雷電光人.ライサンダー

荒音 ジャック

雷電光人.ライサンダー

 ある街にある商店街にて……パトカーと消防車と救急車がその場に駆け付けており、喧騒の中、ひとりの女子中学生が、地面に倒れる血塗れの男子中学生の左手を掴んで泣き叫んでいた。


男子中学生は顔面の損傷が激しく。目も見えていない中「ごめんね……もう、君のヒーローでいられないや……」と謝った。


 今年で高校生になる結城財閥の一人娘である結城 夕凪はガバッとベットから跳び起きた。


 夕凪は右手で顔を抑えて「またあの夢か……」とウンザリした様子でそう言って、ベットから出て、学校へ行く支度をする。


 新しい高校の学生服に身を包んで、玄関でメイドたちに「いってらっしゃいませ!」と送られて屋敷の門を出てすぐのこと、通学路を歩き出して早々に黒塗りのバンが自身の左に急ブレーキで停まって中から黒ずくめの男たちが後部座席のドアを開けて夕凪に襲い掛かってきた。


 夕凪は右手でジャキンと特殊警棒を抜いて殴り掛かろうとしたその時、何者かがバンの車体後部にドカンと右足の突き蹴りを打ち込んで、バンはブレーキをかけた状態でありながら、タイヤをズキャキャキャキャ! と引き裂くような音を立てながら前進して、乗っていた男たちは「うわああああ!」と悲鳴をあげながらガシャーン! とT字路の壁に激突した。


呆気にとられた夕凪だったが、バンに蹴りを見舞った人物の方へ目を向けると、自身がこれから通う高校の制服に身を包んだ眼孔の開いた右頬に青の稲妻マークが入った白のマスクで顔を隠した男がいた。


「おはよう夕凪! 今日から護衛を担当することになった君だけのヒーロー「ライサンダー」だ!」


 声からして年も夕凪と近そうなマスクの男はそう挨拶すると、夕凪はスマホを取り出して電話をかけた。


「お父さん? 護衛ってどういうこと!? 必要ないって言ったよね!」


 父親に繋がって早々に夕凪は叫ぶようにそう尋ねると、父親は「まだお前のことを狙う輩が大勢いるからな。それに彼自身が志願したんだ。傍にいれば安全そのものが約束される。また友達を作って、楽しい高校生活を……」と言いかけたところで、夕凪は電話を切った。


 ライサンダーはそんな様子の夕凪を見て「入学式……遅れるよ?」と尋ねるように言ってきたため、夕凪は「馴れ馴れしくしないで!」と言って歩き出すが、その後をライサンダーがついてくる。


 夕凪は「なんでついてくるの!」と叫ぶと、ライサンダーは「同じ学校だから」と答えたため、諦めて冷静を取り戻すことにした。


 学校についてからも、ライサンダーとは同じクラスで、しかも隣の席だったため、周りの生徒から痛い視線を浴びながら憂鬱な気分に浸っていた。


 当然、話しかけてくる生徒がいるわけもなく。あっという間に下校時間になった。


夕凪(お父さんのせいで初日早々に嫌な一日になったわ……そりゃ安全でしょうね! だって誰も近づいてこないんだもん! こんなんで友達なんか作れるか!)


 そんな風に心の中でキレながら廊下を歩いていると、廊下でギャル2人に絡まれている眼鏡をかけた女子生徒の姿が見えた。


 距離が離れているせいで、何をしゃべっているのかまでは聞こえないが、眼鏡の女子生徒は酷く困った様子で、周りには自分たち以外誰もいないため、助けを呼ぶこともできない。


 夕凪は関わらないようにするために足を止めて振り返り、ライサンダーの右脇を通り過ぎようとしたが、何か自分の中で引っかかるモノがあったため「ちょっと! 嫌がってるでしょ!」と大声でギャルと女子生徒の間に割って入った。


 すると、ギャルのひとりがライサンダーに気づいて顔を青くして「んだよ?」と夕凪に食ってかかろうとした相方の左腕を掴んで足早にその場から去っていく。


 夕凪はそのまま帰ろうとしたその時、女子生徒は「あの! ありがとう……ございました!」と礼を言ってきたが、夕凪は背中を向けたまま、右手だけ振って昇降口へ向かう。


階段を下りながら「どうして助けようと思ったの?」とライサンダーは夕凪に尋ねると、夕凪は「あの時、あの子を助けるのが正しいと思っただけ、自分の正義に背中を向けることだけはしたくなかったから……「自分の正しいと思ったことをやり通す!」それが私にとってのヒーロー像だから!」


 夕凪はそう言ってから振り向いてライサンダーに指を指して「そもそも、私の護衛に志願とか私だけのヒーローになったつもり?」と尋ねると、ライサンダーは「そのために志願した」と答え、夕凪は呆れて何も言えなくなる。


 階段を下りて、人のいない廊下に差し掛かると曲がり角から男性教師が現れた。


次の瞬間、気づけばライサンダーは夕凪の前におり、男性教師の左拳を右腕で受け止めていた。


 夕凪は「え?」と呆気に取られていると、男性教師はスッと左手をがら空きになっているライサンダーの左胸に押し当てた。


 すると、ズドン! と轟音と共に撃ちだされた何かが、ライサンダーの左胸を貫き、血と肉片が飛び散って夕凪の右頬に飛び散った血が数滴つく。


 男は「そこは生身か……なら死んだな」というと、ライサンダーは力なくその場に倒れて動かなくなった。


 夕凪は男の左腕が生身でないことに気づいた。手のひらの真ん中に銃口のような穴が開いており、そこから撃ちだされたものがライサンダーの体を貫いたことが解る。


 気づけば、男に背中を向けて走っていた。渡り廊下から上履きのまま校舎を飛び出し、走り続けた。


 男は床に倒れているライサンダーに目もくれず、夕凪の後を追うと、ライサンダーの右手がピクッと反応する。


夕凪(逃げなきゃ! とにかく逃げなきゃ! でもどこへ? 家までは遠いし、警察を呼んでも時間がかかる!)


 死に物狂いで走りながら思考を巡らせていると、上履きのままだったこともあって、足がもつれて盛大に転倒した。


 夕凪は「あぅ!」と短い悲鳴をあげると、先程の男が目の前に現れ、右腕のアームキャノンを構えて発射した。幸いにも発射された弾は左に反れて夕凪の背後のアスファルトの地面を穿つ。


「動くな! このアームキャノンはただでさえ狙いがつけ辛いんだ」


 男は夕凪にそう言うと、迫る死の予感に夕凪だったが「そこまでだ!」と死んだと思われていたライサンダーがその場に現れた。服には穴が開いており、血糊もベッタリついている。


 男は「死にぞこないが!」と叫んで、左腕のアームキャノンを構えるが、ライサンダーは男に肉薄し「ナノマイト・パンチャー!」と右拳を構えると、腕から湧き出た金属の砂粒のようなものがバレーボール程の握り拳の形になる。


ライサンダーは「メガトンパーンチ!」と叫んで、男に向かって拳を突き出し、避けることのできなかった男は左腕を盾にするが、凄まじい膂力に左腕が砕け散った。


「ナノマイトテクノロジーだと!? 兵器運用はされていないはずだ!」


 男は驚きの声を上げ、距離を取りながら右腕のアームキャノンをライサンダーに向かって弾切れになるまで乱射した。


数発の内、一発はライサンダーのマスクを掠め、マスクが弾け飛んでライサンダーの素顔が見える。


 顔の左半分に火傷の跡がある青年で、夕凪はその人物に見覚えがあった。


「え? どうして……だってあの時……爆発から私を守って……」


するとライサンダーは「そう、僕は数日間、生死の境を彷徨った。そして、君のヒーローとして戦えるように、結城博士に特別なナノマイトを投与してもらったんだ」と夕凪に答えた。


 アームキャノンが弾切れを起こし、男は右腕を剣に変形させて切りかかろうとしたが、ライサンダーは「ナノマイト・ジェネレイト!」と言って少し屈むと、バリバリバリバリと、ライサンダーの体に雷光が纏わりついた。


 ライサンダーは向かってくる男に向かって「ライトニングゥ! インパクトォ!」と叫んで飛び蹴りを放ち、その跳び蹴りは男の右腕の剣を砕いて、男を吹き飛ばした。


 男は地面に倒れ、決着がつくと同時にパトカーのサイレンの音が少し離れたところから聞こえ、男は逮捕された。


 一件落着と思った数日後の朝、登校時間になって夕凪は家を出てすぐのこと、マスクを外したライサンダーと一緒に通学を歩いていると、一台の戦車が進行方向から来て、他にも数台のバンが後ろから来て、男数人がスタンガンやバットなどを持って降りてきた。


夕凪は「遅刻しないかしら?」と心配していると、ライサンダーは「大丈夫! 夕凪にはケガひとつさせないし、遅刻もさせないよ」と言って前に出て臨戦態勢を取る。


「今日、この前助けた眼鏡の子と一緒に帰る約束してるんだけど……その子も守ってくれる?」


 夕凪の問いにライサンダーはニッと笑って「もちろんさ! 僕は君のために戦う君だけのヒーローだからね!」と答えて、悪漢たちに立ち向かっていった。

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