままにそれを右手の中指に付けるとそれに合わせて体中に違和感を覚え、体の調子が良くなっていくように感じる。それから数分が経過したところで地面に無事に着陸することに成功したのであった。そして僕は自分の身に異変が起きていることに気が付くと、リリアのほうに目を向けて確認をする。

「リリアはリリスじゃ無かったのか?」と。

するとリリアは困ったように笑う。

「やっぱりリゼはリリスのことが気になっていましたか? ですけどその疑問に答えても多分信じてもらえないかと思いましてね。それでリゼの勘違いを誘うことにしたんですけど、上手くいって良かったです。とりあえず、今のでこの世界で生きる術を身に付けたことは間違いないと思います。だから、これから先もよろしくお願いしますね」と笑みを浮かべる。それを見た僕もまた、笑い返すと、リリアは僕のことをぎゅっと抱きしめてくる。そして耳元でこう囁いてくれたのであった。

私の名前はミレア、リリアさんの幼馴染の従姉妹で、彼女を守ることを仕事にしている者だ。彼女はとある事情により心を病んでおり、その為に精神状態が非常に不安定になっている。そのため今は一時的に休ませないといけないと私は考えているのだ。それにはまず彼女を落ち着かせなければいけないと私は判断していた。そこでまずはこの建物の中から出てもらおうと考えた。なので私はリリスの部屋に向かおうとするのだが。そこで突然何かが落ちてきたのだ。私はそれを見上げると驚きの声を上げてしまう。その人物というのはアリンだったのだ。彼女が突然目の前に現れたのである。そしてそれと同時にリゼの姿は消えてしまい、そしてアリンの腕の中には、リリス様の姿も見えたのだった。その事に混乱してしまうものの、すぐに冷静さを取り戻そうと頭を切り替える。そしてまずは状況確認を行おうとしたのだ。

しかしどうやらそうもいかないらしい。なぜなら私の前に現れた人物、リゼが攻撃を仕掛けて来たからである。そのことに少しだけ苛立ちを覚えた私はリゼに対してこう言い放つ。

「どういう意味ですか? リゼの身に何かが起こる可能性があるなんて話は聞いていませんし、リリアからはそんな情報も聞いてもいませんでしたが」と リゼはそれを受けて動揺し始めると。そんな彼女を見つつ。リリ様に話しかける。

「すみませんがここは任せてもらえますか?」と伝えると、リリ様の返事を聞くよりも早くに私は動き出す。そして剣を抜き放ちリゼに向かって振り下ろす。もちろん本気を出すわけにも行かないから軽くであるが。しかしその攻撃を難なく回避されると舌打ちする羽目になった。そして再び距離を取られるが。

「リゼはもう大丈夫なんですよ。だから邪魔をしないで下さい」と言い放ってくる。

それに対して思わず「何が問題がないのか分かりませんが。貴方はリリスの事が嫌いなんじゃないのですか? そして貴方の主人が今どのような状態であるのかをきちんと理解していないようですね」と言うと、彼女は顔を歪めると。こう言ってきたのである。

「えぇ確かにその通りよ、確かに私はあの人の事が苦手だし、大嫌いよ。だけどそれとこれは関係ないでしょう。私はあの人を守る義務がある。それだけよ、そして今はそんな事よりも、優先すべき事があるわ。だから邪魔をすると殺すから、おとなしく死んでくれるかしら?」と言われてしまう。だがそんな脅しに乗る気はないと私は思っていたのだけれど、その時私の体は硬直してしまい全く動けなくなってしまったのである。

私はその現象を見て驚いていると、リゼはすぐに攻撃を行うと。そのままこちらへと突っ込んできたのである。だがそのタイミングでリリさんとレイナさんが現れると、その勢いを止めてしまった。その事にリゼは驚愕の表情を見せると、慌てて後退する。

だがすぐに落ち着きを取り戻すと。リリさんの方へと視線を向けたのである。そんなリリさんの事を睨むと「どうしてあんたがここにいるの。あんたのせいであいつらが、あいつらに殺されるのに、何で助けてくれなかったの、何で私を守ってくれなかったのですか」と声を上げる。

それを聞いてレイナは戸惑っていたようだが、リリは優しい表情になると「ごめんなさいね。貴女の事を守りきれなかったのは、本当に申し訳ないとしか言えないのです。だけどね、私が守ろうとすればきっとリゼの体に負担がかかってしまうのですよ。ですのでね。私の代わりにリゼの面倒を見てくれる人を用意したのですよ。この世界に」とリリが告げると。その言葉を最後まで聞いた途端にリゼは表情を強張らせてしまったのである。

(この人は一体何を言っているのかしら?)とリリアさんの姉でもある女性のことを警戒しながら私は様子を観察し続ける。だがそんな私の事を無視するように女性は私に視線を合わせると微笑みながら「お久しぶりですね。私はレイシア、レイシアス家の長として務めているものです。今回はあなた達の力になる為に派遣されてきましたのでどうかよろしくお願いいたします」と言われる。

私はそれを聞いて困惑するが。とりあえずこのレイシアと名乗った女性がリリアに敵対する意思を持っていないことは理解できる。だがそれだけではなく、レイナさんの事を非常に気にしているようにも感じたのだ。

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