第13話



 人類の所有する町の中で、最も重要視されて尚且つ栄えているのは、実は『弱者の町』だった。

 そりゃあ世界中からレベル1の人類が各地の産物と一緒に集められるのだから当然だろう。

 当然ながら、そのままレベル1達が居付いてしまわない様に、低レベル者には物品の購入制限が設けられている。

 それに弱者の町なんて名前自体を厭う者も少なくはない。


 そして何よりも大事なのが、弱者の町の周辺ではレベル1でもキチンとした装備さえあれば楽に倒せる様な魔物が出現する事だ。

 つまり弱者の町があるからこそ、人類は一番弱い敵から順番に、階段を登る様にレベルを上げて行けるのだった。

 エルフやダークエルフ、ドワーフに関しても似た様な、弱い魔物が周囲に出現する拠点は持っているらしいが、弱者の町程に整った環境じゃないと聞く。

 獣人に至ってはそういった拠点を持っておらず、強者が弱者に付き添い、比較的安全なフィールドまで引率してレベル上げに励むそうだが、そこを奴隷狩りに狙われる事も多いらしい。

 要するにレベルを上げやすい環境が整っているからこそ、人類は他の種族に抜きんでた力を持っているという話である。


 もちろん好物である人類に対する、神の贔屓も原因だろうけれども。


 故に弱者の町は非常に栄えながらも、何処の国にも属さない独立した自治都市とされていた。

 まあ何処かの国が弱者の町を占拠して他の国を締め出してしまえば、人類全体に大きな影響が出てしまうので、当然の措置なのだろう。


 さてそんな弱者の町に最も近いが為に、選択の三叉町も同じく国に属さないで自治を行う町である。

 この選択の三叉町は名前からも察せられる様に三本の道が伸びており、東に向かえば熱砂と炎の国『グライナ』、北に向かえば輪の森の国『グランサークル』、西に向かえば海の国『ラグーナ』へと辿り着く。

 無論この世界に存在する人類国家がその三つだけという訳じゃなく、あくまでこの付近の国がその三つなだけだ。

 因みにこの三国は決して仲が良い訳ではないが、選択の三叉町を挟んで接する為に基本的には争わず、戦争はその更に向こう側に在る国と行っていた。

 取り敢えず国の状態や他国との関係はさて置いても、選ぶ道で全く違う環境へと向かう事になる為、この町は選択の三叉町と呼ばれているのだろう。


 尤も大体の者は自分の出身国に帰る道を選ぶし、僕も既に北に向かうと決めている。

 だって先ず東は暑さが厳しい。

 今、僕が装備している兎の毛皮の装備では、自殺しに行く様な物だ。

 暑さに強く、それなりに丈夫な防具を求めるならば、先に西に向かって水棲の魔物の素材を手に入れる必要があるのだが、正直そこまで準備をして東に向かう魅力はなかった。

 では西はと言えば、此方は今の僕では使える手札が限られてしまう。


 もちろん東にも西にも良い所はあって、グライナ国は鍛冶が盛んで、質の良い特殊な武器も安く手に入る。

 ラグーナは弱者の町に向かう船の多くが立ち寄る貿易の盛んな国でもあるので、珍しい品も金銭を出せば手に入るのだ。

 でも基本的に装備は魔物の素材から錬成すると決めている僕には、わざわざ出向く程の魅力ではない。

 それに僕がレベル上げに利用したいと思ってる場所は、北のグランサークルの、更にもっと向こう側にあるので、早めに北には足を延ばしておきたかった。



 とはいえそれは明日以降で、今日は一日を町でのんびり過ごすと決めている。

 昨日は泊まった宿でワイルドホースの肉を焼いて貰ったので、今日は町の食堂で食事を取ろうと思う。

 ワイルドホースの肉は焼くと硬くなってしまうので、薄切りにして軽く火を通して食べた。

 脂がさらりとして食べ易く、尚且つ宿が食べ飽きない様に塩やレモンの絞り汁等を複数種類小皿に入れて出してくれたので、ついつい食べ過ぎてしまった程に。

 選択の三叉町は弱者の町からの物資が届けられたり、グライナ、グランサークル、ラグーナを行商する商人が行き来する場所である為、香辛料や調味料をケチらず料理に使う様だ。

 付け合わせに出て来た野菜の酢漬けも、珍しい物で美味しかった。


 なので僕は今日の食事にもそれなりに期待をしている。

 尤も食の快楽に溺れる程じゃあないけれど、楽しめる時には楽しんだ方が良い。

 何しろ、僕の戦いはまだまだこれから長いのだ。


 魔物を相手にレベルを上げ辛くなる頃には、僕の魂を回収する為、教会からの刺客がやって来るだろう。

 それでも僕を刈れないとなれば、次は天使を始めとした神の使徒が。

 だがそれすら糧にして、僕はレベルを上げなきゃならない。


 神が業を煮やし、レベル100になった僕の魂を直接回収しようとするその時まで。

 そう、神がこちらに手を伸ばそうとする、神の座すその場所こそが、この世界で、最も他の世界に近い場所だ。

 この世界から逃れる為には、神の前をすり抜けるのが、一番可能性が高い方法だった、

 あぁ、いや、少なくとも僕はそう考えている。


 僕は必ず、この世界より逃げ出して見せる。

 他の世界が、この世界よりもマシな場所である保証なんてどこにもないけれど、それでも僕は、この世界で喰われる為に生きる事は選ばない。





―――――――――――――

以下後書き


という訳で完結です




大体ゲームの体験版だと、このくらいの所までですよね

或いは三叉町に入るくらいまででしょうか


完結理由はRPGのレベル上げがずっと続くのも、ちょっと読んでて(書くのも)しんどいかなあと思ったからです




ここまでのお付き合い、ありがとうございました



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異端者レベリング(体験版風) らる鳥 @rarutori

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