第15話 達也は沙雪の義兄に強くなる方法を教わる

 

 とある日曜日のお昼に辰江市の魔法少女3人と達也は、沙雪の義兄だという退魔師とファミリーレストランで待ち合わせをしていた。4人でメニューを見ている。

ゲームセンターで遊んだ時、達也の退魔師ランクがEなのを聞いた光が強くなる方法を考えてくれ、

今回の勉強会となった。

仲介をしてくれたはずの沙雪はわかりやすく不機嫌になってプンプン怒っている。


「まったく、あんな奴に頼みごとをすることになるなんて!」


「ごめんなさい沙雪さん。僕のために無理を聞いてもらって。」


 達也の謝罪にハッとなる沙雪。


「達也くん違うの。そういうのじゃなくって……。」


「達也くん大丈夫ですよ。沙雪ちゃんは大好きだったお姉ちゃんを取られて拗ねているだけですから。」


 光に図星をつかれた沙雪は赤くなってそっぽを向く。

そこへ店員に案内され、幼い女の子を連れた女性がやってきた。


「京子(きょうこ)お姉ちゃん⁉︎」


「沙雪ちゃん、久しぶり。元気そうでよかったわ。光ちゃんも久しぶりね。そちらのおふたりははじめまして、かな?時村(ときむら)京子です。

ほら彩音(あやね)、みなさんに挨拶して。」


 沙雪は姉が来てくれるとは思っていなかったので驚いた。姉と会えてとても嬉しいが、前会った時は赤ちゃんだった彩音が可愛すぎて目がそちらから離せない。


「ときむら あやねです。よろしくおねがいします。」


「彩音ちゃん久しぶり、私は神山 沙雪よ。私のこと覚えてる?」


他の3人も挨拶を返す。隣り合ったテーブルに

時村家の女性と沙雪が座る。

沙雪は普段見たことがないくらいデレデレして

彩音に接している。


「誠司(せいじ)さんももうすぐ来るから、先に注文しちゃいましょ。」


 沙雪の姉の京子の提案で、今回の講師役の時村 誠司を待たずに先に料理を注文する事にした。

だが達也が注文したシーフードフライセットがなかなか来なかった。


「達也くん、私のでよかったら少し食べる?」


「夏希お姉ちゃん、いいんですか?じゃあ後で僕のと交換してください。」


夏希の提案に喜ぶ達也。

光は達也が夏希お姉ちゃんと呼んだのを聞き逃さなかった。ニヤニヤして夏希と達也のほうを見る。


(うふふ……夏希お姉ちゃん呼びが定着していたとは。って、あれはまさか……あーん。だとぉ⁉︎)


 自分のハンバーグを大きめにカットし、お箸でつまんで達也の口元に持っていった夏希。

万が一ハンバーグを落としても大丈夫なように

左手を下に添えている。

達也がハンバーグを口に入れると続いてご飯も

あーん、してあげる夏希。

夏希は無自覚でやっているようだが、

顔が赤らんでいる達也は気づいているようだ。

 そう、間接キスになることに。

恥ずかしそうに、しかし味わって食べる達也。


(うわぁ、夏希ちゃんは魔性の女だなぁ。いいもの見たわ。眼福、眼福。)


思いがけず見た素敵な光景に光がホクホクしていると、ようやく待ち人の時村誠司が現れた。妻の京子が声をかける。誠司も妻に手を振りやってくる。


「誠司さん、こっちこっちー!」


「沙雪さん、光さん、お待たせしてごめん。

そちらのおふたりは、はじめましてですね。

時村 誠司です。」


 みんなで誠司に挨拶を返す。

来てくれたのはBランク退魔師の時村 誠司だ。

達也が属する富川一族と同じく色々な退魔師の血を取り入れてきた時村だが、その中で最も才能が無いと思われていたのが誠司である。

 それが今ではBランクであり、達也が強くなるヒントになるかもしれない。

ステーキセットを注文した誠司は達也の前に座ると

言った。


「キミが達也君だね。僕が時村ですよろしく。

早速だけどどんな術を得意としているか教えてくれるかな?そうか呪符を使うんだね。組み合わせ易い力だし、いいと思う。」


「組み合わせ易い、ですか?」


「そう、自分の中の他の力と組み合わせて使うといい。あっ、食べながらで失礼するよ。」


 自分の前に運ばれてきたステーキにナイフを入れる誠司。

その間に達也は運ばれてきていたシーフードフライセットのカキフライに、タルタルソースをたっぷり絡めて箸でつまみ夏希に差し出す。


「夏希お姉ちゃん、さっきのお返しです。丸々どうぞ。」


「ええっ、いいの?ありがとう。」


あーん。ぱくっ。目の前で繰り広げられるリアル推しカプ達のイチャイチャに、光は興奮が冷めやらない。それを誠司は微笑ましく見ている。


「君たちはカップルなのかな?

退魔師のいいところのひとつは、結婚できる年齢が低いところだよね。」


「私たちはそんな関係じゃないですよ。そもそも達也くんみたいな美少年と私じゃ釣り合わないですし。」


 誠司の問いかけを否定する夏希に、若干気持ちが落ち込む達也。

それに釣り合わないのは僕の方だ、と達也は思う。

夏希は実感が湧いていないようだが、毎日の豆乳と美容体操を1ヶ月ほど続けていることで、だんだんと女性らしさが増しているのだ。

料理も上手だし、とても優しくしてもらっている。周りの目が無ければ達也は、夏希をどんなに素敵だと思っているかのか伝えたかった。

でも夏希には伝わらず、会話は続く。


「ははっ、結構お似合いだと思ったけどね。」


「それより退魔師が結婚できる年齢が低いってどうしてですか?」


「ああ、特殊な法律があってね。

危険な業務の従事者における結婚可能な年齢の引き下げっていう項目なんだけど、

退魔師は10歳から結婚できるんだ。

実際に僕が13歳、京子が12歳の時に結婚してね。1年後に彩音が生まれてくれて今3歳だ」


「若いっ、お幸せそうですね。」


「今は確かに幸せだよ。だけど最初は僕の血筋を残すための結婚だったからね。

貴重な血統だからってことなんだけど、家族が立て続けに妖魔に殺されてしまってね。

せめて比較的仲の良かった京子と結婚できないかと頼み込んでね。なんとか結婚してもらえたけど、娘の彩音が生まれてきてくれてから本当の家族になれた感じかな。」


「ごめんなさい、そんなことがあったなんて知らなくて。」


「気にしないで、今は幸せだから。

そこそこ稼げているし、高級家電とか家事代行を頼んだりとかで家事の負担があまりないからね。のんびりと子育てをしながら夫婦の絆を育てているところさ。っと話しが逸れたね。」


誠司はコーヒーを飲んで続けた。


「達也くんは呪符以外にも力を持ってるかな?

例えば呪術とか精霊の力を借りたり、修験道だったり神霊の力を借りたりとかさ。

そういった別々の力を組み合わせると凄い力になるんだ。呪符はそれらの力を上乗せし易いのさ。」


砂糖を足して更にコーヒーをひと口。


「力を組み合わるのは最初は難しいと思う。

コツとしては、いきなり今で使っていた呪符1の力に対して別の力1を出そうとしても上手くいかない。呪符0.5に対して別の力0.5くらいでも難しいかも。少しずつ慣れていくんだ。」


誠司の話は分かりやすく、達也は修行しながら試してみる事にした。


「ありがとうございます。あの、御礼はどうしたらいいですか?」


達也の問いに沙雪のほうをうかがいながら声をひそめて返す誠司。


「もうもらっているから大丈夫さ。

沙雪ちゃんはお姉ちゃんっ子だったんだけど、僕が京子を連れていったからね。

うちに遊びにも来てくれないし、京子が実家に戻る時もあんまり顔を合わせてくれなくてね。

でも彩音のおかげもあるけど、あの様子だとうちにも遊びに来てくれるかもしれない。

いいきっかけになったよ。ありがとう。」

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