第7話


 草むらを離れた僕が最初にするのは、土の地面に陣を描く事だった。

 解体自体は草むらの中でも出来るのだけど、武器や防具の錬成は、流石に見通しの悪い場所ではやりたくない。

 穴ネズミの素材は必要無いので放置して来たが、突撃兎の素材も既に6匹分も溜まってる。

 否、兎は匹でなく、確か羽で数えるのだっただろうか。


 ……まあ、良い。

 さて置き、周囲に敵の姿も気配もなく、ゆっくりと錬成に集中できる場所で、僕は陣の上に素材を並べる。

 武器錬成で作るのは、昨日と同じ兎角槍を二本。

 壊れた時の予備でもあるし、兎角槍は投擲も行えるから、この程度の本数はあっても別に邪魔にはならない。


 次に防具錬成だ。

 二羽分の毛皮を使って、手と前腕を守る防具である兎のグローブを、次に四羽分の毛皮を使って兎のハイドアーマーを作り出す。

 特殊効果は特になく、アレは脚力の強い突撃兎の毛皮で、足防具を作ったからこそ付与された効果である事が確認出来た。

 なら腕力の強い魔物の毛皮なら、STRに+の効果があるグローブも作れるかも知れない。

 これはこれまでの異端者の活動記録でも曖昧だった部分なので、いずれ検証しようと思う。



 錬成によって荷物も多少スッキリした所で、弱者の町から持って来た弁当を平らげる。

 その後作ったばかりの防具を身に付け、次に行うのは複数の敵を相手にした戦闘と、5レベルへのレベルアップだった。

 次のフィールドである続きの草原の敵は群れてる場合が多く、そして相手が群れていたからといって簡単には避けられない。

 だからこそ今の間に、複数の敵を相手にした戦闘を経験しておく必要があるのだ。


 そうして僕が見付けたのは、きゅっきゅっと鳴きながらじゃれ合う三羽の突撃兎。

 昨日の僕なら危険度以上に罪悪感から、この三羽を狩ろうなんて思えなかっただろう。

 でも僕は既にもう直ぐ二桁に届く数の突撃兎を狩っている。

 今更可愛らしかろうが何だろうが、目的の為に突撃兎を狩る事を躊躇いはしない。


 気配遮断を解除し、わざと大きく足を踏み鳴らせば、三羽の突撃兎達は一斉に僕に気付く。

 突撃兎達が敵対者である人に向けるのは、紛れもない殺意だ。

 僕は心を落ち着けて、三羽の突撃兎の出方を窺う。


 複数の敵を相手取る時は、相手の出方を待たずに先手を打って攻撃し、最初に少しでも数を減らした場合が良いケースも多々ある。

 けれども突撃兎を相手にする場合は、万一こちらの攻撃に対し、突進がカウンターとして命中した場合が怖かったから。

 一羽目の突進を軽く躱し、二羽目の突進は先程よりも余裕なく躱し、最後の三羽目の突進は辛くも躱す。

 しかし一対一なら、攻撃を回避した後に隙の出来る突撃兎も、三羽も集まれば攻撃後の隙が殆どない。

 僕が三羽目の攻撃を躱す頃には、既に一羽目がこちらに向き直っている。


 思わずチッと舌打ちをしてしまったが、僕が憤って見せた所で魔物相手には威嚇にもならないだろう。

 気を取り直し、体制も整えて、再び飛来する一羽目の突進を躱した。

 二羽目も同じく回避して、だが、そう、狙うは三羽目の突進だ。

 僕は三羽目の突進は回避せず、穂先を合わせて迎撃を行う。


 この倒し方を一度経験しておいて良かった。

 狙い違わず串刺しになった三羽目の突撃兎を、槍を振って払い飛ばし、僕はすぐさま三度行われる一羽目の突進を回避する。

 間髪入れず飛んで来る二羽目に、穂先を合わせる余裕はない。

 でもこの攻撃を回避しさえすれば、二羽に減った突撃兎達は、攻撃の合間に隙が出来るのだ。


 僕は向き直ろうとしている一羽目の突撃兎に兎角槍を投げ、投げた槍は狙い違わず突撃兎の身体を貫いた。

 残りは一羽。

 インベントリから予備の兎角槍を取り出せば、もう僕に苦戦する要素は欠片もない。


 そう、多数を相手に先手を取らぬ場合は、相手の攻撃を受け切ってカウンターで敵を削るという手もまた有効なのだ。

 もちろん一番良いのは、多数なんて相手にしない事なのだけれども。

 後は魔法を覚えれば、範囲攻撃で一掃するのも手だと思う。



 僕はその後、三羽組の突撃兎を三度相手にし、5レベルに成長した。



STR:3

INT:2

DEX:2→4+1

VIT:2/2

MND:2/2



戦闘スキル

武器全般取り扱い1レベル 見切り1レベル(new)


魔法スキル

なし


他スキル

武器錬成1レベル 防具錬成1レベル インベントリ1→2レベル

気配察知1レベル 気配遮断1レベル


 身体がとても軽い。

 もう恐れる物は何も無い……、というのは錯覚なので、気を付けよう。

 さてDEXを上昇させたのは、やはり回避が重要だと感じたからである。

 物凄く極論を言えば、避けれて、当てれたら、根気良くそれを続けていれば何時かは敵を倒せる筈なのだ。

 もちろん体力が先に尽きる可能性もあるが、そんな事を言ってしまう位に、僕はDEXの役割を重要だと考えていた。


 見切りも同じく、敵の動きの予兆を感じ取れるようになるスキルで、こちらの攻撃を当て易く、相手の攻撃を避け易くなるだろう。

 そしてインベントリは純粋に運べる重量を増やしたかっただけである。

 何せ今から日暮れまで、僕は大量に眠り鳥を狩る心算なので、運べなければ勿体ない。

 それに野営道具を購入すれば、それ等を運ぶのにもそれなりの重量を喰われてしまうから、このタイミングでインベントリスキルのレベルアップは必須なのだ。




 レベルアップの処理を終えた僕は、手頃なサイズの石を幾つも拾い、兎角槍は仕舞って、その代わりに齧歯の短刀を左手に握る。

 眠り鳥はこの始まりの平原で一番仕留め難い魔物だが、それは直ぐに飛んで逃げてしまうからで、耐久力で言えば穴ネズミよりも下だろう。

 なので眠り鳥相手には兎角槍は威力が強過ぎ、得るべき肉もズタズタにしてしまう可能性が高かった。

 故に齧歯の短刀と石なのだ。


 探す事暫く、昨日と同じく地面でこっくりこっくりと寝こけている眠り鳥に、僕は気配遮断を行いながら慎重に狙いを定める。

 昨日は石を投げるや否や逃げられてしまったが、あれは僕の攻撃の気配を、眠り鳥が察したからだった。

 けれども今の僕には気配遮断のスキルがあるので、石を投げた途端に気付かれる様な事はもうない。

 更に武器全般取り扱いは投擲武器にも及ぶ。

 つまり石を投げる際にも、スキルの効果でより威力のある投擲が行えるのだ。


 頭部を狙って一撃で仕留めようなんて色気は出さない。

 狙うはまとも大きな翼の、出来れば付け根付近。

 そこにしっかりとダメージを与えれば、飛んで逃げる事は不可能になる。


 そして僕の投げた石は狙い違わず、翼に当り、驚いた眠り鳥は飛んで逃げようとするが、ダメージを負った片翼は上手く開かずによろめく。

 その隙を逃さず、飛び掛かった僕の振う齧歯の短刀が、眠り鳥の首をズバリと切り裂いた。

 僕はそのまま眠り鳥の足を掴んでひっくり返し、羽が血塗れにならない様に、溢れる血を地に流す。

 血抜きにもなるだろう。


 そのまま少し待ち、血を抜き終われば、僕は眠り鳥をインベントリに放り込む。

 うん、問題無く狩れる。

 狩れるなら、後は数をこなすだけだ。



 そうして僕は日暮れ前までに七羽の眠り鳥を狩り、順調な成果に唇を緩め、弱者の町へと戻った。 


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