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その話を聞いた俺の脳裏に一人の魔王の存在が思い浮かぶ。

(もしかするとリリスの言っていた魔王のことじゃないだろうか?)

リリスは以前「魔王は複数存在するわ。その中の一つとして、あなた達が倒した魔王とは別の個体が存在する」というような話をしてきたことがあった。俺が「その魔王って一体どんな奴なんだ?」なんて聞いたところ、その魔王の名前を教えてくれたのだ。俺はその名を聞いて「リリスに求婚をしていたという勇者のことかな?」などと口にすると――

その質問を受けた男は、リリスの過去を語り始めてくれるのであった。

「リリス殿の婚約者であったその人物は、元この国の王子でもあった。しかし、彼はリリス殿と結婚するために王族としての位を返上している。そのため現在は、元冒険者のランクSSSで元傭兵でもある【リゼル=ヴァンダール】という者が国をまとめ上げているようだが。しかし彼もまた勇者であるわけだ。そんな彼をこの世界に呼び出させるためには、私と初代勇者様の力で異世界へと続く扉を開き、その勇者召喚に必要な魔法陣を作り出す必要が出てくるのだ。そのために私たちは旅をすることになった。そこで私は君と出会うこととなる。私は君の実力を知りたいと思い、手合わせを申し出たのだよ。私はこれまで多くの強者を倒してきた経験があるからこそわかることがある。その勇者とはいったいどれほどの存在なのか。それを確かめる必要があった。そこで君は、私との戦いに敗北してしまうのである。その時に見せた君の力を見た瞬間――私の体に電流が流れたのである。こんな感覚になったのは生まれて初めてのことだった」

(え? ちょっと待ってくれ――俺は今何をされている?)

何故かいきなり胸元に手を入れられて撫でられたのだ。その感触はまるで俺のお腹をさすり続けている。

(こいつ何やってんの? 何がしたいんだよ)

俺は気持ち悪くなり、慌てて手を引き抜こうとしたものの――

何故かビクともしなかったのである。そんな行動を取っているうちにその男はさらに調子に乗ってきて。その男の腕がどんどん伸びてきて――

とうとう俺は身動きが取れなくなると、 その腕によって、服を剥ぎ取られそうになっていたのだ。そこで俺は必死になって「待て待て! 落ち着け! そんなことをするなら死んでやるぞ!?」と言ったものの、 全く俺の言葉を信用せずに、更には服を脱がそうとするのである。

俺はもうどうしていいのかわからなくなり――とにかく相手の体をどうにかしようと、思いっきりその男の体を突き飛ばすと――俺が放った渾身の突きは見事に相手を吹き飛ばした。

「はぁはあはあ――よしっ!」

なんとかして俺は窮地を逃れたと思った。しかしその安堵も束の間――

俺に突き飛ばされたその老人は地面に叩きつけられながらも――

そのままの状態でこちらに向かって再び襲いかかってきたのだ。そして先程と同じように拳と剣が衝突することになる。そして、先程とは違い俺は素手で攻撃していたため、相手の攻撃を防ぐことはできなかった。

俺の顔面に向けて繰り出された蹴りは、そのまま俺の顔を捉えてしまうと そのまま後方へと吹っ飛んでいく。そして壁に衝突し、壁にヒビが入り、そして崩れ落ちると。

その崩壊した瓦礫と共に下へ下へと落下していったのであった。

(ううっ――クソッ!!油断していた! 何だあいつ! あんな攻撃してくるとか反則だろ!?)

俺は頭の中で毒づきながら、それでも諦めることなく立ち上がった。すると俺の体が急に軽くなったように感じたのである。不思議に思った俺はステータスを確認してみると。

そこには、今までなかったはずのある文字が表示されていたのであった。そのステータスは

『能力付与

『体力無限』『状態異常無効』『物理ダメージ無効』が付与されました』

というものであり、それを確認するなり目の前の老人を睨みつけたのである。するとその男は「おぉ、なんということだ。まさかこれほどまでの力を持っていようとは。それにしても何故お主はそこまでの力を持っていてなお勇者として覚醒しないのだろうな? その謎を解き明かしてくれぬか? これは我が友である【エルミナスの呪いを解除できる可能性のある存在なのだからな】」と言い出したのだった。

「どういうことだ? お前らはいったい何を知っているんだ?」

俺は思わずその男に対して問い質した。それに対してその男は語り始める。

「かつて、ある少女が存在していた。彼女の名はエルミナス=アークスといい。彼女には特殊な能力があったのである。彼女は生まれた時から魔力が常人の数十倍もあった。そしてそれは大人になっても変わらず、成人となった今でも魔力が尽きることなどないほどの膨大な量を保有し続けていたのである。その事実を知った国王と宰相の二人は彼女を道具として扱うことを決め、そしてこの世界に召喚をしたのじゃよ。その世界は、勇者召喚のために必要な魔法が使える魔法師が少なく、その貴重な魔法師の力を借りて異世界より人間を呼ぶことを可能にしたわけだ。

この国はな――代々勇者を呼び出すことのできた魔法を持つ魔法師の血統が治めていた。だからこそ魔法に関しては他の国々よりも一歩抜きん出ている。その力を使って魔法を使い続けた魔法師の体はやがて蝕まれていった。それが、その女に与えられた呪縛であり宿命でもあった。

しかし、それを救う手段がたった一つだけ存在していたのである。それが聖女の口づけだったのである。その女には、エルミナス=アークスという名の婚約者が存在した。その男が勇者であり。しかしエルミナスはそのことを知らなかったのだ。エルミナスが知ることになるのは彼が王国から姿を消してからのこと。

しかし、既に時は遅くエルミナスに残された選択肢は限られていたのだった。そしてエルミナスは自分の命と引き換えに勇者を助けて欲しいと懇願するのだが、その願いは叶うことがなく、そして勇者の命は奪われてしまったのである。その結果、勇者の加護とスキルがこの世に誕生し。その力で異世界に勇者を送り込むためのゲートが開かれるようになった。それによって勇者召喚が可能になり。この国はかつてのように栄えることになったのである。そしてその勇者召喚に必要になる力を得るために私は異世界へと繋がる門を開いたのだよ」

(えぇ――なんか壮大な物語を聞かされちゃったんですけど――俺に関係あるのこれ? 勇者召喚されたの俺だし。俺何も知らないし――てかその話から推測すると――俺の体に起きている変化ももしかするとそのことが原因なのか?)

俺がそんなことを考えていると――

「おぉ! ようやく気が付いたか? お前のその体の違和感はそのせいであるのだよ」

「マジかよ――ってか、なんで俺はそんな話をお前から聞かされてるんだよ?」

「お前さんはこれからその問題を解決してもらうために協力をしてくれるというのだからな。少しくらい説明をしてやろうと思ってのう。ちなみに私の名前は『魔王の使い手』『黒衣の王』『死神の弟子』とも呼ばれているが。本当の名前はエルメニスと言う。覚えておいて損はないと思うぞ。では本題に入らせてもらおうかの」

(なんだその厨二的なネーミングセンスは――でもその名前どこかで聞いたことがあるような気がするんだよなぁ――思い出せない)

俺が考え込んでいると――「ふむ、まだ理解できていないようだな」などと言ってくるわけだ。その言葉を聞いて俺は「あんたが俺に何をさせようとしているのか教えてくれたら考えてもいい」と言ってやったのである。そしてその言葉を聞いた男は、その口元がにやりと笑う。

(嫌らしい笑い方だな――まあ、確かに気持ち悪いとは思うが――この世界で魔王の話をしたのはこの人だけなんだよね。つまりこの人の言葉は信じられるものでもあるってことになる。この人が言っていることが全部真実かどうかは俺にはまだ判断ができないけれど。ただこの人のおかげで俺の体に起きてるおかしなことは解決できそうな気がしている)

そう考えると俺はとりあえずこの人に色々と質問することにしたのだ。するとその老人は答えをくれるのである。その内容は衝撃的なものでもあったのだ。まずこの世界に魔王が複数存在していなければおかしい理由だが――初代が倒した初代魔王は、初代勇者を異世界に送り込むことに失敗している。しかし初代勇者はこの世界に戻ってくることはなかったが、その代わりにある一つの力を残していくことになったのだという。それが勇者召喚の力と――初代勇者が残していったスキルの力だ。そして今俺の体の中に存在している力こそ、初代勇者がこの世界に残してくれた唯一のものなのだ。初代勇者は、その二つの力を同時に使用することにより勇者を召喚することに成功したと言われている。そしてその力というのが――『能力継承』というものである。

そしてもう一つ――俺の中には、初代が使っていたという固有魔法のスキルも宿っている。そしてそれを使うことによって、俺は勇者を蘇らせることが可能になるというわけだ。そして俺は、二代目の魔王の話を聞いた時に、あることを思いついたのだ。

(もし俺の中にあるその能力が、二代目の言う通りのものだとすれば、俺にも何かしらの方法でそれを実現することができるかもしれない)

ただ問題はそのやり方なのだ。初代がどのような経緯でそのような能力を手に入れたかということを知る必要があるのだ。そしてそれさえわかれば――俺にだってどうにかできるはずだ。俺は、この男の言葉を全て信じたわけではない。しかし、少なくとも今のこの状況を改善したいという意思はあるように思えた。そして俺もこの世界のことを変えたいと思っていた。ならばその男の話を信じて行動してみる価値があると思ったのだ。そこで俺は思い切って提案してみた。俺の体に起こっている問題を説明し、なんとかする方法がないかどうかを訊ねたのだ。しかし、相手は首を左右に振った。俺の問題についてはどうすることもできないと言われた。

そこで俺は更にお願いをする。「俺にできることがないならそれで構わない。しかし――俺の仲間が危機に陥っているのだけは何とかしたいんだ」と。するとその男は俺に向かって「お前の仲間の居場所を教えてくれるなら、その場所に連れて行ってやっても良いが」と言ってきたのである。

俺は仲間達の居場所を聞かれ、思わず絶句してしまったのだ。

俺は仲間が攫われ、監禁されている建物の位置は知っている。

そしてその場所に辿り着くまでの道程と敵の数。

そして最後に一番重要視しなければならないのは――そこにいるであろう敵の正体だ。

その敵の名前と強さが分からなければ、助けに行ったところで返り討ちに遭う可能性があるからだ。

(くそっ!! こうなったら一か八かやってみるか)

俺は覚悟を決めると「俺と一緒に戦ってくれるっていうなら、連れていってやる。但し! もしも俺が死ぬことがあったら――俺の持っている能力が欲しいなら好きにしてもらって構わない!」と言い放ったのである。

するとその男は嬉しそうに笑いながら、「良いだろう。お前は私の力を受け継ぐ権利を得たのだからな。それならばお前が死なぬよう最大限の努力をして守るとしよう」

その言葉を信用するかしないかの判断材料がないままではあるが、俺はこの男の力を試すことにしたのだった。その結果、男が本気を出せば俺は簡単に死んでしまうだろうということが分かる。それはステータスを確認したときにわかったことだ。俺のステータスよりもレベルが高かったし、それにスキルの数も多かった。しかも、そのスキルの効果を見ていると恐ろしい効果を持ったものが沢山存在したのである。それはまるでゲームの世界に出てきそうなほど強力なものであったのだ。だからといってそれが全て本物であるかどうかは確認することができなかったが。

ただ俺のステータスもかなり上がっているようで、特に身体能力に関しては、あの時見たときと比べて段違いのようになっていた。

それだけじゃなく体力のほうも無限になっているようだし、それに耐性系のスキルに関しても増えていて、状態異常に関しては無効となっているのだ。そして物理ダメージに関しても無効となっていた。ただし、体力回復はちゃんとできるようになっているので便利だった。ただその反面、魔法による攻撃に対しては極端に弱くなっているのが現状だ。

そして俺が知りたかったのは相手の正体であったのだが――なんとそれは――この世界に来て初めて見る存在だった。そして俺はその姿を目の当たりにした瞬間に絶望していたのである。なぜなら――それはドラゴンと呼ばれる魔物であり。この世界における最上位の強さを誇っている存在であったからだった。

「はぁ――はぁ――やっと見つけた」

「あれはいったいなんなんだよ?」

「いやいや、私にもわからないんだよ。しかし君も凄い力を持ってるようだけど。まさかあのレベルの相手を単独で倒してしまうとはなぁ――本当に驚いたよ。まぁ、私にとっては君とあの化け物の戦いを見てるだけでも十分楽しかったがな。それよりもこれから君はどうするつもりなんだい? もうここには君の求める情報は存在しないぞ?」

「いや、まだ諦めるわけにはいかないよ」

俺はそう答える。そして――

(さっきの感じだとあいつらはこの国の地下に存在しているようだが――地下まで降りるのには骨が折れそうだな。転移魔法を使うか? いや――そんな時間があるとも思えないし、そんな余裕もないか)

そんなことを思っていると――「そう言えば聞き忘れていたが――」と老人が俺に声をかけてきた。

そして俺は振り返ってみると――「その仲間の居場所は何処だ? そこまで案内しろ」と言ってくるのである。

「あんたについて行けば確実に会えるんだろうな」

「約束はできんが、私が保証してやろう」

「わかった。ならついてこい」

俺達は互いに視線を交わすと移動を開始した。そして俺はその前にリリス達に事情を説明することにする。

「みんな少し待っていてくれ。俺の仲間を助けに行ってくる。心配はしなくていい」

俺がそういうとリリスは「分かりました。マスターがお望みなのでしたら。でも、どうかお気をつけてくださいね」と送り出してくれたのである。

「お父様」と声をかけてくれたのは、先ほどの戦いの際に傍に居てくれていた娘のアリアであった。

その顔を見ると――やはりこの子にも寂しい思いをさせていたのだという罪悪感が沸いてくるのだ。だが、娘は俺に抱きついてきて「頑張ってください」と言ってくれたので。

その小さな頭をなでなでしながら俺は笑みを浮かべると、「必ず戻ってくる」と言ってやったのである。すると娘が嬉しそうにしている姿を確認することができた。俺はそれから魔王の老人と合流して、一緒に行動する。そして目的地へと向かうために移動を開始することになったのだ。

◆ 私は目の前に現れた存在に対して――警戒する気持ちが強くなっていたのです。

「お前たち二人だけなのかな? まぁ、それでも問題ないけれどな。なにせ僕は一人でも多くの人間を殺したいという欲求を抑えきれなくなっているんだ。今すぐに殺せるのならそれで構わねぇ。まぁ、どちらにせよ全員殺すことに変わりはないけどなぁ!!」

その言葉を聞いて――背筋にゾクリとしたものを感じてしまうのでした。

私は魔王を名乗る人物に連れられてとある場所にやってきた。そこは――巨大な扉があった場所で。その場所へとやってきた時に嫌な雰囲気を感じていたのは事実だ。しかし――その魔王と名乗った人物は私達の前に立って――

「ここからは私の後を付いて来ると良い」などと言うわけである。正直に言って――この人の言葉をそのまま信じてもいいのか分からない。しかしここで断ってもどうにかなるわけじゃない。だから今は従うことにしたのだ。そうして歩いていくとその先に見えてきたものは、大きな部屋と――そこに置かれている無数の牢屋であった。その牢の中には多くの人が閉じ込められており――その中には――かつて仲間だった勇者の女の子達の姿もあって。そこで彼女がこちらに気づく。

「どうしてあなた達がここにいるの!? というか無事なの?」

そう言われてしまえばこちらも返答の仕様がなく――黙り込んでしまうしかない。そうして私は勇者の子から話しかけられるが――そこで彼女は私たちのことを知らないという反応をする。

それどころか、ここがどこであるのかさえ理解できていなかったのである。しかし勇者の子の仲間の一人がこの国の名前を言うと――彼女達は驚きを隠せない様子になったのだ。それも当然だと言えるかもしれない。何故ならその国名はこの大陸の中でもっとも危険とされている王国の一つなのだ。それこそ魔王が支配する魔族の国と同等かそれ以上に危険視されていると言われている。しかしなぜそんなところにいるはずの勇者がこんな場所に居るのかは謎ではあったが。

勇者は困惑しつつも私達に助けを求めるので、私達は彼女の仲間を救出することになったのである。その途中で――その少女に名前を訊ねると――「わたしはアーシャだよ」と返事をしてくれたのだ。その名前に心当たりはなかったのだが――その名前がどこか懐かしいような気がしたのである。そこでふと思い出したことがある。確か――先代勇者が持っていた聖剣に名前をつけようとしていたのが、そんな名前の子だったことを思い出すのだ。その子は――この世界に来てしまった時に、最初に召喚され、そのまま魔王によって殺されてしまった。だから――

「そうか――お前は――私の妹か?」

私がそう訊ねてみると、彼女は「お姉ちゃん――」と涙目になって喜んでくれて、それでようやく自分が何を言っているか自覚することができたのだった。そしてその後に私も彼女に質問されたことがあったので、「リリアと呼んでくれるといい」と伝えた。しかし妹であるらしい彼女は、私に「うーん――お姉ちゃんの方が可愛いからやっぱりお姉ちゃんのほうがいいかな?」と言われてしまい。なんだかむず痒くなってきてしまっていたのだった。

その後、私たちは牢に閉じ込められている人たちを解放していく。

中には女性もいたし――子供たちも何人か居た。

そんな中で私は、この城の主と思われる老人に声を掛ける。すると彼は嬉しそうに反応してくれるのだ。そうして話をしているうちに、老人が仲間を探しているということが分かった。その理由がこの城の地下深くにあるとされる空間の中に存在する宝を手に入れるためだというのである。

その話を聞いた私は興味本位で地下へと降りていったのだが、そこに広がっていた光景を見て絶句してしまったのである。そこにはこの世のものとも思えない化け物が数体いて、この世のものではない化け物に殺される仲間たちの姿を幻視するほどだった。しかもそれは単なる幻ではなく。本当にそのような出来事が起きていたのではないかと思えるほど、鮮明なイメージとして脳裏に浮かんでしまったわけである。

しかしそこで――その化け物を一瞬のうちに斬り伏せてしまった存在がいたのだ。それはあの男であり、あの男の一撃を食らった化け物は、跡形もなく消滅したのであった。そして私達の存在を確認した男が、仲間の元へと案内してくれるということになり、私も同行することにしたのである。そして――しばらく歩くと男が足を止める。そして彼が何かを唱えると目の前の床に大きな穴が出現する。それはあまりにも大きくて――落ちないようにするのが精一杯といった状態だったのだ。だから、その先に向かうためには、彼に抱き着いている必要があるというわけである。そして私は男の胸元に飛び込むようにして彼の体に手を回し抱き着く。その際に、彼の体がとてもがっしりしていて鍛え上げられているのだということが確認できたのだった。

そうこうするうちに、どんどん下へ降っていくと。やがて視界の先に地上が見えた。しかしそこは既に地面と呼べるものはなく。まるで大地を削り取ったかのように巨大な穴が空いており。まるで奈落に突き落とされるような感覚に陥ったが、男は私を抱きかかえて難なく地面に着地をした。その時には既に他の三人は地上に辿り着いていた。

そしてそこで私達は勇者の少女と出会うことになる。どうやら彼女は私達に助けを求めるようで。この城の中であったことを説明し始めたのだった。しかし話をしている最中で突然あの化物が現れてしまい――あの人が瞬殺した。だけど私には分かった。あの人の力の底が見えないほど強大であることを。だからこそあの人は何者なのだろうかと気になってしまうのだ。だけどそのことについて考えている暇はない。

そう思いながら先ほどの話に戻るわけだが。そこで彼女が言うには――ここはかつて、先代の勇者たちの拠点でもあった場所であるらしい。つまり彼女がいうこの場所こそが魔王城にほかならないと、そういうことである。そう思うとやはり、この先に魔王が存在しているのだと確信してしまう。その魔王が誰であるかまでは分からないけれど。それでもきっと、この魔王は初代魔王が残した負の遺産のような存在であるのは間違いないと思う。そんなことを考えつつも、勇者は必死に魔王の機嫌を取ろうとしていたが、結局その努力は実を結ばずに。

魔王に殺される運命にあった勇者は――無残に殺されてしまった。そんな勇者に対して、助けることができなかった自分に憤りを覚えていると――その勇者の体を貫こうとした刃を、魔王と名乗る存在は手にしていた剣で受け止めたのであった。

(あれだけの速度で飛来した斬撃に即座に反応するなんて、只者じゃないわね)

そんな感想を抱いていると、今度は魔王を名乗る男がその老人に対して切りかかってきたので。それを私は咄嵯の機転で阻止することになってしまった。しかし私はその剣戟の凄まじさに驚愕することになる。なぜならば、その老人の攻撃を完全に見切った上で受け流すと同時に反撃の体勢まで整えていたのである。そしてそこから繰り出される攻撃は、完全に隙がないものであり、その全てを受け流してしまうのであった。

(な、なんなのこの人!? こっちが本気で殺しにいっているのに、全然手ごたえを感じられない!! それにこの強さ――明らかに人間離れしているんだけど。というかこんな強い人間がこの世に存在していること自体信じられないというか――)

私がそんなことを思って驚いていると――そこで私達の前に立っていたその男が魔王に話しかける。すると魔王は、目の前に立つこの男性が自分よりも強いと認めたらしく、その力を欲するような発言をし始めたのだ。すると魔王はこの場に居た者達を全員始末して宝を奪いたいと言ってくるのである。それを受けて男性は――私とアリアのことを見逃してくれないかと言いだしてきた。しかし――

「お前たち二人がここで大人しく帰れば命だけは奪わないでおいてやるよ」などと、そんな上から目線の言い方をしてくるのだ。その態度にもカチンときたがそれだけではなく。この男性の発言に対して私は少し違和感を感じていたので――思わず尋ねてしまうのである。すると――彼は「あぁ。そうだよ。俺も人間さ」と言う。しかしそんな言葉で納得できるはずもない私は続けて言葉をぶつけてしまうが。彼はそれに対して特に気にした様子もなく言葉を続けてくるのだった。

それから魔王の老人から宝について説明を受けると、彼は宝物庫への扉を開いて見せてくれた。そうして現れた宝物庫の中からは――大量の武器防具類が出てきたのである。それらの価値を見定めることは難しかったのだが。おそらくこの城の中でもっとも貴重なものは魔王本人だったのだと思われた。

そんな状況なので、魔王とこの男性との話し合いは難航を極めるのであった。

俺は魔王に言われた通り仲間二人を庇いながら戦闘を行うことに決めた。

といっても仲間が傍にいなければ使えない技があるとかではなく、単に魔王に狙われると危ないだろうと判断したからだ。そして魔王が放った攻撃を防いでから俺は、仲間の一人であるリリアさんに「大丈夫ですか?」と問いかける。するとリリアさんは戸惑いつつもうなずき返してくれた。そんな彼女に笑みを浮かべてから――再び視線を魔王に向ける。そこにはこちらの様子を伺っているような感じになっている姿があり。とりあえず、こちらからは仕掛けてこないようだった。しかし警戒されているのでこちらから仕掛けていこうと思って――魔法を放つ。まずはこの世界に来たときに手に入れた剣で魔法陣を描いていき。発動するのは水魔法の上級魔法の氷の槍だ。それが十本近く現れていき魔王に襲いかかる。それに対する魔王のとった行動は――回避で、それにより魔王に避けられてしまって攻撃が全て無駄になる。しかしそれでいいのだ。なぜならばこの段階で魔王がどの程度の強さを持っているのかおおよそ理解できたからである。この程度でどうにかなる相手ではないだろうが。ある程度戦えるということはわかった。そして次は炎による攻撃を加える。今度は中級魔法の火球だ。その攻撃に対して、魔王も応戦して火の玉を投げつけてきたが、その二つがぶつかると爆発し、相殺された。

そして次には土の壁を生み出していく。これは防御用というより相手の逃げ道を塞ぐために使用したもので、そしてすぐに風と水の初級魔道で作り出した鎌で攻撃を開始する。

その全ての攻撃に対して、対応されてしまった。だから――

(やはり魔王だけあって相当な実力者のようだな)

そんな感想を抱くことになる。しかしこのまま何もしないというわけではない。

そこで今度は聖女のリリスさんのほうを見てみると、彼女も準備が終わったようで、リリスさんと目配せしてから俺は聖属性魔法で生み出した白いオーラの刀身に浄化を付与していく。その状態で剣を振り抜くとその波動のようなものが広がっていった。そして聖属性の波動に触れたものは全て消滅していき、そこに存在していた化け物も消え去ったのである。するとその直後。俺の体が淡く発光し始めてしまい、その光は徐々に強まっていった。そのことに焦りを感じたのだが。その時に突然リリアさんの声が聞こえたので、彼女の方に意識を向けると、そこで彼女は驚きの言葉を口にしたのである。

なんでも彼女は聖女としての力が使えるようであり、その力で俺を回復させようとしてくれたのだという。

正直なところ。その話は突拍子もないことであり信じられなかったが。実際に体験してみて分かったことがある。それは、自分の体に起こった変化の原因と理由である。

その理由とは――リリスさんと恋人同士になったことで。リリスの加護とやらが付与されていたらしいのだ。しかしそれがどうして、聖属性の波動によって発動したものなのかどうかはわからないが。ともかくリシアさんが言うにはその効果は絶大なのだとかで、回復量が大幅に上昇する上に、状態異常の耐性までも上昇し、さらには能力の上昇率なども上昇してくれるとのことなのだ。だから俺は素直に感謝することにした。そのお礼として後程何かプレゼントでもしようかなと思っていると、その考えが読まれたかのようにアリアが話しかけてきて。

「そのお気持ちはとてもありがたいですが。私は貴方がそばにいて下さればそれだけでよく。他には望むものなどありませんので」

そう口にしたのであった。

魔王と戦うことになった俺たちであったが、その前に――リシアの言っていたリリスの回復スキルの効果を確認するための行動をとることにした。

その結果、確かにリリスさんが俺の傷を治療すると言っただけで、俺が負った怪我は完全に回復してしまっていた。しかもその後さらに、俺に対して状態異常なのかどうかの確認をしてもらい、そしてそのすべてに対処してしまったのでもう完璧といってよいほどの回復を果たしてしまったわけである。ただその効果には個人差があるらしく、たとえば毒などの場合。解毒をしないと完全に治すことはできないらしく。しかしそれは自然と回復しているらしく問題はないのだそうである。ちなみにリリスさんとキスをする度に効果が増大するという話もあったので。今後彼女とは積極的に触れ合うことにした。もちろん他の女性陣の許可も得ながらだが――そんなことを考えているとそこでリリアが口を開く。

「私には回復の心得はないけど。それでもその回復魔法があれば、私は貴方の力になれるということなのね?」

というので、その質問に対して俺は首肯しておく。すると――彼女は笑顔になりながら。

「じゃあ私もその戦いに混ぜてもらえない? 勇者と魔女って、ちょっと響き的に似ていて、なんか憧れてるのよね」

そんなことを言ってきてくれるのであった。そうして彼女が名乗りを上げたのを皮切りにして、残りの仲間たちも同様に参戦を申し出てくれて。結果的には総勢九名で戦うこととなる。そして戦闘開始前になって魔王の方を見ると彼は苦笑いをしていたのだ。

その反応を見た時。なんとなく魔王の反応から察することができた。どうやらこちら側は魔王側の人数を把握した上で戦おうとしている節があり。おそらく向こう側もそれに気が付いているのではないかと――思ったのである。

ただ仮にそうなのだとしても。別にこちらは気にすることではないと思い。魔王との戦いに集中することに決めた。そして――先ほどまでの余裕ぶった感じではなく、真剣に攻撃を仕掛けてくるようになる魔王の姿を確認したことで、この戦いに勝利するための道筋が浮かんできて。それに従って動いていくことを決意する。

まずはリリスに魔法で結界を展開してもらうと、魔王の攻撃から身を守る。それから次に魔王の懐に入り込んで斬りかかるが、当然のことのように防がれてしまい、反撃の蹴りを食らう。そこで体勢が崩れかけたところに追撃を受けそうになってしまう。しかしその時にはすでにリリアが割って入り魔王の動きを止めたのだ。そして俺はそのまま剣を振り抜き――魔王の体を両断した。

魔王は地面に倒れると、そのまま塵と化して消えるのだが。

そんなことは関係ない。今は魔王を倒したという実感を得るよりも先に。俺はこの場にいる者達に被害が及ばないようにと動き出す。そうして最初にリシアとリリアとリリスさんの三人に対して聖女の癒しの力を使おうとするのだが。

その三人がいきなりその場に膝をついたのだ。そんな彼らの様子を見た俺は困惑しつつも、とりあえず全員の状態を確認していく。するとアリアだけは大丈夫だったが。あとの三人はなぜか苦しんでいる様子だったのだ。

俺はそのことをアリアに伝えると、そこでアリアは「おそらく私の魔力を吸収して、リリスは自分自身を回復させようとした結果だと思います」と答える。しかしそこで疑問が浮上してきて。それを解消するために「つまりはそういうことなのか?」と言う。するとアリアは「どういうことですか?」と尋ねてくるが。その言葉に対して俺は次のように言葉を続けた。

そうすることでアリアも状況を理解できるのではないかと考えたからであり。また説明の途中でリディアに確認したいことができたからでもある。

『俺の記憶の中に魔王と戦った時のことは残っていないんだよな?』

と念話で伝える。

そう。俺は魔王との交戦中に記憶を失ってしまったのであり。それが原因で魔王を倒すまでに至ったのだろうと考えていたのだが。そもそもの話。俺は魔王にとどめとなる攻撃を加えた後に気絶してしまい。目が覚めたらここにいたわけだ。だから俺は魔王を倒してはいないんじゃないかという結論に至っているのである。

そんなことを考えていながら、そのことに関しての返事を待ってみると――返ってきた答えは「はい。私にはそういった知識がないので詳しくはわからないのですが。私が知る限り魔王は倒されたと聞いています」とのことであった。そしてそんなやりとりをしていると、回復したのかリリアが立ち上がってきた。

なので改めて彼女に声をかけることにする。

「調子はどうですか?」と問いかけるとリリアは俺の方に近づいてきて。

「はい! 大丈夫です!」と答えてから、「わたしたちのせいで迷惑をかけてしまいましたよね? ごめんなさい。今後はこういうことが起こらないよう努力します」と言ってくるが、俺としては彼女の気持ちだけでも十分に嬉しかったのだ。しかしそれだと納得しないだろうと思って、彼女の手を握り締めて安心させるような笑みを浮かべておくことにしたのである。

そうして次にはもう一人の聖女リリスさんのほうに目を向けると、彼女はまだ辛そうな顔つきをしていたので彼女に手を伸ばしてみると――驚いた顔をした後でおずおずと俺の手を取ってくれた。そんな彼女を引っ張り起こしながら――ありがとうございますという言葉を伝えると。彼女は照れ臭かったようで少し赤面していたのだ。そしてそのタイミングでアリアが話しかけてきてくれた。

俺が聖女さんのことを見ていたので、気を利かせてくれたようである。そのおかげで俺はリリアと話をすることができ。そしてその話の中でわかったことがあった。

リリアとリリスさんの二人はリリアが魔王を討伐する前までは仲の良い姉妹であったそうだが。リリアがリリスさんの分まで頑張ろうと思った結果。姉は聖女としての才能を開花させ。妹は聖女の力を失い、さらには聖女の加護さえも失うことになったのだと。だからこそ今回の件は自分の責任だと。そう思っているようだが。しかしリリアがリリスさんのために何かしようとしたからこそ聖女の力は目覚め、そしてその力で魔王を撃退できたと思うのである。しかし当人であるリリスさん本人が、リリアを責めようとしないのなら俺がとやかく言える立場でもないと思い。そのことは黙っておくことにしたのである。魔王が消滅した後。しばらく待っても特に何も変化がなかったことから、俺たちはその世界から立ち去ろうとしたのである。ただその時にリリアは俺を呼び止めてきた。そして彼女はこんなことを言ってきたのだ。

「貴方たちは本当にこれでよかったのでしょうか?」

それは魔王を倒しに来た俺たちに対しての言葉かと思い。その意図を尋ねてみた。

リリアの言葉に対して。

――そうですね、と俺は考えるふりをしてから口を開いた。そして彼女はきっとリリスさんのことだと考えているのだと思うので。そのことについて話を切り出すことにしてみる。リリアの表情を見る限り正解だとは思うが。しかしもし違ったら申し訳ないのであえてリリアに判断を任せるようにする。しかし、その反応を見たところ、やはり姉のことを考えていたようだと判明して。それからリリアが語るところによると。姉を守れなかった自分を不甲斐ないと感じているのだそうで。そんなリシアの様子に俺とアリアが励ましの声をかけると、そこでリリスさんが俺たちの間に割り込んできたのだ。

「私はリリスちゃんのおかげて今生きているんですよ? 私はリリスちゃんのおかげで救われて。そして今もこうやって生きています」

というリリスさんの言葉を耳にしたリリスさんの瞳からは涙が溢れ出していて。そんな彼女の様子を見た俺は思わず抱きしめてしまったのだ。リリスさんとリシアさんの姉妹の関係には色々と複雑な思いがあったが。少なくとも目の前にいるこの女性はもうこれ以上辛い思いをしなくていいはずで。だからリリアにリリスさんに笑顔を見せて欲しいと言うと。そのお願いは受け入れてもらえたので。俺はそこでようやく心が軽くなった気がするのだった。

そうして俺はリリアの案内によって元の世界に戻ることにした。

その途中でリリアがリリスさんの頭を撫でていたので。リリアが笑顔でいてくれることが何より嬉しいのだろうと察した。そのせいもあって。俺はなんとなく二人から離れて一人で歩くと。そこで背後に気配を感じ取り、振り返ってみるとそこには――リリアとリリスさんが並んで歩いていて。そしてリリアに背中を押されたのかリリスさんまで俺の隣に来てくれると。俺は自然と頬を緩ませながら「行きましょう」という声を出す。そして彼女たちと肩を並べて歩き出した。するとそんな時。不意に隣にいたリリアの視線を感じた俺は横を向くと――彼女と目が合う。そしてリリアは笑顔を浮かべてくれて、そしてすぐにリリスさんの方へと目を向ける。

そんな二人のやり取りを見た俺は。二人が姉妹であることを実感すると――なんとも不思議な気分になったのである。だってそうだろ? ついさっきまであんなにもぎこちなく。お互いを意識して距離感があったのに。今では自然な関係に見えるのだから。それは俺にとっては嬉しいことだったが。

でも今は魔王との戦いを終えて、無事に元の世界に戻れることを素直に喜ぶべきであり。それに魔王が倒されたのであれば、いずれは魔王城もなくなるはずだと俺は考え。魔王が倒されることが世界にとって最善なのだからそれでいいじゃないかと思ったのだ。そして俺が前を向いて歩いていると、リリアは俺の顔を見つめていて。そんな彼女に向かって俺は言う。

『どうかしましたか?』

するとリリアは俺の質問に答える前に、リリスさんの方を向いたかと思うと――

――なんでもありませんよ?そう口にしたのだ。その言葉に対してリリスさんがどんな反応をしたのかは見ていなかったのでわからないが。とりあえずリリアの表情は嬉しさを隠し切れない様子だった。そしてリリアは再び俺に目を向けてくると微笑んでくれて。それからしばらくしてから俺たちは元の世界に戻ってきたのである。

それから俺が最初に目にしたのは自分の部屋であったわけだが。その瞬間に俺はある事実を確信した。なぜなら魔王を倒したことでダンジョンコアを起動するための扉の鍵が解除されたであろうからだ。その確認を行うためにダンジョンに向かおうと思っていると、部屋の外で人の足音が聞こえてきたのである。俺は念のためリリアたちに外に出てもらうことにし、それからしばらくすると、扉が開かれた。

現れたのは母と父であり。

「大丈夫だった?」と俺に問いかけてきて。

俺は「うん、問題なかったですよ」と答えたのだ。

しかし母はそこで「本当に大丈夫なの?」と言ってきた。

その言葉に対して、

「心配してくれたんですね。でも俺が嘘をつくような人間に見えますか?」

と答えると。

両親は苦笑いを浮かべた。

俺の言ったことが理解できなかったようである。

俺はその反応を見てから立ち上がると、とりあえず両親と話をしてみることにする。

そんな俺の姿を目にしても、二人は特に俺に違和感を覚えていないようで、とりあえずは無事であったことを確認し、安心しているようでもあった。

そんな感じで俺は家族との再会を果たして。その後はダンジョンのことを聞いてみることにしたのだ。俺の話を聞いた両親が驚く中で、その驚きをかき消すかのように――「実はですね、あの後で急に大きな音と共に天井が落ちてきたのですが」と話し始めたのだが。その話を途中で中断することになったのである。というのもある人物が突然俺の部屋の中に入ってきて。

「それはどういうことだ!?」

と大声で問いかけてきたのだ。その人は父と仲が良く、いつもお世話になっている警察官の佐々木警部さんである。

「いや、それは、えっと」と俺が困ったようにしていると。父はすかさず口を開いていた。

「いや、落ち着け、警部さん」

「しかしだ、旦那。これは一大事だろう?」

「まあ、そりゃそうだけど」

そうして父が口ごもっていると。

そこで母が、

「ちょっと待ってください」

と、俺の前に手を出して発言を制止する。

その行動の意味がわからずにいると、

――まず、私の息子に一体何があったというのですか?

――ああ、それなら私の娘と、私の友人の孫が助けてくれたんだよ。娘と、その孫の話によると、勇者を名乗る若者が私達を助けてくれたのだと言っていたんだが。その証拠として彼が持っていたはずの魔剣と聖槍を預けられたんだが、それを使って魔王を討伐したらし――い、痛い! 俺の前で言い争いを始めようとする父の腕を母が引っ張っていて。その光景を見ながら俺はため息を漏らすしかなかったのである。

そういえば、俺の父と母のことに関して話していなかったことを思い出したのである。

それは俺とアリアの関係を説明するために話す必要があると俺は思ったのである。そこでアリアとの関係について説明したところ。父も母もその話を信じてくれることになった。というより、二人共アリアとは面識があるようだ。

それからしばらくの間、三人の話に付き合っていたが。俺が気になったことはいくつかあり。まずは俺のことを気にかけてくれた警察の人たちの気持ちであった。彼らとしては、俺に怪我がないのかどうかということが気になっていたらしい。俺のことを気にかけてくれるのは有り難いが、その気持ちのせいで仕事に支障が出る方が問題である。そう思って「心配してくれてありがとうございます。けどそのことはあまり気にしないで下さい」と言ったら、「君は本当に強い子だな」と言われた。

次に魔王についてだが。魔王に関しては特に気になる情報は得られなくて。

しかし魔王の配下だった悪魔たちはダンジョンの外に逃げていたらしい。そしてダンジョンの管理者が不在となったことにより。これから先どうなるかは誰にもわからないらしく。だからこそ警察は警戒を強めておかなければならないと口にして、

「ところで話は変わるが、お前たち二人が持っているその聖剣と聖槍は誰のものなんだ? それに魔王をどうやって倒したんだ? その武器は間違いなく、魔王を封印した物であってだ。それを君たちが使えるはずはないはずなのに。どうして聖女でもない君が使うことができるんだ?」

俺に問いかけるのではなく。その言葉には明らかに敵意が込められている気がしたので。俺が「これは」と口を開く前にアリアの方が口を開いていて。それから彼女は事情を説明していた。そこで俺は、この世界の人間ではないということを改めて伝える必要が出てきたのだ。そして俺がこの世界で勇者と称えられていたことも伝えておくことにしたのだ。

その話を聞いた二人の反応は大きく異なり。

「ははははは、面白いことを言う子だな」

と言って笑っていた人こそが、父さんであり。

そしてその言葉を疑わずに俺の肩を叩きながら笑顔を見せてくるのが、母さんなのだ。

――まあいいか。とそんな風に思っていたら。俺はそこで、父さんと母さんに呼び出されることになる。

そしてその要件についてはダンジョンに関することだった。そのダンジョンに俺に行って欲しいのだと言う。その意図はすぐにわかった。なぜなら俺以外に攻略できる人物がいないと判断できたからだ。それに魔王が倒された今となっては。魔王城にある魔王の宝を盗む輩が現れる可能性があるとのこと。そんな理由から、俺は父と同行することになってしまう。

その道中はダンジョン内にあった隠し通路を進み。ダンジョンの奥深くへと向かい続けるわけなのだが、俺は途中でとある疑問を覚えたので質問をする。すると父はあっさりと答えてくれて。そこで明らかになった事実によって。俺は魔王城の地下には大きな施設が存在していたという事実を知る。

そこは地上よりも多くの魔獣を生み出すための工場となっていたのだとか。その事実を知って、俺は少し怖くなった。もしも魔王の宝を狙う輩が現れなければ。その施設の存在は闇に葬られたかもしれないと思ったからである。そうなれば大量の魔族が野に放たれることになったはずだ。そう考えると背筋が寒くなる思いだったのである。そして俺は思うのだ。もし仮に俺やアリアのように他の異世界からやってきた人間が存在するとしたならば。そんな彼らが何かのきっかけで魔王の秘宝の存在を知られてしまうことになる。その事実に気づいた時には手遅れとなっている可能性が高いのではないかと思ったのである。

それからダンジョンの入口に着くまでに何度か魔獣と戦う場面があり。その際に父が使っている魔法を見て俺は驚いてしまう。なぜなら、父は無詠唱のスキルを持っていたからであった。そのことでさらに俺は驚いたのだが。それと同時に父から色々と話を聞かないとなと思っていたのである。

ダンジョンの攻略中、俺は父が使った魔法のことについて詳しく聞きたかったのだが。

なかなか父を捕まえることができない。だから俺は一人で探索をしている間に何度も父の姿を目にした。

そうしているうちに俺達はようやくボスがいる部屋にたどり着くことができ。そこにいる魔獣はこれまで以上に強かったが、二人で協力することでなんとか倒すことに成功したのだった。そうして俺達はついに最深部に到達することに成功する。そこで待っていたのは巨大なクリスタルだった。そして俺達が近づくと、まるで生き物かのように鼓動を始めたのである。それは次第に早さを増していき、そしてついには光を発し始めて――俺達の視界を奪うほどに発光し始めたのだ。その光景を見た俺は何が起きているのか全くわからなかった。そんな状況の中、光が消え去るとそこには巨大な門が出現しており。俺はすぐにその門の方に目を向けたのである。

――すると、門はひとりでに開き始めていて。

「お、おい、嘘だろう」と思わず口にした俺だったが、そんな言葉は無視されるような形で俺は中に吸い込まれていったのだ。その先は一本の細い道が続いており。しばらく歩いて行くと開けた場所に出ることができたのである。俺は周囲を確認するために視線を向けると。

その先には一人の女性が立っており、俺に向かって声をかけてくる。

「貴方をここまで連れてきたのは他でもありません。あなたはここで試練を乗り越えてもらわないといけないからです」そう口にする女性の顔立ちは非常に整っていて。肌も白く綺麗だった。俺はつい見とれてしまっていたわけだが。俺は女性の話に耳を傾けた。女性はこう言って来たのである。自分はこの世界の創造神で。

これから俺を鍛え上げる存在だと名乗るわけだ。俺はその話を聞いて驚くしかないわけで。ただ、そんな俺に対して。

――貴方にはすでに強力な力を付与されています。ですがそれを使いこなすには、やはり努力をしなければいけません。ということですから頑張ってくださいね? と言い残してどこかに立ち去ってしまうわけだ。そんな彼女を見て俺は、この人が女神さまなんじゃないかって思った。

そんなことを思っていると再び景色が変わり、俺はなぜか洞窟の中に立っていたのである。その周囲には複数の気配がして、その気配の感じで相手は魔族の集団だということがわかってしまったのだ。

「人間よ。命が惜しくば我が配下になるのだ」

「嫌だと言えば、殺すつもりか?」

「そうだ。死にたくなくば我の下につくのだ」

「それは無理だ」

俺はきっぱりと言ってやると。相手の方もやる気になってしまったらしくて。戦闘開始の状態になった。俺は早速、剣を抜いて相手に斬りかかると。その攻撃が効いているようで相手が苦しんでいる様子だったので、そのまま攻め続けることにする。すると相手の一人が「ぐあああ!」と叫んでその場に倒れたので。そのことに動揺して隙が生まれた敵達を次々と倒し。その場を乗り切ることに成功して。そして俺を救ってくれたのは父さんであり。そんな父さんの姿を見ながら、俺の中で父さんの印象が一気に変わった。というより今までの父さんの姿が仮初だったというべきか――父さんは俺と別れた後、一人で戦い続けて力を付けていたようなのだ。しかも無茶なレベル上げを行っていたせいで、今の父の強さは異常なことになっているらしく。それこそこの世界でトップクラスの存在だと言っていたのだ。

それを聞いて、この世界には俺なんかより凄い人が数多く存在することを知った。

ただ、この世界で父が一番すごいという話は本当みたいで。この世界の人間は勇者という特別な存在であるらしいが、勇者の称号を持っている者は一人しか存在しないらしい。それもその勇者の名前は俺の父ではなく。初代魔王の直系の子孫に当たる者の名前だと言われて俺は驚愕してしまった。なぜならその人は俺と同じように勇者として召喚された人であり。父よりも前に勇者をしていた人だったからだ。

そんな父さんと一緒に行動しながら俺は、自分の実力不足を感じていたのである。そういえばアリアと出会ってからは彼女のことを守ることばかり考えて、強くなるということに疎かになっていたからだ。

そこで俺が修行したいという旨を父に伝えると。

「それは構わないぞ」と言って、父に道場に連れて行ってもらった。

そして、そこでの稽古が終わった後、父さんは、

「そういえば息子に渡すものがあってだな」と言って俺に一枚の紙を渡して来たのである。

俺が受け取ったものは冒険者ギルドへの紹介状で。

俺のことを父の友人だと言ったら、快く渡してくれたらしいのだ。

そんな父に感謝をしながら、俺はその日から毎日のように通い詰めることになるのであった。

――父さんに手紙で呼び出されたので、その指示に従って家に向かうことになった俺。

しかし父さんの様子がおかしかったのだ。というのもいつもなら家にいてもおかしくない時間帯になっても、姿を見せてくれないのだ。

なので、俺が父の部屋を訪れるとそこには誰もいなかったのである。

その光景を目の当たりにした俺は「母さん、ちょっとこっちに来てほしいんだけど?」と口にした。

俺の呼びかけに答えて、すぐに母が駆けつけてきて。俺のそばにやってきた母は、「ここにいないとなるとどこに行ったんだろうね?」と言うと。

それから「うーん」と考え込むようにしてから「あの人なら」と思い至ったのか「きっとあそこに行っているかも」と言うと、歩き始めたのだ。

母の後を追いかける形になった俺だったが、そこで辿り着いた場所はダンジョンである。

その光景を見た俺としては、「もしかしたら母さんは父さんが何かに巻き込まれてしまったのではないか」と思ったのだが、その予想は外れる結果になった。なんとダンジョンの最下層で父が待ち構えており、その父さんと母さんが仲良さそうに話をしていたのである。

そこで俺に気付いた父さんは母との会話を止めて、母に別れの挨拶を口にすると俺の方に向かい、手招きをするのだ。その手招きに誘われる形で近づいていくと、父が手に持っていたものを俺に押し付けるようにして渡してくる。それがこの世界に俺を呼び込んだ例の魔道具だった。俺はそれをまじまじと見つめながら父に「これは一体なんだ?」と聞くと、その質問に対する回答は、俺が元々いた場所に戻るためのものだというわけだ。そんな父からの説明を聞いた俺は驚いてしまい、思わず「えっ、じゃ、元の世界に帰る方法があるんですか?」と口にしたわけである。すると父は笑いながら「あるけど、その魔道具を使って戻るのは不可能だよ」と言うと。その理由を説明してくれたのだった。

俺がこの世界にやってきた時は、魔石に魔力を込めることによって発動するタイプだったために俺がこちらの世界にやって来た時の時間と同じ時間を逆行しない限り俺が向こうの世界に帰還することはできないようだ。つまり一度、異世界に訪れてしまうと帰ることができないということらしい。まぁその事実を知ったところで特に俺にとって困ることなんて無い。それに俺はまだこちらの世界でやり残したことがある。その事実だけ確認できれば問題なかった。俺はそう思ってその事実を素直に受け止めたのだった。

ただ俺を呼び寄せることができるのはこの一点だけであり、二度目はないと言われたので少し悲しくはなったのだが。ただ父は俺のことが心配になって様子を見るために呼んだだけで、本来はこの魔石を手土産として持って行くつもりだったみたいなのである。だからこの魔石は持っていけとのことで。俺はその魔石を鞄にしまうことにした。そうしていると父が俺に問いかけてくる。俺に魔法を教えてほしいと。俺は父のお願いを受けて魔法の練習を行うことになる。そこで俺も色々と新しい魔法を覚えたのであった。

――そうして俺は無事に父と再会することができた。その日は父と二人で久しぶりに食事を取ることができて。

俺達は二人で思い出話をするのであった。

――あれから数日が経過していたわけなのだが、

「そういえば最近ずっと一人で修行をしているのに全然レベルが上がらないな」と口にした俺に対して、リリスは「そういう時もあるのでしょうね。でもレベルを上げようと努力をすることが大切なんですよ? そうすればレベルが上がると思いますよ」と口にすると。その通りだなと思って俺は、もっと強くなろうと決意を新たにした。そんな俺がリリスを連れてきた理由は一つ。彼女と一緒にこの世界を救うべく頑張ろうと思っているからである。そのためにはまずレベルを上げる必要があるわけだ。なので早速、俺は近くの草原に行って魔物を倒すことにする。

すると、そこに現れたモンスターが結構強い相手であり、俺は剣を構えると。まずは相手の攻撃を避けつつ観察していた。どうやらこいつはオークと呼ばれる種族らしい。豚人間とか呼ばれているみたいだが。見た目はかなり不細工だし。醜い姿をしており。そんな外見で人間を食らうのが大好きな種族で、他の亜人たちにもよく食われていて、その数は日に日に増していて困っているらしい。俺はとりあえず目の前の敵を片付けようとしたわけだが。そこで俺に向かって突進をしてきた敵に対してカウンター気味の攻撃をお見舞いするとあっさり倒すことができた。やはりレベルを上げた効果は大きく。以前よりも楽な戦いになっていたのは間違いないだろう。俺はレベルを確認すると30を超えていた。ただレベル1の時に倒せた相手が今はもう倒せなくなっていることから考えれば確実に成長していることはわかったので、俺はこのままどんどん進んで行こうと考える。そしてその日は夕方まで戦闘を繰り返した後に宿に戻って休むことにした。

そして翌朝。

俺達が宿屋を出て街の外に向かおうとすると「勇者様。お待ちください!」と誰かに声をかけられたのだ。

声の方に振り返ってみると、そこにいたのはかつて勇者のパーティとして一緒に戦った戦士の女の人で。俺達の前までやってくるとその女性が話しかけてきた。その女性というのが聖女という称号を持っている人でもあり、俺を召喚したことで勇者に恨みを抱いてしまった人の親玉でもあったりする。そんな彼女がなぜ俺の前に現れたのかと言えば、

「貴方の力を確かめさせていただきます!」と言って剣を抜いて襲い掛かってきたのである。いきなり攻撃を仕掛けられてしまった俺としては戸惑うことしかできないが、彼女は容赦することなく斬りかかってきて。俺はその攻撃を必死に避け続けていた。そんな中で彼女は口を開き、

「その動きはまるで初代の動きを見ていますね」と、その言葉を耳にして驚いた俺は、彼女の剣戟をかわし続ける中で、反撃の一撃を加えようとしていた手を思わず止めてしまい、彼女の方を見るのだった。その行為が隙になってしまったのは言うまでもないことだろう。そして隙だらけになってしまった俺に聖女の剣が迫るのであった。その攻撃をなんとかかわすことはできたものの、俺はそのまま吹っ飛ばされて地面を転がることになる。そして地面に倒れることになった俺はすぐさま立ち上がって態勢を整えようとしたが、

「まだ動けるようですね。ならもう少しいきましょうか?」と、言って、さらに追い打ちをかけようとしてきた。それに対抗するために俺は「くそ! ならこれでどうか?」と叫んで。俺はスキルを発動させた。

その瞬間。聖女が纏っていた光が俺に襲いかかってきていたので。

「ぐあっ!?」という苦悶の声と共に膝をついた俺。

そんな俺に向けて今度は魔法を放ってくる。

「ライトニングボルト」という魔法で俺に雷属性の攻撃を与えて来る聖女であったが。俺は「爆炎掌」と唱えると爆発を引き起こし、それによって発生した衝撃波が、その雷を打ち消すことに成功していた。

「今の技はまさか――そうですか。その様子ですとやはり初代の加護を受けているようですね」

そんなことを口にする彼女に対し俺は、どうして俺にこんな仕打ちをしたんだと問いかけてみると、彼女の方は俺に問いかけ返されるとは思っていなかったらしく「私にはそんなつもりはなかったのです。ただ勇者様に力を認めてもらうためだけに――ただ貴方の力を試したかっただけですから。それでどうやら本当の力を見せたようですから私の負けですね」と言った。それから「さぁ早く行きなさい」と促された俺がその場を離れようとすると、そこでリリスから「勇者さんは私が守るので安心してください」という言葉を投げかけられたことで「ありがとうございます」と言って去って行った聖女であった。それからしばらく歩いていると「大丈夫かしら?」とリリスが聞いてきて。俺の方は何が起こったのか全く理解できていない状態だったが「多分だけど、初代と俺を戦わせたいんだと思う」と言う。そんな風に答えると「そうなるわよね」とリリスが呟いていた。

その次の日の朝。俺達は再びダンジョンへとやってきたのだが、そこで出会った相手と戦う前にステータスの確認を行った。

【名 前】

タクミ オノダ 【年 齢】

17 【レ ベ ル】

20/40 《+10》 【体 格】

160 【能 力】

■基礎8 生命強化(特大)

魔力操作5(2up)

(New)身体能力強化5(3up↑)

()内の数値は武器による加算値 剣術4(new)格闘術3 盾術3

(1up↑)馬術2 →槍術1 【天職】従魔術使い(固有)→竜騎士→魔剣士 錬金術師←NEW 鑑定士(1)

(New)

鍛冶職人(2)

木工職人(3)

錬金マスター 【ギフト】

龍眼の創造者 魔石の天才 限界突破 アイテムボックス 武芸百般 言語理解 経験値UP∞

(New)解析

【スライム】使役数:1/20

(New↑)

◆全知全能の書 アクセス不能 ×1 リリスのことが心配になって「本当に一人で平気なのか?」と言うと、リリスは「私はレベルもそれなりに上げましたし。一人で戦えるだけの実力はあるつもりです。だから、気にしないでください」と言うのだった。リリスがそこまで強くなっていたことに驚きつつ、そんなリリスの強さを信じてみることにする。そしてそんな俺たちのところに敵が出現したのだが、

――そこに現れた敵は以前も見たことがあるモンスターだった。その魔物は「ギィィィ」と甲高い声で叫ぶ。そんな相手に対して俺は「やっぱりお前だよなぁ。まぁでもあれだけ倒してレベルが上がっていれば楽に倒せるはずだよなぁ。それに今回は魔剣を持っているわけだし。でもリリスは後ろに下がっててくれよ。俺に任せろよ。だから絶対に前には出ないでくれよ」と。そのようにお願いした俺に対して、リリスは「わかったわ。私、頑張らないけど見守らせて貰うから」と言い出した。それに対してツッコミを入れたくなる気持ちを抑えながらも俺は、剣を構えながら相手のことを見ていた。その相手がなんという名前のモンスターであるのか、その外見を確認しつつ観察する。見た目は醜い豚人間であり。人間を食らう習性があることでも知られているが、人間に捕まった後はその肉を食われることはなく奴隷として扱われてしまうのである。ちなみにこの世界で人間は亜人を食料としているわけなのだが。それでも人間と亜人の関係は良好で戦争に発展したことがないらしい。ただ亜人が人間に捕らえられた時に酷い扱いを受けることが多く。その被害を被りやすいのは亜人であるエルフ達であり、その数は減る一方で困っているのだとか。その話は聞いたことがあったが、俺としては「人間が亜人を襲うのが悪いんじゃないのか?」と思っていて。その話を聞いた時の俺はそんなことを考えていた。

ただその話をした父は、そういう問題ではなくて人間以外の種族が人間と同じ世界に生きているということ自体がおかしいと。それが一番の原因であり、その問題を解決しないと、この先も同じ事が起こるはずで。その話に説得力を感じたから俺はその考えに共感したわけだ。なので俺がこの世界の魔王を倒すことにしたのは当然の成り行きとも言える。

それはともかくとしてだ。この世界では人間と亜人の関係性はあまり良くないみたいだし、俺としてはそんな人間から亜人の人達を守りたいと思っているのである。しかし、今目の前にいる豚人間は人間の亜人で間違いないだろうと思う。何故なら耳がとんがっているからな。ただ俺の予想が間違っていた可能性も否めないが、俺がそう思った理由を語ってみよう。それは俺がまだ勇者をやっていた頃に倒した初代魔王と、目の前に現れた豚人間の姿が似ているような気がしたのである。見た目は完全に豚なのに初代はイケメンだったというのが何よりの証拠だったわけだ。俺のそんな言葉に対してリリスが「確かに初代魔王様と似ている部分が多いですね。それにあの豚さんは強いですよ」と言ってきていた。

そのリリスの言葉を聞いて俺は改めて豚に意識を向けると「それじゃあ俺から行かせて貰うかな」と口にした。その声が聞こえていたようで、その豚は俺に向かって走り出してきたが。

俺の方が動き出す速度が速いせいで、こちらが有利に戦闘を進めていく。豚は剣を持って襲い掛かってくるが俺の方は余裕をもって避けることができていて。そのまま懐に入り込むことに成功すると。まずは腹を蹴り上げる。

その攻撃をもろに食らった豚は地面に倒れることになる。だがそこで倒れていたはずの奴が急に立ち上がろうとしたため、それを警戒して俺は後ろへと飛びのいた。そして立ち上がった瞬間に、口から炎を吐き出してきたのである。

俺は剣を振り下ろして、それで炎を吹き飛ばすと、そのまま相手に斬りかかった。剣を振って攻撃を仕掛けるも避けられてしまい。そこで相手は再び炎による攻撃を行ってきた。その攻撃に剣を突き立てて対抗しようとするも、俺は熱によってダメージを受けてしまった。そんな俺のことを嘲笑うかのごとくに「ギィィー」と甲高い声で笑うそいつに苛立ちを覚えるが、それでも冷静になる必要があった。

――そこで俺にリリスが近づいてくる。

そしてリリスは俺に何かしらの魔法をかけたようである。そして「私のことは気にせずに思いっきりやっちゃって」と言ってきたのだ。その言葉に後押しされる形で、俺は魔法を唱え始めた。

【名前】

中村太一 【年齢】

17 【クラス】

高校生(2年生)

【状態】

正常 【レベル】

20/20(+1up↑)

【経験値】

3430/48000 【HP】

52/342 【MP】

322/320(+1up↑)【SP】

398 【筋力】

23 【瞬発】

25 【体力】

24 【器用】

26 【魔力】

37 【抵抗力】

22 【知力】

35 【幸徳】

20 【回避】

27 【技能】

剣道3 弓道2 空手2 古武術2 杖術2 【ユニークスキル】

鑑定☆(3UP↑)

アイテムボックス(New)

従魔術(4New)

【エクストラスキル】

龍眼(1New)

武王(2New)

従魔:リリス(New)魔導を極めし者(New)

【称号】

武道を極めし者(New)

龍を従えし者(New)

従魔:リリス(New)

魔道を極めてし者(New)

【固有魔法】

全属性適正

(5UP↑)

全能力強化

(1UP↑)

【職業】

竜使い(2)

→ドラゴンライダー(2)

→テイマー(2)

→魔術師(1)

→賢者(1)

【従者召喚】

→竜騎竜(1)

【加護】

女神の守護(1)

創造神の加護(2)

【レベル】

20/20 →20/40 ◆全知全能の書アクセス不可×1 →NEW

「ギィィイィ」と鳴き声をあげる豚人間は俺のことを見て、怯えるような仕草を見せている。その理由は何となくわかる。だってこいつのレベルは現在38であり、俺は20。普通に考えたら勝負にならないはずだ。でも俺はそんな相手を一方的に圧倒できるぐらいの力を身につけているわけだ。だからこそ俺は、相手よりも強い立場から、容赦なく攻撃を加えていった。すると俺の攻撃に耐えきれなくなった豚人間は、あっさりとその場に崩れ落ちていったのである。

その豚人間を殺した後で、俺は「こんな雑魚が、本当にこの辺り一帯を支配できていたのか? どう考えても信じられないが。まぁ、今はいいか。それよりもリリスのレベルが一気に上がっていたし、レベルを上げる必要のある敵がいないんだし。このままレベルを上げさせて貰うとしよう。それと経験値もかなり入ってくるので俺の方も、レベルが上がると良いんだけどな」と考える。

その俺の呟きを聞いたリリスが、俺に声をかけてきた。

「レベルは上がったみたいですが。レベルが10上がるごとにステータスに+1000ポイント入りますので。今の状態だと普通の人間と比べて100倍ぐらいの強さが有るということになりますね。でも、貴方なら大丈夫だと思いますよ」

その言葉に俺は少し嬉しくなって「そうなのか?」と言うと、彼女は俺に対して笑顔を見せてから「はい。きっと魔王様にも負けませんよ」と言ってくれる。俺は「ありがとうな」と感謝しながら彼女の頭を撫でてあげていたのだった。それからしばらく森の中を歩くと村が見えてくる。俺達はそんな村に近寄っていくと、門の前に立つ警備の者達に止められるわけなのだが。その門番の男は、俺の顔を見るとすぐに頭を下げて、「村長に知らせてきま」とだけ言って、走って奥の方に行ってしまうのだった。その光景を見ながら俺は「なんだか随分歓迎されているようだが」と疑問を口にする。するとリリスは「それは当然ですよ。貴方が勇者であることは有名ですから。その顔は間違いなく、その証拠なんですよ。だから貴方がこの村の村長に話があると伝えたのであれば、おそらく村長が直々に会ってくれるはずですよ」と答えてくれる。そのリリスの言葉に俺は「へぇー。そうなの」と言いながら納得してしまう。その後で、リリスが「私はここまでみたいですね。頑張ってください」と言い出したので。「えっ!? どういうことだ?」と聞き返すと、リリスは「私にはもうやることが無いんです。だからここでお別れになります。だからこれからは一人で頑張らないといけなくなりましたよ」と言い出した。

そのリリスの態度に俺は戸惑いながらも「なんでそんなことを言うんだよ。リリスは俺と一緒に来てくれても問題は無いだろ」と口にした。その俺の言葉にリリスは「そうですね。貴方と一緒なら私も楽しい毎日を送れるかもしれません。ただ残念ながら。今の私はただの人間でしかありませんから。その私を貴方が守ってくれるのですか?」と聞いてきたので、俺は「もちろんだ。お前は俺が守る」と答えると、リリスは微笑みを浮かべてから「わかりました。それなら一緒に行きましょうか。ただし条件があります。それは私が貴方を絶対に裏切らずにずっと傍にいることで。その約束をしてくれるなら、ついて行っても良いですけど。どうしますか?」と問いかけてくる。

その質問に俺は「それじゃあ、その条件で頼む」と答えた。するとリリスは嬉しそうに笑い始めてから「それなら、私は貴女についていきます。魔王様の従魔として。そして永遠に忠誠を誓います」と答えるのであった。その言葉に俺は「おい。ちょっと待て。俺は魔王じゃないぞ」とツッコミを入れるのだが。そんな俺を無視して、俺の従魔となったはずのリリスが「それでは行きましょうか」と俺に話しかけてきて。俺の手を握りしめてきたのである。

その手を振り払うこともできたが、俺はあえてそれをしなかった。そしてリリスの手を握ったまま、俺とリリスは村の中に入っていった。そしてその村の中には、俺の姿を見て驚く人達の姿が沢山見られたわけだが。その反応が普通だと思う。何故なら俺は魔王を倒した英雄として祭り上げられた存在で。そんな俺が急に現れたのだ。しかも俺の隣に立っている女性は、人間ではないことが一目でわかってしまうような姿をしているわけだし。驚きを隠せないのだろうと思う。

しかし、それでも皆は優しい対応をしてくれて、俺達を丁重にもてなすようにと指示を出してくれたようで。俺達は村の中で一番大きな建物に案内される。その建物は宿屋らしくて。中に入るとそこには、先ほど会った村長と思われる人物がいた。そして俺の姿を確認すると、彼は慌てて駆け寄り俺に抱きついてきたのである。

俺はそんな彼を引き剥がすと、目の前の彼に話し掛けることにした。

「久しぶりだな。元気にしていたのか?」

俺のその問いに、彼は「はい。おかげさまで。貴方がいなくなった後は、色々と大変でしたが。何とかやってこれたと思っております」と言ってくる。その言葉に俺は「そっか。それは良かった」と口にして、安心してみせる。そんな風に話をした後で、俺は本題に入ることにした。

「ところでさ。この辺りは魔物に支配されていたんじゃないのか? なのに、どうしてここは無事なのだろうか?」

俺のそんな言葉に村長は「はい。確かに以前は、ここも魔物の支配する土地でした。しかし、ここにいる娘のおかげで、我々はこうして生きていくことが出来ているのです」と言ってきたのだ。そこで俺は、隣に立つリリスに視線を向けると、彼女は俺に向かってウィンクしてきたのだ。その行為の意味がわからなかった俺は首を傾げてしまう。

「それで貴方が助けに来てくれたことは嬉しいですが。どうやってこの場所までたどり着いたのでしょうか?あの山を越えるのはかなり難しいと聞いていたものですから。我々としては、それが不思議でなりません」

その言葉を聞いて俺は「そうだな。正直に言えば俺一人の力では、この森を抜けることは難しかったかもしれない。だけど俺の仲間になってくれて、なおかつ俺を守ってくれる最強の仲間がいたおかげで、俺はここまで来ることが出来たんだ」と答える。

するとリリスは「いえ。そんなこと無いですよ。だって貴方は私の主ですから。貴方を守るのは当然のことなんです。だから貴方の力になるのは当たり前なんですよ」と俺に言ってきた。

そのリリスの言葉を聞いた村長は、何かしら思うところがあったのか、俺のことを見つめ始めた。

「なるほど。貴方の従魔が最強だということはよく理解しました。ならば、その従魔の力を利用すれば、ここから脱出することも容易ということなのですね」

その村長の言葉に俺は「ああ。その通りだよ」と答える。すると村長は俺に対して深々と頭を下げてきたのである。

「どうか我々のことを救ってください。お願いします」

その村長の行動に俺は困惑する。まさかいきなり助けを求められるとは思っていなかったからだ。なので、俺は「まぁ、できる限りはやってみるよ」とだけ答えておくことにする。

その後で、俺は村長に質問をしてみる。

「それで、この辺りを支配する魔物っていうのは、どんな奴なんだ?」

その俺の質問に村長は「この近くの山に棲むドラゴンのことなんです。ドラゴンは強大な力を持つ生き物で。普段は山の頂上で暮らしていて、滅多に人里には降りてこないのですが。時折気まぐれで人里に降りてくることがあるんです。その時にドラゴンはこの辺りを支配しようとするので」と説明してくれたのだ。

その説明に俺は「なるほど。それで、そのドラゴンはどれぐらい強いんだ? 強いのは間違いないだろうが」と聞いてみると。村長はその質問に「はい。それは間違いなく強いです。ですが、我々も何もせずにやられているわけではありません。ドラゴンと戦うために、強力な武器を用意しております。貴方様のお役に立てるはずです」と答えてきた。その村長の言葉に俺は「わかった」と返事をする。それから村長は「それではこちらに」と口にすると、俺達を別の場所に連れて行くのだった。

◆リリス視点◆ 私は今、とても機嫌が良いです。その理由は、ようやく私が望んでいた主人と出会うことができたからです。私は魔王様に生み出された最初の従魔です。

ですが私は、生まれたばかりの子供だったので、魔王様の命令に従うことができませんでした。そんな私に魔王様は「お前は弱い。だから強くなれ。そうしないと、俺の従魔として相応しくないからな」と言ってくださったのです。私はその言葉をいただいてから、必死に強くなろうと努力を重ねました。そしてレベルも順調に上がっていき、私は今ではレベル40にまで成長しています。

ただ、レベルが上がっただけではダメで、ステータスが上がらないと意味がないのです。ステータスはレベルを上げるごとに少しずつ上昇していくのですが、なかなか思うように伸びません。ですから、私は常に自分の限界を超えるような鍛錬を毎日行なってきたのです。その結果、私は今の実力を得ることに成功しました。

そのおかげで、今の私は、普通の人間よりも遥かに優れた身体能力と魔術の才能を持つようになりました。ただ、それでもまだ足りないと感じています。私はもっと強くなりたいと思っているからです。だから私は、自分より圧倒的にレベルが低い相手でも、簡単に倒せるような存在になりたいと考えているわけなんですよね。

ちなみに私が仕える魔王様は、人間族の間で『勇者』と呼ばれる存在らしいです。勇者というのは魔王を倒すために選ばれた存在であり、その存在が勇者と呼ばれているとのことです。

そして私は、勇者である魔王様に仕える従者という扱いになります。だから魔王様は私にとって特別な存在なんです。そんな魔王様は私に優しく接してくれます。そして私を強くするために、毎日のように鍛えてくれました。そして魔王様は私にこう言ってきてくれたのです。「リリスは可愛いな。よし。決めた。リリスは俺が絶対に守ってやるよ」という言葉をかけていただきました。その言葉が嬉しかったので、私はとても幸せな気分になれたんです。

そんな魔王様ですけど。私が魔王様のために出来ることは何もありません。魔王様は私に命令を出すことも無くて、ただ私を可愛がってくれるだけです。そんな魔王様を見ていて私は思います。私は魔王様のためなら何でもしたいと。そう思った私は、魔王様の役に立ちたいと心の底から願うようになったのです。

そんな私が強くなって欲しいと望んでいる魔王様は、ある日突然現れました。そして魔王様は、自分がこの世界を救う救世主だと自称し始めたのです。最初は何を言っているのかわかりませんでした。ですが、魔王様は、魔王様がお作りになった剣の力で、この世界を支配しようとしている悪者を倒して、この世界に平和をもたらすと宣言してくださり。実際にその言葉通りに行動を始められてしまったのです。

そして魔王様は、私が知っている限りでは、一度も負けることはありませんでした。その圧倒的な強さで、魔王様は次々と世界を支配されている方々を倒していきます。そして魔王様は、ついにこの世界で最強の存在であると言われる魔王様を打ち倒してしまいます。

私は魔王様の強さを知っていました。魔王様は凄いお方なのだと。だからこそ、魔王様が倒された時はとても悲しかったです。魔王様が死なずに済むのであれば、他の誰が死んでも良いとさえ思える程に、魔王様のことが大好きになっていたのです。

そんな魔王様が亡くなってしまい、悲しみに暮れていた私の前に、魔王様が現れた時の衝撃は今でも忘れられません。なぜなら魔王様は、以前と変わらぬ姿でそこに存在していたからです。

私はすぐに気が付きました。これはきっと神様の仕業なんだと。魔王様がもう一度蘇らせてくれたのだと思いました。

魔王様は、以前の魔王様と同じように、私に優しくしてくれました。それが本当に嬉しいです。それに魔王様が、私を特別に扱って下さっていることも嬉しいです。

そして今日も、私は魔王様と一緒にいます。これから一緒に、この森を出ていく予定です。もちろん魔王様は、人間族の住む場所に行くつもりは無いようです。なので、このままこの森で暮らすことになるでしょう。それでも構いません。だって私は、この森を出る必要が無いですし。この森でずっと暮らせば良いだけなんですから。

私はこの森が好きなので、できれば出ていきたくはないんです。そしてこの森は、魔物が住んでいる森です。つまり、ここには人間が住んでいないわけです。人間は、この森に住む魔物を恐れているらしく、この森には近づこうとしません。だから、魔物と人間が争うような事態にはならないんです。

私は、この森の中にいる魔物達を皆仲間だと思っています。みんな私の仲間です。そんな魔物達と、この森で楽しく暮らすことが出来ればそれで満足です。

だけど最近になって、魔物達が人間の作った建物に興味を持ち始めました。その建物は、村と言って、魔物達が住む場所に建てたものらしいです。その村は魔物達からしてみれば敵のような存在なのですが、村の人達が魔物達と仲良くしてくれるので、魔物達はその村に遊びに行ってみたいと言っているのです。

私は魔物達に言い聞かせるように、その村に行きたいと言う気持ちを否定するように説得したのですが。魔物達の気持ちを変えることができずに困っていました。しかしその時に、ある情報を手に入れることができたのです。それは、この近くにいるドラゴンが、その村を襲おうとしているという話でした。

その話を聞いた魔物達は、ドラゴンを退治しようと言い出したのです。ドラゴンは強いですから、普通ならば誰も勝てないと思います。ですが、ここに最強の従魔であるリリスがいるんです。私はリリスにドラゴンと戦ってもらうことにしました。リリスがドラゴンに勝てば、ドラゴンはこの辺りを縄張りにするのを諦めてくれると思うんです。リリスがドラゴンに勝つことができなければ、ドラゴンはこの辺りを支配するつもりでしょう。

そんなことになれば、また同じことの繰り返しです。だからリリスには頑張って欲しいんです。リリスには、私の期待に応えて欲しくて。リリスには、ドラゴンに勝ってもらいたいんです。

◆リリス視点◆

「ねぇ。リリスちゃん」

「なんですか?」

「今、私のことを見つめていなかった? もしかして惚れちゃったとか?」

「いえ。そういうわけじゃないですよ」

「そうなの? なんか残念」

私は今、村長さんに案内されて、この辺りを支配する魔物のところに向かっています。どうやら魔物は、村長さんの言うとおりにドラゴンという名前で呼ばれているらしいですね。

ドラゴンの名前は私も知っていましたが、私はその名前を口にすることはありませんでした。もし口にしたら、村長さんがどんな反応をするのか予想できませんからね。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか目的地に到着したようでした。

「こちらになります」

村長はそう言ってから、大きな扉を開くと、私を中へと招き入れてくれました。

「え? 何これ? 凄い綺麗」

私は思わず驚きの声を上げてしまいます。目の前には巨大なホールがありました。そのホールには豪華な飾りつけがされていて、まるで結婚式場みたいな雰囲気があるんですよ。

そんなホールの中には、多くの村人が待機していて、私の姿を確認してから頭を下げてきました。村長は「それでは私はここで失礼します」と口にすると、その場から立ち去ってしまいます。私は村長の後ろ姿を見送った後で、村人たちの方を見ました。すると一人の女性が私に近づいてきて話しかけてきたんです。

「初めましてリリス様。私はこの村の代表を務めている者です。本日は私どものために、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。そしてリリス様のお越しをお待ちしておりました。貴方様は、私達にとっての希望の光なのです。どうか我々に力を貸してください」

その女性の言葉を聞いて私は困惑してしまいました。なぜなら私はただの従魔なのに、どうしてそこまで私に頼ろうとするんでしょうか。よくわからないけど、とりあえず話を続けてみましょう。

「それで私は何をすればいいの?」

私がそう質問をすると、女性は真剣な表情で答えてくれました。

「はい。まずは貴方様には、我々の救世主となっていただきます。そして、この世界の平和を取り戻すために戦ってください」

女性のその言葉に私は呆れてしまう。

「ちょっと待ってよ。いきなりそんなこと言われても困るんだけど。そもそも私は、ただの従魔なんだよ。戦うなんて無理だからね」

私がそう答えると、女性は笑顔を浮かべてから口を開きました。

「いえ。そんなことはありません。貴女は最強の従者です。そして我々は、最強と呼ばれる存在を味方にすることができます。だから心配する必要はありませんよ。大丈夫です。きっと上手くいきますよ」

その自信たっぷりな口調に私は少しイラっとしてしまう。

「いやいや。だから私じゃなくても、もっと優秀な従魔がいれば問題無いでしょ。私よりももっと強くて頼りになる従魔はたくさんいるはずだからね。そっちに任せればいいじゃん」

「……はぁ」

私の言葉を聞いた女性はため息をつくと、私のことを睨むような目つきで見てきました。

「あのさ。あんたって馬鹿なの? そんなの最初からわかっていたことなのよ。この世界を救う勇者様は、ただレベルが高いだけの従魔なんかに興味を持たないわ。だって従魔は勇者様にとって足手まといにしかならないんだから。そんなのはただのゴミでしかないのよ。でもね。私達は違うの。私達には、この世界を救える可能性が残されているの。だったら、私達がやるしかないの。わかった? それにさ。あなたが断るっていうのなら、もう他に方法は残されていないのよね。ほら、早く選びなさい。私達に協力するのかしないのかをさ」

その言葉を聞き私はさらに苛立ってしまう。だけど私は冷静さを保つように心掛けました。

「うーん。そうだね。やっぱり協力する気になれないかな。だって私には関係ないことだもん。それにさ。私はこの世界を救うために戦いたいとも思わないしね。だから悪いけど、私は協力できないから。それじゃあね」

私はそれだけ告げると、この場から立ち去ろうとしました。そして扉に手をかけようとした瞬間、背後から誰かが近寄ってくる気配を感じ取りました。なので私は振り返ります。そこには先ほどまで話をしていた女性の姿があったんです。

「なに?」

私は警戒しながら聞きます。

「まあまあいいじゃないの。それよりさ。私と一緒に来ない?」

「……どこに?」

「それはもちろん私達の拠点だよ。そこの方が色々と都合が良いでしょ。だから一緒に行こうよ。きっと楽しい生活ができると思うからさ。もちろん私達も協力してあげるから安心して良いよ。私達の目的は、この世界を支配されている方々を解放することなの。だから私達に協力してくれれば、必ず目的を達成できるはずよ。だから私達に協力しよう。それが一番の近道だと思うから」

その提案に私は戸惑ってしまいました。正直に言えば、彼女の言っていることが正しいのかもしれないと私は考えてしまったからです。だけど、どうしても素直に受け入れることが出来ないんですよ。なぜなら、私にとっては魔王様が一番大切な存在であり、その魔王様を裏切る行為をすることになってしまうからです。

それに私は魔王様以外の人に仕えるつもりはないので、この誘いを受け入れるつもりはありませんでした。

「ごめん。その話は断らせて貰うね」

「……そう」

女性は残念そうな表情を見せています。

「うん。それに私は魔王様のこと以外に従うつもりはないから」

「そういえば魔王様はどこに行ったの? 姿が見えないようだけれど」

「魔王様は忙しいみたいでどこかに出かけてるみたい。だから私は一人で行動しているの」

「ふぅん。魔王様がいないのであれば仕方が無いか。今日は諦めることにしようかしら。それじゃあさ。また今度会えたら会いましょう」

「そうだね。その時はよろしくね」

私は彼女と握手を交わしてから、この場を後にすることにしました。

それから私は、この村の近くにあるという村に向かって歩いています。この村の近くには、人間の村がいくつかあるらしいんです。なので、そこに行けば私の主人である魔王様の情報を集めることができると思ったからです。だけど私は人間の村に行く前に、一度この村の様子を見てみることにしました。

するとその村は、とても活気のある村でした。その村にはたくさんの魔物が住んでいるらしく、村の人達はその魔物達と仲良く暮らしているらしいです。そして村の人達は、魔物達を魔物ではなく魔物族と呼んでいるらしいです。

そんな魔物族の人達と触れ合ってみると、魔物族は普通の人間と同じように暮らしていました。中には魔物が苦手な人もいるようで、その人達は魔物を見ると怯えてしまうらしいです。だけど魔物達はそんな人間の姿を見て、魔物が怖い存在なのだと認識を改めているようでした。

魔物と人間が共存できているのは、この辺り一帯を魔物が支配していることが大きいのかもしれませんね。

私はそんなことを考えながら村の中を歩いていると、一人の男性が私に話しかけてきました。

「ねぇ君。君は見たところ魔物のようだけど、どうしてこんなところにいるのかい?」

「それは私にもわかりません。気が付けばこの場所にいたんですよ」

「そうなの? 僕も同じような感じなんだよね。実は僕も、いつの間にかここにいたんだよ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。本当に不思議だよね。僕はここが何処なのか知りたくて、この村に来たんだけどさ。この村には何も無かったんだよ。でも、そのおかげで、魔物達と楽しく暮らせているから良かったと思っているよ」

「そうなんですか」

「ところでさ。君は何か用事があって、この村に来ていたんじゃないの? もし時間があるのなら、この村を案内しようと思うんだけどどうだい?」

その男性の提案は魅力的だと思いました。ですが、この男性の言葉を鵜呑みにしても良いものかと悩んでしまう。

「どうだろう? もし時間が空いているのならば、僕の案内を受けてくれないかな?」

「そうですね。せっかくなのでお願いします」

私はそう返事をしてから、その男の人の案内を受けることにした。

◆リリス視点◆「それで、貴方の名前は何と言うのですか? 私はリリスと言います」

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアルフって言うんだ。これからよろしくね」

「こちらこそ、よろしくおねがいします」

「それじゃあまずは、村にある道具屋を紹介しようと思うけど、それでいいかな?」

「はい。構いませんよ」

私はそう答えてから、その男の後に続いて歩き始めました。するとすぐに目的の場所にたどり着いたようで、その店の中に入ることになりました。

「こんにちは。この子に合う服を探して欲しいのですが」

「あら。可愛い子ね。いらっしゃいませ。貴方はどんな服が欲しいのかな?」

「えっと、私に似合いそうな服があれば、それを買おうと思ってるんです」

「なるほどね。それじゃあ、この子が着れそうなサイズの服を探してみましょうかね」

その女性の言葉に私は首を傾げてしまいます。なぜなら私は、自分の体がどれだけ大きいのかわからないからです。ですけど、とりあえず探してもらうことを優先しました。

それから私は店内をグルッと見渡してみます。すると可愛らしい服がいくつもあることに気づきました。私はその中から、なるべく露出が少ない服装を選んでみます。そして試着室を借りて、その服を着てみると、サイズはピッタリでした。

「どうかな? 気に入った服はあった?」

「はい。これに決めます」

「そう? なら、その服をプレゼントするわね」

「ありがとうございます」

私は女性に頭を下げると、その女性は微笑みを浮かべてくれました。

「いえいえ。気にしないでくださいね」

「あの、お金は後払いでもいいですか?」

「いいですよ」

「それじゃあ、この服は買います」

「はい。それじゃあ、代金は金貨三枚になります」

「……これで足りますか?」

私はそう言ってから、金貨を差し出します。

「ちょっと待ってね」

女性はそう口にした後で、カウンターの下から袋を取り出しました。そして私から受け取ったお金を確認すると、笑顔を浮かべてから口を開きました。

「はい。ちょうど受け取りましたよ。それじゃあ、商品を渡すわね」

「はい」

私は女性から服を受け取ると、そのまま外に出ました。

「ありがとうございました」

私は女性に礼を言うと、その場から離れようとしました。しかし、そんな私を引き止めるように女性が声をかけてきます。

「ねぇ。よかったら、私の家でお茶でも飲んでいかない? まだ時間は大丈夫でしょ」

「はい。少しぐらいなら問題無いと思います」

「それなら決まりね」

それから私は、女性の家に招かれることになりました。

◆リリス視点◆ 私はその女の人に連れられるまま、その人の家にやってきました。そして私は椅子に座り、その人と向かい合っいます。

「それで、君の名前を教えてくれるかな」

その質問に私は答えるべきか悩みました。なぜなら、その人には私のことが普通の魔物に見えているはずです。つまりこの人は、私が普通の従魔ではないと気づいていない可能性があります。なので、ここで名前を教えることは得策ではないように思えたんです。

「どうして黙っているの?」

「すみません。あまり他の人には名前を知られたくないものですから」

「そうなんだ。それじゃあ仕方がないね。それじゃあ君のことをなんて呼べば良いのかな?」

「できればリリスと呼んでください」

「わかったわ。それじゃあ改めてよろしくね。私はミリアっていうの」「よろしくお願いします」

私はミリアさんに挨拶をしてから、この家の中を観察してみることにしました。この家は小さな一軒家なのですが、綺麗に掃除がされていて清潔感がありました。

「それじゃあ、お茶を用意するから座っていてね」

「はい。わかりました」

それから私は出された紅茶を飲みながら、ミレアさんの話を聞かせてもらいました。

「私の娘はね、この村で生まれたのよ」

「そうなんですか」

「うん。今はね、私と同じ店で働いているの」

「へぇー。そうなんですね」

「それでね。娘はとっても優秀で、今では看板娘のようになっているのよ」

「すごいですね」

「そうなのよ。私の自慢なの」

私は話を聞きながら、ミレアさんが私を家に招き入れた理由を理解しました。おそらくこの人にとって、私は娘のような存在なのかもしれません。だから、私を家に招いたのでしょう。

「そうだ。せっかくだし、私の家族を紹介するね。ちょっとだけ待っててね」

「はい」

私はそう返事をしてから、ミレアさんが戻ってくるのを待ちました。すると数分ほどで戻ってきました。

「お待たせ。この子が私の一人娘のリーアだよ」

「初めまして。私はリリスと言います。よろしくおねがいします」

「は、はい。よろしくおねがいします」

「この子は恥ずかしがり屋でね。あんまり他の人達とは喋らないんだけど、仲良くしてくれると嬉しいな」

「はい。わかりました」

私はそう返事をして、リーアちゃんを見つめてみる。すると彼女は、頬を赤く染めて俯いてしまっています。そんな彼女を見ていると、なんだかとても守ってあげたくなるような気持ちになってしまいました。

「そうだ。せっかくだから、今から私のお店に来てみる? そこで服を買うといいよ」

「はい。わかりました」

それから私は、ミレアさんに連れられて服屋に向かいました。するとその服屋の前には、たくさんの人が並んでいました。そしてその人達は、皆が幸せそうな表情を浮かべています。

「ここは人気のお店なんですか?」

「うーん。そうでもないと思うんだけど、今日は運が良いみたいだね」

「そうなんですか?」

「まぁ、いつもはもっと空いているんだけどね。ほら、あそこの店員を見てみて」

「はい」

私は言われた通りに、店の奥の方へと視線を向けます。そこには一人の少女の姿が見えました。その少女はとても美しい容姿をしているので、男性だけではなく女性までもが見惚れているようでした。

「彼女がどうかしたんですか?」

「実は彼女、この村のアイドル的存在なんだよね。それでさ、彼女のことを一目見たいと思って、この村に来る客が多いんだよ」

「そうなんですか」

「それにさ、この店は安い値段で服を売っているから、若い女性にも人気があるんだよ」

「そうなんですか」

私は納得しながら、並んでいる人達の様子を眺めていました。すると一人の男性が、その女性に声をかけたようでした。そして二人は楽しげに会話を始めたんです。その様子を見ていて、私は少し羨ましく感じました。なぜなら私も魔王様と一緒にいた時は、あんな風に楽しく過ごすことができたからです。でも今の私は、あの時のように楽しく笑うことができない。それが寂しく感じました。

「どうしたの? 元気が無いように見えるけど」

「いえ、なんでもありませんよ」

「そう? ならいいんだけど」

それから私たちは服屋の中に入りました。そしてミレアさんが選んだ服を何着も試着していきます。そして私は、その服を購入することになりました。そして会計を済ませると、ミレアさんがこんな提案をしてくれました。

「良かったら、私の家で夕食を食べていかない?」

「えっと、それは……」

「もちろん、迷惑なら断ってくれても構わないよ」

「いえ、そういうわけではありません」

「それなら決まりね」

私は結局、ミレアさんの誘いを受けることになりました。

◆リリス視点◆ 私はミレアさんの家で夕食を頂くことになりました。そしてその食事の最中に、ミレアさんが話しかけてきます。

「そういえば、君は冒険者なのかな?」

「いえ、違います」

「そうなの?」

「はい」

「そっか。それじゃあ、この村に何か用事があったのかな?」

「そうですね。強いて言うのならば、この村でしばらく暮らすつもりです」

「そうなの?」

「はい」

「それじゃあ、私達の仲間になってくれるのかな?」

その言葉に私は驚きました。なぜなら、その言葉の意味は仲間になるつもりがあるのかという意味だと理解できたからです。

「その質問はどういう意味でしょうか?」

「そのままの意味だよ。私達は君を歓迎するけど、もし君が私達の元で働くのが嫌なら、それでも構わないと思っているんだ」

「……私を雇うことにメリットはあるのですか?」

「そうだね。まずは私達が君のことを守ってあげられる。それから、この村で生活するための資金を提供してあげることもできる」

「なるほど」

「それからもう一つ。私の娘と仲良くして欲しいかな」

「……そうですね。わかりました。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」

私はこうして、この人の家族の一員になりました。

◆リリス視点◆ ミレアさんに服を買ってもらった私は、彼女に案内されてミレアさんの家に戻ります。そしてミレアさんから、自分の娘のことについて説明を受けました。

「それで、私の娘の名前はリーアって言うんだ」

「そうだったんですか」

「うん。それでさっきも言った通り、この子はあまり他の人と喋らないんだよね」

「そうなんですね」

「だけどね。リリスちゃんとは気が合うんじゃないかなって思うのよ」

「どうしてそう思ったんですか?」

「だって二人とも可愛いから、きっと仲良くなれると思ったのよ」

「そうですか」

私はそう返事をしてから、リーアさんについて考えます。確かにミレアさんの言うように、私とリーアさんは似ている部分もあるのかもしれません。だからといって、すぐに仲良くなれるかどうかは別問題です。

それから私はミレアさんの家でお風呂を借りることになりました。そしてそのお湯に浸かりながら、先ほどのことを考えていきます。そして私は一つの結論を出しました。つまり、私とリーアさんの共通点を探すのではなく、私とリーアさんの相違点を探していくべきだということに気づいたのです。

私はそのことに気づけば、すぐに行動に移しました。そしてお風呂から出た後で、リーアさんの部屋に訪れてみることにしたんです。

◆リリス視点◆ 私はミレアさんの家に泊まることになったので、ミレアさんの一人娘であるリーアさんのところを訪れました。そして部屋の扉をノックして中に入る許可をもらいます。すると部屋の中から、可愛らしい声が聞こえてきました。

「はい。どちらさまですか?」

「私はリリスと言います。あなたとお話がしたいんですが、よろしいですか?」

「はい。大丈夫ですよ」

私は許可を得たので、リーアさんの部屋に入ります。するとそこにはベッドの上で横になっているリーアさんの姿がありました。

「失礼します」

「はい。それで、どのようなご要件なんでしょうか?」

「単刀直入に聞きますが、リーアさんはどうして他の人達と喋らないのですか?」

「えっ!?」

リーアさんは私の言葉に驚いている様子でした。なので私はさらに言葉を続けていきます。

「すみません。驚かせるようなことを言ってしまって。ただ、リーアさんのことが心配になったんです」

「あ、ありがとうございます」

「それで、どうして他の人達と喋らないのですか?」

「その、私は人見知りなので」

「そうだったんですね」

「はい」

「それなら安心しました。実は私も人見知りなんですよ」

私がそう口にすると、リーアさんは目を丸くしていました。

「そうなのですか?」

「はい。なので私とリーアさんは似た者同士ってことになると思いますよ」

「そうですね。私とリリスは似ていますね」

「はい。だからリーアさんが困ったことがあったら、私に相談してくださいね」

「はい。わかりました」

それから私たちは、しばらくの間だけ雑談を交わしました。するとミレアさんがリーアさんを呼びに来たので、私はリーアさんと一緒に彼女の家に戻ることになりました。

◆リリス視点◆ 私はリーアさんに連れられて、彼女の家にやってきました。するとそこにはミレアさんの姿があります。

「あれ? リリスはリーアと仲良さげだね」

「はい。お友達になれました」「そっか。良かったね」

「はい」

私は笑顔を浮かべて返事をしてから、ミレアさんのことを見つめます。すると彼女は少しだけ驚いたような表情を見せました。

「どうしたの? そんなに見つめてきて」

「いえ、なんでもありませんよ」「そう? それならいいんだけど」

私はミレアさんとそんな会話をしながら、彼女と食事をすることになりました。そしてその食事の最中、ミレアさんがこんな提案をしてきました。

「そういえば、私の知り合いが経営している宿に泊まるといいよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ。それじゃあ、早速行ってみる?」

「そうですね」

私はミレアさんの提案を受けて、その宿に向かうことになりました。そしてその道中で、ミレアさんからこんな話をされました。

「そういえば、リリスはどんな魔法が使えるの?」

「そうですね。基本的に攻撃系の魔法ばかり使っています」

「そうなんだね。ちなみに私は回復系が得意なんだ」

「そうなんですか」

「うん」

「それなら、私の怪我を治してくれた時みたいに、ミレアさんが傷ついてしまった時には、私が癒やしてあげますね」

「ふふ。それは頼もしいな」

私はミレアさんに微笑みかけられて、照れてしまいました。するとミレアさんは立ち止まって、私に問いかけてきます。

「どうかしたの?」

「いえ、何でもないです」

「そう?」

「はい。それよりも早く行きましょう」

私はそう告げると、再び歩き始めます。そして数分ほどで、目的の宿屋に到着しました。そして私はその宿の主人に話しかけられます。

「ようこそいらっしゃいました。今日はどういった御用件でしょうか?」

「泊まりたいんだけど、いいかな?」

「もちろんです。何日ほど滞在する予定ですか?」

「うーん。とりあえず一ヶ月くらいかな」

「かしこまりました。料金の方は、前払いとなっております」

私はその言葉に了承してから、お金を支払いました。そしてその日の夜には、私はベッドの中で眠りにつきました。

◆リリス視点◆ 翌朝になると、ミレアさんが私のことを起こしに来てくれました。そして朝食を食べ終えた後に、ミレアさんがこんな提案をしてくれました。

「そうだ。せっかくだし、この村を案内するよ」

「えっと、お願いします」

私はミレアさんに連れられる形で、村の中を散策していきます。すると村のあちこちに花が飾られていることに気づきました。

「この村はいつも、綺麗な花の香りに包まれているんですね」

「そうだね。この村では、昔から花を大切にする習慣があるんだよ」

「そうなんですか」

「うん。それでさっきの質問なんだけどさ、この村で暮らしてみて、何か不便なこととかあるかな?」

「そうですね。今のところは特に無いですね」

「そっか。それなら良かったよ」

「はい。でも一つだけお願いがあるんですけど、良いですか?」

「うん。遠慮なく言ってくれて構わないよ」

「それなら、私を冒険者として雇ってください」

「そっか。わかったよ」

「よろしくお願いします」

私はミレアさんに頭を下げてから、村を散策するのを再開しました。そしてしばらく歩いたところで、一人の男性が私に声をかけてきました。

「君、ちょっと話を聞いてもいいかな?」

「はい。なんでしょうか?」

「君たちは親子なのか?」

「はい。そうですよ」

「そうだったのか。君たちのような美しい女性に出会えて、俺は嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「それで、もし君たちが望むのならば、俺の妻として迎え入れてあげることもできるんだぞ」

私はその男性の言葉に戸惑いました。なぜならこの男性は、私を口説こうとしているように思えたからです。

「あの、申し訳ありませんが、私はあなたの妻になるつもりはありません」

「どうしてだい?」

「私はこの人の娘になりたいと思ってるんです」

私がそう口にすると、男は笑い声を上げました。

「ハハッ! そうかそうか。娘に惚れたってわけか」

「はい」

「面白い。だが残念だったな。その子はすでに、誰かの手がついているからな」

私は男の言葉を真に受けませんでした。だって私はリーアさんの彼氏じゃないからです。なので私は男に反論します。

「私はあなたの言うような関係ではありませんよ」

「ほう。それならどういう関係なんだい?」

「友達です」

「なるほどな。確かに君の言う通りかもしれないな。それなら、友達として忠告しておくぜ。その娘のことは諦めな。その子はいずれ、俺の女になる運命にあるのさ」

「……失礼します」

私はそれだけ口にすると、その場から離れました。そしてミレアさんのところに戻ると、彼女にこんなことを尋ねます。

「ミレアさん。あの人は一体なんだったんですか?」

「あぁ、あいつのこと? 最近村に引っ越してきた奴でね。なんか偉そうな態度を取るのよ」

「そうだったんですね」「だからあんまり関わらないようにしておいた方がいいと思うよ」

「わかりました」

私はミレアさんの言葉に従うことにしました。そしてその後も、私はミレアさんと二人で村の中を見て回りました。

◆リリス視点◆ ミレアさんと一緒に村の中を見回った私は、彼女の家に戻ってきました。するとそこには、リーアさんの姿がありました。

「あら、リーア。帰って来てたのね」

「はい。ただいま戻りました」

「おかえりなさい。それで、リリスとは仲良くなれたかしら?」

「はい。おかげさまで」

「それは良かったわ」

リーアさんはミレアさんとそんな会話を交わした後で、私の元に近づいてきます。そして私に向かって話しかけてきました。

「リリスはどこに行ってたんですか?」

「えっと、ミレアさんと一緒に村を散歩していたんですよ」

「そうなんですね。楽しかったですか?」

「はい。とても楽しい一日になりました」

「それなら良かったです」

リーアさんはそう言って微笑んでくれました。私はその笑顔を見ると、なぜか胸がドキドキしてしまいました。

「どうしたんですか?私の顔に何かついていますか?」

「いえ、なんでもありません」

「そうですか?」

「はい」

私はリーアさんに微笑み返してから、彼女の様子を観察することにしました。するとリーアさんは私にこんなことを言ってきました。

「リリスは今晩どこに泊まる予定ですか?」

「そうですね。特に決めていません」

「それなら私の家に泊まっていきませんか?」

「えっ!?」

リーアさんからの誘いに、私は驚きの声を上げてしまいました。するとリーアさんは私に説明を始めてくれました。

「実はお母さんが、リリスのことを気に入っているみたいなんです。だから、私からもお願いしたいなって」

「わかりました。それならお言葉に甘えさせていただきます」

「本当ですか? やった!」

リーアさんは嬉しそうに笑みを浮かべながら喜んでいます。するとミレアさんも私にこんな提案をしてきました。

「それなら私と一緒の部屋を使ってよ」

「えっと、それはさすがにまずいんじゃ……」

「大丈夫だよ。それに私はリリスともっとお話がしたいしね」

「そうですか?それならお願いします」

「うん。任せておいてよ」

ミレアさんは笑顔を浮かべてそう言いました。それから私たちは夕食を食べることになりました。そしてその食事の最中に、私は二人にこんな提案をしてみます。

「ミレアさんとリーアさんが良ければ、一緒にお風呂に入りたいです」

その言葉を口にした瞬間、ミレアさんとリーアさんは固まっていました。そして数秒後、二人は同時に動き出してこんな返事をしてくれました。

「もちろんいいよ」「もちろんいいですよ」

私は二人の答えを聞くことができて安心しながら、彼女たちとお風呂に入ることにしました。そしてその日は、三人で同じベッドの中で眠ることになりました。

◆リリス視点◆ 翌朝になると、私はミレアさんに起こされました。そして朝食を食べ終えると、私はミレアさんに連れられる形で、村の中にある雑貨屋に向かいました。

「おはようございます」

「ミレアちゃん。今日は何を買おうとしてるの?」

「薬草を買いに来たんですけど、ありますか?」

「あるよ。どんなものが欲しいのかな?」

「えっと、回復薬を作るのに必要なものがあれば、全部お願いします」「わかったよ。少し待っていてね」

店主の女性が奥に入っていくのを確認した後に、私は店内の商品を確認し始めました。回復薬に使う材料以外にも、色々と品揃えが豊富だったので、目移りしてしまいます。

しばらくしてから女性は戻ってくると、カウンターの上にいくつかの道具を置いてくれました。

「これが必要な物かな?」

「はい。ありがとうございました」

「いえいえ。また何かあったら気軽に来てちょうだい」

「はい。それでは失礼します」

私はミレアさんに連れられて、店を出て行きました。そして村の中を歩いている途中で、私はこんな質問を投げかけられました。

「そういえば、リリスは何か得意なことってあるのかしら?」

「そうですね。攻撃系の魔法が得意ですよ」

「そっか。それなら私が怪我をした時は、リリスが治してくれるのよね?」

「はい。もちろんです」

「ふふ。頼もしいわね」

ミレアさんはとても楽しげな表情で笑っていました。するとミレアさんは立ち止まって、私にこんな質問をしてくれました。

「そうだ。せっかくだし、村を案内するついでに、私が普段からやっている訓練を見せてあげるよ」

「いいんですか?」

「うん。ちょうど村の広場でやるつもりだったからさ」

「それなら、お願いします」

私はミレアさんの案内に従って、村の中を歩いていきます。するとすぐに村の広場に到着しました。するとそこでは、数人の子供たちが遊んでいる姿が見えました。

「ここでいつも私は剣の訓練をしているんだ」

「そうなんですね」

「うん。それじゃあ始めるよ」

ミレアさんは木刀を手に取ると、私に向けて構えてきました。私もそれに応じて、杖を取り出して戦闘態勢を取ります。そしてミレアさんは私に問いかけてきました。

「それじゃあ、行くよ」

「はい」

ミレアさんは地面を強く蹴ると、一瞬にして私の目の前まで移動してきました。そして彼女は私に対して、横薙ぎの一撃を放ってきます。私はそれを受け止めて、反撃に転じようとします。しかしミレアさんは、素早くバックステップを踏むことで、簡単に回避してしまいました。

「まだまだ甘いよ」

「くっ……」

私は悔しさを堪えて、次の行動を考えます。するとミレアさんが私に話しかけてきました。「どうしたの? かかってこないの?」

「はい。今の私には、まだ勝てる気がしないので」

「そう。でもこれから頑張れば、きっと強くなれるよ」

「はい。そう信じています」

私はそう口にすると、ミレアさんの動きを観察していきました。ミレアさんはそんな私を見てから、こんな提案をしてくれました。

「それなら、私から一本取れるようになったら、何でも一つだけお願いを聞いてあげるよ」

「なんでも……ですか?」

「うん。私にできることなら、なんでも叶えてみせるからね」

「わかりました。頑張ってみます」

私はミレアさんとの模擬戦を続けていくうちに、少しずつ彼女から攻撃を受けることができるようになってきました。そして数分後には、彼女の攻撃を完璧に防ぐことができるようになりました。

「リリス。なかなか良い腕前になったね」

「はい。ミレアさんのおかげだと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいな。それなら約束通り、リリスの願いを聞かせてもらおうかな」

「そうですね……」

私はミレアさんに何を願うか考えました。そして思いついたことをそのまま彼女に伝えます。「それなら、ミレアさんが私に剣を教えてください」

「えっと、それだけでいいの?」

「はい。それが一番の望みです」

「うーん。それだとちょっと味気ないかなって思うんだけど……」

「ダメですか?」

「いや、別にそういうわけじゃないよ」

ミレアさんは困ったような笑みを浮かべていました。すると彼女はこんなことを言い出しました。

「それなら、リリスの実力がどれくらいのものなのか試してみるのもいいかもね」

「どういうことですか?」

「この村にいる冒険者の人たちと手合わせをして、力を認めてもらえたら、私から剣の指導を受けることを許可しようと思うんだ」

「わかりました。それでしたら、早速お願いできますか?」

「いいよ。それなら今すぐ行こう」

ミレアさんは私を連れて、村にある酒場に向かっていきました。そしてその中に入ると、一人の男性に声をかけました。

「こんにちは」

「おっ、ミレアちゃんじゃないか。今日も可愛いね」

「ありがとうございます。ところで、誰か相手をして欲しい人がいるんですけど、紹介してもらえませんか?」

「なるほどね。それなら俺が相手になろう」

男性はそう言うと、ミレアさんと一緒にカウンターの奥へと向かっていきました。私はその後ろについていきます。そしてたどり着いた場所では、多くの男性が食事を楽しんでいる光景が広がっていました。

「ここが私がよく来る場所なんだ。それであの人が、私が紹介する予定だった冒険者だよ」

「そうなんですか」

「うん。彼はAランクの冒険者で、名前はアルフっていうんだ」

「よろしく頼むぜ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

私はアルフさんと挨拶を交わした後で、彼との手合わせが始まりました。そして数分間の戦いを終えると、私は彼にこんなことを言われました。

「あんた強いな。正直驚いたよ」

「いえ、それほどでもないですよ」

「謙遜すんなって。それなら、ミレアちゃんが認めるだけの力は持っているみたいだな」

「それなら、私に剣の指導をしていただけますか?」

「あぁ。構わないよ。ただ、その前に一つ頼みがあるんだ」

「なんですか?」

「俺たちのパーティーに入ってくれないか?」

「えっと、それはどうしてですか?」

「簡単な話さ。俺はお前のことを気に入った。だから仲間になってほしいんだよ」

「わかりました。それなら、お世話になります」

私はそう答えると、ミレアさんの方を見ました。するとミレアさんは微笑みながら、こんな言葉を口にしました。

「良かったわね。これで私から剣の指導を受けられるよ」

「はい。本当に感謝しています」

「気にしないでよ。それよりも、早く食事にしましょう」

「はい」

私たちは三人揃って、カウンター席に座って食事を始めました。それからしばらくの間は、楽しく会話をしながら食事を進めていました。そして食事を終えた後、私たちは宿屋に向かうことになりました。

「それじゃあ、また明日会いましょう」

「はい。それでは失礼します」

私はミレアさんと別れてから、宿に戻って眠りにつきました。そして翌朝になると、私はミレアさんに連れられて、村の広場に向かいました。

「おはよう。リリス」

「おはようございます。ミレアさん」

「今日はリリスが私から一本取るまで、訓練を続けるつもりだけど、覚悟はできているかしら?」

「もちろんです。絶対にミレアさんから一本取って見せますよ」

「ふふ。楽しみにしているよ」

ミレアさんは楽しげな様子で笑うと、訓練用の武器である木刀を構えてくれました。私もそれに応じるように、杖を握りしめます。そしてミレアさんから声をかけられると、私は彼女との模擬戦を開始しました。

私はミレアさんの攻撃を回避しながら、隙を見つけて反撃していきます。しかしミレアさんはその攻撃を回避すると、再び攻撃を仕掛けてくるので、なかなか一本を取ることができませんでした。

(このままだと、ミレアさんから一本を取ることは難しそうだ)

私がそう思った時、ミレアさんの表情に変化が訪れました。すると彼女は今までよりも速く動き出して、私に対して連続攻撃を仕掛けてきました。私はそれに対応しきれずに、何度か攻撃を受けてしまいます。

それでも私は諦めずに、ミレアさんの攻撃を受け止め続けました。そしてしばらくすると、私の攻撃が届くようになりました。私はミレアさんに攻撃を与え続けることに成功しました。

「くっ……」

「これで終わりですよ」

私はミレアさんの胴に攻撃を与えると、彼女は地面に倒れ込みました。私はそんな彼女に駆け寄ると、回復魔法をかけてあげます。するとミレアさんは、笑顔でこんな言葉を返してくれました。

「私の負けね」

「はい。私の勝ちです」

「やっぱりリリスは凄いわね。私から一本取るなんて」

「ミレアさんの教え方が上手かったからですよ」

「そう言ってくれて嬉しいな。それなら約束通り、私に剣を教えてもらいたい?」

「もちろんです」

私はミレアさんから剣の指導を受けられることが嬉しくて、満面の笑みを浮かべました。そんな私を見てから、ミレアさんはこんな質問を投げかけてきました。

「それなら、これからは毎日のように訓練をしましょうか」

「はい!お願いします」

私は元気よく返事をしてから、ミレアさんと一緒に村の中を歩いていきます。そして彼女が普段から利用しているという雑貨屋に到着すると、そこで回復薬に必要な材料を揃えてもらうことにしました。

「これが必要なものかな?」

「はい。全部ありますか?」

「あるよ。全部でいくらになるのかしら?」

「そうですね……銀貨三枚ぐらいでしょうか」

「わかったわ。ちょっと待っててね」

店主の女性は奥の部屋に入ると、しばらくしてから大量の金貨を持って戻ってきました。そして私の前に積み上げると、こう言いました。

「はい。確かに受け取ったよ」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、頑張ってね」

「はい」

私はミレアさんと一緒に店を出ると、村の中を歩き始めました。そして途中で薬草を販売しているお店を目にしたので、ミレアさんに提案してみることにしました。

「ミレアさん。せっかくなので、ここで買い物をしてもいいですか?」「いいよ。でも何を買うの?」

「薬草です」

「そっか。それなら一緒に見に行きましょう」

「はい」

私たちは二人で並んで歩くと、商品棚に並んでいる薬草を見て回りました。するとミレアさんがこんなことを口にします。

「リリスは何の薬草を買いに来たの?」

「魔力を回復する効果のある薬草です」

「なるほどね。それならこの辺りの薬草を買っておいたらどう?」

ミレアさんはいくつかの種類の薬草を指差すと、私に選ばせようとしてくれました。私はその中から一番良いと思った薬草を手にとって、彼女に見せます。

「これにしようと思います」

「そう?それならこの薬草を三つ買うといいよ」

「わかりました」

私はミレアさんに言われた通りに、薬草を購入させてもらいました。それから少しの間だけ、私はミレアさんに剣を教えてもらっていたのですが、突然にこんなことを言われました。

「今日はこれくらいにしておきましょうか」

「はい。ありがとうございました」

「それなら明日も同じ時間に、この場所で待ち合わせをしましょうか」

「はい。よろしくお願いします」私はミレアさんにお礼を言うと、彼女とは別れて宿屋に戻りました。そして翌日になると、私は約束の時間より早めに到着していました。するとミレアさんが、私の姿を見つけるなり、こんなことを言ってきました。

「早いね」

「ミレアさんも、かなり早かったと思いますけど」

「まぁね。それなら早速だけど、リリスには剣の訓練を始めるね」

「わかりました」

私はミレアさんから剣の指導を受けることになりました。そして数時間が経過する頃には、彼女の実力に追いつけるようになっていました。

「うん。いい感じだね」

「ありがとうございます」

「それなら今日からは、本格的に剣の使い方を学んでいこうか」

「よろしくお願いします」

こうして私とミレアさんは、剣の指導を受ける日々を送ることになりました。そしてその日を境に、私たちは村の中で有名な冒険者となりました。

ミレアさんとの特訓が始まってから一ヶ月が経過した頃、私は一人で村の外を散策していました。するとそこに現れたのは、ミレアさんと同じパーティーに所属しているアルフさんでした。

「よう。リリスじゃないか」

「こんにちは。アルフさん」

「あぁ。ところで、お前一人なのか?」

「はい。今日は散歩がしたくて、外に出てきたんです」

「そうなんだな。それじゃあ、俺と手合わせをしないか?」

「えっと、どうして急にそんなことを思いついたんですか?」

「実は最近、体が鈍ってきたなって思ってさ。それで久々に運動をしたくなったんだ」

「そういうことでしたら、喜んでお相手しますよ」

私はアルフさんの提案を受け入れてから、彼との手合わせを始めました。その結果は当然のように私が勝利を収めました。するとアルフさんはこんなことを口にします。

「やっぱり強いな。お前は」

「いえ。それほどでもないですよ」

「謙遜すんなって。それなら俺とパーティーを組んでくれないか?」

「それはどうしてですか?」

「単純にお前の強さに惹かれたんだよ。それに同じパーティーの仲間になれば、お前とずっと一緒に行動できるだろ?」

「それはつまり、私にミレアさんの代わりになれと言っているのですか?」

「違う。俺はお前のことを仲間として受け入れたいと思っているだけだ」

「そうですか。それなら構いませんよ」

「本当か!?」

「はい。私はミレアさんから剣の指導を受けていますので、代わりを探す必要はありませんから」

「そうだったのか。それなら、これからは仲間としてよろしく頼むぜ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

私はアルフさんと握手を交わすと、ミレアさんと合流するために村の中に戻っていきました。それから宿屋に戻ると、ミレアさんからこんな話をされました。

「おかえりなさい。リリス」

「ただいま戻りました」

「どこかに出かけていたみたいだけど、何をしていたの?」

「村の外を散策していました」

「そっか。それなら今度からは、私と一緒の時にしてもらえると嬉しいかな」

「わかりました」

私はミレアさんからの要望を受け入れると、今日一日の出来事を報告しました。すると彼女は微笑みながら、こんな言葉を返してくれました。

「ふふ。リリスは本当に楽しそうだね」

「はい。ミレアさんのおかげで楽しい毎日を過ごすことができています」

「そう言ってくれて嬉しいよ。それなら、もう少しだけ剣の指導を続けるからね」

「はい。よろしくお願いします」

私はミレアさんに剣の指導を受け続けました。そして気が付けば二年という月日が流れて、私とミレアさんはAランクの冒険者になりました。そんなある日のこと、私はミレアさんからこんな相談を持ちかけられました。

「ねぇ。リリス」

「なんですか?」

「私と一緒に、魔王討伐の旅に出てみない?」

「…………」

私はミレアさんの言葉に驚いて、何も答えることができませんでした。そんな私を見てから、彼女は詳しい説明を続けてくれました。

「別に難しい話じゃないのよ。私たちは勇者様たちと一緒に、魔王を倒す旅をしているんだけど、最近は戦力不足に悩まされているのよ。だから私たちと一緒に、魔王と戦ってほしいと思ってね」

「そうでしたか。ですが私は……」

「わかっているよ。魔王と戦うことは怖いよね。でも大丈夫だよ。私がいるから」

「ミレアさん……」

私はミレアさんの優しさに触れて、涙を流すと彼女に抱きつきました。するとミレアさんは私の頭を撫でてくれると、こんな言葉をかけてくれたのです。

「私だって本当は怖かったよ。それでも私はリリスを守りたかったから、勇気を振り絞って旅に出ることを決めたの」

「そうだったんですね」

「うん。だからリリスも私を頼ってくれていいからね」

「はい。ありがとうございます」

私はミレアさんに感謝の気持ちを伝えると、彼女の提案を受けました。そして私たちはミレアさんが所属しているパーティーと合流して、魔王城を目指して出発することになりました。

しかしミレアさんの予想に反して、私たちは魔王城に辿り着く前に敗北してしまいます。私たちはミレアさんを庇いながら戦いましたが、次第に追い詰められていきました。そして最後にはミレアさんが殺されてしまうと、私の目の前が真っ暗になって意識を失ってしまいました。

私は気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上に寝かされて、誰かから看病されている状況にありました。そして私は目を覚ますと、近くにいた女性に話しかけます。

「あの……ここはどこでしょうか?」

「目が覚めたんだね!良かった!」

女性は嬉しそうな表情を浮かべると、私を抱きしめてきました。私は突然の出来事に困惑しながら、どうにか声を絞り出して尋ねます。

「あなたは誰ですか?」

「私はミーシャ。ミレアの姉よ」

「ミレアさんのお姉さん……?それじゃあ、ここはミレアさんの部屋ですか?」

「そうよ!リリスちゃんはミレアに守られて、ここに運ばれたのよ」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

私はお礼を言うと、ミレアさんを探しに行こうとしました。するとそんな私を、お姉さんが引き止めてこう言いました。

「待って。まだ無理をしちゃダメよ」

「でも、早くミレアさんに会いたいです」

「わかったわ。それなら私も一緒に行くから、一緒に探しに行きましょうか」

「はい。お願いします」

私はミレアさんの部屋を出るとお姉さんと一緒に、彼女の姿を探して村中を歩き回りました。すると途中で一人の男性と出会いました。その男性はお姉さんを見ると、慌てて駆け寄ってきて、こんな質問を投げかけてきました。

「ミレアはどこにいるんだ!?」

「落ち着いてください。ミレアなら私の隣にいますよ」

「そうか。無事なんだな」

「はい。今は少し疲れたので休んでいるだけです」

「そうか。それなら安心したよ」

「心配をかけてごめんなさい」

「いや。謝る必要はないさ。君たちは悪くない」

「ありがとうございます」

私は二人の会話を聞いて、ミレアさんが無事に生きていることに安堵していました。それからお姉さんは男性の案内で、ミレアさんが眠っている部屋まで移動すると、彼女と再会を果たしました。

「ミレアさん!」

「リリス!?」

私はミレアさんの姿を確認すると、すぐに彼女の元へ駆けつけました。そして彼女を力強く抱きしめると、心の底からの感謝を伝えました。「ありがとうございます。ミレアさんが生きていたことだけでも嬉しいのに、こうしてまた会えるなんて夢みたいです」

「リリス。私は死んでなんかいないよ」

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったんですけど」

「いいのよ。私は気にしていないから」

「ありがとうございます」

私はもう一度、ミレアさんを強く抱きしめてから、彼女の体を離すと彼女の顔を見つめました。そして改めて、彼女が生きていて本当によかったと思いました。

こうしてミレアさんと再会した私たちは、魔王城の前まで辿り着きました。そして私たちは魔王軍の幹部である、四人の魔人と戦いました。私たちは苦戦を強いられましたが、ミレアさんが命を懸けて戦ってくれたことで、なんとか勝利を収めることができました。

そして私たちは魔王に戦いを挑むと、ミレアさんが囮役となって時間を稼いでくれたおかげで、私は最後の一撃を決めることに成功しました。その結果、私たちの勝利に終わり、魔王軍の幹部は全て倒されてしまいました。これで世界の脅威が取り除かれたはずなのに、魔王は私たちに襲いかかってくると、とんでもない命令を出してきたのです。

「お前たちが魔王を倒せる可能性はゼロだ。諦めろ」

「ふざけるな!!私たちは絶対にお前を倒してみせる!!」

「お前たちに勝ち目はない」

「そんなのやってみなければわからないだろう!?」

「残念だが、お前たちの実力では魔王には勝てん。だから無駄な抵抗をせずに、さっさと死ね」

「この野郎!!!」

私は怒りの感情のままに、魔王に向かって斬りかかりました。すると次の瞬間、私は何者かによって背後から攻撃を受けて倒れ込みました。そして倒れた私の元に駆けつけたのは、ミレアさんでした。

「リリス!!!」

「ミレアさん……どうして……」

「どうしてこんなことをするのよ……」

「どうしてだと?それは俺の命令だからだ」

「お前はいったい何者なの?」

「俺は魔王軍の幹部の一人だ。お前たちを殺すために、俺は存在している」

「そんな……」

私は目の前に現れた存在の正体を知って、絶望感に襲われました。そしてミレアさんは私を守るように前に立つと、魔王に立ち向かっていきました。

「リリスは殺させない」

「ミレアさん……」

「リリスは私が守るから」

「どうしてそこまでして、私を守ってくれるのですか?」

「仲間を大切にするのは当然でしょう?」

「……」

私はミレアさんの言葉に感動していました。しかしそんな私とは対照的に、魔王は余裕の笑みを浮かべながら、ミレアさんにこんな言葉を口にしました。

「無駄なことはしない方がいいぞ。どうせ俺には勝てないのだから」

「やってみないとわからないでしょ?」

「それなら試してみるか?」

「望むところよ」

「面白い。それならかかってこい」

魔王の言葉を聞いたミレアさんは、魔王に向けて剣を振るいました。しかしミレアさんの攻撃を魔王は簡単に避けると、彼女に反撃を加えました。それからしばらくの間、ミレアさんと魔王の戦いが続きました。私はその様子を眺めながら、必死にミレアさんを助けようとしていました。

ですがある時を境にして、状況は一変しました。ミレアさんの動きが悪くなり始めたのです。その理由は簡単です。彼女は私を守るために、全力で戦い続けていたからです。

その事実に気が付いた私は、ミレアさんに戦うのをやめるように訴えかけました。しかし彼女は私の提案を受け入れてくれず、逆にこんな言葉を返してきたのです。

「リリスは下がっていて」

「ミレアさん。もういいんです。これ以上はあなたが傷つく必要はありません」

「私は大丈夫だよ。リリスが無事なら、それでいいから」

「そんな……」

ミレアさんの言葉に私は涙を流しました。そして私はミレアさんに守られている自分が情けなくて、悔しくて仕方がありませんでした。そして私は覚悟を決めました。

「ミレアさん。少しの間だけ、私に時間をください」

「え?何をするつもりなの?」

「私にもできることがあります。だから行かせてください」

「わかったよ。でも無茶だけはしないでね」

「はい」

私はミレアさんの言葉を受け入れると、立ち上がってから魔王と向き合いました。すると魔王は私を見て、こんな言葉をかけてきたのです。

「まさか立ち上がるとは思わなかったよ。死にたいのか?」

「死ぬつもりはありません。私は大切な人を守れるようになりたいと、ずっと思ってきましたから」

「そうか。それなら大人しく殺されればいいものを」

「そうですね。でも私はあなたに殺されるわけにはいかないので、最後まで足掻くつもりです」

「愚かな女だ」

私は魔王の挑発に乗ると、彼に攻撃を仕掛けました。しかし私の攻撃は全て避けられてしまい、魔王に手痛いカウンターを食らってしまいました。

「ぐぅ……!!」「ふん。口ほどにもない」

「まだです」

私は痛みに耐えながらも、どうにか立ち上がった。しかし体はボロボロの状態であり、立っているのがやっとの状態でした。それでも私は諦めずに、魔王に立ち向かうと、何度も彼の体に斬撃を加えていきました。

ですがそんな私の行動が、魔王の怒りに触れてしまったようです。彼は突然、私に蹴りを放つと、私の体を壁に叩きつけました。そして私は床に倒れると、魔王は私を見下ろしながら、こんな質問を投げかけてきました。

「なぜそこまでして、俺に抗うんだ?」

「私にとってミレアさんは、とても大事な人なんです。私は彼女のことが大好きなので、あなたに殺されたりはしません」

「そうか。ならお前の気持ちを、俺が踏みにじってやるよ」

「絶対にさせません」

私は体を起こすと、もう一度、魔王に挑んでいきました。そして私は何度も殴られたり蹴られたりしながら、魔王の攻撃を防ぎ続けました。そんな私の姿を見ていたミレアさんは、涙を堪えるような表情で私に声をかけてきました。

「リリス!もうやめて!」

「嫌です!私はあなたを救いたいんです!」

「でも……!」

「お願いします!もう少しだけ待っていてください」

私はそう言い残すと、魔王に向かって走り出しました。するとそんな私に魔王が拳を振り下ろすと、私はそれをギリギリのところで避けてから、彼に向かって剣を突き刺しました。

「ぐうっ!!」

私は魔王の胸に突き刺したままの剣を抜くと、もう一度、彼に斬りかかりました。ですがその攻撃も魔王に防がれてしまうと、私は後方に吹き飛ばされてしまいました。

「きゃあっ!」

「よくもやってくれたな」

「まだ終わりじゃありません」「そうか。それなら望み通りに終わらせてやるよ」

魔王はそう言うと、私に向かって手を伸ばしました。すると次の瞬間、私に向かって黒い波動のようなものが放たれました。そしてその攻撃を受けると、私は全身に激しい激痛を感じました。

「あぁああああ!!!」

私は悲鳴を上げると、そのまま地面に倒れ込んでしまいました。すると魔王は倒れた私に近づくと、こう話しかけてきたのです。

「これでわかったか?お前に勝ち目はないんだよ」

「……」

「さて、そろそろお前たちも殺してしまおうか」

魔王は私たちを殺そうと、近づいてきました。私はそんな魔王の気配を感じると、最後の力を振り絞って立ち上がり、魔王に立ち向かいました。そして私はミレアさんを庇いながら、魔王に応戦していきました。ですがそんな私たちの抵抗を嘲笑うかの如く、魔王は私たちを圧倒していきました。

私は意識を失いそうになる中、必死に考えました。このままでは私たちは確実に負ける。だけど私は諦めたくありませんでした。私はミレアさんを守りたい。そして彼女の笑顔を見続けたい。だから私は絶対に諦めないと、心に誓いました。

私は剣を握る手に力を込めると、魔王に斬りかかりました。しかし魔王はそんな私に魔法をぶつけてくると、私を吹き飛ばしました。そして魔王は動けなくなった私に近寄ると、ミレアさんにこんな言葉を投げかけました。


「この女の命が惜しければ、俺に降参しろ」

「……」

「黙っているということは、肯定と受け取ってもいいのか?」

「……」

「まあいい。どちらにせよ、貴様らは殺すのだからな」

魔王は私にトドメを差そうと、ゆっくりとこちらに歩いてきます。しかしその時、ミレアさんは震える声でこんな言葉を口にしました。「リリスを殺さないで……」

「ミレアさん……」

私はミレアさんの言葉を聞くと、嬉しさのあまり涙を流しました。そしてそんな私たちに魔王は苛立った様子で、こんな言葉を口にしました。

「どいつもこいつも、俺に逆らいやがって……」

「私はあなたになんて従わない」

「お前たちを殺すことに変わりはない」

「……」

「さようならだ」

魔王はそう言って、私に向かって剣を振るいました。私は迫りくる刃を見ながら、死を覚悟しました。そして私は自分の人生に後悔を抱きながら、静かに目を閉じました。

ですがそんな時でした。私と魔王の間に誰かが立ち塞がったのです。そしてその人物は魔王の剣を受け止めると、魔王の顔面に強烈な一撃を放ちました。

「ぐわっ!?」「大丈夫か?」

「あなたは……」

私は声の主の顔を見ると、驚きのあまりに言葉を詰まらせました。なぜならそこに立っていたのは、かつて私が勇者として召喚された時に、魔王軍の幹部だった人物だからです。その人の名は———

「ガラッドさん!!」「久しぶりだな」

「どうしてあなたがここに?」

「それは後だ。今はあいつを倒すぞ」

「はい」

私はミレアさんを守るように立つと、魔王に向かって剣を構えました。そんな私の姿を見た魔王は、こんな言葉を私に投げかけました。「どうして俺の邪魔をする?」

「ミレアさんを傷つけようとする者は、誰であろうと許しません」

「そうか。なら仕方がないな」

魔王はそう口にすると、私に向かって手をかざしました。すると次の瞬間、魔王の手から真っ黒な球体が出現しました。私はそれが危険だと察知すると、その場から飛び退きました。するとその直後、魔王が放った黒い球が爆発を起こしました。

「くぅ……!!」「ほう。今のを避けるとはな」

「リリス!大丈夫?」

「ええ、問題ありません」

私はミレアさんにそう答えると、すぐに剣を構えました。そんな私に魔王は呆れた表情を浮かべると、「本当に馬鹿なんだな」と言いながら私に襲いかかってきました。そして私の攻撃を簡単に避けると、私のお腹に蹴りを入れてきました。

「ぐぅ……!!」「どうした?もう終わりなのか?」

「まだまだこれからです」

私はどうにか立ち上がると、魔王に向けて剣を振るいました。しかしそんな私の攻撃が魔王に届くことはなく、逆に私は魔王の反撃を受けて、吹き飛ばされてしまいました。

それからしばらくの間、私は魔王と戦い続けました。ですが私の体力は限界を迎えており、魔王はそんな私の姿を見て、ニヤリと笑いました。

「もういいだろう。これ以上は無駄なことはするな」

「まだです……」

「諦めの悪い奴め」

魔王は私にトドメを刺すために、私に歩み寄ってきました。私はもうダメだと思いながら、心の中でミレアさんに謝罪の言葉を述べていました。

(ごめんなさいミレアさん。結局私は、あなたを助けることができませんでした)

私はそう思いながら、ミレアさんの方に視線を移しました。すると彼女は目に涙を溜めながら、私に向かってこんな言葉を投げかけてきました。

「リリス……。お願いがあるの」

「なんですか?」

「私を殺して」

「何を言っているのですか?そんなことできるわけないじゃないですか」

「いいから早く!」

ミレアさんはそう言うと、私の元に駆け寄りました。そして私に抱きつくと、泣きそうな表情で私にこんなことを言いました。

「もう嫌なの。大切な人が傷ついていくのを見るのは……!」

「ミレアさん……」

「お願いだから私のことは気にしないで、逃げて」

「でも私はあなたを置いて逃げるなんてできません!」

「リリス……」

私はミレアさんを抱きしめると、彼女に優しくキスをしました。そして私は唇を離すと、彼女と目を合わせて微笑みました。

「ミレアさん。今までありがとうございます」

「私こそ、ありがとう。大好きだよ」

「私もです」

私はそう言うと、魔王の方を見つめました。そして私は魔王に向き合うと、こんな言葉を投げかけたのです。

「魔王。あなたに私は負けません」

「そうか。なら死ぬといい」

魔王はそう言うと、私に向かって黒い波動を放ってきました。私はその攻撃を受けると、全身に激しい激痛を感じました。そして私はその場に倒れ込むと、意識を失ってしまいました。

私の体が床に倒れると、魔王は私の元まで歩いてきました。そして彼は私を見下しながら、こんな言葉を口にしました。

「お前はよく頑張ったよ。だが俺には勝てなかった」

「……」

「さて、そろそろお前たちも殺してしまおうか」

魔王はそう言って、私とミレアさんにトドメを差そうと近づいてきました。しかしそんな彼の前に一人の人物が姿を現すと、魔王に向かってこう言いました。

「魔王。お前の相手はこの僕だ」

「君は……!」

魔王の前に現れたのは、魔王軍の幹部であるゼクトでした。そしてそんな彼に対して、魔王は笑みを浮かべながら、こんな質問を口にしました。

「君が一人で来るなんて意外だね。他の仲間はどこにいるんだい?」

「みんな別の場所にいるよ。それより魔王。僕の質問に答えてくれないか?どうしてこの子を殺したりなんかした?」

「さっきも言ったはずだ。俺はこの女が邪魔になった。だから殺した」

「そうか。なら僕は君を許さない」

「好きにするといい」

魔王はそう言うと、再び黒い波動を放とうと手を掲げました。するとその瞬間、ゼクトが手に持っていた魔導銃を魔王に向かって撃ちました。すると魔王は手にしていた剣で、その銃弾を防ぐと、彼にこんな言葉を投げかけました。

「不意打ちとは卑怯じゃないか」

「そうかい?だけど君の力なら、これくらい避けられると思ったんだけどな」

「そうだな。次は気をつけるとするよ」

魔王はそう口にすると、今度は自分から攻撃を仕掛けていきました。そして両者は激しい攻防を繰り広げましたが、その最中、魔王はこんなことを考えていたのです。

(この男、やはり強いな。俺が全力を出して戦う必要があるかもしれないな)

魔王はそう思うと、一度、距離を取るため後方に下がりました。そして魔王は手にしている剣を鞘に収めると、体から膨大な魔力を放出させました。

その圧倒的な力を目の当たりにして、ゼクトは驚きのあまりに動きを止めてしまいました。そんな彼の姿を魔王は嘲笑うと、こんな言葉を口にしました。

「これでわかっただろう?俺と貴様では、力の差がありすぎる」

「確かにそのようだね。でもだからといって、諦めるつもりはない」

「その意気込みは認めよう。だが俺と戦うのは止めた方がいい。死にたくなければな」

「それはやってみないとわからないことだ」

「やめておけ。どうせ貴様はここで死ぬのだからな」

魔王はそう言うと、地面に剣を突き立てました。そしてそれと同時に、魔王の周囲に黒い魔法陣が展開されました。それを見たゼクトは何か危険を感じたのか、すぐにその場から離れようと走り出しました。しかし次の瞬間、魔法陣が強烈な光を放つと同時に、その中から巨大な腕が現れました。そして現れた無数の手が、ゼクトに向かって伸びてきたのです。

「何!?」

「これが俺の切り札だ」

魔王はそう言うと、自分の右腕を魔法で巨大化させると、そのまま勢いよく拳を振り下ろしました。すると魔王の攻撃を受けたゼクトは、地面に向かって吹き飛ばされました。

「ぐわぁあああ!!」

「どうだ?降参する気になったか?」

「ふざけ……るな……」

「そうか。ならもう少し遊んでやる」

魔王はそう言うと、地面に倒れ込んでいるゼクトに向かって、何度も拳を叩きつけました。その度に衝撃波が発生し、辺りに砂煙が舞い上がりました。その様子を見ていたミレアさんは、思わず悲鳴を上げました。

「い、イヤァア!!リリスゥウ!!」

「大丈夫です。私はここにいます」

私はミレアさんを抱き寄せると、彼女の背中を撫でました。そして私は魔王の方に視線を移すと、険しい表情を浮かべながら、こう思ったのです。

(まずいですね……。このままだと私たちも巻き込まれてしまいます。どうにかして、ここから逃げ出さなくては……!)

私はミレアさんを連れて、どうにかしてこの場所から抜け出そうと試みましたが、なかなか上手くいきませんでした。しかしその時、突然ミレアさんが大きな声を出しました。

「あ、あれは?」

「ミレアさん?どうかしましたか?」

「リリス見て!」

ミレアさんはそう言って、魔王が立っている場所を指差しました。私は不思議に思いながら、その場所に視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていたのです。

「えっ……?」

「そんな……」

「バカな……」

私たちは目の前に広がっている光景を見て、言葉を失いました。なぜなら魔王が立っていた場所には、大きな穴が空いていたからです。

私は恐る恐るその穴に近づくと、中の様子を覗き込んでみました。そして私は、底の見えない深い闇に恐怖を覚えながら、こんな言葉を漏らしました。

「これは一体……?」

「リリス。あの人は大丈夫かな?」

「わかりません。ですが今は魔王を倒すことが先決です。行きましょう」「うん」

私はミレアさんの手を握ると、魔王がいるであろう場所に向かいました。そして私は、あることに気がつきました。それは魔王の身に付けている鎧の一部が、粉々に砕かれていることです。

私はその事実に驚くと、魔王が無事であることを信じて、急いでその場を後にしようとしました。しかし次の瞬間、私の足元に大きな亀裂が入ると、私は足場を失ってしまいました。

「きゃあ!」

「リリス!」「ミレアさん!」

私は落下していく中で、必死にミレアさんを抱きしめると、どうにか彼女だけでも助けられないかと考えました。しかし無情にも私の体は宙に投げ出されると、次第に意識が薄れ始めました。

(くぅ……。ここまでですか)

私はそう思いながら、静かに目を閉じました。そして私は心の中でミレアさんに謝罪の言葉を述べると、最後の力を振り絞って、ミレアさんにキスをしました。するとその瞬間、私の体を温かい光が包み込むと、私とミレアさんは、どこかの森の中に移動していました。

「ここは?」

「リリス!」

「ミレアさん?」

「良かった。リリスが生きていて」

「私も安心しました」私とミレアさんはそう言いながら、お互いに抱き合いました。そして私が周りに視線を向けてみると、そこは見たこともない場所でした。しかしそんな時、私の耳にこんな言葉が聞こえてきました。

「まさか本当にこの世界に戻ってこられるなんて……」

「誰だ!」私はそう叫ぶと、ミレアさんを守るように立ちました。するとそんな私の前に一人の少女が現れました。その姿を見て私は、驚きの声をあげました。

「あなたは……!」

「久しぶりねリリス」

「どうしてあなたがこんなところにいるんですか?」

「それは私も同じことを聞きたいのよ」

「どういうこと?」

「実は私もあなたと同じように、この世界に戻ってきたばかりなのよ」

「そうだったの」

「そういうわけだから、お互い情報を交換し合わない?」

「そうね。いいでしょう」

私はそう言うと、彼女と向かい合う形で座りました。それから私は彼女に事情を説明すると、彼女は驚いたような表情を浮かべました。

「つまりあなたはこの世界の人間ではなくて、異世界から来たということなのね」

「はい。信じてもらえるかはわかりませんが」

「信じるわよ。だって実際にこうして会っているんだもの」

「そう言っていただけると助かります」

私はそう言うと、頭を下げました。するとミレアさんが私と彼女に質問を投げかけました。

「それで二人は知り合いなの?」

「そうよ。私の名前はメイリー。よろしく」

「こちらこそ。僕はミレア。よろしく」

「ねぇ二人とも。よかったら私と一緒に旅をしない?」

「一緒に?」

「えぇ。きっと楽しいと思うわ」

「でも僕はリリスと一緒じゃないと……」

「わかっているわ。だけど少しの間だけでもいいから、私と行動してみない?」

「うーん……」

「お願い!」

「仕方ありませんね。少しの間でしたら構いませんよ」

「ありがとう!」

メイリーは嬉しそうな笑顔を見せると、私に抱きついてきました。そんな彼女の様子を見たミレアさんは、不満そうに頬を膨らませました。

「むぅ〜……」

「あら?どうしたのかしら?ミレアちゃん」

「なんでもないもん」

「そう。なら良いんだけど」

「それよりもリリス。あなたのことはリリスと呼んでもいいかしら?」

「別に構わないけど」

「ならこれからはそう呼ばせて貰うわね」

「わかった」

「なら早速だけど、私たちの旅の目的について話し合おうか」

「そうですね」

私たちはそう言うと、話し合いを始めました。そしてしばらくすると、私たちの話を聞いていたミレアさんが、こんなことを口にしました。

「その前に聞きたいことがあるんだけど」

「何かな?」

「さっきから気になっていたんだけど、その格好はなんなの?」

「この服のこと?」

「うん」「これはこの世界で流行っている服装なの。似合ってるでしょ?」

「まぁ確かに可愛いとは思うけど……」

「なら問題ないわよね?」

「そうだね」

「納得するの早いですね……」

「そんなことよりも、さっさと本題に入りましょう」

「そうですね」

私はそう言うと、この世界にやってきた目的を話しました。するとミレアさんは真剣な眼差しで、こんな言葉を口にしました。

「魔王の討伐……」

「はい。私はそのためにここの世界にやって来ました」

「なるほどね。でもその魔王はどこにいるの?」

「それは……」

私はミレアさんの疑問に対して、答えることが出来ませんでした。するとそんな私たちの様子を見たメイリーは、笑みを浮かべながら、こんな提案をしてきたのです。

「それじゃあ魔王を探すついでに、私たちも仲間を探しましょう」

「仲間を?」

「えぇ。そろそろ私たちも、新しいメンバーを入れた方が良いと思ってね」

「でも私たちが探しているのは、魔王ですよ?」

「大丈夫よ。魔王も強い仲間を求めているはずだから」

「それってどういう意味ですか?」

「そのままの意味よ。魔王は強大な力を持っているけど、それを有効に使える人材がいないの」

「それでは私たちがその役目を果たせば……」

「えぇ。魔王を倒すことが出来るかもしれないわ」

「ならすぐに出発しよう!リリス早く行こう」

「待ってくださいミレアさん」私はそう言うと、立ち上がりました。するとそんな私の元に、メイリーが近づいてきて、耳元で囁いてきました。

「あまり焦らない方がいいわよ」

「どういうこと?」

「魔王には気をつけなさい」

「魔王に?」

「えぇ。今の魔王は前とは違うから」

「違うって何が違うの?」

「詳しくはわからないわ。ただ油断していると、命を落とすことになるわよ」

「忠告はありがたく受け取っておきます」

私はそう口にすると、ミレアさんの手を握って歩き出しました。そして私は、魔王と戦う時のことを想像しながら、こう思ったのです。

(絶対に負けない……!)

私はミレアさんの手を強く握りながら、魔王との戦いに備えるのでした。

私たちが森を抜けて、最初に辿り着いた場所は、小さな村でした。そこで私たちは宿を確保すると、今後のことについて話しました。

「まずは魔王の情報を集めないといけませんね」

「魔王か……。どんな人なんだろう?」

「そうですね。とりあえずは魔王が住んでいる場所に向かいましょうか」

「そうだね」

私たちはそう決めると、魔王が暮らしているという場所に向かうことにしました。そして私たちは、その途中で奇妙な光景を目にしました。

「ねぇリリス。あれは一体なんだろう?」

「あれは……死体でしょうか?」

私たちは村の外れにある広場に到着すると、そこには無数の遺体が転がっていました。そしてその中には、見覚えのある顔がいくつもありました。「これは一体……?」

「どうやら魔王の仕業みたいだね」

「そうかもしれませんね」

私はそう言いながら、遺体をよく観察してみました。しかしそこには魔王の姿は確認できません。私は不思議に思いながら、首を傾げました。

「魔王がいませんね」

「うん。もしかしたらこの中に魔王がいるのかな?」

「わかりません。ですが警戒だけは怠らないようにしましょう」

私はそう言うと、剣を抜いて構えました。そしていつでも戦えるように準備をしていると、ミレアさんが大きな声を出しました。「リリス!」

「ミレアさん!?」

ミレアさんが指差す方向に視線を向けると、そこには巨大なモンスターが存在していました。私はその姿を見ると、思わず息を飲みました。なぜならそこにいたのは大きな翼を生やした、竜のような姿をしていたからです。「まさかドラゴンですか?」

「多分そうだと思う」

「厄介な相手ですね」

「僕が囮になるから、その間にリリスは逃げて」

「ミレアさんを置いて逃げるわけにはいきませんよ」

「大丈夫だよ。僕はこれでも勇者なんだ」

「ミレアさん……」

「だからリリスは先に逃げて」

「わかりました。ご武運をお祈りしています」

私はそう言うと、ミレアさんに背を向けて走り出しました。しかしそんな私の背後から、こんな言葉が聞こえてきたのです。

「逃がさないわよ」

「えっ?」私が驚いて振り返ると、そこには先程まではいなかったはずの女性が立っておりました。その女性は私に向かって手をかざすと、魔法を唱えました。すると次の瞬間、私の体は地面に叩きつけられました。「ぐふぅ!」

「リリス!」

「ミレアさん。逃げてください!」私はそう叫ぶと、立ち上がろうとしました。しかし私の体に異変が起こり、思うように立ち上がることができませんでした。

「体が……動かない……」

「無駄よ。あなたは私の魔力によって、体を拘束されているのだから」

「くっ……」

「これで邪魔者はいなくなったわね」

彼女はそう言うと、私の側に近寄ってきて、頬に触れてきました。私はそんな彼女を見て、驚きの声をあげました。

「どうしてあなたがここに……」

「どうしてかしらね?あなたは知っているのかしら?」

「何を言って……」

「まぁいいわ。あなたも私と同じ苦しみを味あわせてあげる」

彼女はそう言うと、私の顔に自分の顔を近づけて、キスをしてきました。するとその瞬間、私の体の中に膨大な量の力が注ぎ込まれました。「あああ!」

「どう?気持ち良いでしょう?」

「うぁ……」

私は体の中が熱くなるのを感じました。そして私は無意識のうちに、彼女の唇を受け入れてしまいました。

「んちゅ……じゅる……ぺちゃ」

「あぁ……もっとぉ」

「ふふっ。いいわよ。もっともっとあげてあげる」

それからしばらくの間、私と彼女は互いの舌を絡め合うと、快楽に浸りました。そしてやがて彼女が私から口を離すと、満足そうな表情でこんなことを言ったのです。

「これで終わりじゃないから安心していいわよ」

「え?」

「次はこっちでしてあげるから」「ひゃう!」

彼女の手が私のお腹に触れると、私は思わず悲鳴を上げました。するとそんな私の様子をみた彼女は、楽しそうな声でこんな言葉を口にしたのです。

「やっぱりお姉ちゃんは可愛いね」

「え?今なんて……」

「なんでもないよ。それより続きをしようか」

彼女はそう口にすると、再び私の唇を奪いました。そしてそれと同時に、私は彼女に犯され続けたのです。

「ああっ!もう許して……」

「ダメだよ。まだまだこれからなんだから」

「そんな……」

私は絶望的な気分になりながらも、必死に抵抗するのでした。

「はぁ……はぁ……」

私は肩を大きく揺らしながら、呼吸を整えました。するとそんな私の様子を見たミレアさんが、心配そうに声をかけてくれました。

「大丈夫?」

「えぇなんとか。それよりもこれからどうしますか?」

「そうだね。とりあえずは近くの街に向かおうと思うんだけど」

「わかりました。ならさっさと移動しましょう」

「うん」

私たちはその場から離れると、近くにある街へと向かいました。そして無事に街の前まで辿り着くと、そこでミレアさんが突然こんなことを聞いてきたのです。

「そういえばリリス。この世界のお金って持っているの?」

「持っていますよ。一応は」

「じゃあそのお金で宿に泊まろうか」

「それが一番ですね」

私たちはそう決めると、宿屋に向かいました。そして部屋を確保すると、今後のことについて話し合いを始めました。その結果決まったことは三つだけです。一つ目は魔王に関する情報を集めること。二つ目はこの世界に存在するスキルについて調べること。三つめはこの世界で使われている文字を覚えることでした。

私たちの当面の目的は、魔王に関する情報を集めることと、この世界の文字を覚えることでした。そのためには情報が集まりやすい場所に行く必要があります。そこで私たちが選んだ場所は、冒険者ギルドと呼ばれる場所でした。

「冒険者ギルドですか……」

「何か問題があるの?」

「いえそういうわけではないんですけどね」

「じゃあ問題ないよね?」

「まぁそうですね」

私はそう言うと、ため息をつきました。

(確かにミレアさんの言う通り、特に問題はありませんね)

私は自分に言い聞かせるようにそう考えると、目の前にある建物を見上げました。そこには大きな看板があり、「ようこそ!冒険者ギルドへ」と書かれています。

(とりあえず入ってみましょうか)

私は覚悟を決めると、建物の中に入って行きました。するとそんな私を待っていたのは、大勢の人で溢れかえった空間でした。私はその光景を見ると、呆然としてしまいました。

(これは一体……?)

私は混乱しながらも、受付の女性の元に向かいました。そして恐る恐る質問をすると、このような答えが返ってきたのです。

「あのここはどこなんでしょうか?」

「ここは冒険者ギルドですよ」

「それはわかっています。私が聞きたいのは、なんでこんなに人が多いのかという事です」

「それは依頼を探しているからです」

「依頼を受けるために、わざわざこんなに人が?」

「はい。この街では定期的に、魔物退治の依頼が行われるんですよ」

「なるほど」

私は女性の言葉を聞くと、納得しました。そしてその後、女性の案内で、私はミレアさんと一緒に、二階の部屋に向かいました。そしてしばらくすると、一人の男性が部屋にやってきました。男性は私たちの姿を確認すると、笑顔を浮かべながら、こんな挨拶をしてきました。

「やぁ君たちが新しい仲間かい?」

「はいその通りです」

「そうか。僕は冒険者のザラだ。よろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いします」

「それで早速だけど、仕事の話に移ってもいいかな?」

「わかりました」

私たちはそう決めると、椅子に座って話を聞き始めました。そしてまず最初に話されたのは、この世界での冒険者としてのルールについてでした。

「まずは冒険者に求められるものを説明するよ」

「はい」

「冒険者には大きく分けて二つの種類が存在するんだ。一つは普通の冒険者で、もう一つは魔族討伐を専門にしている者たちだよ」

「つまりは普通の人たちと、特別な能力を持った人たちということですね」

「その認識であっているよ。ちなみに僕たちは後者だ」

「わかりました」

私はそう言うと、ミレアさんに視線を向けました。するとミレアさんは、首を傾げながらこんなことを言いました。

「僕たち?」

「あぁ気にしないでくれ。ただの独り言だ」

「はぁ……」

私は不思議に思いながら、首を傾げました。するとそんな私に気づいたのか、彼は慌てて話を戻しました。

「とにかく僕たちのパーティーには、二人とも普通ではない力を持っているということだ」

「そうなのですか」

私はそう言うと、ミレアさんの方を見ました。すると彼女は少しだけ照れ臭そうな表情をしながら、こんな言葉を返してきました。

「そんなに見つめないでよ。恥ずかしいじゃないか」

「別に見つめてはいませんよ」

「またまた〜」

「はぁ……」

(本当に変わった子ですね……)

私はそんなことを考えると、ミレアさんから目を逸らしました。するとそんな私を見たミレアさんは、不思議そうにこう尋ねてきたのです。

「どうかしたの?」

「いいえ何でもありませんよ」

「ふーん。ならいいんだけど」

ミレアさんはそう言うと、再び男性と向き合いました。すると今度は男性の方から、こんな提案をしてきたのです。

「ところで自己紹介がまだだったね。僕はザラ。君は?」

「私はミレアといいます」

「ミレアさんか。綺麗な名前だね」

「ありがとうございます」

ミレアさんはそう返すと、私に向かって手を伸ばしてきました。私はその手を握り返すと、軽く頭を下げました。そしてそんな私たちを見て微笑むと、男性はこんな言葉を口にしました。

「それじゃあ次は君の番だよ」

「わかりました。私の名はリリスと言います」

「リリスさんね。覚えたよ」

ザラさんはそう言うと、笑顔を見せました。そんな彼の様子を確認した私は、本題に入るために口を開きました。

「それで私たちは何をすればいいのでしょうか?」

「そうだね。リリスさんは魔法を使うことができると聞いたけど、間違いないかな?」

「はい。使えますよ」

「そうか。ならリリスさんは魔法使いとして、活躍してもらうことになるね」

「そうですか」

私はそう言うと、自分のステータス画面を確認しました。そしてそこに表示されている内容を見て、思わず目を見開きました。なぜならそこには『魔力』の欄に、『1000000/1000000』と書かれていたからです。

(どうなっているの?)

私は自分の身に起こっている異変に戸惑いながらも、その事実を受け止めました。そしてそんな私の反応が気になったのか、ミレアさんが声をかけてきました。

「どうしたの?」

「いえなんでもありません」

「そう?ならいいんだけど」

ミレアさんはそう口にすると、再び男性の方に顔を向けた。そして真剣な表情でこんなことを尋ねたのです。

「それでどんな依頼があるんですか?」

「今回は魔王軍の幹部である、吸血鬼の討伐を依頼されているよ」「なるほど。でもどうして僕たちにその依頼が回ってきたのですか?確か他の国にも冒険者はいたはずですけど……」

「確かにその通りだね。けれど魔王軍の幹部を倒せるほどの実力を持った冒険者がいなかったんだよ」

「そういうことだったんですか……」

「だからこの街にいる冒険者の中で、一番ランクの高い僕たちが選ばれたわけさ」

「そうだったのですね」

私はそう口にすると、ため息をつきました。するとその時、突然部屋の扉が開かれて、数人の男たちが現れました。そして彼らは私たちの側に近寄ると、いきなりこんな言葉を口にしたのです。

「おいお前ら。ここで何をしている!」

「えっと……」

「怪しい奴め!捕まえろ!」

「ちょっ……」

私たちはあっという間に拘束されてしまいました。私は必死になって抵抗しましたが、全く歯が立ちませんでした。するとそんな私の様子を見たミレアさんが、慌てたように声を上げました。

「待ってください!彼女たちは僕の仲間です!悪い人じゃないんです」

「なんだと?」

「だから離してください」

「しかしこいつらは指名手配されている連中だぞ」

「それでも構いません」「わかったよ」

男はそう答えると、私たちの拘束を解きました。そしてそれからしばらくして、ザラさんがこんなことを提案しました。

「とりあえずギルドマスターに会ってみる?」

「えぇそうしましょう」

私たちはそう決めると、男の人に案内されて、ギルドの奥にある部屋に向かいました。そしてその部屋に入ると、一人の女性が出迎えてくれました。そしてその女性は、私の姿を見てこんな言葉を発したのです。

「あら?あなたも捕まったの?」

「違いますよ。僕はこの人の付き添いで来ただけです」

「そうなの。じゃあ改めて初めまして。私はこの冒険者ギルドのギルド長を務めている、メリッサよ」

「私はリリスといいます」

「そう。じゃあ早速だけど、仕事の話をしてもいいかしら?」

「はい」

私はそう返事をすると、彼女の話を聞きました。するとその内容は、とても興味深いものでした。

「今回の目的は魔王軍の幹部の一人を倒すこと。報酬は金貨1000枚になるわ」

「なるほど」

私はその金額を聞くと、思わず息を呑みました。というのも、この世界の通貨について説明していなかったので、ここで簡単に解説しておきましょう。まず銅貨一枚は10円の価値があり、銀貨1枚は100円、金貨一枚は1,000円といった感じになります。つまり今回支払われる報酬額は、日本でいうところの百万円ということになります。

「それともうひとつ。これは重要な話なのだけど、もしあなたが望むのであれば、その賞金を受け取る前に、冒険者を辞めることだってできるのよ」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味よ。あなたが辞めたいと言えば、お金を渡すことなく、ここから立ち去ってもらって構わないの」

「それはどうしてですか?」

「それはこの世界では、冒険者というのは一種の職業みたいなものなの。だから冒険者を辞めるということは、仕事をしていない状態と同じなのよ」

「なるほど」

私は納得すると、小さくうなずきました。そんな私の様子を確認したギルド長は、優しい口調でこう続けました。

「まぁ冒険者を続けてくれるのなら嬉しいけどね」

「それはどうしてですか?」

「それはあなたの実力があれば、きっと多くの人から必要とされると思ったからよ」

「そうなんですか……」

私はそう呟くと、考え込みました。そして少しの間考えた後、私は彼女にこう尋ねました。

「ちなみになんですけど、私が冒険者を続けることで、何かメリットはあるのでしょうか?」

「そうね。例えば街の人々から感謝されるかもしれないわね」

「それだけですか?」

「そうよ」

「わかりました。それでは冒険者の方を続けることにします」

「そう。助かるわ」ギルド長はそう言うと、優しく微笑みました。そしてその後、彼女はミレアさんに向かって、こんな提案をしたのです。

「ミレアさん。リリスさんと一緒に依頼を受けてもらえないかしら?」

「えっ?」

「実は二人には、一緒にパーティーを組んでもらいたいと考えていたのよ」「僕たちとですか?」

「えぇ。どうかしら?」

ミレアさんは少し悩んだ様子を見せると、やがてこんなことを言いました。

「僕はいいですよ」

「私も良いです」

「そう。よかった」

「でもリリスさんは大丈夫なの?」「問題ありません」

私はそう言うと、笑顔を浮かべました。そしてそんな私たちの反応を見たギルド長は、嬉しそうに微笑むと、こんな言葉を口にしました。

「それじゃあ今日は遅いし、詳しい話は明日にしましょう」

「わかりました」

私はそう答えた後、ミレアさんと二人で、部屋を後にしました。するとそんな私たちを待っていたのか、一人の男性が声をかけてきました。

「君たちちょっといいかな?」

「なんでしょう」

「私はこの街の冒険者を取りまとめている、ダリアというものだ。よろしく頼むよ」

「こちらこそお願いします」

「それでいきなりで申し訳ないのだが、一つだけ質問させてほしいことがあるんだ」

「はい。何でしょうか?」

「君は先程の女性とは、どのような関係なのかな?」

「私とミレアさんの関係ですか?」

「そうだ」

「えっと……」

私は困りながら、チラッとミレアさんの方に視線を向けました。するとミレアさんは、頬を赤くしながらこんな言葉を返してきたのです。

「リリスは僕の大切な仲間だよ」

「そうか……ありがとう」

「いえいえ」

私はそう返すと、慌てて話を戻しました。

「それでミレアさんとの関係性でしたよね?」

「そうだね」

「ミレアさんは私の命の恩人なんですよ」

「そうだったのかい?」

「はい」

私はそう言うと、ミレアさんの方を見ました。するとミレアさんは照れ臭そうに微笑むと、こんな言葉を口にしたのです。

「そんな大層なものじゃないよ……」

「そんなことはありませんよ。本当に感謝しています」

「そっか。それなら良かった」

ミレアさんはそう言うと、笑顔を見せました。そんな私たちのやり取りを見ていた男性は、不思議そうに首を傾げました。

「ところで二人は、どこで知り合ったのかな?」

「あー……」

私はそこで言葉に詰まりました。というのも、私はこの世界で目覚めてから今までの経緯を、ほとんど覚えていなかったからです。(どうしよう……。なんて言えばいいのかな?)

私は悩みました。しかしすぐに思いつくような言葉はありませんでした。なので私は、正直に話すことにしました。

「すみません。実は記憶喪失になってしまったようで、自分がなぜここにいるのか、よくわからないんです……」

「なるほど……」「だからミレアさんと会った時のことも覚えていなくて……」

「そうだったのかい……」

「はい……」

私はそう口にすると、下を向きました。するとそんな私の手を、ミレアさんがギュッと握りしめてきました。そして彼女はこんなことを口にしたのです。

「気にしないでいいよ。僕は君の味方だからさ」「ありがとうございます」

「うん」

ミレアさんはそう言って、優しく笑いました。するとその様子を見つめていたダリアさんが、私たちに声をかけてきたのです。

「どうやら複雑な事情があるようだね」「えぇ……」

「それならば無理に聞くのも悪いだろう。だからとりあえず今日のところは、家まで送ることにするよ」

「いいんですか?」

「もちろんだとも。それに冒険者になったばかりの人に、野宿をさせるわけにもいかないしね」

「そうですね。ではお言葉に甘えてもいいですか?」

「あぁ。任せてくれ」

こうして私たちは、ギルドを後にして、家に帰ることになりました。そして帰り道の途中で、私は気になっていたことを、ミレアさんに尋ねてみたのです。

「あの、ミレアさん」「なに?」

「ミレアさんはどうして私を助けてくれたんですか?」

「それは……」

ミレアさんはそこまで口にすると、恥ずかしそうに俯きました。そしてしばらくすると、消え入りそうな声でこんなことを言ったのです。

「君が僕と似ている気がして……」「似ている?どういう意味ですか?」

「それは……」

ミレアさんはそう口にすると、再び黙ってしまいました。そしてそれからしばらくの間、私たちは無言のまま歩き続けました。そしてようやく私たちの家にたどり着いた時、ミレアさんはこんなことを口にしたのです。

「また明日会おう」

「えぇ。わかりました」

「それじゃあお休みなさい」

「はい。お休みなさい」

そして私たちはそれぞれ自分の部屋に戻るために、別れました。

(これからどうなるんだろう……)

不安な気持ちを抱えながらも、私は眠りにつくのでした。

翌朝目を覚ました私は、部屋を出て一階に降りました。そしてリビングに向かうと、そこにはすでにミレアさんの姿がありました。

「おはよう」

「あ、はい。おはようございます」

私はそう挨拶すると、ミレアさんの隣にある椅子に腰掛けました。するとそんな私に気づいたのか、ミレアさんはこんな言葉をかけてきたのです。

「昨日はよく眠れた?」「はい。ぐっすりと」

「そう。それは良かった」

ミレアさんはそう言うと、優しい笑みを浮かべました。私はその表情を見て、思わずドキッとしてしてしまいました。するとそんな私の様子を察したのか、ミレアさんは急に慌て出したのです。

「ごめんね。別に変な意味で見たわけじゃないんだよ」

「わかっていますよ。大丈夫です」

「本当かなぁ?」

ミレアさんはそう言うと、少し心配そうな顔になりました。そして私はその顔を見ているうちに、ある疑問が浮かんできたのです。

「そういえばミレアさんって、どうして私なんかのために、ここまでしてくれるんですか?」

「それは……」

ミレアさんは少し悩むような仕草を見せると、ゆっくりと口を開きました。

「実は僕、孤児なんだ」

「そうなんですね」

「うん。だから孤児院で育ったんだけど、そこの先生がすごく優しくしてくれてね。だから僕もその人のようになりたいと思ったんだ」

「なるほど」

私はそう答えると、ミレアさんの瞳を見つめました。彼女の澄んだ青色の瞳には、強い意志のようなものを感じました。そして私は、この人が信頼できる人間なのだと、直感的に理解することができたのです。

「ミレアさんは優しい人なんですね」

「そんなことはないよ。ただ自分にできることをしているだけだから」

「それでも凄いと思いますよ」

「そうかな……」

ミレアさんはそう呟くと、頬を赤く染めました。そしてそんな彼女に向かって、私はこんな提案をしたのです。

「ミレアさんさえ良ければなんですけど、一緒に依頼を受けませんか?」

「いいの?」

「はい。私は一人よりも二人の方が心強いので」

「わかった。それじゃあお願いするね」

「よろしくお願いします」

私はそう言うと、小さく頭を下げました。するとそんな私に向かって、ミレアさんはこんな提案をしてきたのです。

「それでさ、お互いのことを名前で呼び合わない?」

「えっ?」

「だってリリスとはパーティーを組むことになったわけだし、いつまでも君とか、あなたっていう呼び方をするのもおかしいと思うんだ」

「確かにそうかもしれませんけど……」

私は少し戸惑うような素振りを見せました。というのも私は、他人の名前を呼ぶということに慣れていなかったので、少しだけ抵抗があったのです。

「だめ……かな?」

ミレアさんはそう言うと、上目遣いで私のことを見つめてきました。そんな彼女に対して私は、心を揺さぶられてしまいました。そして数秒後、私は諦めるようにため息をつくと、こう言葉を口にしました。

「わかりました。ミレアさん」

「えへへ。ありがとうリリス」

ミレアさんは嬉しそうに笑うと、私の名前を呼んでくれました。それがどこかむず痒くて、私は慌てて話題を変えようとしました。

「そういえばミレアさんは、どんな魔法が使えるんですか?」

「僕のは回復魔法だよ」

「そうだったんですね」

私はそう言うと、ミレアさんの手元に視線を向けました。ミレアさんの手のひらからは、淡い緑色の光が漏れ出していました。その光はとても暖かくて、私を安心させてくれるものでした。

「ちなみにリリスのステータスはどうなってるの?」

「私は……」

私はそこで言葉を詰まらせました。なぜなら私は、自分の能力についてほとんど何も知らないことに気づいたからです。しかしだからといって、正直に答えないわけにもいきません。なので私は覚悟を決めると、ミレアさんに正直な事実を伝えることにしたのです。

「実は自分の能力については、よくわからないんです……」

「そうなの?」

「はい……」

私は申し訳なさそうにそう言いました。するとミレアさんは、私の頭を撫でながら、こんな言葉を返してきたのです。

「そんなに気にしないでいいよ。誰にでも初めてはあるんだしさ」

「ありがとうございます」

「それにこれから少しずつ学べばいいよ」

「そうですね」

私はそう言うと、ミレアさんの顔を見つめました。すると彼女は、ニコッと微笑むと、こんな言葉を口にしたのです。

「それじゃあ今日はどうしようか?」「そうですね……」

私は少し考えると、一つの提案を口にしました。

「ミレアさんに街を案内してもらえますか?」

「もちろんいいよ」

ミレアさんはそう言って立ち上がると、私に手を差し伸べました。私はそんな彼女の手を掴むと、勢いよく立ちあがりました。

「それじゃあ行こうか」「はいっ!」

私は元気よく返事を返すと、ミレアさんと一緒に家を出るのでした。

私たちは街の中を歩いていました。そしてミレアさんは、私が興味を持ったお店や施設などを、次々と紹介してくれたのです。しかし私は、そこで一つ気になるものを見つけました。それはとある武器屋さんです。そのお店のショーウィンドウの中には、様々な種類の剣が並べられていたのですが、その中に一本だけ変わった形の剣がありました。

「あれは何ですか?」

私はその剣を指差しながら、ミレアさんに声をかけました。するとミレアさんはその質問に、笑顔を浮かべると、こんなことを言ったのです。

「あぁ。あれは魔導剣だね」

「魔導剣ですか」

「うん。普通の剣より魔力の通りが良くなるから、魔法の威力が上がるんだよ」

「へぇ……」

私は感心するように声を上げると、改めてその魔導剣を観察しました。それは銀色に輝く刀身を持つ片手用の直剣でした。そしてその表面には、複雑かつ繊細な紋様が刻まれていて、とても美しいもののように感じました。(これ欲しいなぁ)

私はそう思うと、その魔導剣を見ながら、しばらくボーッとしていました。するとその様子を見ていたミレアさんが、こんなことを口にしたのです。

「あのね、僕はこの剣を買ったんだ」「そうなんですね」

「うん。それで良かったら使ってみる?」

「良いんですか?」

「もちろんだよ」

ミレアさんはそう言うと、鞘ごと剣を手渡してくれました。私はその魔導剣を手に取ると、まじまじと見つめました。するとミレアさんは、そんな私に向かってこんな言葉を投げかけてきたのです。

「抜いてみても良いよ」

「それじゃあ失礼して」

私はそう口にすると、恐る恐るといった様子で剣を抜きました。しかし特に異常はなく、至って普通の様子でした。ただ柄の部分に赤い宝石が埋め込まれている以外、特別何かあるようには見えませんでした。

(やっぱりなにもないよね)

私はそんな事を考えながら、再び元の位置に戻すことにしました。そして私はそんな時、ある疑問が頭に浮かんだので、それを尋ねてみることにしたのです。

「どうしてこの武器を選んだんですか?」

「そうだね。単純に僕が好きだから、かな」

「好きなんですね」

「うん。僕が初めて手に入れたお金で買った宝物だからね」

「大切な思い出なんですね」

「まぁそんなところかな」

ミレアさんは照れくさそうに頬を赤めました。そしてそんな彼女に私は、一つの提案を持ちかけたのです。

「あの、私にもこの武器をプレゼントしてください」

「いいの?」

「はい。その方がお互いに嬉しいと思いますし」

「そっか。それじゃあお姉さんに任せなさい」

ミレアさんは自信満々な表情で言うと、お会計に向かいました。私はその姿を眺めていると、ある事に気がつきました。

それは店内にいる人の多くが、ミレアさんのことを羨ましそうに見ていたことです。それは私にとって不思議なことでしたが、すぐにミレアさんの魅力が原因だと気づくことが出来ました。きっと私と同じような考えをした人が、たくさんいたのでしょう。だからミレアさんの周りには、あんなに沢山の人が集まってきたのだろうなと、そんな事を考えているうちに、彼女は戻ってきました。

「はい。リリス。プレゼント」

ミレアさんは優しい笑みを浮かべて、私の名前を呼ぶと、手に持っていた小さな袋を差し出してきました。そして私は、それを受け取ると、ミレアさんにこう告げたのです。

「ありがとうございます。ミレアさん」

「ううん。どう致しまして」

それから私はミレアさんに、こんな提案をしたのです。

「ミレアさん、今度私と二人で依頼に行きませんか?」

「二人だけで?」

「はい。せっかく一緒にパーティーを組んだんですし、ミレアさんに私の力を見てもらいたいので」

「なーるほどね。わかった。それじゃあ早速行こっか」

「はい。お願いします」

こうして私とミレアさんは、二人で依頼を受けに行くことにしたのです。

俺はそんな話をした後、宿屋に戻ってきていた。ちなみに加奈ちゃんとは途中で別れたのだ。理由は単純で、彼女には彼女の生活があるからだ。彼女は自分の家に帰っていった。ただ俺はその後ろ姿を寂しく思いながらも、笑顔で見送ったわけなのだ。

さてここで俺が何をしているのかと言えば、まず最初にステータスの確認をしていた。というのも勇者として呼び出された時に、ある程度の情報は既に頭に入っているはずなのになぜかステータスについては全く記憶に残っていなかったから。そんな訳で俺は自分の能力を確認したかったのである。その結果、次のようなことが判明した。

==【基本能力】

Lv.1 生命 50/50 魔力100/100 攻撃力 10 防御力 15 精神 30 速度 30 運勢 1 技能

『神速』Lv.MAX、『全知眼』Lv.2、鑑定Lv.4、気配遮断、隠密Lv.7、危機察知、魔力制御、魔法耐性、状態異常無効化 == 俺はこの結果を見て思わず苦笑いをしてしまった。何故ならレベル1にも関わらず、全ての能力値が20を超えているというぶっ壊れ性能だったからである。さらに技能に関してはどれもがレベル2以上になっていてかなり高性能なものばかりだったのだから驚きを隠せなかった。しかもこの世界には魔法という概念があるために、これらの能力値はあくまでも参考にしかならないかもしれない。なのでここから先はステータスではなく、実際に戦って確認していくことが必要だろうと思うのだった。

(ステータスは予想以上に高いけどまだまだこれからだな)

俺はそう思うと自分の部屋に戻り寝転ぶことにした。明日は魔王を倒しに向かうことになるわけだし体力をしっかり休ませておく必要があったから。それに今は緊張からかあまり眠れそうになかったからでもある。しかしベッドに入って数十分も経つと眠気に襲われることになった。おそらくは精神的な疲労によるものだろうと俺は思ったのだが――どうやら違うようであった。なぜならば眠りに落ちる瞬間に、何者かによる襲撃を受けたから。しかし俺はその奇襲に対して即座に対応することに成功すると、相手を蹴り飛ばすことに成功し、地面に組み伏せることにも成功したのである。だが次の瞬間に俺は強烈な頭痛に見舞われることになった。それもそのはずでその何者かが使用したのは睡眠系のスキルだったためだ。そして俺は薄れゆく意識の中、こんな言葉を聞いたような気がする。その声は女性のものではあったが聞いたことがないものであり、なおかつ俺の心を酷くかき乱す声色だった。その女性は言った。

『あなたにはもっと苦しんでもらわないとダメね』

そこで俺は意識を完全に失った。しかしその声は今でも脳裏から離れることはなかった。まるで悪夢でも見ているかのような感覚に陥ると同時に、心の底から怒りが沸々と込み上げてくるのを感じるのだった。

**

(ここは?)

私は薄っすらとした意識の中で、そんなことをぼんやりと考えました。そして目を開けてみると見知らぬ天井が広がっていることに気づいたのです。

(一体何があったのでしょうか?確か私はあの後部屋に戻ろうとしたところで誰かに襲われたはずだったのです)

そしてそんなことを思い出していると、不意にある光景が頭によぎったのです。それは自分が床の上に倒れているという場面でした。

「私はどうして?」私は疑問を感じてそんな言葉を口にすると上半身を起こしました。

「目が覚めたようだな」

するとその時一人の男性が私に話しかけてきたのです。その男性は金髪碧眼で顔立ちは整っていて背が高く筋肉質。それでいて優しそうな印象を受ける男性でした。

「あなたは誰ですか?」

私は警戒しながらそんな言葉を彼に言いました。すると彼は少し困り顔をしてこんなことを聞いてきたのです。

「あー、悪いがちょっと待ってくれないか」

その男は懐から何かを取り出すと、それを私に向かって見せてきました。それは魔導器と呼ばれるものでした。魔導機というのはこの世界に存在する機械のことを指します。魔導機は大きく分けて三種類が存在していて、まず一つ目はこの世界で使用されている技術を元に作られた一般的なもの。そして二つ目はこの世界に元々存在していたとされるもの。そして最後に三つ目が、私が見た魔導機がその三つ目に属するものになります。

この魔導機は特殊な素材を用いて作られていて、使用者の能力を大幅に引き上げることができるとされています。この世界では一般的に普及しているものなんですが、私はそれが普通のものとは違うということに気づいていました。その理由はとてもシンプルなもので、私の目の前の男が持っている魔導器からは強い力が感じられるんです。

「なるほど。そういうことですか」

その魔導器を一目見れば、この世界のものではなく私が住んでいた地球のものであることがわかりました。ですが同時に疑問を抱くことになったのです。地球の技術が、こちらの世界でも使われていることに関して。

(そんな話は聞いたことがなかったのに)

しかし私は考えるのをやめると男の話を聞くことに集中しました。

「それじゃあ改めて自己紹介させてもらおうかな。僕はレイジって言うんだよろしくな」

レイジと名乗る男の人はそんな風に言うと右手を伸ばして握手を求めてきたのですが、私はその手を取ろうかどうか迷っていたのです。そんな時私はレイジさんの後ろにいたもう一人の人物と視線が重なりました。私はそれを見てすぐにその女性が私を襲った犯人だと気づいたんです。そして彼女は不敵な笑みを浮かべていました。

私は彼女を知っている気がしました。いえ、正確には知っていたと言う方が正しいかもしれませんね。そして私にはすぐにわかったんです。彼女の正体は異世界に転生して私を殺そうとしていた人だって。

「リリス」

「え?」

私の声に反応したレイジさんは、背後を振り返ろうとするとリリスと呼ばれた女性はそんな彼の動きを封じ込めるかのように抱きつきました。私はその様子を見て慌てて駆け寄ると、リリスさんを強引に引き離したのです。

「リリスさん、あなたは何をしているのですか?」

私は彼女を睨むようにそう問いただしました。すると彼女はこう答えるのだった。

「あら、まだ動けたのですね。意外ですわ。それにあなたも私と同じような状況だったでしょうに」

確かに私は彼女に襲われました。けれど今の彼女に殺意のようなものは感じられなかったためとりあえず様子を見ることにしたわけです。

「あなたの目的はなんなのですか?どうして私達を狙うのですか」

「目的なんて決まっていますわ。あなたの命を奪って勇者になるだけですわ」

彼女は笑みを浮かべながらそんな事を言うと、自分の着ているローブを脱いで肌を見せ始めようとしたのですがすぐにその手を止めてしまいました。なぜなら彼女が脱ごうとしていた衣服の下が素っ裸だったということともう一つあることに気がついて、彼女の胸を見てしまったからでした。

私は咄嵯に後ろを向いてしまったのです。なぜなら私の目に入ってきた彼女の姿というのが、とんでもないものだったからです。そのせいで私の鼓動は大きく跳ね上がってしまうのと同時に、恥ずかしさが一気に込み上げてきていた。しかしそんな中でレイジさんはこんなことを言うのだった。

「リリスさん、それなら僕と一緒のパーティーを組むっていうのはどうだい?」

リリスさんはその提案を耳にするとキョトンとしてしまう。そんな様子でしたがすぐにこう口を開いた。

「パーティーですか。まぁ悪くはない提案なんですが、私はまだこの女を許す気にはなれないので、あなた一人で頑張ってくださいな。私はその間に勝手に行動させてもらいますので。それに、勇者は二人いても意味がないでしょうからね」

「なっ、何を言っておられるんですか?!勇者は三人必要って話だったじゃないですか?!」

「あら、ごめんなさい。すっかり忘れてしまっていました。それでしたら安心してください。あなたに加担しない以上、私もこの女に手を出さないことを約束いたしますので」

そんな二人の会話を聞きながら私は考えていた。

そもそも勇者は一人だけいれば良い。なのになぜこんな事を言ったのかについてを。そしてそこでふと思い出すことがあった。

(あぁ、そう言えば前にもこんなことが。確かあの時は勇者としての力を完全に扱えるようになるために、二人で旅に出ろという話だったはずですが。もしかすると今回はその件とはまた別の事情が隠されているのかもしれない)

私が考え込んでいると不意に服を引っ張られ意識を戻されました。

その相手は言うまでもなく目の前にいる少女だったわけで。その目は真剣なものになっていた。

「リリスさんの言っている事は嘘ではないのですよ。なので私たちと仲良くして欲しいのです。そうすればきっとあなたも無事に帰れるはずなのですから」

私はそう言われたものの、すぐに答えを出すことはできなかった。というか正直この二人が本当に信頼しても良いもなのかわからないのである。そんなことを考えつつ私はもう一度リリスさんの方を向くと「わかりました」と答えることにした。

**

(さて、どうしてこのタイミングで勇者と接触する気になったんだ?)

俺はそう思いながらも、今はただリリスの指示に従うことしかできなかった。それにしてもまさかリリスが自ら接触を試みることになるだなんて思ってなかったな。だがそのおかげでこうしてリリスは俺達のパーティに加入することになったわけだし、これはこれで良かったと思っているんだけどな。

「ところで貴方のお名前は何と言いますか?」

リリスは突然俺に対して名前を聞いてきたのだ。それに対して俺が返事をするよりも先にアリアの方が反応して、「レイジさんの名前はレイジ様でとてもカッコいい素敵な名なんですよ!!」などと余計なことを言いやがったのである。俺は思わず苦笑いになってしまったのだが、なぜかリリスは嬉しそうな表情を見せたのだった。

「レイジさん、これからよろしくお願いしますね」

それから俺と握手を交わすとそんな言葉を口にしたのだった。

その後で俺は村長の家を後にして村の入り口付近に集まっていた人達と合流したのだが、そこで俺は信じられない光景を目撃してしまうことになった。

なんとその村の周囲には、ゴブリン達が群をなして待機していたからである。それも百体ぐらいの数がいたんじゃないかと思う。それを目にした人々は驚き戸惑うような仕草をしていた。そして村人の一人である男が恐る恐るこんなことを言い出したのだ。

「あの、あのゴブちん達は一体?」

「あああいつらはただこの村に遊びに来ただけだ。危害を加えるつもりなどないだろう。それよりもまずい事になったな。あんなに大勢来られてしまっては対処できぬぞ」

老人が困り果てた顔をしている。しかし俺はその光景をどこかで見たことがあると記憶の中で引っかかりを覚えたんだが、その疑問も直ぐに解消された。

「あれは確かスタンピードと言ってこの世界に存在する魔獣が大行進することを指す言葉でしたよね」

俺はこの世界の知識を思い返しつつそんな言葉を口にするとその瞬間皆が驚いて俺の方を見てきたのだ。

そんな様子に疑問を感じていると、俺の言葉を拾った老人が慌てるように俺に近づいてきてこう言うのであった。

「今なんと言ったんじゃ?その通り、まさに今起きている出来事はそれのことを指している」

その発言を聞いた瞬間俺の頭の中にあった一つの推測が浮かんできたのである。つまりここは俺が転生させられた異世界とは違う世界線の世界だということに。この世界は異世界と繋がっている世界なのではないかと考えた。その考えに至った理由は至って単純であり、俺の元いた世界は地球という名前だったのに対して、この世界ではその名が使われていないことに違和感を感じていたからだ。そしてそんな疑問を晴らすための確認をするために俺はあることを口にしたのである。

「ちなみにですがこの世界での種族の名前を教えていただけますでしょうか?」

その問いかけに対してその男性は、戸惑いを見せつつもこんな言葉を口にした。

「あ、あぁそうだね、それじゃあまず君達人間から説明していくとするかな。えっとこの世界の種族名は人間、妖精族、魔族、竜族となっているんだよ。ちなみにエルフは森に住んでいてあまり外には出ないんだ」

そんな男性の説明を受けて、やっぱりここは違う場所なんだなと確信した。それと同時に少し寂しさを覚えてしまう。だけどそんな感傷に浸っている場合じゃないと頭を切り替えると、俺はその男性にお礼を言うことにした。そして続けてこう告げたのである。

「それでは次は私の仲間を紹介しようと思います」俺はそういうと一歩前に足を踏み出す。そしてその動作を真似するように後ろに控えていた者達が動き始めた。

俺の後に続き、仲間の一人、勇者のリリスが登場する。その登場の仕方はとてもインパクトのあるものだった。だってそうだろう?勇者の衣装を着て登場したのだ。そのことに驚いた村人達は一斉に目を丸くさせていた。それはもう、目玉が飛び出るのではないかと心配してしまうくらいにな。だがそんなことは気にせず、俺はリリスにアイコンタクトで何かを伝えてこいと命じた。

リリスがそれに応じて、自己紹介を始めると村人の視線は完全にリリスの方へ注がれていた。そのことに満足したのか、リリスは笑みを浮かべながらこんな事を口にするのだった。

「私の事は皆さんに紹介いたしました。今度はレイジさんの紹介をお願いいたしますわ」

リリスはそう口にすると俺に向かって手を差し伸べてきた。どうもバトンタッチという事のようだな。それを見て、俺は一歩前に出ると挨拶を始めた。

「私はレイジと申します。一応勇者をしているんですけど、実は私達の目的はこの世界を平和に導くことです」

そんな俺の言葉を耳にしてリリスはクスッと笑うとこんなことを言うのだった。

「あらあら勇者はあなた一人じゃないですわよ。私はあなたを手助けするためにやってきただけですもの」

「あぁ、うん。まぁそこは追々話し合う事にしようじゃないか」

そんなやり取りを交わしながら、俺も笑みを返す。それから一通りの自己紹介を終えることが出来たので、早速本題に入る事にした。それはここ最近の異変についてである。俺自身としては、この辺りの魔物がおかしくなった原因についてはわかっていたのでその事をリリスに話し始めた。それを聞くとリリスは眉をひそめながら俺にこんな質問をぶつけてきたのだった。

「それなら何故この村の人々を放っておくのかしら?この村の方も被害に遭っているのでしょう?」「この村は特殊な環境でな。魔物が住みやすい環境になっているみたいなんだよ。まぁだからこそ、こんな場所に村を作れたんだけどな」

「確かにこの場所でしたら魔物にとっては居心地が良いかもしれませんね。それにしてもこの村の周辺に魔物が集まろうとしているのが気がかりなんですよね」

リリスのその言葉を聞き俺は確信するのだった。

(この世界線の人間は、元いた世界とはまた別の進化を遂げているみたいだな。というかそもそも、俺と同じ人間がここにはいないんだろうな)

「そうか、それで君はその現象を調べにきたってことなのかな?」

「えぇ。それにあなたのような力を持った方がいれば心強いと思いまして」

「そうか、ありがとう」

俺達がそんな話を繰り広げている時、リリスに一人の男が近づき何やら小声で話しかけていた。それを見ていたリリスは何故か苦笑いをしてしまう。だがすぐに気を取り直すように顔を上げるとこんなことを言ってきたのだ。

「そういえばあなたに会わせたい人がいますの。なのでちょっと待っていてくれませんか」

*

* * *

リリスの案内に従って歩くこと数分間、リリスは小さな民家の前に立つとその家の扉を開けると中へと入った。

そしてしばらく待っているとリリスと一緒に中年の男性が出てきたのである。男性は俺と目が合うと、その目を大きく見開いた。その瞳からは涙を溢しており、とても嬉しそうだった。リリスの旦那なのだろうか。そんな事を考えつつ見ていると、リリスの夫がこんな言葉を口にしたのだった。「レイ様!!ご無沙汰してしまって本当にすみませんでした!!」

そう言うと彼は頭を下げてくる。

(んっ!?この人って一体誰なんだろう?)

俺は困惑しながらもなんとか言葉を紡ぎ出そうとした。しかし俺より先に言葉を発した人物がいる。その人物はリリスだ。彼女は男性の手を掴んで引っ張りながらこう言った。

「さぁ早くいきましょう、今日は特別な日ですから」

リリスは強引にその男性を引っ張っていく。

そのせいで男性は転びそうになったものの、リリスが引っ張る力が強かったのかすぐに立ち直りそのままついてきてくれたのだ。その行動を見ていて思ったんだがこのリリスっていう女性はどこか天然が入っているかもしれないなと感じる俺であった。

それから俺達はとある大きな屋敷の中に通されたのだが、その光景を見た途端に俺の目が点になるほど驚かされてしまった。そこには俺の知る人物が存在していたのである。なんとそこにはリザードマンのリリスがいたのである。俺は混乱してその場で棒立ち状態になってしまうと、目の前にいる人物が声を上げてきた。

「レイ様、おかえりなさいませ。こうしてまた会えて嬉しく思います。ところでこちらの方々は一体どなた様でしょうか?」

「この人は私の仲間で勇者です。こちらの方がレイジさん、勇者です。この方は村長様のお孫さんになります。あとレイ様のお友達です」

「あ、そうなんですか、初めまして。村長の孫です。よろしくお願いします」

「あ、は、はい。勇者です」

「ふむ、この子が勇者君かね。私の名前はロトと言います」

「あっ、レイジといいます」

俺と村長が互いに挨拶を交わし終えると、村長の孫もといレイジは突然こんなことを口にした。

「勇者様、実は私からも一つ報告したいことがあるのです」

その発言を聞いて俺達はレイジの方を見つめた。

するとレイジはゆっくりと俺の方を見据えると、俺が驚く発言をしてきたのであった。

「私は先日の魔物討伐の際、魔王に出会ってしまいました」

「へ、へー。魔王と会ったんだ」

その言葉を聞いた瞬間、リリスの頬に一筋の汗が流れたのを見逃さなかった。そしてそれは俺も同様であったのだ。だってそうだろう?まさかここで俺の宿敵の名前が出てくるとは思わなかったからだ。そして俺の心の中を見透かすかのようにリリスがこんな言葉をかけてきた。

『勇者がここに現れたということはやはり奴が関係していたようですね』

そんな感じで俺にテレパシーのようなものを送ってくる。それに対して俺は小さく溜息を吐くとこんな風に答えた。

「そうだな。とりあえず俺の方でも確認することがあるからもう少し待ってもらえるかな?」

俺はそんな事を言って誤魔化そうとした。

しかしリリスは引き下がる様子もなくこう続けるのだった。

「それじゃあ勇者としてではなく一人の友人としてのお願いをしてもいいですか?」

そんな言葉を投げかけられてしまったらもう何も言えないじゃないか。それに彼女の気持ちは理解できているからな。だから俺は「仕方ないなぁ。分かったよ。少しだけだぞ」と呟いた。

俺達の会話が聞こえていたのかレイジとロトは首を傾げていたが俺は気にしないことにする。そして俺達三名はその部屋の中で待機する事にしたのだった。

しばらくしてリリスはレイジに対して、自分の身に起きた出来事を説明し始めた。

それを聞くとレイジは、驚いたような顔をして口元を両手で押さえる。だがリリスの話が真実であると判断したのだろう、真剣な態度になって聞き入っていたのだ。

そして説明を終えた後で、俺がこう訊ねると――

「つまりリリスがこの村に帰ってきたのは俺のためって事なんだな?」

その質問を受けたリリスは大きくうなずくと、「そういうことになりますね」と答えたのだ。そんな彼女を見ながら俺は苦笑いを浮かべてしまう。だがすぐに真面目な表情に戻すと――

「リリスの優しさには感謝する。ありがとう」

「そんな。お礼を言うのはこっちの方です。レイジさんは命の恩人ですから」

俺とリリスがそんなやり取りをしている最中、レイジはというと見覚えのある物を俺に手渡してくるのだった。

「それじゃあこれは僕からのプレゼントだよ。僕の手作りで申し訳無いけど使って欲しい」

俺はそれを受け取るとまじまじと眺め始める。それはこの村で作った武器のようだ。しかもリリスと二人で作り上げたものらしく俺と同じような物だと一目見て分かったのだった。俺はそのことに喜びを覚えるとこんなことを言い放つ。

「あぁ、これであいつらに一泡吹かせることができる。早速だけど今すぐにこれを使ってみたいところだな」


* * *


* * *


* * *

俺達は外に出てから、リザードマン達が住まう村を歩いていた。目的はもちろん俺の新しい装備を手に入れるためである。というのもレイジングアーマーを装備した状態で戦ってもあまりいい結果は得られなかったのだ。その事から、俺と相性が良い武具がこの村に眠っていると考えたわけだ。

俺が村の散策を行っていると一人の少女と出会う。それはリザードマンの女の子で、年齢は俺と同じくらいだ。その子は俺に話しかけてくる。どうやらリリスの事を知っているようで、リリスを目にしたその途端に大泣きを始めてしまったのだ。これにはリリスは困り果て、必死に宥めようとしていたが効果は薄いようだ。結局俺はその場から離れ、村の入り口付近まで移動することにした。するとそこに俺を追いかけてきてくれたのか、リリスの姿がそこにあったのだ。彼女は俺の隣までやってくると「レイ様。あの子は私の娘のリシアなんです」と説明してくれた。その話を聞く限り俺の娘と同じ名前だったので驚きを隠せなかった。しかしよく考えてみるとこの村に来る前に立ち寄った村の村長の孫もリゼルという名だったことを思い出し、この世界には同じ名を持った者が存在していることが分かり、妙な感覚に襲われる。そんなことを考えている時、リリスがこんな提案を口にしたのだった。

「それではリザリアの店に行きませんか?」

俺がその問いに対して返答しようとした時、誰かが話しかけてくる。

「あらリリス、帰って来たのね。それにレイ君にその格好ってことは勇者の試練を乗り越えて無事帰還したって事なのかしら?」

リリスはその人物の方に振り向くと嬉しそうに微笑んだ。

「えぇ。ただいまお母さん」

リリスがそう口にすると女性は優しく抱きしめてくれたのだ。その事に俺は感動してしまう。なんせ前の世界線にいた時は俺は母親と仲が良くなかった。というより俺は嫌われていた。その理由をリリスから聞いているので知っている。だからこそ嬉しかったのだ。リリスがこの世界で幸せな生活を手に入れていることが分かって。

(そういえば俺の母さんの方は大丈夫なんだろうか?)

俺は気になっていたことを訊ねようとしたその時、母と呼ばれた女性が再び声をかけてきた。それも俺に向かってだ。俺は視線を向けるとリリスに似た顔の女性の顔を見る。そんな女性は笑顔を崩すことなくこんな事を口にしたのだった。

「初めまして、私の名前はアリン。あなたの父親になるかもしれない男性にこうして会うことが出来て嬉しいわ」

「はっ!?」

(この人、何を言っているのだろう?)

そんな風に俺の心はざわついていく。

俺の目の前にいる女性は俺の父かもしれないと言った。

それを耳にした俺は戸惑いを覚えてしまい何も言えずにいると、リリスとアリンは楽しそうにこんな会話を繰り広げ始めたのだ。そんな二人のやりとりを聞いていく内に、俺の中で様々な疑問が沸き上がってくる。そのことについてまずリリスに問いかけることにした。するとリリスはこう答える。

「リゼ様からお伺いしておりますよ。あなたの奥さんが妊娠されていると。それに私も祝福させていただきましたし」

俺はリリスの言葉に唖然とさせられる。

そしてその言葉を頭の中で何度も繰り返し、そのことを確認するかのように俺はリリスの瞳を見つめたのだ。だが彼女の表情から察することは出来ず、仕方なくリリスの口から本当のことかどうかを聞かせてもらうためにリリスを見続けたのである。すると彼女は少し恥ずかしそうに俯いてしまった。それが本当だという証だった。そしてリリスは続けてこう口を開く。

「実はレイジさんにもお伝えしていないことなのですが、リザ様には既に子供が出来たことを報告していました」

そんな言葉を聞かされた瞬間、俺の心の中には複雑な感情が渦を巻き始める。だが俺は冷静になろうと心を落ち着かせ、深呼吸を行うとリリスの肩にそっと手を触れさせた。

「ありがとう、とても嬉しい。でも、俺がリリスのことを好きって言ったのを忘れていないか?」

俺がそんな事を尋ねると、リリスは頬を赤らめると「私もレイ様の事が大好きです」と呟く。その言葉を聞いてしまった俺は思わずドキッとして心臓が跳ね上がるような錯覚を感じてしまった。するとアリンはリリスの方を見て笑みを見せる。それから彼女は俺の背中をポンッと叩くとこんな事を言ってくれたのだ。

「それじゃあレイ君、私と一緒に来てもらえるかしら?リザはあなたが会いに来てくれる日をずっと楽しみにしているからね」

「あっ、はい」

そしてアリンは歩き始め、その後を付いて行ったのだった。リリスもそのあとに続き、そして俺は二人に挟まれながらリザという少女がいる所まで移動することになった。ちなみに道中リリスとは色々と話すことが出来たので楽しい道のりであった事は間違いない。そこで色々なことを話してくれたのだ。

リリスはリザとどんな遊びをしていたとか、どんな話をしていたなど。本当に楽しく語りかけてくれた。しかしその一方で俺は緊張を隠しきれずにいたがな。だってそうだろ?リザという名前を持つ少女と会うわけだから。

やがて目的地に到着したのか、その建物の中に入るように促されたのだ。その建物はどうやら飲食店のような作りになっていて中はそれなりに広く作られていた。そんな建物内に入ると店員らしいトカゲ男が出迎えてくれたので「こちらの方達のお席で宜しいでしょうか?」と尋ねられた。俺はそれに対して「うん」と答えると案内されるがままに席に着くことにしたのだが、何故か三人掛けテーブルに通される始末である。そしてアリンも同じ席に座り込んだのだ。

(どうしてこんなことになったんだろうか?)

俺は困惑しながらも運ばれてきた水を喉を鳴らしながら飲むのだった。すると俺から見て正面のソファーに座っていた女性がゆっくりと立ち上がる。そして彼女はこう口を開いたのだ。

「レイちゃん!」

その呼び声を耳にした途端、俺の背筋にはゾクリと寒気が走ったのである。なぜならそれはかつて俺が嫌というほど聞いたことのある声で。

「レイジって呼べって何度も言わなかったか?」

俺が呆れながらもそう言うと女性は嬉しそうな顔をして近づいてきたのだ。その女性の身長は高くて百七十センチはありそうである。そんな女性に対し俺は冷や汗を流していたのだ。そんな俺の心境など露知らずにその女性は話しかけてくる。

「ごめんなさい。だけど久しぶりに会えたからつい、レイちゃ――じゃない、レイジって呼んだら怒る?」

「そりゃあもう当然だ。頼むから普通にしてくれ。というよりリリスと親子なら俺のことを知っているはずだろ?だったらそんな呼び方をするんじゃねぇ」

俺が苦笑いを浮かべていると、リリスは「あの、失礼ですが、その方は――?」と恐る恐る俺に声をかけてくる。すると女性は笑顔を見せながらリリスの質問に答え始めたのだった。

「はじめまして。私はリシアの母親でアリンと言います。あなたの名前は?」

そんなアリンの問いかけを受けたリリスはというと驚いた表情を見せた。

「ア、リシアのお母様でしたか。それでその方がなぜここにいらっしゃったのですか?」

そのリリスの質問に対して、アリンは微笑むとこんな事を口にする。

「今日ここでリザとレイ君の再会を祝う食事会を開くつもりだったのよ。でもリザが急用ができたらしくてね、私が代理をすることになったわけ。だけど良かったわ。無事にこうしてリザの息子と会うことができてね」

そう言ってから、俺の隣に移動して座ってきたのだ。その事に驚き、動揺している俺だったが、すぐに平静を取り戻すと「よろしく」と言ってから右手を差し出す。

その行動に対してアリンは目をパチパチとさせ、それから微笑んだ。

「よろしくお願いします。レイジさん。いえ、旦那さま」

その言葉で完全に思考停止してしまった俺は固まったまま動かなかったのである。だがしばらくして、どうにか正気に戻るとアリスに確認することにした。「ちょっと待ってくれ。どうしてそういうことになっているんだ?そもそも、俺とあんたが会ったのは初めてだと思うんだが」

その言葉にアリスが首を傾げ、それから不思議そうな顔をしながらこんな事を訊いてきたのである。

「もしかして、私のことをお忘れになられているのですか?」

俺は「そんなはずはない」と思って否定しようとしたのであったが、ふと、何か引っかかることがあった。

そしてそれについて考えていくうちに、思い出してはいけないものを思い出してしまうことになる。

「もしかしたら記憶に混乱が?」

心配そうにアリンに問われてしまい俺は慌てて取り繕うように言葉を発したのだ。

「そ、そんなことは全然ないから安心して欲しい」

「本当?」

俺は「あぁ、本当だ。本当だ」と答え、どうにかその場を乗り切る。

するとリリスが申し訳なさそうな顔でこんな事を口走った。

「きっとリリスとの日々があまりにも濃厚すぎて私を忘れてしまわれたんですよ」

「ちょっ、お前」

俺の制止の言葉など聞こえていなかったのか、アリンは笑顔を見せる。

「まあ、そうよね。あなたにとってリリスがどれほど大切な存在なのかは知っているわ。だから仕方ないことでしょう。私なんてリリスのお母さんなんだし」

そう言われたところで俺は何も言えなくなってしまったのである。

それからリリアの店に場所を移した俺たちはそのまま食事をとる事になった。だがその料理はアリンが全て作ると言う事で任せることにしてしまう。その間俺達は雑談を行う。そんな中アリンが唐突に俺の耳元に囁いてきたのだ。

「リゼ様がリリスとあなたの仲を取り持とうと頑張ってくれていること、知っているの?」

その言葉を耳にした瞬間、俺は目を大きく見開き驚愕した。

(俺の母さんのことだから、そのくらいやりかねないけどな)

俺がそんな事を思い浮かべて、心の中で溜息をついているとアリンが言葉を続け始める。

「レイ君は、リゼ様と仲良くしてくれているかしら?」

「えぇ、それはもちろんですとも。リゼは優しい人ですし、俺のことを可愛がってくださいます。とても素敵なお方ですね」

「そんな風に言われると嬉しいわ。私とレイナの関係上、あまり一緒にいてあげることが出来なかったものだから、リゼ様のことは感謝しかないの。それとリザのこともね」

「それは一体どういう意味でしょうか?」

俺がそう尋ねた瞬間、リリスが少しだけ不安そうな顔を覗かせる。しかしそんな彼女に向かってアリンは優しく頭を撫でてから「大丈夫だよ」と告げると、こう口にし始めた。

「私達夫婦が離婚したのはレイジが生まれるずっと前。つまり、リザードマンの国では、リリスはまだ子供だったというわけ」

「あー、なるほど。確かにリリスが小さかったことを考えれば、離婚してからもかなり年月が経っているんでしょうから、そりゃリザって名前にもピンと来ないか」

「その通り。だから私は最初リリスのことをリザードウーマンだと間違えていたわけ。リリスって名前を聞いていたにも関わらず」

俺は「そんな事もあるのか」と、思わず苦笑い。

そしてアリンは俺の方を向きながら言葉を続ける。

「私もレイ君と同じでリリスと過ごしたのはわずか一日だったけれど、本当にリリスは幸せだったと思うの。あなたのような立派な男性と愛し合うことが出来たのですから」

そのアリンの発言を聞いた途端、俺の頬が一気に熱を帯び始める。俺は照れを隠すために頬をかきながらこんな事を尋ねてみた。

「そ、そんなに大したものじゃないさ。それに俺なんかまだまだ若造で頼りにならないかもしれないしな。なにせリリスはリザとずっと二人で旅をして来たわけだからな」

「あら、そうなの?なら、その経験を活かしリザの手助けが出来るといいわね。なにしろあの子はレイジくんと出会うのを楽しみにしているのだから」

「俺にそんな力があるかどうか分かりませんが、できる限り努力します」

俺がそう言うと、なぜかアリンはとても嬉しそうな表情で俺の顔を見つめていたのだ。まるで母親のような優しい笑みで。それが何を意味するかは分からないが、とりあえず俺に対して好意的な感情を抱いてくれているらしい。そのことが分かって嬉しかった。そしてそれと同時に俺は一つの疑問を抱いたのである。「あのリシアのお母さんにしては若いですよね?その――年齢は幾つなんですか?」と、俺は尋ねてしまったのだ。そして、それをアリンに告げると彼女はこう答える。

「レイナが十六歳なのに対し、私は十七歳の高校生で、今は大学生よ。だからあなたよりも三つは上のお姉さんという事になるのかしら?」

「え?女子高生だったんすか?」

俺が驚きを隠せない様子で尋ねると、彼女は恥ずかしげもなくこんなことを口にする。

「まあ、そうだけど。変かしら?」

「えっと、まあ、正直言いますと、そうっすね。ただアリサさんの雰囲気がリゼと似ているせいか、てっきり同い年の二十歳くらいかなと思ってましたよ」

するとアナは微笑む。

「それはありがとう。それでどうかな、リザの娘と結婚する気になったの?」

俺はそんな事を言われて困惑してしまった。

そもそも俺にはリリスを幸せにする義務があり、そのために必要な能力だって持っているつもりだ。だから俺としては彼女を妻にしたいと考えているわけである。だがそんな俺の考えとは裏腹にリリスが悲痛の声をあげた。

「ダメです。私にはそんな資格なんてありません。だって私、勇者パーティの一員でありながら裏切って魔王の手下についた裏切り者なんです。その事については謝ります。許していただく必要もございません。でもお願いです。これ以上、私のせいで罪を重ねるようなことをさせてください」

するとアリンが「あなたは何を言っているの?」と言ってリリスに厳しい視線を向ける。それから強い口調でこんな事を言ってきた。

「リリスさん、あなたのお気持ちはよく分かるわ。でもね、私はそんな事をしても誰も喜ばないと思っているの。特にレイジとリザは絶対にね。あなたが今しようとしているのは自分の身勝手さを反省するために、自分を罰することよ。そんなことをしたところでリザとあなたの関係は修復出来ない。そう思うんだけど?」

するとリリスが「違う。違います。私がしている事は私のためにしているわけではありません」と反論したのだ。

しかしそこでアリンは言葉を止める。それから微笑むとこんな風にリリスを説得させ始めた。

「それじゃあリリス。もし、リリスさんが原因で私が死ぬことになったとしたら、レイジは喜んでくれるのかな?」

俺はこの発言に驚き、リリスの方を見た。

だが彼女の表情は至って真面目で、嘘偽りはない。

俺は戸惑いながらもアリンにこんな事を尋ねた。

「ちょっと、どういう意味でしょうか? アリンさんの身に何かが起こる可能性があるなんて話は聞いていないし、リリアからはそんな情報を聞いてもいませんでしたが」

「あらあら、やっぱりレイナは知らないようね。いいわ。リゼに聞いたのかもしれないけど、私達が魔王軍のスパイとして潜入していたこと。それが原因なのよ。私達の目的は魔王の討伐ではないの。それとは別に目的があって動いていたの。だからその情報を他の仲間に漏らすことを避けていたの」

俺が驚いていると、アリンはその先を続ける。

「もちろんリリスが魔王軍に捕まって、それを助けようとレイジも戦いに身を投じることになった。その結果あなたが死にかけたのは知っているわ。だからこそ、レイジもリリスを恨んだでしょう。それでも、レイ君は私の死について責任を感じる必要はないの」

その言葉を耳にしたリリスがアリンの元に歩み寄り頭を下げ始める。

「すいません。全ては私の不注意で」

するとアリンは「もう終わった事だし」と言って、笑顔を浮かべながら俺の方を見る。

「まあ、レイちゃんは優しいから、きっとレイジみたいに苦しむでしょうね。あなたが傷ついてしまう原因となった私に対して」

「まあ、それは確かに」

「だからリリスはリリスで気にしなくていいんだよ」

アリンにそう言われたリリスが首を横に振ると、アリンは優しい顔でこう告げる。

「私が死んだところで何も変わらないの。むしろ、これでレイジはリリスとの絆を深めることができるわけでしょ? リリスはリリスなりに考えて行動するといいと思う。それとリリス。もしもの時はレイジを支えてあげて欲しいな」

リリスはアリンにそう言われた後、泣き始めてしまった。そんな彼女を見て、俺は思わず胸を痛めたのであった。

それから食事を済ませた俺たちはリリスを連れて帰宅することにした。しかしその時、リリスの様子がおかしくなってしまう。どうやら自分の家に戻ることを恐れていたらしく、なかなか歩き出してくれなかったのだ。そんな彼女にリリアは優しく肩を抱きしめながら「大丈夫ですから」と言い聞かせ、ようやく一歩踏み出した時には、俺は安堵の息を吐きだしていた。

それから俺は加奈と一緒に家の扉を開ける。その途端、俺は懐かしい光景を目にして言葉を失った。

玄関には、可愛らしい動物のぬいぐるみが置かれていたからだ。しかも、そこには「レイ様へ いつもありがとう」と書かれた手紙が添えられている。それは間違いなくリリスの字であり、その手紙を見た途端、リリスの目元から大粒の涙が流れ始めていた。俺はそれを拭うとリリスの背中をポンと叩き、そのまま家の中に入っていった。

俺の後ろではリリスが何度も涙を流しており、そのたびにアリンが優しい笑みを向けてくれる。

「レイ様」

突然、リリスから声をかけられた俺は「なんだ?」と尋ねる。

「お母様からの手紙、ありがとうございます」

「いやまあ、あれを書いたのが俺だってことがばれていると知ったのはさっきのことだけどな」

「そんなことはありません。たとえ誰が書いたにせよ、私はとても嬉しかったです」

その言葉を聞いた時、リリスの優しさを感じ取ることが出来た俺は、思わず心を奪われそうになる。そして俺のことを真っ直ぐに見つめている彼女に対して「そっか、そりゃよかったぜ」と答えた。すると彼女は「はい」と答えてから言葉を続ける。

「本当に私なんかに良くしてくださって――そのお礼と言っては何ですが、お母様に会った後は、私の家に寄っていってください。色々とお見せしたいものがありますので」

俺はその申し出を受けると「了解」と返事をする。それからリリアに向かってリリスが自宅に戻ることを伝えてもらった。

「そういえば、俺ってこれからリリスと暮らすことになってもいいのか?」

俺がそんな事を尋ねるとリリアが微笑んでからこんな事を口にする。

「ええ、構いません。レイさんは私にとって大事な人ですので」

「あーなるほど、それはつまり結婚を前提で俺が一緒に住むことになるという意味なのか?」

「そういうことです」

リシアに「レイくんは意外と積極的なのね」と言われた。しかし俺としてはリリスに好かれているとは思っていなかったので、こうして好意を抱いてもらえるのは正直言って嬉しかったのだ。そして俺は照れ隠しで「リシア、お前だって同じ状況だったとしても似たような事を口にしたんじゃないのか?」と告げる。するとリシアは苦笑いを浮かべると「どうかしら?」と言葉を濁してきたのである。その言葉に対して俺は「いや絶対そうだろ」と言ったのだが、彼女はなぜか頑なに認めてはくれなかった。しかしすぐに表情を変えるとこんな事を言い出す。

「まあとにかく、今の言葉だけでリリスさんは十分に救われたと思うの。だから感謝の気持ちは伝えないといけないわね」

「ん? どういうことだ?」

俺がそう尋ねると、彼女は俺の顔を見ながらこんな事を言ってくる。

「あの子にはずっと心に傷があったの。だから今回の出来事でリリアさんのように誰かを愛したいという気持ちが芽生えたらいいなって思うのよね」

そんな話をした後、俺達は一度家に戻ろうとした。だがそこでアリンとすれ違う。するとその瞬間、俺とリゼの目が合った。しかし彼女は何も言わずに微笑むだけ。それがどういう意味か分からなかったが、アリンはそのまま立ち去ってしまったので俺は何も言うことが出来なかったのであった。

**

***

俺は家に帰って来るとまず加奈を自室に呼んだ。そして彼女の前で加奈のことについてリリスのお母さんであるアリンから聞いた話を説明した。すると案の定、加奈はかなり困惑しているようで、そんな彼女を落ち着かせるために、リリアがお茶を用意するように頼む。それから加奈が部屋を出ると、改めてこんな質問をした。

「それでリリス。あんたの母親はどんな姿になったんだ? そもそも生きているのか?」

俺がリリスの方を見るとリリスは首を横に振る。

「分かりません。ただアリンは私たちと同じ世界からこちらの世界に来たのですが、その姿のまま歳を取ることなくこの世界で生きていたそうです」

それを聞いた俺が驚いているとリリスがこんなことを言ってきた。

「アリンが言うには不老不死の存在になっていたとか」

「それってもしかして吸血鬼的な?」

「恐らくは」

リリスがそう答えたので、俺の中に新たな疑問が湧き上がった。その事を尋ねたらリリスが「どうされましたか?」と尋ねてくる。そこで俺はアリンの話を思い出してこう口にした。

「俺の仲間に不老長寿の力を得た奴がいたんだけど、そいつは自分の力の反動によって、最後は身体が腐り果てる呪いを受けていて。だからこそ、あいつが死んでも肉体は残るんじゃないかと思ったんだよ」

「なるほど、そういう事でしたか。でしたら私の母親の身体は無事だと思われます」

「そうなの? でもなんで分かるんだ? まあ、アリンが生きてるのは事実として受け入れざるを得ないけどさ」

そう呟いた俺に対して、今度はリリスがこんな質問をしてくる。

「レイジさんのお仲間というのはどのような方々だったのでしょう? もしお聞きしてもよろしければ教えて欲しいと思います」

そんな事を聞かれた俺は「まあ、別に問題ないだろうしいいけど」と言って仲間たちの事を話すことにした。するとリリスはどこか懐かしげな表情を浮かべた後、「レイジさんらしいですね」と言ってきたのだ。

「俺らしくて悪かったな」

「いえ、そんな意味では。しかし――やはりあなたも異世界から来た勇者様なのですか?」

それを聞いた俺は驚いた後でリゼに確認してみる。そして彼女は静かに首肯したので、それなら話は早くなったと考えて俺は「ああ」と答えた。

「俺の他には魔法使いと戦士が居たかな」

「やっぱり。レイジさんの装備は私の村に伝わる伝説に出てくるものなので、そのお二人はレイ様が元いた世界にいらっしゃったお仲間の可能性が高いかもしれませんね」

「その可能性は高そうだ。まあ、あいつらのことを覚えてくれていて良かったよ」

「はい。ちなみに私はリリィという種族とエルフの血を引いています」

リリスの口から飛び出してきた単語に俺は反応してしまう。その事に気付いたリリスは慌てて言葉を続けた。

「えっと、リリア様が魔王様にお願いをしてくださったおかげで私は命を落とすことがなかったわけですが、その代わりにリリア様のご友人でもあるリリィとエルフの方にお世話になっておりまして」

リリスはそう言いながらリリスは視線を下げる。そしてそのタイミングを見計らって俺は口を開いた。

「その二人にも会いに行くって約束したから、リリスさえ嫌じゃなければ案内してくれないか?」

すると彼女は小さく笑みを漏らすと「はい」と言ってからこう付け加えた。

「それとレイ様にお礼をしないといけませんから」

それから俺はアリンに加奈の事を相談するためにリスタの酒場に向かったのであった。

*

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