第12話


 次の突進が来る前に、僕は通じなかった槍をインベントリに仕舞い、代わりに爪牙の曲刀と狼皮のバックラーを装備した。

 ワイルドホースは次こそは外すまいと、血走った眼で此方を睨み、ガツガツと草の地面を蹴っている。

 互いに次を決着とする心算だが、まあ客観的に見れば不利なのは、ここまで有効打を出せずに攻めあぐねてる僕だろう。

 しかしこうやって僕を追い詰めてくれる敵だからこそ、乗り越えた時には、次の障害に挑む為の糧になってくれるのだ。


 ドガッと音を立てて地を蹴り、ワイルドホースが僕に向かって突進を開始する。

 ワイルドホースの突進は、トップスピードに乗るまでが兎に角早く、更に草の上でも足を滑らせない。

 とある国が何とか騎馬として使いたいと、捕獲と調教を試みた事すらあると聞く。

 そんなトップスピードに乗ったワイルドホースの突進に対し、僕はギリギリまで引き付けてから、

「ウォーターカッター!」

 思い切り気合を込めてワイルドホースの右前脚に対して魔法を放つ。


 当然ながら、まだ未熟な僕の魔法では、一撃ではワイルドホースの脚は壊せない。

 脚は馬にとって、ある意味で命だ。

 馬がもし脚を壊せば、もう生きて行く事は出来ないという。

 だからこそ、馬の魔物であるワイルドホースの脚は逞しくて頑丈だった。

 でもそんな大事な脚だからこそ、そこに不意のダメージを受けたワイルドホースの突進は止まり、後ろ脚で立ち上がり、高所から前脚を振り下ろす踏み付け攻撃へとシフトする。

 狼牙棒で突進を止めた時と同じ様に、つまりはそう、僕の思惑通りに。


 振り下ろされる前脚の内、僕は傷付いた右前脚を、……此方から見れば左だけど、狼皮のバックラーで迎え撃つ様に殴り付けた。

 ぶつかり合う前脚と盾。

 そしてその衝突に競り勝ったのは、僕のシールドバッシュだ。

 僕の左腕にも衝撃で痺れが走ったが、ワイルドホースの前脚のダメージの深刻さは僕の腕の比では無い。

 地に着いたワイルドホースの前脚は己の体重を支え切れずに、ガクリと膝が折れる様に体勢を崩す。


 これまでワイルドホースの身体を守っていたのは、皮と筋肉と、何より移動速度だった。

 けれども今のワイルドホースは動く事叶わず、無防備にその身体をさらけ出している。

 であるなら皮が丈夫だろうと、筋肉の量が多かろうと、その長い首を走る血管を曲刀で断つ位は容易い。


 噴き出す血飛沫を距離を取って避け、僕は動けなくなったワイルドホースが息絶えるのを待つ。

 実に手強い敵だった。

 もう少しすれば、血の匂いを嗅ぎ付けたグラスウルフ達もやって来るだろう。

 僕はそれ等を排除しながら、ワイルドホースの解体をせねばならない。

 腕は痛いし疲れてもいるが、漸く打ち倒した強敵の身体をグラスウルフに漁らせる心算はないのだ。


 ワイルドホースの頭が力を失って地に伏したのを見届けて、僕は大きく息を吐いた。




 己の気配は殺したままに、敵の気配を察知して、僕はグイと大きく全身の力で弦を引く。

 そして放たれた矢は宙を裂き、狙い違わずのんびりと寝そべる五匹のグラスウルフのうちの一匹を貫いた。

 ワイルドホースを倒したならば、もうこの続きの草原で為すべき事は一つしか残っていない。

 それは草原の最奥、選択の三叉町付近に稀にいる、最大数である五匹のグラスウルフの群れを狩る事だ。


 今の気配遮断と気配察知のレベルなら、僕は飛び道具を用いればほぼ確実にグラスウルフに対して先制攻撃を加えられる。

 そしてその飛び道具は、倒したグラスウルフの素材を用いて、一旦平原に戻って錬成して来た。

 馬骨弓、適正レベル10。

 ワイルドホースの骨に皮を張り合わせ、弦は同じくワイルドホースの毛と腱を使用している。

 放った矢は、グラスウルフの牙や爪を鏃に、骨と眠り鳥の羽根から武器錬成した代物だ。


 適正レベルは少し上なので当たるかどうかは少し自信がなかったが、どうやらツキはあるらしい。

 迫り来る残り四匹のグラスウルフの群れに、僕は爪牙の曲刀と狼皮のバックラーを取り出す。

 向こうの攻撃を待とうとすれば、取り囲んでからの攻撃が来る事は目に見えているので、今回は此方からも切り込む。

 飛び掛かって来ようとする先頭の一匹には、

「ウォーターカッター!」

 魔法攻撃で痛手を与えて止め、続く二匹目は牙を剥き出した横っ面をバックラーで殴り飛ばした。

 三匹目は止まった一匹目が邪魔で攻撃を加えて来れず、最後の四匹目を、僕は曲刀の刃で迎え撃って切り裂く。

 

 痛撃を浴びせられたグラスウルフの群れは僕の勢いに僅かに怯み、だから僕はその怯みに皿に浸け込み攻撃を加える。

 魔法を喰らったショックから立ち直りかけた一匹目のグラスウルフの顎を思い切りけり上げ、ようやく動き出した三匹目も曲刀で斬り飛ばす。

 そうなれば一度できた流れをグラスウルフ達は覆せずに、戦いは僕の圧勝で終わった。

 さあ、草原での最後の用事も終わりだ。

 先程の戦いでレベルも9に上がり、選択の三叉町も然程遠く無い位置に見えている。



STR:5

INT:3

DEX:4→5+1

VIT:4/4

MND:2/3→3/4


戦闘スキル

武器全般取り扱い2レベル 見切り2レベル


魔法スキル

水魔法2レベル


他スキル

武器錬成1→2レベル 防具錬成1→2レベル インベントリ2レベル

気配察知2レベル 気配遮断2レベル



 レベルアップの処理も終え、僕は町の門に向かって歩く。

 武器と防具の錬成を上げたから、適性レベル20までの武器防具が錬成可能となる。


「おお、お前一人か? やるじゃないか。最近では一人で草原を越える奴は珍しいぞ。選択の三叉町へようこそ。この先お前さんがどの道を選ぶにせよ、この町でゆっくり休んで英気を養うと良い」

 選択の三叉町へ近付けば、門番が目を丸くして驚き、その後に笑みを浮かべて僕を歓迎してくれた。

 門番の言葉に、僕も付い口元が緩んでにやけてしまう。

 続きの草原で得た経験は、僕が次の困難を越える為の糧になってくれる筈。


 だから今日は自分へのご褒美という事で、良い宿に泊まって美味しいご飯をたっぷりと食べよう。

 僕は気の良さそうな門番にオススメの宿を聞き、そうして選択の三叉町へと足を踏み入れた。




名称:ノア・グロード

種族:人間

年齢:15歳

髪色・瞳色:黒・黒


レベル:9


STR:5

INT:3

DEX:5+1

VIT:4/4

MND:4/4


戦闘スキル

武器全般取り扱い2レベル 見切り2レベル


魔法スキル

水魔法2レベル


他スキル

武器錬成2レベル 防具錬成2レベル インベントリ2レベル

気配察知2レベル 気配遮断2レベル


称号

異端者


ステータスポイント:0

スキルポイント:0



所持品

兎角槍×3

狼牙棒

馬骨弓

爪牙の曲刀

狼皮のバックラー



兎のレガース(DEX+1)

兎のグローブ

兎のハイドアーマー


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