第18話 ボヘミア

 ────計画の日。

 いよいよ、クク国へ侵入し民の誘導を始める時がきた。


 基地の規模は今や東京ドームほどの大きさとなり、居住スペースも地上、地下共に充実している。

 水の運搬がかなり手間だと話し合いになったが、パパトの案で井戸を作った。


 訓練も順調に進み、ネアとレイル、ナディンはひとりでマンティスを狩り、ウルフィルであっても二人でなら対抗可能となった。攻撃力のないアリシアはサポートに徹する形となり、少し落ち込んでいた。


 頭の真上にある日に照らされならがら、全員を集めて出発を宣言する。


「それじゃ、出発しよう」

「転次郎殿、少しお時間をいただきたい。国の名前を決めませんか? 人が増えてからでは認知してもらうのも大変なので」

「あんちゃん、それなら反乱軍本部ってどう?」

「それ国じゃないじゃん」


 レイルの小ボケにナディンが突っ込む。ずいぶん仲良くなったものだ。


「そうだな、アリシア決めてくれるか?」

「わたしですか!?」

「アリシアがトップだしね」

「───『ボヘミア』はどうでしょうか、"自由な者"と意味を込めました」

「……ボヘミア……いい」

「素晴らしいですな! アリシア王女!」


 レイルもナディンも文句は無さそうだ。


「決まりだな、んじゃ改めて──出発だ!」


 ネアとアリシアを留守番に残してクク国へ向かった。

 この一週間で門前に一度きたので、道も整備されている。前日に魔物を狩り倒している。お陰で六時間ほど歩けば門前へついた。

 ちょうど日が沈み、侵入する絶好の具合となっている。


 侵入経路はパパト、ナディンから案内される。なんでもナディンが土いじりのフリをしながら二年間、堀り続けた穴があるらしい。


「ここだよ」

「こりゃたまげたぜぇ」


 穴の入り口を目の前にしたが、かなり小さい。太めのパパトがギリギリ通れるサイズだ。元々ナディンひとりが逃げるためだけに作ったのだから当然と言えば当然か。


「ここは俺様にお任せって感じだねぇ」


 人が立って歩ける程度にレイルが穴を広げる。

 『穴堀』の使用回数は一日五度だが、二回はここで使用することとなった。


「いやはや、レイル殿のスキルは何度見ても開拓にうってつけですな。鉱山でもあれば資源の確保が容易になりますな。」

「先に進もう」


 穴の中は暗く壁づたいに進むしかないため、ネアに量産してもらったピッカリ草をバックパックから出す。

 背の低い草で緑色に発光し足元をぼんやり照らしてくれる。ピッカリと言う名前はあまり合っていないように思う。

 ネアいわく、非常に繁殖力が高く、一ひと月でもすれば一株がテニスコートくらいに広がるらしい。


 適当な感覚でピッカリ草をみんなで植えながら、四十分ほど歩くと出口についた。木の板で塞がれた出口を抜けると古びた小屋に出た。食べられそうな穀物が並んでいる。

 ナディンによると、国に納める前の物らしい。種や道具も同じく小屋にしまっているため、適当な口実を作り小屋で穴を堀り続けたそうだ。


「パパトとナディンは情報網とやらで人を集めてくれ、俺とレイルは一軒ずつ回ってみる」

「ご武運を」


 パパトは腹の肉を揺らしながらナディンと夜の闇に消えていった。


「レイル任せたよ」

「あんちゃんは土地勘もないもんねぇ」


 よく考えれば召喚された初日から、逃亡生活だから土地勘もなければ、人脈もない。レイルに任せるのが一番だ。


 ふらふらと歩き早速手近な家の扉を叩いている。


「ごめんくださーい」

「えっレイル様ですか!?」

「そうだよん。ちょっと相談があるんだけど、こっそり人を集めてくれない?」

「わ、わかりましたっ」


 レイルが様呼びされている。本当に何者なんだ?



 しばらくすると三十人くらいだろうか、ぞろぞろと集まってきた。

 

「みんなよく集まってくれた! 説明はあんちゃんからしてもらうから、よーく聞くように」

「時間がないから手短に話そう。俺たちと一緒にクク国から逃げよう! 外に自由な国を作った! 暮らせるだけの設備は整えた。魔物に対抗できる力もある。ポイントに怯えることは二度と無くなるのだ!」


 水を打ったかのように静まり返る。

 そこへ、ひとりの老人が口を開く。


「飯なんかはどうする?」

「自由だ。自分で確保してもいい、他者から貰ってもいい」

「ありがとう。ワシはあんたらについて行く。よろしく頼みます」


「お、俺もだ!」「わたしも!」「ボクも!」


 老人のひとことが呼び水かのごとく、他の人も同行に賛同し、結局全員が共に行くことになった。


 七十人ほど連れたパパトのグループと合流した。その時だった。


 鋭く研ぎ澄まされた一線が俺の喉元を掠める。


 銀色に輝く凶器の根本で俺を睨んでいるのは、教育係のサチェルだった。

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