第17話 夏希は浴衣で花火大会に行く
夏希が光から貰った浴衣を、姉の美咲も近所の夏祭りで使わせて貰った。
一緒にもらった桐の下駄と巾着つきのカゴバッグも可愛いくて、姉の美咲の着付けを手伝った夏希は自分も着るのが楽しみになった。
姉は一度浴衣を着ると満足したようで、夏希と服の買い物に行くのは9月に入ってから秋冬用の衣類を選ぼうということになった。
着付けが大変だから、彼氏でもいないと浴衣をそんなに日常的には着ないでしょ、との事。
夕食のラム肉とキノコのカレーを食べて達也が帰ったあと、美咲が夏希の部屋に来た。
ずらっと化粧品を取り出して美咲が言う。
「夏希、お風呂入った?そう、入っているなら化粧品のパッチテストをするわよ。腕出して全部試すわよ。」
「えっ、私これから何されるの?」
「何って、ちっさい彼氏と浴衣着て花火大会行くんでしょ?
化粧品はテストしないと腫れたりすることがあるから、まずはテストからね。、
ナチュラルメイクぐらいは教えといてあげようと思う姉心がわからないの?」
「えっ、彼氏って達也くんの事?違うから、そんなのじゃないから!」
顔真っ赤にして否定する夏希。本人に自覚は無いようだが全く意識していないわけではなさそうだと思う美咲。
「あんなに仲良しなのに?
まーでも、たとえ今はなんとも思っていなくても。あの子だって化粧をしていない普通に可愛い夏希よりも、化粧をしているとっても可愛い夏希と花火大会に行くほうがいいでしょ。」
「ええっ、そうかなぁ?」
「そうそう。
それにあの子いっつも時間通りに来るけど、普通なら友達と遊んで遅くなる事もあるでしょ?
学校で上手くいってないんじゃないかな。
それを癒す歳上の美人お姉さんに夏希を魔改造するのも面白そうじゃない?」
「上手くいってないって、あんなにいい子なのに?それに私が少しくらい可愛くなったって、あんまり変わらないと思うけど。」
自身も現在学校で孤立している夏希は達也の事が心配になった。
「まーその辺は分からないけども。
でも達也くんの癒し云々はともかく、女の子やっていくなら化粧くらい覚えて損はないよ。お姉ちゃんが教えてあげるから。」
押し切られて内腕に化粧品を塗られる夏希。30分後に姉のチェックが入り、とりあえず肌に異常がないのでそのままテスト続行になった。
それから何日か過ぎ、ついに花火大会の日がやってきた。化粧品のパッチテストで問題がなかったので、姉のオススメのナチュラルメイクとやらもバッチリである。
「夏希、可愛いわよ。」
「ありがとう、お姉ちゃん。」
家族の夕食を準備した夏希は、達也との待ち合わせ場所に向かった。
「お待たせ、達也くん。」
夏希が声をかけると達也が慌てて挨拶を返す。
「こんばんは、夏希お姉ちゃん。
ゆ、浴衣すごく似合ってますね。」
「ありがとう、嬉しいな。」
カラコロと下駄を鳴らして駅に着くと、いつもより大勢の人がいた。行き帰りが大変そうだがそうも言っていられない。
駅に入るとさらに人混みが凄く、はぐれそうな気がする。
「はぐれないよう、手を繋ご?」
「は、はい!」
ホームにやってきた電車の中に乗り込み、なんとかドア近くの壁際を確保したふたり。
車内はとても混み合っており、体の小さな達也はもみくちゃにされていた。
「達也くん、もっとこっちにおいで。」
夏希は達也を引き寄せ、そっと抱きしめて保護する。達也は夏希の腕の中で柔らかい感触を必死に脳から締め出そうとする。しかし夏希の感触だけではなく、いい匂いがしてきてドキドキが止まらない。
目的の駅に着いて約束の場所をスマホで確認して、夏希と達也ははぐれないよう手を繋いで向かう。
丁度、沙雪とひかりも到着したところだった。
「こんばんは、夏希。浴衣似合ってるわ、可愛いわよ。」
「こんばんは沙雪。こんばんは、ひかりちゃん。沙雪も浴衣似合ってるよ。とっても綺麗。」
沙雪に浴衣を褒められて嬉しくなる夏希。
ひかりも挨拶を交わすが、夏希と達也が手を繋いでいるのを見てニヤニヤしている。
無事に合流できたのでみんなで屋台を回って楽しむ事にした。
お腹が空いていたので焼きそばを1個ずつ買った。すぐになくなる。焼きそばを食べ終わると続いて達也がイカ焼きを、夏希はリンゴ飴を買った。
「夏希お姉ちゃん、ひと口どうですか?」
「うん、もらおうかな。」
夏希は達也の差し出したイカ焼きを齧った、おかえしに差し出したリンゴ飴を達也が齧る。
「達也くん、ほっぺにソースがついてるよ。」
夏希がハンカチを取り出し、達也のほっぺに顔を近づけて確認しながらソースを拭いとってくれる。
メイクをした夏希の唇は艶やかで、達也は目を離せなかった。
「そろそろ花火の時間ですね。向こうにいい場所があるので行きましょう。」
ひかりに促されてみんなで向かう。
花火が次々と打ち上がると、周りから歓声が上がる。
「綺麗だなぁ。」
夏希が花火を見上げていると、隣に達也がやって来た。夏希が達也と目を合わせてニコッと微笑む。
「花火綺麗だね。」
「……ええ、そうですね。」
達也が慌てたように視線を逸らした後にチラチラと見てくる。
「確かに花火も綺麗ですね。また夏希お姉ちゃんと一緒に来たいな。」
「うんそうだね。来年もみんなで一緒に来たいね。」
花火大会も終わりの時間が来て、魔法少女達も帰る時間になった。
「「「またね、ばいばーい。」」」「今日はありがとうございました。」
魔法少女達と達也はお別れの挨拶をして帰路に着いた。
駅のホームで会話しながら電車を待っていた二人だったが、達也はすぐ後ろに並んでいる若い男が夏希をジロジロ見ているのに気がついた。
(なんで夏希お姉ちゃんを見てるんだろう、嫌な感じだな。もしかするとスリとか痴漢かも?)
帰りの電車内も混み合っていたが、後ろの男と夏希を遮るように達也が立った。
後ろにいた男に対して気を張っていた達也だったが、自分達が降りる駅に到着したため電車を降りて帰路に着く。
達也はさっきの男が夏希を見ていたのが気になっていた。
夏希の家の前まで来た時、達也は少し離れた位置で夏希に向き直った。
「夏希お姉ちゃん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。いつもは送ってもらってましたけど、今日から僕はひとりで帰ります。」
「えっ……でも危ないよ、送るよ?」
「夏希お姉ちゃんが帰り道をひとりで歩くほうが危ないですよ。帰りの電車で夏希お姉ちゃんをジッと見ていた男の人がいたんです。だから僕はひとりで帰ります。」
「あっ、達也くん。気をつけてね。」
走り出した達也に慌てて挨拶をする夏希。達也が見えなくなるまで手を振った。
家に入ると、母の由紀恵がニヤニヤして夏希を見ていた。
「青春だなぁ。聴こえてたよ。」
「友達何人かと遊びに行っただけだよ。」
「またまたー。あーあ私も久しぶりに単身赴任中の翔平さんに会いたい。イチャイチャしたい。
……来週行ってくるか。」
「えっ、突然だね。ホントに行くの?
父さんによろしくね。」
カシャッ。いきなり由紀恵にスマホで撮影された夏希。
「えっ、何故写真を撮られたの?」
「翔平さんも夏希のこと心配してるしね。現状報告よ。」
「浴衣は恥ずかしいんだけど……。」
「似合ってるし、いいじゃない。」
口では母に勝てないので、部屋に戻った夏希。
和装ハンガーに浴衣をかけ、化粧を落としてからお風呂に入って部屋に戻ってきて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます