第3話 夏希が富川一族について教えてもらう

 夏希が達也を送って行ってから家に帰ってくると、母親である由紀恵が帰ってきていた。

35歳にも関わらず、見た目が高校生でも通じるくらい若くて綺麗な夏希達の自慢の母親だ。だが最近は疲れて帰ってくる事が多く、この日も見るからにヘトヘトで、若々しい外見とは裏腹に年相応に老けて見えた。


「おかえり夏希。どこに行ってたの?」


「ただいま。今日の夕方に助けてくれた子がいてさ、富川達也くんっていう子なんだけど、お礼したかったんでウチへ食事に招いてその後送っていった。」


「助けてくれたってどういうこと?お願いだから危ない事はしないでね。」


「姉ちゃんと同じこと言ってる。欠片の獣に絡まれたんだ。そこを助けてもらった。」


「えっ、大丈夫だった?夏希は人払の術が効きにくくなっているのかしら。万が一また妖魔と会ったら逃げてね。」


「わかった、できるだけそうするよ。それと助けてくれた達也くんの事だけど、一人暮らしで大変そうだから、明日から夕食に招いてあげたいんだ。勝手に約束しちゃったんだけど、なんとかお願いできないかな。」


「わかったわ。夏希の恩人だし、今後も助けてもらう事もあるかもしれない。それに御飯は夏希が作ってくれてるし、ご馳走してあげるのはもちろん構わないわ。」


無事お許しが出た夏希はホッとした。


「ありがとう。達也くんに約束した事がウソにならなくてよかった。10歳で一人暮らしだっていうからさ。退魔師になる子って大変そうだよね」


「退魔師がっていうより、富川一族が特別厳しい感じかしら。元々はただお金持ちの家系だったけど、代々の当主をはじめとした一族の人が何人も呪い殺されたとかで、退魔師の血を自分達の一族に取り入れて呪いに対抗しようとしたそうよ。退魔師の力を伸ばすために厳しい修行もすると聞いたわ。」


「ウチは退魔師の修行とかないよね、俺も姉ちゃんも才能が無いの?」


「退魔師の竜ヶ崎家は私の代までかしら。将来的に美咲の子供が産まれて、もし才能があれば後を継いでもらうかもしれないけど。」


(才能があるなら俺が継ぎたかったな。ピンチの達也くんをかっこよく助けたりする謎の男ポジションとかで。)


 母が自分たちに退魔師を継がせようとしない理由を知らない夏希は、暢気にもそんな事を考えていた。


 そして夏希が達也に助けられてから1か月が過ぎた。家族以外の少年に、ご飯を美味しそうに食べてもらうのはなんだか楽しい。

 夏希の将来の夢のひとつに料理人が加わった。


(今日は奮発してビーフステーキにしよう。たまには贅沢もしないとな。安めの肉になってしまうけど、玉ねぎを使って安めの肉でも出来るだけ柔らかくしてみよう。)


 自転車で大型の業務用スーパーに足を伸ばす。

少し遠かったが他の食材も安くで買えて、

夏希はまた今度まとめ買いをしに行こうと思った。


 その後、夕方にやってきた達也に好みの焼き加減を聞く。


「今日はステーキ用のお肉を焼きます。焼き加減はどうする?」


「えっ、お肉ですか!ミ、ミディアムでお願いします。」


 達也のワクワクがとまらない。夏希もワクワクがとまらない。


(こんだけデカイと焼き甲斐があるなぁ)


 ジュウジュウと音まで美味しそうである。

付け合わせの焼き野菜を添えてテーブルに運ぶ。


「わっ。すごく大きいお肉ですね。……値段も高いのでは?」


「業務用のスーパーに行ってきたから大丈夫。400グラムほどあるけど、1000円ちょっとくらいで量の割にすごく安かった。」


「美味しいです。」


 ご飯をお代わりして肉を食べ尽くす。

これが幸せって事なのかな、などと夏希は思う。


しかし、夏希の何気ない幸せな日々はこの後、大きな変化を迎える、

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