第18話 夏希は少し自信をつける

 花火大会の翌日、日課の美容体操を終えた夏希は服を買いに出かけた。

家族や友達から浴衣姿が似合ってるよ可愛いよと言われた夏希は、もっといろいろな服で着飾ってみたいと思ったのだ。

ミニスカートを手に取って、試着室へと向かう。

試着室の鏡に映る自分を確認すると、結構似合っているのでは無いかと思えてポーズをとってみたりもした。

しかし膝上10cmなのが不安なので、少しめくってみたりしゃがんだりしてショーツが見えたりしないか確認する。


(大丈夫そうかな。これは確保してもっといろいろと試してみよう。)


 その後あれもこれもと試着をした夏希は、両手に沢山の紙袋を抱えて自宅に帰ってきた。早速着替えた夏希は、蛇の使い魔のニョロナに生卵をあげると夕食の準備を始めた。ふんふんふーん、と鼻歌も歌ってご機嫌だった。

 そして台所に美味しそうな匂いが立ち込めてきた時に姉の美咲が帰ってきた。途中で出会った達也も一緒である。


「ただいまー。達也くん、あがって。」


「お邪魔します。」


ダイニングテーブルまで美咲と達也がやって来ると、台所から夏希が顔を出した。


「おかえり、お姉ちゃん。いらっしゃい、達也くん。」


 夏希は黒のデニムのミニスカートを履き、ゆったりした袖の白いTシャツを着ていた。


「夏希、ミニスカート買ったんだ?似合ってるわね。うんうん、可愛い可愛い。」


「嬉しいな、ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃんも夕食にする?そう、じゃあお肉焼いてくるね。」


 夏希が台所に向かうのを見送った後、美咲は小声で達也に話しかけた。


「達也くん、夏希のミニスカート姿はどうだった?」


「……すごく似合ってました。」


「それ夏希に言ってやってよ。達也くんにも褒めてほしいと思うしね。」


「そ、そうでしょうか?」


「うんうん、喜ぶと思うわよ。あの子も見てほしいから着てるわけだし。」


 その時夏希が料理を持ってダイニングテーブルにやってきた。


「お待たせー。さ、食べよう。」


「あ……あの、夏希お姉ちゃん!」


「わっ⁉︎ど、どうしたの達也くん。」


 夏希は突然大きな声を出した達也に驚いた。


「そ、その……夏希お姉ちゃんの今日の服ですけど、とても似合ってます。……可愛いです。」


「そ、そうかな?ありがとう達也くん。えへへ。」


 ニコニコととても嬉しそうの夏希を見て、達也は勇気を出して言ってよかったと思った。

 一方の夏希はふたりに褒められた事で、今までにないくらい前向きな気持ちになれた。

女の子になってからは外出する事が減っていたが、もうちょっと外に出ようと思った。


「ねえ達也くん、よかったら次の土曜日にふたりで遊びに出掛けない?」


「誘ってくれたのにごめんなさい、次の土曜日は呪符の材料を買いに行く予定です。日曜日なら空いてるんですけど……。」


「そうなんだ。そのお店って私がついていっても大丈夫かな?」


「大丈夫ですけど往復だけで3時間はかかりますし、面白いものは無いですよ?」


「新しい服をたくさん買ったから、着て出かけてみたいなって思ってたんだ。邪魔にならないようにするから連れていってくれる?」


 仕事道具を調達するだけなのでひとりで行くつもりだった達也だが、仲の良い夏希が一緒に来てくれるという事で思いがけず楽しい一日になりそうだった。


「えっと、じゃあ土曜日の朝9時ごろに迎えにきます。」


「うん、お弁当作って待ってるね。」


 夏希と達也はそのうち本当に付き合いそうだな、と美咲は思った。

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