第34話 憐れな奴隷
サチェルを魔法使いにあてがえたのはラッキーだった。あとあと狂人の相手をするのは骨がおれそうだ。
「左です!」
アリシアの案内で俺たちは一斉に角を曲がる。長い廊下が続いている。そのまま先へ進む。
「この廊下の終端が玉座の間です!」
「いよいよ来たねぇあんちゃん!」
「……国王……お母さんの敵っ」
「気を抜くなよ。王もスキル持ちなんだろ?」
「ええ、どんなスキルか教えてもらったことはありませんが……」
「十分だよ」
「ほう──たどり着いたか」
扉の向こうから声が聞こえる。
異世界にきて最初に聞いた声と同じだが、冷たい刃のような声に背筋が凍る。
「久し振りだなオッサン」
軽く挨拶をしながら玉座の間へと入った。
白い髭をたくわえたオッサンが玉座から見下ろしている。
全員が部屋に入ったことを確認し、玉座の間と廊下は、レイルのスキルで分断した。
「逃げ場はないよぉ。お・う・さ・ま」
「お父様。民の血、涙に変わって私があなたを裁きます」
宝石がちりばめられた玉座から王は立ち上がる。
「アリシア。お前とて死はまぬがれんぞ」
「覚悟の上です。それに──私たちは負けません」
「……母さんの──仇!」
「ネア待てっ」
脇目もふらずネアが飛び出す。
つまらなさそうな表情のまま、王は手を前に出した。
「うぉおおおお!」
「なっ」
天井から十数の人が落ちてきた。
とっさにネアを俺の後方に転移し、陣形効果も発動する。
目の前で床に人が叩きつけられる。
重力によってぐちゃぐちゃにつぶれる人たち。
「ネア! まだ出ちゃダメだ!」
「……ごめん。──でも絶対に殺す」
「ふむ、かわすか。役立たずどもが、ほれ次だぞ」
王の玉座の後ろからワラワラと武装した人が出てくる。二十人くらいだろうか。
甲冑をまとうでもなく、ボロボロの衣服から見える痩せこけた腕。血色の悪い顔で俺たちを見つめる。まるで病人だ。
「何をしている。はよ行かぬか」
「ですが国王。子どもが……」
「奴隷が口をきくでないわ」
瞬間。国王に話しかけた老人の頭が弾けとんだ。
「……う……うおぉぉおお!」
人の形を失った老人を見て、奴隷と呼ばれた人々は俺たちに殺意を向ける。
「あんちゃん、こいつらポイント切れだ」
「悪趣味だな」
ネアのスキルで動きを止めたいが、まだ夜が明けない。制限に縛られていてネアのスキルは使えない。
「ここは私に!」
アリシアの手のひらから発せられた光により、視界を失う奴隷たち。
「次だ」
目を押さえる奴隷が破裂。
また、玉座の裏から人が現れる。
「奴隷はいくらでもいる。無力化すれば奴隷どもが死ぬぞ? ん?」
「外道が!」
奴隷の命をたてに脅しをかける王。
レイルの額にはち切れそうなほど血管が浮き出ている。
これ以上奴隷たちを無力化出来ない状況。トップスピードで王を狙うか? いや、王のスキルが分からない以上迂闊に近付けない。
そもそも王はどうやって奴隷たちを殺しているんだ。
スキルか? 条件はなんだ。俺の頭が無事ってことは無差別的に殺せる訳じゃないはず。
「転次郎さん! きてます!」
「おっと」
ネアを転移させた時にスピード重視の陣形を組んだ。
奴隷たちの槍は俺に当たることはないが──
「ネアちゃん! こっち!」
レイルがネアを庇いながら奴隷たちをいなす。
いつまでもつか分からない。
「器用に避けよるわ。──攻撃をかわされた奴隷は殺す」
悪魔のひと声が王以外を戦慄させる。
不幸にもひとりの女性が放ったひと突きをレイルがちょうど避けていた。
「いやぁ──いやぁああ!」
断末魔と共に肉片が床に飛び散る。
もう、奴隷の死を代償にしなければ避けることも出来ない。
「詰んだか。遊び足りんのお」
「も、もう殺してくれ──俺も! あいつも!」
ひとりの奴隷が血の涙をながし自分と王を殺せと訴えかける。
そして──破裂。
「俺たちは奴隷契約を結んでしまっ──」
破裂。
もういい。
「王のスキルだ……抵抗で──」
破裂。
もうしゃべるな。殺される。
「役立たずの奴隷しかおらんのか。ワシはなんて不幸なんだ」
誰もが王に怒りを覚えるなか、アリシアのほほを涙がつたう。
「なんて……なんて酷いことを。お父様──いえ、クク王よ。────あなたを絶対に許しません」
涙を浮かべた目で実の父を睨み付けるアリシア。
窓から差し込みだした日光がアリシアを照らす。──いや、それ以上に光っている。
アリシアの全身が神々しくも慈愛に満ちた光に包まれているのだ。
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スキル変異『聖なる者』を『聖母』へ
【能力】
・傷を癒す
【制限】
・クク王が死ねばスキルは失われる
・クク王による傷に対してのみ有効
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「王に蹂躙されし憐れな人たちは私が守ります!」
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