第30話 男の弱点

 ──襲撃のあった翌日。

 真上に登った陽の光がさす中、クク国内部へ続く地下通路へ向かう。

 道中魔物と出会わなかったのはクク国が道すがら討伐したからだ。他の要因は俺とアリシアの二人だけでの行動だろう。


「転次郎さん」

「ああ、当然だろうな」


 地下通路の入り口には警備兵がひとり。

 この状況で手薄な警備。罠の可能もあるが、おそらく厳重管理の弊害だろう。

 普段から時間いっぱい働かせる計画で管理している。突然必要になった要員確保に対応できていない。



「わたしが行きます。転次郎さんはスキルを温存してください」


 スキル制限をしていないアリシアが警備兵のもとへ、顔を隠して歩み寄る。

 アリシアに気づくやいなや警備兵は、右手に持った槍の先をアリシアに向ける。


「とまれい! 何者だ!」

「……ボヘミアから戻ってきた者です。あの国に未来はありません」

「──話は聞いているが今は何人たりとも入国できない。我々は二日後に再度襲撃する。襲撃の場で戻ると言えば戻れるだろう。さあ帰れ!」

「わかりまし───っふ!」


 頭を下げた様子をみて、槍を緩める警備兵との距離を詰め、スキル『聖なる者』で視界を奪う。槍を持った手を勢いよく蹴りあげると槍は主の手を離れる。


「きさまあ!」


 蹴りあげた勢いのまま身体を捻り、両足のちょうど間、男の弱点を蹴り抜いた。

 

「ぐぎあ……っはく……」



 スキル制限ができなかったアリシアは、身体を鍛え、体術を磨いていた。一日も欠かさずに。

 身体の悲鳴を無視し、鍛え上げた渾身の蹴りは、ひとりの男を黙らせるのに十分な威力を持ち合わせていた。


 言葉を失い悶絶する男を見下しながら、ふふっと可愛らしく笑う。


 アリシアを怒らせてはいけないと、俺は心の中で自分と約束した。


「容赦ないな」

「縛っておきましょう」


 ことが済むまで侵入を知られたくない。

 バックパックに入れていた紐で警備兵の動きと口を封じた。


「兵隊さん。地下通路の中と出口に他の兵隊さんはいますか?」


 警備体制を確認するアリシア。

 そっぽを向く警備兵。

 アリシアは右足の甲を弱点に添えにっこりと笑う。

 どっと冷や汗が溢れだし、警備兵は全力で首を左右に振る。


「ひとまず安心ですね」

「そうだな。二日間も放置できないし、警備兵は連れていこう」

 


 すっかりピッカリ草が繁殖した地下通路の出口についた。

 この出口から反乱軍基地までは隠し通路で繋がっている。手探りで通路を探す。


 壁をノックすると鈍い音がする。

 ドッ、ドッ、────コンッ


 コンコンッ


 一部分から乾いた音が響く。


 ────あった。まだ残してくれていた。

 ボヘミアとの往来にしか使わない通路を。


 間違えた俺にチャンスをくれるのか。レイル。



 奥へ進むと人影が振り向く。


「よぉ、あんちゃん。待ってたぜぇ」


「レイル────話をしよう」

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