勇者はヒーローなんかじゃない

愛空ゆづ

私、新魔王になります。

 魔王を倒すため、王国を出発した地上最強の勇者パーティ。

 勇者ヤマト。2mを超える身長と100kgを超える重量から繰り出される拳は幾千もの魔族を打ち倒してきた。どれだけ傷付こうとも決して倒れることがなく、諦めることもない。天へと掲げられる拳は人間界最強の象徴であった。

 それに加えて王国最強の冒険者、狂戦士ブチ、射撃手テラ、そして魔術師の私。このパーティで倒せない者がいるのだろうか、魔王の力でもこの勇者には敵わないだろう。


 魔王城までの道中、寄り道をしては魔族の村を潰して回った。森や洞窟などに住む魔族もほとんどが姿を消した。上級魔族ですら彼らには全くと言っていいほど歯が立たなかった。魔王城についてからも勢いは全く衰えず、多くの上級魔族を一瞬で葬り去っていった。私は、勇者の回復と解毒をするくらいのものだ。

「魔王城の中の兵士もこんなもんか。魔王もそこまで強くないかもしれんな」

 ふとヤマトが愚痴を漏らす。彼は強いものと戦いたいだけの戦闘狂であった。彼は常に互角で戦える相手を欲していた。しかし、彼と並べるものはもうこの世にいなかった。全力を出すこともない。残りの2人も同じように魔族を相手に苦戦することは無く、魔王のいる部屋までたどり着く。

「貴様が勇者か、私はベル。この魔王城の……」

「恨みはないが上の命令なんでな、死んでもらう」

 話を遮り、その巨躯に似合わぬスピードで一直線に走り出すが、振りかぶった拳が魔王に届くことはなかった。

「-毒沼-」

 勇者の足元に大きな沼を召喚して、踏み込もうとした足が浸かった沼を強制的に閉じる。

「-切断-」

「お前!裏切ったのか!」


 奴らは正直とても面倒くさい相手だった。小さな傷はすぐに回復してしまうし、重傷を負わせられる者もこの世にはほとんどいない。奴らと真っ向勝負で挑んでは勝ち目がない。そこで私は彼らを観察することにした。ここまでの行動をずっと見ていて、弱点と思わしきところがようやく幾つか見つかった。だから私が呼ばれたのだ。


「魔族の味方をするゴミめ!俺の足をよくも!殺してやる!」

両足の膝から下を切り落とされ、地面で転がる勇者。

「なぁ勇者よ、お前は何の為に魔族を殺してきた」

「俺らにとって魔族は敵だ。魔族をいくら殺しても罪には問われない」

「人間もたくさん殺してきてるのはどうなんだ?強盗に虐殺、証拠隠滅の放火」

「は?なんでそれを……」

「お前は私の両親を殺した」



 幼い頃、私が家に帰る途中に悲鳴が聞こえた。急いで家に戻ると地面に伏した両親とそれを嘲笑っている男がいた。思い出したくもない地獄のような光景だ。それでも頭にこびりついて離れない。

『抵抗しなきゃ、殺さずに済んだのによ』

 村の人は全員、盗賊団によって殺されていた。その後、村には火が放たれ地図から私の故郷が消えた。どうにか見つからずに逃げだした私は魔族に拾われた。食料をもらい、寝床も用意してもらった。なんと助けてくれたのは魔王だった。私は奴らに復讐するためだけに魔王から沢山の事を学んだ。幸い私には才能が少しあったようで、魔族が使う凶悪な魔術をほとんど覚えることが出来た。私は盗賊団を見つけるたびに殺してまわり、その懸賞金で生活を続けたがあの男がいつまでも見つからなかった。

 いつの間にか私は魔術師として有名になり、王国から呼ばれた。国を味方に付ければあの男を殺せると思い招集に応じた。そこに居たのはあの男だった。忘れることもない両親を殺して嘲笑った男。しかも、なんの間違いか勇者などと呼ばれていた。その脇の二人も見覚えがあった。

 このままでは歯が立たないと感じた私はすぐに育ててくれた魔王の元へと向かった。私は事情を説明し、魔王から血を分けてもらい魔族となった。復讐の為に人間をやめたのだ。



「私はお前を殺すために生きてきた」

「そうか!なら殺せよ!弱い奴が死ぬ、それだけだ!お前の親は弱ぇから死んだ、俺も弱ぇから死ぬ!何も間違ってねぇな!」

「興奮して、痛みを紛らわせようとするな」

 私は殺しそうになる気持ちを冷静に抑え込み、勇者に気休め程度のヒールをかける。痛めつけて直すという、よくある拷問だ。回復した神経が痛みを再び伝え始め、勇者の身体が震える。聞き出したい事も特にない為、話すことが出来ない様に喉にナイフを突き刺す。喉から空気が漏れる音が鳴る。

コイツの言葉はもう聞かなくて済む。



 王国に帰った私は自分以外の3人が魔王と相討ちになったことを伝え、魔王の身体の一部と勇者の装備品を届けた。私は勲章を授かり王国内に大きな豪邸を貰った。式典を終えた私はすぐにまた魔王の城へと戻った。


「お前も勲章もらってたぞ、良かったな勇者」

 木に磔にされて四肢を食いちぎられ下級魔族の餌になっている勇者パーティだったものにヒールをかける。痛みに体が震えながらも死んだ目でこちらをボーっと眺めていた。

「復讐程度で満足したか?」

いつの間にか隣にいた魔王に声をかけられる。

「どうなんでしょうね」

「迷ったときは私の所に来れば、いつでも愛でてやるぞ。ところで挙式はいつにするんだ? 血と角をくれてやったんだから、責任はとってもらうぞ、新魔王様?」


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勇者はヒーローなんかじゃない 愛空ゆづ @Aqua_yudu

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