第29話 それぞれの自由
「大丈夫ですか?」
薄暗い地下シェルターでピッカリ草が足元を照らす中、眉尻を下げながらアリシアが俺の顔を覗き込む。
「大丈夫じゃない。俺の失態だ。レイルたちがいない以上、抵抗のすべも無い。レイルと国を抜け出す時点で、もっと話し合っておくべきだった」
無意味だと知りながら、過去を後悔し自分を責める。
「国の拡大も速すぎた、存在がバレて当然」
最後は崩壊し意味など無いと知りながら、失敗と後悔をドミノのように並べる。
「クク国に戻った人たちはもとよりひどい待遇で扱われる。俺のせいだ。俺の甘い考えが全てを崩壊させてしまった」
自由を求めた結果は、責任に押し潰されながら死の歩みを待つことだけ。
他人を巻き込んだ時点で、責任が覆い被さり自由ではなくなっていたことに気づく。
「ごめんな。アリシア……」
「──あなたは私を救ってくれました」
アリシアはそっと俺を包み込む。
産まれたばかりの赤子を傷つけないように。
優しく、暖かく。
「ネアちゃんもあなたがいなければ捕まっていたでしょう」
「でも、俺は失敗した」
気弱な発言をアリシアは撫でる。
「何かに挑戦する人だけが失敗できるんです。──胸を張ってください。あなたは私のヒーローなんですから」
不安そうに眉をよせ精一杯の笑顔を作ったアリシアが俺に微笑みかける。
俺が諦めればアリシアは反逆者として殺される。
ただ民を想い、身を危ぶめてまで自由を与えようとした彼女が殺される。
「何もしなければ、どうせみんな殺される。──最後に悪あがき──してみるか」
「まずはレイルさんたちと合流しましょう!」
「レイルはダメだ。レイルは完全な自由を求めてる。けど俺は最低限のルールの上で、自由が成り立つと思っている。」
結局はゴールが違う。
チームになったところで最後に待つのは分裂だ。
ボールを取り合ってそれぞれのゴールを目指し、あげくボールを掠め取られた今、レイルとの合流は無意味だ。
「なにかいい方法を考えてください! 勝つには転次郎さんのスキルしかありません。ならば、レイルさんとネアちゃんの協力は必須です」
「完全な自由とルール付き自由の共存はそもそも矛盾している。無理だろう」
「いえ、そもそもは自由なので矛盾していません!」
アリシア吹っ切れた?
初めてあったときから意見を否定することをしなかったアリシアが反論をしている。しかも痛いところをついてくる。
確かに目的の根元は自由だ。
あとは度合いの話。
レイルの望みが純度百パーセントの自由とすると、俺のは八十パーセントだろうか。
やはり共存は難しい。
間をとればどちらも不満。
互いの自由が干渉しあう。
それぞれの選択が────あ。
「そうか。今までと同じでいいんだ」
「ふえ?」
ずっと難しい顔をしていた俺の表情に突如光がさす。
ひっくり返った変な声で疑問を投げるアリシア。
「あったよ。それぞれの自由の共存方法。道中説明する。行こう! レイルたちのところへ」
「どこにいるか分かるんですか?」
レイルの行く場所なんてあそこしかない。
異世界にきて初めて自由を感じた場所。
「反乱軍基地だ」
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