第17話 パパトとナディン

「今日は魔物がでないな」

「狩り尽くしてはいないと思いますが、運がいいのでしょうか?」


 西に向かって歩きだし、そろそろ3時間が経過する。

 俺のスキル効果はとっくに切れているが、一切魔物に出くわさなかった。ラッキーと言えばラッキーだが少し不気味だ。


「あ、見たこと無いキノコです! ネアさんが喜んでくれますっ」


 アリシアに不安は無いようで何より──


「覚悟ォオオ!」


 突如。茂みから鉄の塊を着こんだ、金色に輝く短髪の男が斬りかかってきた。空を切った剣は大人の背丈ほどの長さがある。避けきれなければ真っ二つは免れなかっただろう。


 国外に人間? まさか追手か? いや俺たちは変異前の転移で国外へ出た。国がそれを知るはずはない。


「待て待て、俺たちは人間だ。君に手出しするつもりはない」

「僕たちを追ってきたんじゃないのか」

「『僕たち』って事は他にも誰かいるんだね」

「っ!」


 どうやら国から逃げてきた同志のようだ。信用は出来ないが、背を向けなければ大丈夫そうだ。アリシアへ目配せしスキル発動の準備だけをさせる。


「ほっほっほ、ナディン殿。その方たちは追手ではなさそうですよ」

「パパト様、出てきてはっ!」

「大丈夫ですよ。わたくしパパトと申します。こちらはナディン殿です。わたくしたちは亡命者です。他国があると信じ国を抜け出してきました。」


 パパトと名乗った小太りの男は、メガネと小さい帽子の位置を正しながら、自分の立場を開示してきた。

 不信感を与えるわけにもいかない、こちらも同程度の情報開示をする。


「俺は転次郎、こっちはアリシア。立場は同じようなものです」

「そうでしたか! 東から歩いてこられたようですが、他の国はありましたか?」

「いえ、ありませんでした」

「残念です。ですが転次郎殿たちの拠点は東にあるのですね」


 食えない男だ。国の方角へ向かう俺たちの小綺麗さを見て、基地があると見抜いてきた。


「拠点はあります。なぜ、逃亡したのか聞いてもいいですか?」


 あっさり基地の存在を認め、話をすり替える。


「ええ、わたくしの家系は商人なんですが、流通も全て国が管理しているでしょう? 商売という概念がないので、諦めきれず秘密裏に商売を行っていたのですが、バレてしましまして、いやはやお恥ずかしい」

「僕は騎士になりたかったのに、土いじりをさせられたからだ。今はパパト様の騎士をしている」


 俺たちと同じく管理に耐えきれなかった人間か。


「そちらは?」

「俺たちはポイント切れで逃げてきたんだ」


 嘘はついていない。


「腹の探り合いはやめませんか? 正直、転次郎殿の拠点へお招きいただきたい。もちろん邪魔であれば出て行きます。条件しだいでは便利な道具の提供も可能です」

「転次郎さん。正直に話しましょう。どうせ人は集めるつもりでしたし」

「そうだな。──俺たちは自由を重んじる新しい国をつくるつもりだ。拠点へ招待しよう」

「建国とは! 素晴らしいですな!!」


 パパトとナディンを連れたまま、下見を済ませ基地へ戻った。道中、国作りの計画を話すと、国民がある程度増えれば貨幣の導入が必要なので、そこはパパトが一手に引き受けるとの事だった。

 割りといい出会いだったのか?


────────

──────


 基地に戻りレイルとネア、パパトとナディンの紹介をした。感心がないように見せるレイルだったが、背後を取られない位置取りをしているところを見ると、警戒しているようだ。ネアはパパトから草をもらい小躍りしている。

 ネアとレイルが増設してくれた部屋へ新入りを案内する。そして、一週間後の国民誘導の話をした。


「ぜひ、わたくしたちも同行させてください! わたくしの情報網でポイント切れ間近の人を選別できるでしょう」

「僕はどうすればいい?」

「そうだな、パパトもナディンも一緒に来てくれ」


 同行を許したのはレイルと俺だけだと、保安上誘導できる人数が知れているからだ。


 計画の日まで、パパトとナディンにも訓練を受けてもらおう。ネアとアリシアもいい刺激になるだろう。

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