第9話


 この二匹のグラスウルフは番だろうか?

 仮にグラスウルフAとグラスウルフBと呼称するなら、Aの方が少しばかり体格が良い。

 まあ僕にはグラスウルフの雌雄なんて判別出来ないから、勝手な想像に過ぎないのだけれども。


 僕が兎角槍を構えると、僕の戦意を感じたのだろう、狼達の唸りが大きくなる。

 これまで相手にして来た魔物よりも、格上の魔物との初対戦。

 けれども僕の心は、何故だか妙に落ち着いていた。


 兎角槍は5レベルで、今の僕はそれに届き、更に武器全般取り扱いも持っているから、そう、この槍の真価を今なら存分に発揮出来るのだ。

 挟みこむ様に前後から飛び掛かって来るグラスウルフ達を、正面のAは槍で払い、つまり叩き伏せ、後方のBには石突で鼻面を突いて怯ませる。

 ああ、そう、見切りもだった。

 見切りがあるから、敵の動きを的確に察知し、それに応じて対応が可能だ。


 振り返り、怯んだBに追撃の一突き。

 先程と違い、穂先での突きは、グラスウルフBの身体を的確に貫く。

 突き刺した槍は無理に引き抜かず、手を離して一歩下がる。

 予備の武器は複数あるのだし、引き抜く間にAの攻撃を受けても馬鹿らしい。

 それに武器が抜けないのはBも同じで、身体から突き出した槍の柄が動きの邪魔をするだろう。


 インベントリから槍を取り出す間に、懐に潜り込んだグラスウルフAの爪が僕の腕を掠めた。

 顎を蹴り上げて距離を稼いだが、槍だと密着距離まで接近された時の処理がとても難しい。

 早めに別の種類の武器を用意する事も考えた方が良さそうだ。

 例えば、目の前のコイツ等の素材を使って。


 幸い兎のグローブが役割を果たし、腕に傷は入っていなかった。

 傷の手当は薬草を塗った湿布包帯があるが、出来れば頼らないに越した事はない。

 魔法による治癒さえ覚えれば、その辺りももっと楽になるのだけれども。

 兎に角、戦いもあと少しだろう。

 油断せず、しっかりと仕留めに掛かろうか。




 二匹分のグラスウルフの素材を持ち、一旦草原から抜け出して行うのは、もちろん武器防具の錬成だ。

 ついでにたった二匹を相手にしただけでレベルが上がったので、そちらの処理も行う。

 二つ目のフィールドの割りには敵が強過ぎると言われるだけあって、続きの平原の敵はレベルアップの効率が良いらしい。


 爪と牙を二匹分集め、ついでに骨も少しばかりを陣に並べる。


―武器錬成・曲刀―


 生み出されたのは曲線を描く刃。

 狼の爪牙を一つに融合して刃に、骨を柄にした切れ味鋭い曲刀だった。

 爪牙の曲刀、適正レベル10。

 ……適正レベルが高い為、普通に振るう事しか出来ないが、まあ逆に言えば普通に振るえれば十分だ。


 次に狼の毛皮を二頭分と、残った骨を陣に並べる。


―防具錬成・盾―


 骨で出来た下地に、狼の毛皮を張った小型の盾。

 狼皮のバックラー、適正レベル8。

 これも適正レベルが今の僕よりも高い。

 まあ盾は防具でありながらも一応武器全般取り扱いの範囲内に入るので、普通に敵の攻撃を防ぐ位は出来るだろう。

 盾での攻撃、シールドバッシュ等はレベルにがある程度は追い付いてからの使用になるだろうけれども。



STR:3→4

INT:2

DEX:4+1

VIT:2/2→3/3

MND:2/2



戦闘スキル

武器全般取り扱い1→2レベル 見切り1レベル


魔法スキル

水魔法1レベル(new)


他スキル

武器錬成1レベル 防具錬成1レベル インベントリ2レベル

気配察知1レベル 気配遮断1レベル


 続いてはこれが今回の僕のレベルアップの処理だ。

 STRとVITの上昇により、先程よりも安定してグラスウルフを倒せるだろう。

 武器全般取り扱いのレベルも上げたので、新しく作った武器や盾も少しは上手く扱える筈。

 そして水魔法だが、魔法は基本的に1レベルを習得した位では大した効果はない。

 でも水魔法の1レベル、ウォーターは水をその場に発生させる魔法で、今日は町に戻らずに野営をする心算の僕には、どうしても必要になる魔法だった。

 日中の狩りだけなら兎も角、複数日に渡ってフィールドに居るなら、水筒の水だけじゃ到底足りないから。


 ちなみに水魔法の2レベルはウォーターカッターという水で敵を切る攻撃魔法で、3レベルはウォーターヒールという血を止め、傷を塞ぐ回復魔法だ。

 4レベルはウォーターハンマーという強い水を噴き出して敵を吹き飛ばしたり、打撃ダメージを与える魔法となり、5レベルはキュアウォーターという状態異常回復魔法である。

 一応僕は水魔法はこのキュアウォーターまでは習得する心算だった。

 そこから更に上には水中呼吸の魔法や、水流を操る魔法等があるけれど、習得するかどうかは状況次第といった所だろうか。


 基本的に魔法スキルは取るなら最大レベルまで取ってしまった方が良いのだけれど、水中呼吸の魔法等は使い道が限られ過ぎていてあまり僕の好みじゃない。




 さて用事が終われば、僕は再び草原内へと引き返す。

 手に握るのは兎角槍だった。

 爪牙の曲刀も作ったけれども、今の僕にはまだ兎角槍の方が手に馴染む。

 それに基本的には、片手武器より両手武器の方がリーチも威力も上なのだ。


 まあその分片手武器なら盾を使う事が出来るのだけれど、でも例えば両手武器の攻撃を盾で防ごうとしたら、実の所は盾の方が分が悪い。

 何故なら理由は単純で、片手より両手の方が押し合う力が強いから。

 腕だけじゃなく身体で支えて使う様な大きな盾なら別だが、そこまで防御に偏重すれば、当然攻撃の手は疎かになるだろう。

 といってもそれは腕が二本の対人間戦の話であり、魔物が相手なら事情は少し変わるけれども、それでも両手武器の持つリーチというメリットはとても大きい。


 では何故わざわざ一旦平原に引き返してまで爪牙の曲刀を作ったのかと言えば、それは緑蛇に対処する為である。

 気配察知で地を這う何かがこちらに密かに迫って来ているのを感知した僕は、地に槍を刺し、インベントリから爪牙の曲刀を抜く。

 緑蛇は動きが速くて力も強く、更に毒を持ってはいるが、サイズ自体は普通の蛇だった。

 すると突撃兎の角を圧縮した穂先の兎角槍では、緑蛇の身体は捉え難い。

 だからそう、こんな風に飛び掛かって来る緑蛇の頭部を、斬り飛ばせる刃物があると便利なのだ。


 緑蛇は生命力が強いから、頭を刎ね飛ばしても暫くはジタバタと動き回るが、流石にその状態では襲い掛かって来ないので、息絶えるのを待てば良い。

 蛇肉は中々美味しいらしいので、夕食にはこれを食べようと考えて動かなくなった蛇の胴体をインベントリに仕舞う。

 頭はどこかに飛んで行ったが、気配察知に引っ掛からないなら、もう生きてはいない筈。

 平原の敵では後はワイルドホースのみが未だ戦っていないけれども、馬に挑むのは後にして、暫くの間はグラスウルフを狩ってレベル上げに励もうか。




名称:ノア・グロード

種族:人間

年齢:15歳

髪色・瞳色:黒・黒


レベル:6


STR:4

INT:2

DEX:4+1

VIT:3/3

MND:2/2


戦闘スキル

武器全般取り扱い2レベル 見切り1レベル


魔法スキル

水魔法1レベル


他スキル

武器錬成1レベル 防具錬成1レベル インベントリ2レベル

気配察知1レベル 気配遮断1レベル


称号

異端者


ステータスポイント:0

スキルポイント:0



所持品

兎角槍×3

爪牙の曲刀

狼皮のバックラー


兎のレガース(DEX+1)

兎のグローブ

兎のハイドアーマー

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