第11話


「ウォーターカッター!」

 使用魔法を告げて精神力を消費すれば、こちらに飛び掛かろうとしていたグラスウルフの顔を水の刃が切り裂く。

 驚きと痛みにグラスウルフが怯む間に、僕は他のグラスウルフの攻撃を回避し、更に襲い掛かって来た別の一匹の口の中に兎角槍を突き入れた。

 会得した魔法の使用感は、思った以上に良い。

 唐突に発生する魔法攻撃は、遭遇したばかりの魔物には完全な不意打ちとして決まる。

 もちろん二度三度と使って見せれば対応されるだろうが、そもそも連発する様な事があれば精神力が持たないだろう。


 まだ威力はダメージを与えて怯ませる程度だが、グラスウルフの群れを相手にするには充分な切り札となった。

 それにもっと扱い慣れ、更にINTを上昇させて行けば、威力も上がるし声を発さなくても魔法を使える様になる筈だ。

 何より先日痛い目に合わされたばかりの相手を、手数を増やして圧倒するというのは、達成感もあって実に楽しい。


 そう、僕は翌朝、再び続きの草原へと挑んでいる。

 夕食の緑蛇の串焼きは美味しかったし、魔物避けの薬の効果は確かで、それなりに眠る事も出来た。

 当然宿に泊まった場合に比べると体力の回復具合は微妙だが、まあそれは仕方ないだろう。

 薬草の効果もあって怪我も問題なく塞がったし、草原での狩りに問題はない。


 残るは二匹のグラスウルフ。

 一匹は既に手負いだが、仲間を殺された怒りからか、戦意は寧ろ増している。

 僕がインベントリから取り出すのは、予備の兎角槍ではなく、今朝がた新しく錬成した武器だ。


 狼牙棒(ろうげぼう)、適正レベル7。

 骨製の長柄の先が楕円状に膨らみ、そこに牙状の突起が無数に生えた、打撃武器である。

 見た目からして厳ついし、そして威力の方も見た目通りだ。

 唸り声を上げ、飛び掛かって来るグラスウルフを、狼牙棒で打ち払……否、弾き飛ばす。

 兎角槍と違い、狼牙棒はグラスウルフの攻撃を捌くだけで、相手にダメージを与える事が可能だった。


 そしてそれに怯めば、或いは衝撃を受けてよろめけば、チャンスとばかりに此方から振り被って狼牙棒で頭部を叩き潰せる。

 魔法に加え、新しい武器まで手に入ったのだから、もう僕が負ける要素は、油断以外にはあまりない。



 僕はその後、三匹の群れを作るグラスウルフを二度相手にした。

 戦いは安定していたし、傷を負う事もなく、無事に8レベルへとアップする。

 でも草原の奥、選択の三叉町付近では、四匹の群れや、ごく稀な事だが五匹の群れも出現するそうなので、もう少し鍛える必要があるだろう。

 だから次に僕が狙うのは、まだ倒していないワイルドホースだ。


 ワイルドホースは体格が大きくて重量もあるので、倒しても丸ごとは到底運べない。

 故に素材が欲しければその場での解体が必須となるが、すると当然血の匂いを嗅ぎ付けたグラスウルフは襲って来る。

 しかし連戦を覚悟してでも、ワイルドホースの素材を確保する価値は充分にあった。

 特に肉は、味が良いので食べて良し、値段が高いので売って良しなんだとか。



STR:4→5

INT:3

DEX:4+1

VIT:3/3→4/4

MND:3/3


戦闘スキル

武器全般取り扱い2レベル 見切り2レベル


魔法スキル

水魔法2レベル


他スキル

武器錬成1レベル 防具錬成1レベル インベントリ2レベル

気配察知1→2レベル 気配遮断1→2レベル



 ステータスとスキルを割り振り、草原を行く。

 気配察知と気配遮断を上げた事で、緑蛇やグラスウルフの群れを気付かれる事なく避けれる様になった。

 今の僕なら、選択の三叉町まで敵を避けながら辿り着けるだろう。

 もちろん草原でやるべき事はまだ幾つか残ってるから、そんな勿体ない真似はしないけれども。


 それから暫く、僕は草原で草を食むワイルドホースを発見する。

 狼牙棒を手に近づけば、ワイルドホースは顔を上げて此方を見るや否や、それまでは普通だった目を真っ赤にさせて興奮して嘶きを上げた。

 戦意は此方も彼方も充分らしい。

 でも何というか、そう、蹄で草の大地を蹴ってタイミングを計るワイルドホースは、驚く程に大きかった。

 そう言えば今更だが、自分よりサイズの大きな相手と戦うのは、僕はこれが初めてだ。


 鼻息荒く突進してくるワイルドホースを、僕は狼牙棒で殴り付けて止めようとする。

 だがこれは失敗だろう。

 ダメージは確かに入ったが、それでもワイルドホースは打撃を気にした風もなく、強引に身体で打ち払って前脚を高々と上げて僕を踏み付けようとした。

 咄嗟に狼牙棒を捨て、地を転がって難を逃れるが、完全に相手の大きさと勢いに呑まれてしまった形だ。

 本来、打撃でなら胴体ではなく脚を狙うべきだとだとわかっていたのに、迫る巨体に思わず胴体を殴らされたのである。


 けれども悔やむ暇なんて当然なかった。

 襲い掛かって来るワイルドホースを、僕は兎角槍を取り出して迎え撃つ。

 失敗の反省は後でするにしても、同じ失敗は許されない。

 ミスはミスでも狼牙棒での攻撃は一応ワイルドホースの突進を止める事が出来た。

 しかし兎角槍で同じ真似をしようとすれば、間違いなく槍の方が砕けるだろう。


 故に行うべきは回避だ。

 今の僕なら、見切れるし、避けれる性能はある筈。

 出来なかったとすれば、単に心が呑まれているから。

 恐れず、怯まず、相手が急な方向転換等を行えない距離まで引き付けてから、全力で相手の突進進路から逃れる。

 そしてすれ違うワイルドホースの横腹に向かって兎角槍を突き出すが……、だが相手の硬い皮と筋肉、それに加えて移動の速度が、防ぎ、滑らせ、槍の穂先を受けつけなかった。


 どうやら、動きを止めなければ槍で戦うのは難しそうだ。

 でもワイルドホースの脚を圧し折る為の狼牙棒は、先程のミスで少し離れた場所に転がっている。

 この戦闘中に回収するには、多少の工夫が必要だろう。

 となれば、手持ちの手札の中で有効であろう手段は一つだった。

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