第10話
当たり前なのだけれど、数が多いって事はとても強い。
二匹のグラスウルフは余裕を持って捌けた僕だけど、三匹のグラスウルフには6レベルにアップした後でも少し苦戦していた。
敵の数が二匹から三匹に増えて何が変わるのかと言えば、先ず一つ目が相手の攻撃に間隙が殆ど無くなる事だろう。
突撃兎は攻撃前に溜めがあったからまだ余裕があったが、グラスウルフは躱そうが叩き落とそうが殆ど間を空けずに飛び掛かって来る。
そして二つ目に、三方向から攻められるとどうしても死角が出来てしまう事だ。
前後から挟まれる程度ならチラっと後ろの確認位は出来るのだけれど、綺麗に三方向から囲まれると確認し切れるのは二つまでだった。
当たり前の話だが、見えない相手の動きを見切る事は出来ない。
見切る事が出来ないと、相手の攻撃を必死に避けるばかりで反撃は不可能である。
今はまだ何とか敵の攻撃を凌げているが、そのうちどこかでミスをすれば、ズルズルと追い込まれて行くだろう。
だからこれは仕方がないのだ。
合理的に考えろ。必要な物は覚悟だけ。
一匹目を捌き、二匹目を躱して、……そこで槍を手放した僕は、振り返って飛び掛かって来る三匹目の牙を、敢えて左肩で受け止めた。
自分の肉に牙の喰い込む感触が、滅茶苦茶痛い。
本当に痛い、死ぬほど痛いが、……でも実際に死ぬほどのダメージじゃ、まだない。
多分VITが3/3から2/3になった程度だろう。
防具が無ければ或いは1/3だったかも知れないけれど。
でも痛がってる暇は無いのだ。
僕は右手で齧歯の短刀をインベントリから取り出して、肩に噛み付くグラスウルフの後頚部に突き刺す。
腕力で無理矢理捩じ込んだ短刀は、恐らくもう使い物にならないだろうけれど、最後の務めを果たしてグラスウルフを葬った。
そして僕はすかさず飛んで来た別のグラスウルフを、一匹は避けて、二匹目は死んだグラスウルフの身体を盾にして防ぎ、距離を取る。
これで敵は二匹だ。
左腕は暫く動かせそうにないが、それでも二匹が相手なら倒し切る事が可能だろう。
僕は右手で爪牙の曲刀を抜く。
ああ、片手武器の良い所はもう一つあった。
片手武器は、片手が使えなくなっても、残る手で扱えるのだ。
とても素晴らしい長所と言える。
困った事に傷は痛いが、後少しだけ、頑張ろう。
数分後、僕は倒した三匹のうち二匹の骸をインベントリに放り込み、大慌てで始まりの平原へと逃げ出した。
三匹目は重量オーバーである。
準備は充分にした心算だったが、それでも目算が甘かったらしい。
活動記録で得れたのは、経験じゃなくて情報だ。
僕は以前の異端者達と志は同じくしても、全く同一人物という訳じゃ無いので、過去の異端者の誰かに出来た事が同じ条件で僕に出来ないなんてのは、あって当たり前だろう。
でも同様に、過去の誰にも出来なかった事が僕に出来る場合もある。
まあ反省は後にして、取り敢えずは傷の手当をしなければならない。
「ウォーター」
魔法名を口に出し、綺麗な水を生み出して傷口を丁寧に洗い流す。
その上でインベントリから取り出した、潰した薬草を塗った湿布包帯を、傷口に押し当てて巻き付けた。
傷の痛みはある。
だが痛みはあるが、戦闘中と違って今では左腕も動かせた。
だからこの手当で大丈夫だ。
とはいえ、今日はもう狩りは無理だろうから、僕は野営道具の魔物避けの薬を取り出して、周囲へと撒く。
今日は此処で一夜を明かそう。
僕は確かに続きの草原から逃げ帰る事になったけれど、それでも収穫はあった。
三匹目のグラスウルフを倒した際に、僕は7レベルへと成長をしている。
本当に、草原の敵はレベルアップの効率が良い。
後はこのレベルアップで得たポイントを割り振って、同じ失敗を繰り返さない様にするだけだ。
STR:4
INT:2→3
DEX:4+1
VIT:2/3
MND:2/2→3/3
戦闘スキル
武器全般取り扱い2レベル 見切り1→2レベル
魔法スキル
水魔法1→2レベル
他スキル
武器錬成1レベル 防具錬成1レベル インベントリ2レベル
気配察知1レベル 気配遮断1レベル
うん、こんな感じで行ってみよう。
ああ、本当にVITの現在値が1減っている。
つまり僕は、あんな感じの攻撃を後二回受けたら死んでいた。
気を付けようと、心に誓う。
何せ僕は、絶対に死にたくないのだから。
その為の成長だったが、今回重視したのは手数を増やす事だ。
そう、魔法である。
水魔法を2にしたから、ウォーターカッターの魔法が使えるようになった。
当然ながら使い放題とは行かないが、攻撃魔法による先制攻撃や、体勢的に攻撃を繰り出せない時でも、魔法での攻撃が行えれば戦闘を有利に進められるだろう。
ステータスのINTとMNDは、少しでも魔法を効果的に扱う為の割り振りだ。
見切りも上げたので、もっと効率良く回避も行える様になった筈。
これから先、傷付いたり、敵から逃げる事は何度もあるだろう。
でも同じ敵に、同じ失敗は二度としない。
明日に備える為にも、先ずはちゃんと野営の準備に取り掛かろうか。
今日の夕食は、緑蛇の串焼きだ。
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