第28話 クク国襲来
「トローシャが国を襲って一週間。ほとんど修復完了だな」
「……わたしのお陰」
ナディンの通り道となったボヘミアの西門の修繕進捗をネアと二人で確認していると、三日間も目を覚まさなかった怪我人が手柄を主張する。
「分かってるよ。ネアがいなかったらそもそも国は存在してないだろうからね」
「あんちゃん、ちょっと話あんだけど」
いつの間にか後ろにいたレイルに呼ばれたので、後をネアに任せ手近な家の影にはいる。
「どうした、改まって」
「この間の話の続きさ、最低限のルールって話」
「やっぱり秩序を保つために最低限のルールは必要だ。力がすべての社会になるからね」
「そっかぁ~、──んじゃ俺様抜けるわ」
いつも通りへらへらした口調で話す。
最近の態度から不満を持っているのは知っていた。
レイルがいなくなるのも時間の問題だと。
「本気か?」
「何にも縛られない。そんな自由が必要なバカもいるんだよねぇ。──悪い」
目に少しばかりの寂しさを浮かべ、いつもの調子でふらふらと、レイルは去っていく。
「ありがとう。元気でな」
レイルのことを考えながら振り替えるとネアがいた。
「……転次郎君、レイル君がひとりになっちゃう……」
「ネアのしたいようにしていいよ」
「……ごめんね」
ひとりの辛さをよく知るネアはレイルを放っておけないのだろう。
「始まりの四人が半分になっちゃったな」
寂しさをまぎらわせようと呟きながら、門の修繕確認にもどった。
──レイル達が去った翌日の昼。
「転次郎! 北門から敵襲だ!」
「ナディン、もう動いていいのか」
「走るくらいならな。それより軍隊だ。クク国が攻めてきたらしい!」
「そんな──走りながら話そう!」
二人で北門へと向かう。
道中聞いた情報は、敵勢力一万。まっすぐ北門を目指して進軍中。後三時間で到着の見込み。
ククに配置した移動系スキルをもつ斥候からの情報だ。
「おかしい。正確な国と門の位置がバレている」
「どういうこと?」
「来たことも無いのに森を隔てた国の位置は分からないはずだ」
「スキルじゃない?」
「可能性はゼロじゃない。だが最悪──内通者がいる」
一万の軍勢とまともにやりあって勝てるはずがない。
到着までにトローシャを倒した力を発揮できるように準備しなければ。
最大火力で敵大将を一瞬で仕留める。
「ナディン! パパトに連絡して大規模転移の準備をさせてくれ!」
「僕は騎士だ! 僕も戦う!」
「怪我人がいっても死ぬだけだ。連絡頼んだ」
顔をしかめるナディンだったが、状況を理解し連絡に向かってくれる。
北門に向かう途中アリシアと合流した。
「転次郎さん! 東門の前に軍勢が!」
「東門? 北門じゃないのか」
『ボヘミアの民諸君へ告ぐ。十分後、クク国は二万の軍にてボヘミアを蹂躙する。今戻ってくるなら命だけは保証しよう』
突然。国全体へ届くほどの大音量で、恐ろしい宣言と提案が告げられる。
『転次郎殿一行の力ではどうにもなりませんぞ、昨日レイル殿とネア殿は国を抜けた。ナディン殿は怪我を負っている。わたくしパパトは────クク国に寝返りました。さあ戻ってくるのです』
間違いなくパパトの声。
───内通者はパパトだった。
偽情報もパパトの仕業か。
人々は恐怖の色を浮かべ荷物をまとめ東門に向かう。
俺のスキルも当然漏れている。
国民を奪うのはスキル封じだ。おまけに国力回復ってところか。
完全にやられた。
二万の軍団になす統べなく蹂躙される。
門、建家は破壊され、労働力として価値の低い老人は見せしめに殺された。
スキルを使って抵抗したが、信頼度の高い人物がアリシアしかいかない今、スキル制限を使ったクク軍に勝てるはずもない。
レイルが残した地下シェルターへ留まった国民を誘導しアリシアを隠す。
『地下へ逃れたのは分かっています。三日後また来ます。クク国へ戻り生きるか、自由のために死ぬか考えておいて───』
『転次郎! 貴様を殺す! 私の強化したスキルで必ず殺す!』
『サチェル殿おやめに───』
スキル制限による強化もすべて伝わっている。
唯一対抗できるだろう俺のスキルには仲間が必要だ。
信頼度の高い仲間ほど能力の向上が見込めるが、レイルとネアは去り。パパトは裏切った。
信頼度の低い国民の数も五十人弱。いや、もはや国民からの信頼は地に落ちていると考えた方がいい。
打つ手無し。完全な敗北だ。
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