それが命綱
葛鷲つるぎ
第1話
私だけのヒーロー。
いつでもどこでも駆けつけてくれる。だから、ビルの端まで来て、追いつめたぞ、とか、もう逃げられない、と言われても何も恐ろしくない。
「たとえそこが、地獄であれ、ね」
そう言って、私は勝ち誇った笑みを浮かべた。
途端、私の影から魔力があふれ出て、人を形作る。
「どのような御下命ですか?」
それは無感情に敵を見下ろしていた。だが、その表情は良いところで邪魔をされて苛立っているものだと私は知っている。だいたいは、ゲームだ。彼はゲーマーであったから。
「一掃して」
「御意」
私の一言に、彼が動き出す。
彼の登場に一瞬だけひるんでも、すぐに私を襲おうとしてきた敵が、あっという間に返り討ちに遭っていく。見ていてとても痛快だ。さっきまで逃げ回っていた分。
「マイ・マスター。終わりました」
「ありがとう。でもまだまだ居てもらうから」
私だけのヒーロー。
口の中で転がす。甘露の如き響きだ。
彼は私の言葉を聞くと、静かに頭を下げた。ゲームの途中だったろうに、忠実なしもべなことだ。ただの人間として生きていたはずが、私の使役悪魔として板についている。前世で私の騎士を務めていたとはいえ、悪魔の血を引いていたばかりに、しがない女子高生に良いように扱われて。
かわいそうだけれど、私の命綱だ。手放してなどやれない。
敵が居なくり、安全に歩けるようになった私は、ゆっくりと歩きながら、そう思う。
そんな彼は、私の言葉の意味をよく理解していたようで、油断なく辺りの気配を探っている。
「狙撃手の気配はありません。盗撮の様子も」
「
「……抗争に、いつまで首を突っ込むつもりですか」
「私が飽きるまで。堪んないのよ、このスリルがさ」
「……そうですか」
私は内心で嗤った。
彼の前世の主たる姫が私の前世の魂になるが、前世の記憶、魂が連続する彼とは違い、私は私だった。姫の記憶は、いわば人質。
本当は彼女を助けたくて、私を助けているのだ。
そんな状況、かわいそうだけれど、手放してなどやれない。
だって、私は弱いから。
絶対的な命綱がないと、遊べないのだ。
それが命綱 葛鷲つるぎ @aves_kudzu
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