第4話
突撃兎の攻撃方法は、強い脚力で地を蹴ってジャンプする、正面への突進突撃だ。
ただそれだけしか出来ないが、それ故にその攻撃力は人の命を奪い得る。
僕もレベルアップの際にVITを上げたから一発喰らった程度じゃ死なないと思うが、二発目を喰らえば結果はわからない。
否、二発目を喰らえば多分死ぬと思って動くべきだろう。
でも今の僕にとっては命懸けで戦わなければならない突撃兎も、僕の目標から見れば穴ネズミと全く変わらない雑魚である。
つまりこんな所で手間取ったり、躓いたりしている場合ではない相手って意味だ。
もちろん相手を侮れって事じゃ無いけれど、落ち着いて、油断せず、されどスムーズに敵を倒そう。
目標としては、今日中に突撃兎も三体倒したい。
三体倒せばレベルも上がるだろうし、解体して手に入れた肉を売れば弱者の町の宿にだって泊まれ、靴下も買い直せるから。
そうして探し始めて五分ほどで、単体で地面にゴロゴロと転がる突撃兎を発見した。
どうやら土遊びをしているらしい。
土塗れになって遊ぶ大型兎の姿は大層可愛らしいが、可愛らしいが、……アレは魔物だと自分に言い聞かせ、石を拾って投げつける。
石は狙い違わず命中するが、魔物相手にスキルも無い投石では碌にダメージは与えられず、突撃兎は土遊びを止めて僕を敵として認識した。
或いは全力で駆け寄れば奇襲を行えたかもしれないが、それが成功するかどうかはきっと賭けになっただろう。
それに奇襲が偶然成功して仕留められても、次も同じ風に行くとは限らない。
奇襲をされた際に突撃兎がどんな行動を取るのかは知らないが、正面から相対したなら、一種類の攻撃しかしない事はわかっている。
だから僕は敢えて無意味な投石を行い、突撃兎の注意を引いたのだ。
グッと後ろ脚に力を溜めて、攻撃のタイミングを計る突撃兎。
僕も意識を集中させて、突撃兎の初撃の回避に専念する。
次の瞬間、ドッと音を立てて地を蹴って宙を飛んだ突撃兎が、角から此方に突っ込んで来た。
けれども必死に目を凝らし、その予兆を感じていた僕は、突撃兎が地を蹴ったと同時に、ごろりと地面を転がり避ける。
先程まで僕の居た空間を貫いて飛んで行く突撃兎。
何とか回避には成功したが、だが大事なのは此処からだ。
僕は転がる勢いを殺さずに起き上がり、即席ブラックジャックを振りかざして走る。
突撃兎は攻撃を回避されたとしても逃げはしない。
着地後は次の攻撃の為に向き直り、改めて突撃準備に入るだろう。
しかしその突撃には、向き直り、狙いを定め、足に力を入れて地を踏み締める三つの準備が必要となる。
故に突撃兎の相手は、初撃を回避したならば、大急ぎで駆け寄れば突撃準備中に接敵し、攻撃を加える事が可能となるのだ。
僕が即席ブラックジャックを振り下ろすのと、突撃兎が向き直りを終えるのは丁度同じタイミングだった。
振り下ろしたブラックジャックが、突撃兎の頭部を捉える。
でも突撃兎の頭部は、ブラックジャックの一撃でも砕けない。
突撃兎の頭部は、角で行う突撃の衝撃を受け止める部位でもある為に、頭骨が特別分厚く、頑丈になっているのだ。
一撃で頭をグシャグシャにした穴ネズミとは格が違うという事だろうか。
それでも流石に思い切り頭部をぶん殴られたダメージは皆無では無かったらしく、突撃兎は怯み、よろめく。
大きなチャンスだった。
突撃兎が攻撃を行うには、地を踏みしめて溜める必要があるから、怯み、よろめいたなら、直ぐには攻撃が飛んでこない事の証明となる。
僕はすかさずもう一撃を、今度は頭ではなく、背中を狙って振り下ろす。
いいや一撃だけじゃない。
相手の息の根が止まるまで、容赦はせずに、二撃、三撃と。
数秒後、そこに転がっていたのは、少し前まで突撃兎だった肉塊だ。
……うん、ちょっとやり過ぎた。
齧歯の短刀を抜いて、解体を試みては見たものの、毛皮はボロボロで使い物にならない気がする。
同じブラックジャックでも、砂を詰めた物ならば毛皮への影響も少なかったかも知れないが、生憎と僕の靴下の網目は荒く、砂を詰めれば零れてしまうのだ。
さて置き、肉も同じくボロボロだが、まあ食べれはない筈。
しかしまあ、最も欲しかった角と、ついでに骨は無事に回収できたのだから、今回はこれでよしとしよう。
でも毛皮で防具も作りたいから、次はもう少し綺麗に倒さねばならない。
次の突撃兎を探してる最中に、僕は数人の集団を見掛けた。
中に一人だけ、明らかにレベルの違う凄腕が混じっているので、多分神官戦士によるパワーレベリングの最中なのだろう。
目を付けられても厄介なので近寄らない様にする。
立ち去る最中、神官戦士から、レベル上げをしている連中へのアドバイスらしきものが風に乗って漏れ聞こえて来た。
「攻撃は全て私が防ぎますから、貴方達はSTRとDEXを上げ、攻撃を命中させる事だけを考えなさい」
「スキル? 今の貴方達には活用出来ませんから、私が引率に付いてる間、25レベルまでは取らなくても構いません」
「先に他の町へと行った彼女に会いたいのなら、怯まず敵を倒しなさい!」
等々と。
全く以って、吐き気がする。
この世界の人間はどの町で生まれても、15歳になったら弱者の町に集められ、レベルを上げねば他の町に行く事は出来ない。
町によって居住に必要なレベルが定められており、より良い生活を望むならある程度のレベルは必要なのだ。
もちろんそうやって餌をぶら下げ、美味しい食事とする為に、神の手先である教会がそういう社会を作っているから。
とはいえ流石に、25レベルまで上げねば住めない町というのは中々ないし、大体の町は10レベルか15レベルあれば住む事が出来る。
それでもわざわざ25レベルという高い目標を指定し、尚且つ25レベルになったならさっさと死ねと言わんばかりの指導をするあの神官戦士は、とても忠実な神の犬なのだろう。
あんなのにレベリングをされる側も可哀想に。
だが幾ら腹が立ったところで、神官戦士であるならば恐らくレベルは40以上だ。
もし目を付けられたなら、そして異端者だと知られたならば、きっと碌な未来は待っていない。
僕はその場を後にして、次なる突撃兎を探す。
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